ピンクのユニフォーム100枚に込めた、グルノーブルFCの乳がん啓発への向き合い方

ピンクのユニフォーム100枚に込めた、グルノーブルFCの乳がん啓発への向き合い方

100枚のピンクが語る、クラブの立場
グルノーブルFCが10月に制作した100枚限定のピンクユニフォームは、単なるデザイン変更ではありませんでした。乳がんを経験した女性と選手が共に制作に関わるという形で、スポーツクラブとして何を大切にするかを表明した取り組みです。

ユニフォームに込められた選択——グルノーブルが問い直す、スポーツの意味

試合前のロッカールームで、選手はユニフォームを手に取る。

その瞬間、多くの選手はそれをただの「着るもの」として認識しているかもしれない。

番号が入っていて、クラブのエンブレムがあって、今夜の自分を象徴する一枚。

けれどグルノーブル・フット38(GF38)の選手たちが今季10月に手にしたユニフォームは、そういったものとは少し違う文脈を帯びていた。

ピンクのユニフォームが生まれるまで

10月はフランスをはじめ欧州各地で「ピンクリボン月間(Octobre Rose)」と呼ばれ、乳がんの早期発見と啓発を呼びかけるキャンペーンが各地で展開される。

GF38はこの時期に合わせ、グルノーブルの医療グループが運営する支援団体AIROと連携し、特別なユニフォームを制作した。

重要なのは、そのユニフォームが単なる「デザイン変更」ではなかったという点だ。

リーグ2(Ligue 2 BKT)に所属するルカ・ベルナドゥとジャン=ギー・アクパ・アクプロ、そして女子セカンドリーグのジェシー・ギグ・ベルテとマエル・リシュランデが、乳がんを経験した女性のマガリとステファニーと共にプロジェクトに関わった。

選手とサポーターと患者が一つの制作物に集まるという、クラブとしての意思表明がそこにあった。

関わることを選ぶ、ということ

こういった社会的なキャンペーンへの参加を求められたとき、選手はどう感じるだろう。

「自分はサッカー選手だから」と線を引く選手もいるかもしれない。

逆に、「何かできることがあるなら」とすぐに手を挙げる選手もいる。

どちらが正しいということではない。

ただ、ベルナドゥやアクパ・アクプロ、ギグ・ベルテやリシュランデがこのプロジェクトに参加したという事実は、彼女・彼らがある種の選択をしたことを意味している。

「自分の存在をどう使うか」という問いに対して、自分なりの答えを出した選手たちの姿がそこにある。

100枚限定という数字が持つ意味

特別ユニフォームは100枚限定で販売され、1枚につき10ユーロがAIROへ寄付される。

スタード・デ・ザルプのオフィシャルショップで10月16日から取り扱いが始まった。

男子チームは同日にUSブーローニュCOと対戦し、翌17日には女子チームがOGCニースを迎えた。

試合の周辺では複数の啓発イベントも組まれ、スタジアムに来たサポーターが自然にこのテーマと出会えるよう設計された。

「100枚」という制限は、マーケティング的な希少性演出とも読めるかもしれない。

けれど別の見方をすれば、「すべてを動員して大きなものをつくる」のではなく、「届く範囲で、丁寧にやる」という姿勢の表れとも取れる。

クラブとして何ができるかを考えたとき、大規模な展開よりも、確実に誰かの手に届くものを選んだということでもある。

日本のクラブが同じ状況に置かれたとしたら

日本のサッカークラブでも、地域社会との連携や社会貢献活動はいまや珍しくない。

Jリーグのクラブが子ども食堂を支援したり、選手が学校を訪問したりする取り組みは少しずつ増えている。

ただ、そこに選手自身が「どれだけ当事者として関わっているか」という点は、クラブによってかなり温度差がある。

GF38のケースで印象的なのは、選手とプロジェクト対象者(がんを経験した女性)が直接顔を合わせ、ともに何かをつくったという点だ。

距離が近い分、関わることの重さも増す。

「やらされた」のではなく「一緒にやった」という経験は、選手にとっても何らかの形で残るはずだ。

サッカー選手として社会と関わること

サッカーを職業にしている選手にとって、ピッチの外の活動はどういう位置づけにあるのだろうか。

欧州のクラブでは、選手が個人として社会的な活動に関わることをクラブが積極的に後押しする文化がある。

それはチームとしての価値観とも重なっていて、「何を大切にするクラブか」を示す一つの表現になっている。

翻って、育成年代の選手や若い選手たちはどうだろう。

「サッカーに集中するべき時期」という言葉はよく聞く。

それは正しい側面もあるが、サッカーの外にある世界と切り離されたまま育った選手が、将来クラブを代表して地域と向き合うとき、どこからその言葉を引き出せばいいのかという疑問も残る。

ユニフォームを着るということの重さ

スポーツの歴史の中で、ユニフォームはさまざまな文脈を背負ってきた。

戦争と平和、差別と連帯、地域のアイデンティティ——そういった大きなテーマが、一枚の布に込められてきた瞬間が何度もあった。

GF38のピンクのユニフォームは、その歴史の流れの中では小さな一枚かもしれない。

けれど、マガリとステファニーという名前を持つ二人の女性と向き合いながらつくられたという事実は、クラブがその重さを軽んじなかったことを示している。

選手がそのユニフォームを着てピッチに立つとき、その重さを意識しているかどうかは、プレー内容には現れないかもしれない。

それでも、着ることを選んだという事実はある。

その後のGF38が向かう先

10月16日、男子チームはブーローニュと対戦する。

17日、女子チームはニースをホームに迎える。

ピンクのユニフォームは洗濯されてロッカールームに戻り、次のシーズンには別のユニフォームに替わる。

それでもAIROへの寄付は続き、マガリとステファニーの名前は、このプロジェクトに関わった人々の記憶に何らかの形で残る。

GF38は来季もリーグ2の戦いを続ける。

ベルナドゥとアクパ・アクプロは、また別の試合でボールを蹴る。

ギグ・ベルテとリシュランデも、ピッチに立ち続ける。

彼女たちと彼らは、この10月を経て、また次の場所へ向かっていく。

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10月がピンクを選ぶ理由

毎年10月になるとヨーロッパ各地でピンク色があふれ始めます。これはOctobre Rose(ピンクリボン月間)と呼ばれ、乳がんの早期発見と啓発を呼びかけるキャンペーンです。1990年代にアメリカで始まったピンクリボン運動が欧州各国にも広がり、今では医療機関にとどまらず、スポーツクラブや企業も参加する社会的な月間として定着しました。

スポーツクラブの参加形式はさまざまです。ユニフォームの色を変えるだけのクラブもあれば、試合周辺でのイベントや募金活動を中心に置くクラブもあります。同じ「参加する」という言葉の中に、関与の深さにはかなりの幅があります。ユニフォームに込めたメッセージが届くのは、それを着て走る選手がいて、それを見るサポーターがいて、その場に患者本人がいるときです。そうした条件が揃うように設計されたとき、ユニフォームはデザイン以上の何かになります。

社会貢献活動が「やらされるもの」にならないための条件は何かという問いを、このプロジェクトは静かに示しています。選手が患者本人と顔を合わせてものを作る。その経験が何かを変えるとすれば、それはユニフォームの意匠ではなく、関わった人々の内側に起きることです。

100という数字の内側

100枚
特別ユニフォームの限定数です。大規模に展開するよりも、確実に誰かの手に届く範囲を選ぶという姿勢が、この数字から見えてきます。受け取った人の記憶に残るものを優先したとも読めます。
10ユーロ
ユニフォーム1枚が売れるたびにAIROへ届く寄付の金額です。100枚完売で1,000ユーロが支援団体に渡ります。単額は小さくても、クラブとサポーターの意思が束になる仕組みです。
2チーム
今回のプロジェクトに加わったGF38のチーム数です。男子(リーグ2)と女子(セカンドリーグ)が同じ週に同じテーマを掲げて試合に臨みました。どちらか一方ではなく両方が、というクラブの選択が出ています。
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