見るから「視る」へ――レディングU18に学ぶミッドフィールダーの認知トレーニング
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「見る」と「視る」の違いを、レディングU18の挑戦から学ぶ
サッカーにおいて、「認知」「予測」「判断」はもっとも重要な能力のひとつとよく言われます。
では、私たちコーチや指導者は、その力をどれだけ「意識的に」トレーニングしているでしょうか。
今回紹介するのは、レディングFCのU18カテゴリーを舞台に行われた、とても興味深い実践研究です。
対象は、プレミアリーグ・サウスで戦うカテゴリー1のU18ミッドフィールダーたち。
彼らに、「ただ技術を磨く」のではなく、「どう見て、どう考え、どう決断するか」を、実際のピッチ上で鍛えようとした試みです。
元プレミアリーグMFから学んだ「2つのテーマ」
最初のステップは、「本物のトッププレーヤーの頭の中」を知ることでした。
研究チームは、プレミアリーグで100試合以上プレーした元ミッドフィールダー3人へのインタビューを行いました。
彼ら自身の試合映像を見せながら、ボールを強いプレッシャーの中で受けるシーンについて、こう問いかけていきます。
・その瞬間、何を見ていたのか。
・その「見えたもの」は、どんな意味を持っていたのか。
・そこから、どのようにして最適なプレーを選んだのか。
長いもので90分に及ぶインタビューから浮かび上がってきたキーワードは、2つでした。
1. 相手に「疑い(doubt)」を生むこと。
2. 時間とスペースを「操作する(manipulate)」こと。
特に印象的なのは、ある元プレミアリーグMFの、こんな言葉です。
「I’m playing in the opposition centre forward’s shadow.」
「自分は、相手センターフォワードの“影”の中でプレーしているんだ。」
「I’m not getting high, where the pass is longer into me, because if it is then it gives the guy pressing more time to jump me.」
「高い位置に出て、長いパスを受けるような場所にはいかない。そうすると、プレスをかけてくる相手に、飛び込む時間を与えてしまうからね。」
「Instead, I’m just behind their players that are pressing our defenders.」
「代わりに、自分はディフェンダーにプレスをかけている相手の、少し後ろの位置をとる。」
「I’ve got myself time now, because I’m far enough away from the player that is pressing me and he’s never going to come up that early before I have received the ball.」
「そうすると、自分には時間が生まれる。自分に直接プレスに来る相手とは十分な距離があるから、ボールを受ける前に飛び込んでくることはまずない。」
「Even if he wanted to press me the distance is just too far for him because I’m playing in the shadow of the (opposition) front four.」
「たとえ彼がプレスしたくても、距離がありすぎる。自分は相手の前線4人の“影”の中でプレーしているからね。」
この「影」という表現は、とてもサッカー的でありながら、子どもでもイメージしやすい言葉です。
相手のプレッシングラインの「後ろ側」、相手が体の向きやポジションの関係で「ついて行きづらい」「対応しづらい」場所。
その“影”に身を潜めることで、相手に迷いを生ませ、自分に時間とスペースを生み出す。
これこそ、ミッドフィールダーの認知・判断の真骨頂とも言えるでしょう。
レディングU18で行われた「明示的コーチング」
レディングFCのリード・プロフェッショナル・デベロップメント・フェーズコーチであるハリソン・ギルクスは、この元プレミアリーグMFたちの知見をもとに、U18ミッドフィールダー8人に対して5週間のプログラムを実施しました。
期間中に行われたのは、ピッチ内外合わせて25セッション。
特徴は、「明示的(explicit)」なコーチングです。
つまり、「何を見なさい」「その情報をどう解釈し、どう動きにつなげなさいか」を、はっきりと言葉で伝えながらトレーニングを進めたのです。
ステップ1:まずは「影」を感じる、シンプルな形から
最初のトレーニングは、あえて「無対人」に近い形で行われました。
ただし、そこには1人だけ、プレスをかけてくる役割の選手が配置され、その「プレスの動き」と「影」が、練習の中心的な刺激となります。
コーチは、選手たちにこう注意を向けるよう促します。
・相手のプレスのスピードはどうか。
・いつスイッチを入れて飛び込んでくるのか。
・そのとき、身体の向きと影はどこに伸びているのか。
そして、ボールを受ける選手には、「その影の中にポジションを取る」というテーマが与えられます。
「相手が来ないところ」ではなく、「相手が“来づらい”ところ」。
ゲームの情報量をあえて減らすことで、選手は「影」という1つのキュー(手がかり)に集中して、感じ方を探ることができます。
| ステップ | 形式・人数 | コーチングテーマ | 難易度・実戦距離 |
|---|---|---|---|
| Step 1 | 無対人に近い形+プレス役1人 | 「影」の位置を感じる・1つのキューに集中 | △ 情報量を絞った入門段階 |
| Step 2 | 1vs1・2vs2(ゾーン分割) | ゾーンルールで影を活用しエリア突破 | ○ 制約ルールで影を可視化 |
| Step 3 | 4vs4ミニゲーム | ゲーム全体の中で影を使い前進する | ◎ 実戦に最も近い応用段階 |
| 効果(ピボット) | 試合5試合分の前後比較 | 関与回数増・前進プレー成功率向上 | ◎ 最も顕著な改善 |
| 効果(CAM) | 同上 | 目立った変化なし | △ テーマとの噛み合わせが限定的 |
ステップ2:1vs1、2vs2へ。影を使ってエリアから抜ける
次のステップでは、生きた対戦相手が増えます。
ピッチを縦に3分割し、それぞれのゾーンで1vs1や2vs2が行われました。
プレスをかける側は、自分のゾーンから出られません。
一方、ボールを持つ側は、自分のゾーンにとどまることも、ひとつ下のゾーンへ落ちることもできます。
ここでもテーマは同じです。
「相手のプレスの影を使って、プレッシャーから逃れるポジションを取れるか。」
ゾーンルールによって、「相手がついて来られない“影”」がわかりやすく設定されているので、選手は自分の動きと相手の制約の関係を、よりリアルに体感できます。
- 「首を振る」の先にある問いを言語化する — スキャンを促すだけでなく「相手の影はどこか」「誰から見えない場所に立てるか」という具体的なキューを一言加えて練習の質を変える
- 元プロの言語化を借りてテーマを設定する — 「影の中でプレーする」「疑いを生む」など、元プレミアリーグMFが実際に使った言葉を育成現場の合言葉として活用し、抽象的な認知指導を具体化する
- 段階的な環境設計でテーマを定着させる — 無対人→制約ルール→ミニゲームの3段階で情報量を増やしながら同一テーマを繰り返す。選手が「使える」感覚を積み上げてから実戦に近づける
- プレス相手の「影」に入る意識を持つ — ボールを受ける前に、プレスに来る相手の体の向きを見て「その背中の後ろ=影」に立つポジショニングを試合中に意識してみる
- 「自分に時間が生まれる場所」を探す習慣をつける — 相手からプレスされにくい距離・角度・ゾーンを感じ取りながら、パスを受ける前に「ここなら時間が取れる」という場所取りを考える
- 観戦時はミッドフィールダーの「受ける前の動き」に注目する — トップ選手がボールを受ける前にどこに立っているか、どの方向に体を向けているかを意識的に観察すると、サッカーの見え方が変わる
ステップ3:4vs4のミニゲームで、ゲーム性を高める
3つ目のトレーニングでは、4vs4の小さなゲームに発展します。
各チームは、2人のディフェンダーと2人のアタッカーで構成され、守備側は自陣ハーフから出られません。
攻撃側は、ピッチ全体を自由に動けます。
このルールにより、アタッカーは、
「プレスをかけてくる相手アタッカーの“影”に入り込みながら、ディフェンダーから距離を取る」
という、実戦に近い認知と動きを繰り返すことになります。
ステップ1、2と比べて、情報量も難易度も上がっていますが、テーマは一貫しているため、選手たちは徐々に「影の感覚」をゲームの中で使えるようになっていきます。
試合で何が変わったのか:レディングU18の変化
では、この5週間のコーチングによって、レディングU18のミッドフィールダーたちは何が変わったのでしょうか。
研究チームは、プログラムの前後で、それぞれ5試合分のU18プレミアリーグ・サウスの試合を分析しました。
相手はどちらも同じクラブと当たるようにし、条件をできるだけ揃えています。
注目したのは、次のようなポイントです。
・ボールを受ける回数は増えたか。
・前進するパスやドリブルの回数・成功数はどうか。
・ボールロストや不用意なターンオーバーは減ったか。
・セカンドボールやインターセプトへの反応はどうか。
選手たちは、ポジションごとに分けられて評価されました。
・ピボット(CDM)
・セントラルMF(CM)
・攻撃的MF(CAM)
結果として、もっとも大きな伸びを見せたのは、ピボットでした。
彼らは、ゲームへの関与回数が増えただけでなく、前進するプレーの数と成功率もはっきり向上していました。
セントラルMFも同様の傾向を示しましたが、ピボットほど顕著ではなかったようです。
一方で、攻撃的MFについては、目立った変化は見られませんでした。
ここから考えられることは何でしょうか。
例えば、ピボットやCMは、ビルドアップや中盤でのつなぎの中で、「相手の影を使って時間を作る」場面が多く、今回のテーマがプレー機会と直結しやすかったのかもしれません。
攻撃的MFのポジションでは、よりダイレクトなプレー、リスクを冒す局面が多く、「影」を使った安定した前進よりも、違いを作るプレーが求められるため、今回の指導テーマとの噛み合わせが限定的だった可能性もあります。
いずれにせよ、「何を見て、どう動くか」という認知面を、意図的に、段階的にトレーニングすることで、ピッチ上のパフォーマンスに変化が現れたことは、とても大きな意味を持っています。
「スキャニングしている」だけで満足していないか
近年、「スキャニング」や「首を振る」という言葉は、指導現場でもキーワードのようによく使われるようになりました。
たしかに、周囲を見て情報を集めることの重要性は、多くの研究でも証明されています。
しかし、この研究が投げかけているのは、次のような問いかけです。
「A player might be looking or scanning, but what are they actually SEEING?」
「選手は“見ている”かもしれないが、実際に“何を見ている”のだろうか。」
コーチの立場から見ると、首を振っていれば安心してしまいがちです。
「ちゃんとスキャンしている」
「周りを見ている」
そんな外側の行動だけが、指導のゴールになっていないでしょうか。
でも、本当に大切なのは、
・どこを見るか。
・何を重要な情報としてとらえるか。
・その情報をどうプレーに結びつけるか。
つまり、「見たあと」の頭の中のプロセスです。
今回のレディングU18の取り組みは、まさにそこに踏み込んだものでした。
「影を使う」という具体的なキューを、トップレベルの元プレーヤーから言語化してもらい、それを若い選手たちに「明示的」に伝える。
そのうえで、徐々にゲームに近づけながら反復し、試合でのプレーに結びつけていく。
こうしたアプローチは、単に「首の振り方」を教えるのではなく、「首を振ることで、何を探すのか」を教えるコーチングだと言えるでしょう。
育成年代の指導者への問いかけ
この研究は、こんなメッセージも投げかけています。
・認知・判断のトレーニングは、「ラボ」ではなく「ピッチ」でできる。
・しかも、それは難しい理論ではなく、「影」「時間」「スペース」など、選手がイメージしやすい言葉で指導できる。
・そして、そのヒントは、すでにプレミアリーグで戦ってきた選手たちの中にたくさん眠っている。
私たちコーチは、どれだけ「選手の目線」に立って、認知のトレーニングを考えているでしょうか。
・自分が見えるものではなく、選手が見ているもの。
・自分が理解しているゲーム像ではなく、選手が頭の中でどう状況を整理しているのか。
そこに目を向けることで、トレーニングの組み立て方や、かける言葉は、大きく変わっていきます。
少年サッカーの指導でも、同じような工夫は十分に可能です。
「相手の背中の“影”に入ろう」
「ボールをもらうとき、だれから見えないところに立てる?」
「このゾーンの中で、相手がついて来られない場所はどこ?」
そんな問いかけを1つ加えるだけでも、子どもたちの「見る質」は少しずつ変わっていきます。
サッカーを「一緒に学ぶ」ための言葉
レディングFCのU18、そして元プレミアリーグMFたちの言葉と実践は、私たちにこう語りかけているようです。
「選手に、ただ“見ろ”と言うのではなく、“何を視るか”を一緒に探していこう。」
ピッチの中で、選手とともにサッカーを学び続ける指導者でありたい。
そう思わせてくれる取り組みでした。
最後に、サッカーにも通じる一つの言葉を添えたいと思います。
「We do not see things as they are, we see them as we are.」
「私たちは物事を“あるがまま”に見ているのではない。自分自身のあり方を通して見ているのだ。」
選手が「どう世界を見ているか」に耳を傾けること。
そこから、サッカーの新しい学びが始まっていきます。
