30本撃って3点のバルサが教えてくれる 「決めきれなさ」とリスクを引き受ける勇気
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「30本撃って3点」から見えるもの バルセロナと“決めきれない”時間の意味

ゴール前で立ち止まる時間
エルチェ対バルセロナ。
統計だけ見れば、バルサの完勝と言ってもよさそうな試合だった。
シュート30本でゴールは3つ。
スコアは1−3。
だが、ピッチの中で過ごした90分は、数字ほど「気楽」なものではなかったはずだ。
序盤、ダニ・オルモの縦パスに反応したラミン・ヤマルが、飛び出してきたイニャキ・ペーニャをかわして先制点を奪う。
これで流れに乗るかと思えば、バルサは決定機を外し続け、バーやポストにも嫌われる。
そこにエルチェのカウンター一発で同点にされ、スタジアムの空気は一気に変わる。
「もっと点を取れた」
試合後、エリック・ガルシアはそんな感情と、「勝てた」安堵の両方を口にしたという。
その間にあるのは、シュートひとつひとつに込められた選択と、ピッチ上での揺れだ。
| 観点 | 数値・事実 | 評価・意味 | 継承/変化 |
|---|---|---|---|
| シュート数 | 30本 | チャンスを多く作れた証拠(デ・ヨング評) | ◎ 主導権を継承 |
| 得点数 | 3ゴール(先制・追加・ダメ押し) | シュート効率は低い(10%) | △ 決定力が課題 |
| 失点数 | 1(カウンターから同点弾) | 攻撃的配置のリスクが顕在化 | △ 変化なし(許容済み) |
| ラミン・ヤマル | 1G1A・シーズン13G14A | 18歳で攻守両面を担う | ◎ 継続して成長 |
| フリックの配置 | 偽9番フェラン・トーレス+アタッカー重用 | 主導権優先・リスク許容の意思決定 | ◎ 一貫した哲学 |
| ロッカールームの空気 | 「怒り」と「喜び」が同居(エリック・ガルシア) | 反省と勝利を同時に抱える成熟 | ○ 成長の素地 |
「決められない」は、ただの技術不足なのか
このバルサは、今季すでに10ゴール以上を決めている選手を6人抱えている。
フェラン・トーレス、ラフィーニャ、ラミン・ヤマル、レヴァンドフスキ、フェルミン、ラッシュフォード。
ヨーロッパ5大リーグを見渡しても、ここまで「二桁得点の選手」が多いチームは他にないという。
にもかかわらず、エルチェ戦では30本撃って3点。
レアル・ソシエダに敗れた試合では、26本撃って1ゴールしか奪えなかった。
ここで「決定力がない」と片付けるのは簡単だ。
でも、本当にそうなのだろうか。
フレンキー・デ・ヨングは、「普段は決めている選手たち」と表現し、チームが多くのチャンスを作れている事実に目を向けている。
もし自分が選手だとして、同じ試合で何度もシュートを外したとき。
- 「今日はツイてない」とだけ考えるのか
- 「そもそもシュートの選択が正しかったのか」と振り返るのか
- 「次は絶対決めてやる」と感情を前面に出すのか
どこに意識を置くかで、その後のプレーも、成長の方向も変わっていく。
- 「何を最優先するか」を事前に決め、選手と共有する — フリックは失点のリスクがあっても攻撃的配置を崩さなかった。これは「試合後に何を問われても答えられる原則」を持っているから成立する。シュートを多く打つのか、失点を減らすのかという優先順位を練習から言語化して共有する。
- 「外し続けても打ち続ける」姿勢を評価する言葉を持つ — 決まらなかったシュートを「あそこはパスだ」と評価すると、選手はゴール前で躊躇するようになる。フェランやラフィーニャが外しても前向きに仕掛け続けたことへの評価基準を、指導者が結果と切り離して持つ。
- 「勝った試合にも課題を言語化できる選手」を育てる — エリック・ガルシアが「怒り」と「喜び」を同時に口にしたように、勝っても「もっと決めないといけない」と言える雰囲気をつくる。試合後のミーティングで「良かった点」と「改善点」を両方必ず出す習慣が、長期的な成長につながる。
最後の一歩で、何を優先するか
ゴール前でのワンプレーを思い浮かべてみたい。
エリア内でボールを受けて、前にはDFとGK。
シュートコースは「少し」空いているけれど、横にはフリーの味方もいる。
その一瞬で、選手は何を考えるのか。
- 確率が高そうなパスを選ぶ
- 角度は狭いが、自分の得意な形ならシュートを撃つ
- 一度キープして、味方の上がりを待つ
エルチェ戦のバルサは、多くの場面で「ゴールに向かう」選択をしていた。
フェランは積極的にフィニッシュまで行き、ラフィーニャも何度もシュートを放った。
ラミン・ヤマルは、自分で仕掛けるだけでなく、味方を生かすラストパスも選んでいる。
だが、シュートが決まらなければ、その選択は「間違い」に見えてしまうこともある。
外した瞬間に、観客席やベンチから「今のはパスだろう」と感じる視線が飛んでくるかもしれない。
では、決まっていたらどうだろう。
同じプレーが「思い切りのよさ」「ストライカーの本能」として讃えられる。
結果ひとつで評価は変わる。
ただ、選手がその瞬間に向き合っているのは、「どの選択肢なら成功しやすいか」という確率と、自分の感覚とのギリギリのバランスだ。
- シュートを外した直後に「なぜ打ったか」を振り返る — 結果が外れると「あそこはパスすべきだった」と自分を責めやすい。でも同じ場面で決めていれば「思い切りが良かった」と評価される。大切なのは「打った理由」が自分の中にあるかどうかで、その問いを持つ習慣がシュート判断を磨く。
- ラミン・ヤマルを「特別な才能」としてだけ見ない — 18歳でバルサのレギュラーとして活躍する背景には、先制点の場面でGKの飛び出しのタイミングを一瞬で読みタッチを調整した細かい判断の積み重ねがある。「才能がある人は違う」で終わらず、「あの場面でどう考えていたか」を想像して見ることが自分の成長につながる。
- 保護者の方へ:「外した」試合に怒る前に「何本打ったか」を聞く — 得点が少ない試合でも、シュートを多く打ちチャンスを作れていたなら、それは評価すべき内容だ。「なぜ決めなかった」より「どんな場面で打てた?」という問いが、子どものシュートへの積極性を育てる。
指揮官の頭の中にある「リスクと主導権」
この試合でのハンジ・フリックの布陣を見てみると、その考え方が少し見えてくる。
中盤はフェルミンとダニ・オルモを前に出し、デ・ヨングをアンカーに置く。
後ろはエリック・ガルシアとパウ・クバルシ。
フェラン・トーレスを「偽9番」として使う、とても攻撃的な構成だ。
ボールを持って試合を支配することを前提に、あえてリスクも受け入れる配置とも言える。
事実、守備面ではエルチェにカウンターからスペースを突かれる場面が何度もあった。
1−1に追いつかれた失点シーンも、そのひとつだ。
それでもフリックは、試合全体について「素晴らしい内容だった」と選手たちを評価している。
もし彼が、「失点の怖さ」だけを優先していたらどうなっていただろうか。
- 中盤にもう一人守備的な選手を置く
- ラインを下げて、カウンターを受けにくくする
- エルチェの強みを消すことを、まず考える
こうした選択肢もあったはずだ。
しかし実際には、前線には常に決定機を作れるメンバーが並び、両サイドバックも高い位置を取っていった。
指揮官は、どこまでリスクを許容するのか。
「30本撃って3点」と「10本撃って2点」、どちらの試合展開を選ぶのか。
その答えは、チームが何を最優先しているかによっても変わってくる。
18歳の「普通ではない」日常

この試合でも、ラミン・ヤマルは1ゴール1アシスト。
シーズン通算で見ると、すでに13ゴール14アシストに到達している。
しかも、まだ18歳だ。
周囲はつい、「特別な才能」として語りたくなる。
だが、本人の毎日はおそらく、私たちが想像する以上に「決断の連続」だ。
エルチェ戦の先制点の場面。
- 飛び出してきたGKを見て、どのタイミングで、どの方向にボールを動かすのか
- タッチを長く出せば届かないかもしれない
- 足もとに置きすぎれば、シュートの角度がなくなるかもしれない
そうした細かい判断を、一瞬で積み重ねている。
フリックは、守備面での貢献も含めて彼を評価しているという。
攻撃だけを自由にやっていいわけではない。
ボールを失った後、どこにポジションを取るのか。
プレスに行くのか、ブロックを作るのか。
若い選手にとって、それは「守備をやらされている」という感覚になりやすい局面でもある。
そんな中で、ラミンはゴールやアシストを求められつつ、チームのバランスも考えなければならない。
18歳という年齢を聞いたとき、「まだ若い」と見るか、「もうこれだけできる」と見るか。
そこにも、見る側の選び方が表れてくる。
怒りと満足が同居するロッカールーム
エリック・ガルシアは、試合後のロッカールームの雰囲気について、「怒り」と「喜び」が入り混じっていたと表現している。
多くのチャンスを逃してしまったことへの悔しさ。
それでも勝ち点3を手にした安堵と満足。
この二つを同時に抱えることは、そんなに簡単ではない。
どちらか一方に寄りかかるほうが、人の心は楽になるからだ。
- 「勝ったからいいじゃないか」と、ミスを軽く扱う
- 「あれだけ外したのだからダメだ」と、結果を素直に喜べない
極端なほうに振れてしまえば、一時的には気持ちがスッキリするかもしれない。
ただ、成長という意味で見れば、「喜びと反省」を両方抱えたまま前に進む姿勢のほうが、長い目で見て力になるのかもしれない。
チャンピオンズリーグの決勝トーナメントのような、一発勝負の舞台では、こうした「決めきれなさ」が命取りになる可能性もある。
それを理解しているからこそ、エリックは「もっと決めないといけない」と自分たちに矢印を向けているのだろう。
日本のピッチで、この試合をどう見るか
日本の育成年代の試合では、「シュートを打ちなさい」という声と同じくらい、「無理に打つな」「繋ごう」という指示も耳に入ってくる。
どちらが良い、悪いという話ではない。
ただ、ひとつ考えてみたいのは、「選手自身が何を見て、どう選んでいるか」だ。
例えば、中学生や高校生の選手が、このエルチェ対バルサの試合を見たとして。
- 「あれだけ外しても、どんどんシュートを打ち続けていいんだ」と感じるか
- 「外し続けると、いつかカウンターを食らうかもしれない」と感じるか
- 「自分なら、どこでプレーを落ち着かせるだろう」と考えるか
同じ試合でも、受け取り方はさまざまだ。
指導者の立場で見れば、フリックのように攻撃的な配置を続ける勇気と、リスクを許容する覚悟がどこまで持てるか、という問いにもつながる。
保護者として見れば、ラミン・ヤマルのような18歳に対する期待と、年齢を踏まえた見守り方のバランスをどう考えるか、というテーマも浮かび上がる。
「まだ最高点には届いていない」という感覚
デ・ヨングは、チームについて「まだ自分たちの最高レベルには達していない」と話しているという。
15試合で14勝しているチームが、そう感じている。
結果だけを見れば、十分とも言える数字だ。
それでも、「もっと良くなれる」と思うのか、「これで十分」と感じるのか。
それは、選手それぞれの物差しであり、クラブとしての目線でもある。
自分のチーム、自分自身に置き換えてみるとどうだろうか。
- 勝った試合の後に、「どこがまだ足りないか」を言葉にできるか
- うまくいかなかった試合の後に、「それでも続けたい部分」を見つけられるか
どちらも簡単ではない。
だが、その両方がそろったとき、「結果に振り回されない強さ」に近づいていくのかもしれない。
答えを急がないサッカー
エルチェ戦のバルセロナは、30本撃って3点という、どこか「ちぐはぐ」な数字を残した。
そこには、決定力の課題もあれば、リスクを取ってでも主導権を握り続けようとする意思もある。
ラミン・ヤマルのような若い才能の眩しさもあれば、フェランやラフィーニャが外し続けてもゴールに向かう姿勢もある。
この試合をどう捉えるかは、見る人によって違うだろう。
- 「もっと効率よく勝つべき」と考えるのか
- 「撃ち続ける勇気」を評価するのか
- 「どこでリスクを抑えるべきか」を探すのか
どの見方も間違いではない。
大切なのは、「なぜその判断をしたのか」を一度立ち止まって考えてみることかもしれない。
もし自分が、エルチェ戦のピッチに立っていたら。
0−1の時間帯に、どこまで前に出ていくだろうか。
1−1に追いつかれたあと、次のワンプレーで何を優先するだろうか。
ゴール前の一瞬の選択も、シーズン全体を見渡した戦い方の選択も、すぐに「正解」は見つからない。
だからこそ、試合を振り返るたびに、自分なりの問いをひとつ持ち帰ることができれば、サッカーは少しずつ深くなっていく。
30本撃って3点の試合か、10本撃って2点の試合か。
あなたは、どちらのチームで、どんなサッカーを選びたいだろうか。
その答えを急がない時間こそが、ピッチの外にいる私たちにも開かれている「サッカーの練習」のひとつなのかもしれない。
