ベルカイ・ユルマズ不在の左サイドが映し出すもの――「ひとり」を失ったとき、チームはどう変わるのか
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ベルカイ・ユルマズ不在の左サイド 「ひとり」を失ったとき、チームはどう変わるのか

金曜日の夜、ダルムシュタットのスタジアムに笛の音が響くとき、1. FCニュルンベルクは今季初めて、ある「当たり前」を失った状態で試合を始めることになります。
左サイドバック、ベルカイ・ユルマズ。
ここまでほぼフルタイムでピッチに立ち続け、ボールを前へ運び、相手のプレッシャーをほどき、攻撃に勢いを与えてきた存在です。
マクデブルク戦でアディショナルタイムに交代した以外は、常に90分間ピッチにいた。
そんな選手が、累積警告で出場停止となる。
「左サイドのユルマズ」が、ニュルンベルクにとってどれほど「前提条件」になっていたか。
その前提が外れたとき、ミロスラフ・クローゼは何を選ぶのか。
たった1試合の左サイドの話ですが、そこにはサッカーの本質に触れるような問いが隠れています。
ひとりの不在が、11人のかたちを揺らす
ユルマズの特徴は、守備的な意味での「サイドバック」ではなく、攻撃の起点としての「ボール運び」にあります。
自陣からボールを持ち運び、相手のプレスを外し、前線へつなぐ。
時にインサイドハーフの位置から外へ流れ、時にタッチライン際をえぐり、最後のラインにまで顔を出す。
ニュルンベルクの左サイドは、ただの「通路」ではなく、ユルマズという「動く道路標識」があることで、チーム全体がリズムをつかんできました。
その標識が急になくなったとき、道に迷わずに前へ進めるのか。
クローゼは、4つの選択肢の中から、ひとつを選ばなければいけません。
クローゼの4つの選択肢 「誰を使うか」ではなく「どんなチームにするか」
| 選択肢 | 起用選手 | メリット | 評価 |
|---|---|---|---|
| CB→左へスライド | クノッヘ+ロチョシュヴィリ左 | 守備安定・キャプテンのリーダーシップ復帰 | ○ |
| ベテランSB起用 | ダニロ・ソアレス | 左SBとして実績あり・安定感 | △ |
| 逆足(右利き)を左へ | ティム・ヤニシュ | 内側への推進力・新しい攻撃角度 | △ |
| 生え抜き若手抜擢 | エリック・ポルストナー | ユルマズに最も近い左利き・攻撃参加・U23で5G2A | ◎ |
| ポジション流動化 | 複数選手のローテーション | 依存度を下げる中長期的効果・選手育成に寄与 | ○ |
選択肢1:キャプテンを戻し、センターから左を動かす
ひとつ目の案は、キャプテンのロビン・クノッヘをスタメンに戻し、センターバックに据えるパターンです。
その場合、左にスライドするのは、ルカ・ロチョシュヴィリ。
実際にダービーでは、この並びが使われています。
当時は、モハメド・アリ・ゾマが左ウイングに張り、ユルマズは中盤の位置から外へ流れ、左サイドを複数人で作っていました。
ところが、最近のゾマは中央寄りでプレーする時間が長くなっています。
そして何より、そのユルマズがいない。
クノッヘを戻す案は、守備の安定感やリーダーシップという意味では魅力があります。
しかし、「左サイドをどう攻撃的に使うか」というテーマで見ると、当時と今では前提が違う。
同じ配置図でも、そこに立つ選手と役割が変われば、まったく別のチームになる。
図の上では「再現」でも、実際には「別物」になるリスクを、クローゼはどう見るのでしょうか。
- レギュラーの役割を「型」として言語化する — ユルマズの左サイドの動き方をチームの共通言語にしておくことで、代替選手が同じ「型」を再現しやすくなる
- 若手を「準備した状態」で待機させる — ポルストナーがU23で実績を積んでいたからこそ、監督は「あとはプレー時間を与えるだけ」と言えた。急造ではなく計画的な育成が偶発的チャンスを生む
- 複数ポジションをこなせる選手を意図的に育てる — ヤニシュのように右SBが左をカバーできる選手を持つことで、ローテーションの幅が広がりチームの脆弱性が減る
選択肢2:ベテラン左サイドバック、ダニロ・ソアレスというカード
2つ目は、左サイドバックとして最も経験豊富なダニロ・ソアレスを起用する案です。
ブラジル人DFのソアレスは、本職として左をこなせる実績があります。
ただ、今季の立ち位置は微妙です。
第4節以降、メンバー入りしたのはわずか1試合。
クラブとしても、放出候補と見なされている。
加えて、プレースタイルもユルマズとは大きく違います。
攻撃の推進力というより、守備の安定感や経験を前面に出すタイプ。
「ユルマズの代わり」というより「ユルマズとは違う左サイド」に、思い切って切り替える選択です。
ベテランを信じるか。
それとも、チームの今の流れや将来像を優先するか。
日本のクラブでもよくあるテーマです。
実績十分の30代を使うのか、伸び盛りの若手に賭けるのか。
どちらも正解になりうるからこそ、監督は迷います。
- サブポジションの練習を怠らない — ポルストナーがU23で11試合5ゴールを記録し続けたように、トップ出場機会がなくても試合勘とフォームを維持することが「扉が開く瞬間」への準備になる
- 逆足の活用を恐れない — 右利きが左に入ることで内側へのドリブルや斜めパスの角度が増す。「不利」ではなく「別の武器」として捉え直す視点を持つ
- チームの「型」を理解してからポジションに就く — どの4選択肢を選んでも求められるのはユルマズ不在でも左サイドの機能を保つこと。役割の本質を理解した上でプレーすると代替機能が高まる
選択肢3:右利きのサイドバックを、あえて左に「逆足」で置く
3つ目の案は、右サイドバックのティム・ドレクスラーかティム・ヤニシュを左に回す方法です。
2部リーグの舞台で、彼らはまだ左サイドバックとしてはプレーしていません。
それでも、右利きが左に入るメリットは存在します。
内側へ運ぶドリブルや、斜めに差し込むパス。
右足でボールを扱うことで、中央への角度はむしろ作りやすくなります。
プロファイル的には、ヤニシュの方が左での起用に向いていると見られているようです。
ただ、ユルマズが得意とした「タッチライン際から深くえぐって、ゴールライン付近まで侵入する動き」は、逆足だとどうしても制限されます。
外側を駆け上がってクロスを上げるより、内側へ斜めに入っていく選択が増えやすい。
それはそれで、チームにとって新しい武器になるかもしれません。
一方で、「今うまくいっている左サイドの形」を維持したいのであれば、方向性が変わってしまう危うさも抱えています。
「選手の利き足をどこまで重視するか」
これは、育成年代の現場でもよく議論になるテーマです。
あなたのチームでは、右利きを左に置くことに、どんな意味を見いだしているでしょうか。
選択肢4:最も「ユルマズに近い」若手、エリック・ポルストナーに賭ける
4つ目の案は、プロファイル的には最もユルマズに近いとされる、エリック・ポルストナーの抜擢です。
クラブの下部組織で育ったレフティ。
U23では、攻撃的な左サイドとして、ゴール前で多くの仕事をしてきました。
11試合で5ゴール、2アシスト。
その2つのアシストの相手はいずれも、ピート・スコーベル。
左からの仕掛けとクロス、あるいはラストパス。
それを決めるフィニッシャーとのコンビ。
この関係性は、トップチームに昇格したとき、すでに「武器」として使える可能性があります。
クローゼは11月の時点で、ポルストナーについて、「あとは彼にプレー時間を与えるだけの試合を見つけることが必要だ」といった趣旨の言葉を示しています。
その「試合」が、まさにこのダルムシュタット戦になるのかもしれません。
ユルマズに近いタイプの左利き。
攻撃参加を恐れない若さ。
そして、自分のクラブで育った選手が、空いたポジションにスッと入ってくる物語。
サポーターにとっても、クラブにとっても、最も夢のある選択肢に映るかもしれません。
「ユルマズの代わり」を探すのか、「新しい左サイド」を作るのか
システムを変えないという、もうひとつの選択
エルヴァースベルク戦でのユルマズは、左サイドバックというより、時に最前線のラインまで飛び出す「超攻撃的サイド」の役割を果たしていました。
ビルドアップでは高い位置を取り、ポジションを入れ替えながら、相手のラインの背後を狙い続ける。
そのスタイルが、ここ数試合のニュルンベルクの良さを形作ってきました。
だからこそ、ユルマズが不在になったからといって、大きくやり方を変えるべきなのか、という迷いが生まれます。
結果が出ているときほど、「変えない勇気」と「変える勇気」がぶつかり合います。
ポルストナー起用案が「最もしっくりくる」とされる背景には、ユルマズ不在でも、なるべく同じ形を続けたいという発想があります。
左利きで高い位置を取れるサイド。
U23で見せている、アタッキングサードでの存在感。
その特徴は、今のニュルンベルクの左サイドの「型」に近い。
ただし、これは同時に「若手にプレッシャーを背負わせる選択」でもあります。
育成か、安定か。
攻撃的な継続か、守備的な再構築か。
日本のクラブなら、どのカードを切るだろうか
このニュルンベルクの状況を、日本のサッカーに重ねてみると、いくつかの問いが浮かび上がります。
例えばJリーグで、チームの攻撃を引っ張るサイドバックが1試合出られなくなったとき、監督はどんな判断をするでしょうか。
- ベテランのサイドバックを戻して、まずは守備の安定を優先する
- センターバックをずらして、守備陣全体のバランスを取る
- 逆足の選手をあえて使い、新しい攻撃パターンを試す
- 若手を思い切って起用し、チームの将来像も同時に描く
どの選択肢にも、メリットとリスクがあります。
「結果を出さなければいけないプロの世界だから、まずは安全策だ」という考え方もあれば、「こういうときこそ若手にチャンスを与えるべきだ」という意見もあるでしょう。
日本では、育成年代から「ポジション固定」で育てる傾向が根強くあります。
しかし、ニュルンベルクのように、センターバックを左に動かしたり、右サイドバックを左に回したりする発想は、選手にとっても大きな学びになります。
ポジションは、役割の名前でしかないのか。
それとも、育成の段階から「この選手は左サイドバック」と決めてしまうべきなのか。
ユルマズの不在が突きつけるものは、「代役探し」の話だけでなく、「ポジションに縛られないチーム作りとは何か」という問いでもあります。
「ひとり」がいるときと、いないときのサッカー

代わりを探すのではなく、チームとしてアップデートする
ユルマズは、フライブルクからのレンタルという立場です。
いずれチームを離れる可能性がある選手に、戦術の多くを預けることは、リスクであるとも言えます。
それでもニュルンベルクは、今季の多くを彼の左足と推進力に託してきました。
その選択自体は、決して間違いではありません。
ただ、その「ひとり」がいない試合が訪れたとき、チームは何を学べるのか。
「代わりのユルマズ」を探すのか。
「ユルマズなしのニュルンベルク」を、もう一度デザインし直すのか。
この1試合は、シーズン全体から見れば小さな出来事かもしれません。
しかし、サッカーの世界では、こうした「小さな1試合」が、チームの方向性を決めてしまうことがあります。
若手にとっては、大きな扉を開く試合になるかもしれない。
ベテランにとっては、まだ自分に求められるものがあると証明する場になるかもしれない。
そして監督にとっては、自分の哲学をピッチの上で示す機会になります。
あなたのチームの「ユルマズ」は誰か
あなたの周りにも、「いないと困る選手」がいるはずです。
小学生チームでも、中学生でも、高校生でも、社会人でも。
その選手がいないとき、あなたのチームはどうなりますか。
負けてしまうから困る。
そう感じるのは自然なことです。
ただ、視点を変えてみると、「その1試合」がチームを一段レベルアップさせるチャンスになることもあります。
- 別の選手が、新しいポジションに挑戦してみる
- 攻撃の仕組みを少し変えてみる
- 普段は目立たない選手が、責任を背負ってみる
ニュルンベルクがダルムシュタット戦でどんな答えを出すのか。
それは、画面越しに観ている私たちにとっても、自分のチームを考え直すきっかけになるはずです。
大切なのは、「いないからできない」と嘆くことではなく、「いないからこそ何ができるか」を探すことなのかもしれません。
最後に残る問い
ポジションを埋めるのか、物語を紡ぐのか
ユルマズの出場停止は、たった1試合の出来事です。
ですが、その空いた左サイドには、4つの選択肢と、4つの物語が重なっています。
キャプテンを戻し、守備に落ち着きを取り戻す物語。
ベテランが再び居場所を勝ち取る物語。
逆足で新しい攻撃パターンを生み出す物語。
クラブ生え抜きの若手が、ユルマズのシルエットをなぞりながら、自分自身の色を塗っていく物語。
どれを選ぶかで、ニュルンベルクのこの先の数週間、あるいは数年の姿さえも変わっていくかもしれません。
あなたがもしクローゼの立場なら、どのカードを切るでしょうか。
そして、自分のチーム、自分の人生で、似たような選択の場面に立ったとき、どの物語を選びたいと思うでしょうか。
サッカーは、11人でひとつのチームをつくるスポーツです。
けれど時々、「ひとり」がいなくなった試合こそ、チームの本当の力が問われるのかもしれません。
誰かの不在を嘆くか、その空白をきっかけに自分たちを変えていくか。
ピッチの外で生きる私たちにも、静かに突きつけられている問いです。
ひとりがいなくなったときにこそ、チームは本当の意味で「チーム」になっていく。
