コリチーバが問いかける「9番」の価値──チキーニョ・ソアレス問題から見る日本サッカーへの示唆
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「9番」をめぐる静かな攻防──コリチーバとチキーニョ・ソアレスの距離から考える
ペナルティエリアの中央、背番号9が背中で相手センターバックを押さえ込みながら、ボールを待っている。
クロスが来れば競り勝ち、足元に入れば体を預けてキープし、こぼれ球が出れば一瞬でシュートに持ち込む。
そんな「真ん中の人」がいるかどうかで、チームの攻撃はまるで別物になる。
いま、ブラジルのコリチーバは、その「真ん中の人」をどう作るか、静かな攻防を続けている。
名前が挙がっているのは、かつてポルトでゴールを量産し、ボタフォゴをリベルタドーレス制覇に導いたセンターフォワード、チキーニョ・ソアレスだ。
しかし、その距離は近いようで遠い。
この出来事は、一つのクラブの補強話で終わらない。
「9番」をどう考えるか。
それは、私たち日本のサッカーにも、まっすぐ突き刺さる問いのように思える。
ベテランの名前が“浮かんでは消える”理由

リベルタドーレス王者の9番が、構想外になる現実
チキーニョ・ソアレスは35歳。
現在はサントスに所属しているが、今季の構想からは外れていると報じられている。
だからこそ、コリチーバやレモといったクラブへの期限付き移籍の可能性が話題に上がっている。
ただ、コリチーバ側の見立てでは、この移籍は現時点では「かなり遠い」。
最大の理由は、お金だ。
サントスとの契約は2027年末まで残り、月給は約150万レアル。
サントス側は一部の給与負担も検討しているとされるが、それでもコリチーバにとっては、クラブの財政計画から見ると簡単に飲み込める数字ではない。
リベルタドーレスを制した9番を呼べるかもしれない。
その魅力と、現実の帳尻。
クラブは、そのあいだにある細い綱の上を歩いている。
| タイプ | 代表選手 | 強み | 評価 |
|---|---|---|---|
| クラシカルポスト型 | チキーニョ・ソアレス(35歳) | 背負ってキープ・リバウンド回収・高さで競り勝つ | ◎ |
| 動き回るFW型 | ペドロ・ホシャ | スペースへ動き出し・周囲との連動・柔軟なポジショニング | ○ |
| 若手育成型 | エンゾ・ヴァグネル | 将来性・伸びしろ・自前育成のコスト優位性 | △ |
| 万能型(日本の主流) | (一般的なJ1FW) | 前線からの守備参加・走行量・連動性 | ○ |
| ボックス職人型 | (希少種・日本) | ペナルティエリア特化・シュート精度・空中戦 | △ |
それでもコリチーバが「9番」を探し続ける理由
それでも、コリチーバは前線の補強を諦めるつもりはない。
新たに就任したフェルナンド・セアブラ監督は、自らの就任時から「いわゆるセンターフォワード」と呼べるタイプの選手を望んでいると示している。
いまのチームにも前線の選手はいる。
ただ、指揮官は「今いる選手たちとは違う特徴を持った9番」が欲しいと考えているようだ。
クラブ幹部のウィリアム・トーマスらは、その要請を3月3日の移籍市場の締め切りまでに叶えようとしている。
理由ははっきりしている。
- 戦い抜くのは、長く厳しいブラジル全国選手権・セリエA
- 1つのスタイルだけではなく、異なるタイプの前線を用意したい
監督が欲しがっているのは、単に「ゴールを取る人」ではない。
チームに違う形をもたらせる、戦術上の“もう一つの扉”なのだ。
今いる9番と、育ちつつある9番
- 9番の役割を1種類に固定しない — ポストプレー特化型と動き回る万能型を同時に育成ラインに持ち、相手・状況によって使い分ける発想をチームに組み込む
- ポストワークを意図的に練習メニューに入れる — 日本の育成では軽視されがちな「背中で押さえるキープ」「クロスへの競り合い」を週1回以上取り上げる
- 若手FWに経験豊富な選手とのコンビを与える — エンゾ・ヴァグネルがチキーニョ型から学ぶ構図のように、世代混在のFW練習で実戦的な体の使い方を伝承する
セリエB得点王ペドロ・ホシャという選択肢
現在のコリチーバには、すでに一人のストライカーがいる。
ペドロ・ホシャ。
彼は、2025年にレモでセリエB得点王となった実績を持ち、今季からコリチーバの前線を任されている。
ポジション的にはもっとも中央寄りでプレーすることが多いが、決してペナルティエリアの中だけにとどまる選手ではない。
スペースへ動き出し、周囲と連動し、柔らかく動き回れるタイプだと評価されている。
言い換えれば、「クラシカルなポストプレーヤー」とは少し違う。
この違いこそ、セアブラ監督が「もう一人のタイプ」を求める理由にもなっている。
- ゴール前での体の使い方を磨く — 走り回るだけでなく、センターバックを背中で押さえる感覚・クロスに競り勝つポジショニングを試合中に意識して試す
- 「役割の希少性」がキャリアを作る — チキーニョがポルトで64ゴールを奪えたのはクラシカルFWとして差別化できたから。万能型に染まる前に自分の強みを尖らせる時期を持つ
- 移籍・選考はお金と価値の掛け算で動く — 実力があっても年俸・財政計画・クラブの長期構想が合わなければ移籍は成立しない。キャリア選択の現実を早期に理解する
ヴァグネル・ラブの息子、エンゾ・ヴァグネルが示す未来
もう一人、興味深い名前がある。
エンゾ・ヴァグネル。
その名から想像がつくように、かつてヨーロッパやブラジルでゴールを重ねたストライカー、ヴァグネル・ラブの息子だ。
もともとはU-20チームに合流するため、2025年12月にコリチーバへ加入した。
ところが、そのプレーぶりにトップチームのスタッフが注目し、すでにAチームにも関わる機会を得ているという。
将来的にセンターフォワードとして起用される可能性も示されており、クラブ内部で「自前の9番」を育てる動きが進んでいるとも言える。
コリチーバの前線はこうして、
- 実績あるストライカー(ペドロ・ホシャ)
- 将来性豊かな若手(エンゾ・ヴァグネル)
という二つの軸を持ちながら、それでもなお「違うタイプの9番」を求めている。
そこに、リベルタドーレス王者、チキーニョ・ソアレスの名前が重なっている構図だ。
チキーニョ・ソアレスというキャリアに見る「9番の重み」
地方クラブからポルト、そしてアジアとギリシャへ
チキーニョ・ソアレスの経歴は、いわゆる「大器晩成型」のストーリーだ。
アメリカ-RNでプロキャリアを始め、その後しばらくはブラジル国内の複数クラブを渡り歩いた。
2014年、ポルトガルのナシオナル(マデイラ島)への移籍が転機となる。
そこでの活躍が評価され、ポルトに引き抜かれる。
2017年から2020年までの3年間で64ゴール。
ヨーロッパのビッグクラブとまではいかなくとも、中堅以上のクラブで確かな「点取り屋」としての地位を築いた。
その後は中国、ギリシャのオリンピアコスへと渡り、ギリシャ国内リーグでもタイトルを手にした。
ブラジルを飛び出し、ポルトガル、アジア、ギリシャと環境を変えながらも、常に「ゴールを取る役割」を背負ってきた選手だと言える。
ボタフォゴでのリベルタドーレス制覇、そしてサントスへ
2023年、チキーニョはボタフォゴに加入する。
2024年、クラブにとって初めてとなるリベルタドーレス制覇を成し遂げ、その中心の一人として存在感を示した。
その後、2025年の初めにサントスへ移籍。
移籍の際には、サントス所属だったDFジャイルとの交換に、約300万ユーロが動いたとされている。
2025シーズンには40試合に出場し、7ゴールと4アシスト。
数字だけ見れば、全盛期のポルト時代に比べると控えめだが、35歳という年齢を考えれば、なお一定のクオリティを維持したと言える。
それでも、サントスの中での優先順位は下がり、現在のプランから外れている。
クラブは給与負担を減らしつつ、新たな編成を組み立てたい。
ベテランの9番は、戦力であると同時に、財政・計画という別の軸から見れば「重み」を持つ存在にもなっていく。
「9番」をどう作るか──ブラジルの選択、日本の現状

タイプの違うFWをそろえるという発想
コリチーバが目指しているのは、「似たようなFWをたくさん集めること」ではない。
むしろ、あえて「違うタイプ」を並べることで、戦い方の幅を広げたいと考えているように見える。
ペドロ・ホシャのように、動き回ってゴールに迫る9番。
チキーニョ・ソアレスのように、背負って収め、リバウンドを拾わせる9番。
エンゾ・ヴァグネルのように、伸びしろを持つ若き9番。
どのタイプが「正解」という話ではなく、相手や状況に応じて、違うカードを切れるかどうかが問われているのだろう。
この視点は、日本のサッカーにとっても考えさせられるポイントだ。
日本では、動きが軽く、前線から守備に参加し、周りと連動できるタイプのFWが評価されやすい。
一方で、「ボールを収め続ける」「クロスに競り勝ち続ける」といった、ある意味で地味な役割の9番は、どこか希少種になりがちだ。
育成年代の指導現場でも、
- 万能型のFWを目指すのか
- ポストワークやボックス内の強さに特化した9番を育てるのか
このあたりの方針は、まだまだ揺れているように見える。
日本で「チキーニョ型の9番」はどう扱われるだろうか
もし、日本のクラブがチキーニョ・ソアレスのような選手を獲得できる状況にあったとしたら、どのような判断をするだろうか。
35歳。
ヨーロッパや南米での豊富な実績。
ただし、高い年俸。
コンディション維持も簡単ではない年齢。
そうした条件を前にしたとき、日本のクラブは、どこまで「9番」という役割の価値を見積もるのか。
ブラジルでは今なお、センターフォワードはチームの顔であり、戦術の中枢と見なされることが多い。
一方、日本ではポジションのヒエラルキーよりも、全員が同じように走り、守備にも関わることが重視される文化が強い。
だからこそ、コリチーバのように「違うタイプの9番をそろえておきたい」という発想は、私たちにとって新鮮なヒントになる。
「万能なFWを一人鍛えればいい」のではなく、
「違う強みを持つFWを複数人そろえる」という考え方。
そのうえで、若手をどう組み合わせ、ベテランから何を学ばせるか。
チキーニョの移籍話を追っていくと、そんな視点が浮かび上がってくる。
「高い9番」を諦めることと、「自分たちの9番」を作ること
お金と夢のあいだでクラブが選ぶもの
コリチーバにとって、チキーニョ・ソアレスという名前は、夢のような存在かもしれない。
リベルタドーレスを制したストライカーが、自分たちのシャツを着てくれるかもしれない。
スタジアムはきっと沸き立つだろう。
しかし、クラブはそれだけでは判断できない。
財政的な持続性。
長期的なチームづくり。
既存の選手たちへの影響。
ウィリアム・トーマスらクラブの首脳陣は、「補強」という言葉の裏側にあるこれらの要素と向き合わなければならない。
チキーニョの給与は、いまのコリチーバにとっては「背伸び」が必要なレベルと見られている。
サントスが一部負担するとしても、それは簡単な投資ではない。
だからこそ、クラブは「夢を見たい気持ち」と「現実の計算」のあいだで揺れ続けている。
日本のクラブが抱える、似たようで違う悩み
この構図は、日本のクラブにも共通する部分がある。
Jリーグのクラブもまた、
- ビッグネームを呼びたい誘惑
- 育成年代を軸にした長期的な構想
- クラブ経営の安定
これらのバランスをとりながら、補強の一つひとつを決めている。
特に、前線の選手には「話題性」も求められやすい。
しかし、話題性だけで獲得したFWが、チームのスタイルと合わず、ゴールを奪えないまま時間だけが過ぎてしまうケースも、決して少なくはない。
だからこそ、問われるのは「誰を取るか」だけではない。
「どんな9番を育てたいのか」。
そのビジョンが、クラブの中にどれだけはっきりと存在しているかどうかなのだと思う。
あなたのチームには、どんな9番が必要だろうか
一人のストライカーから始まる学び直し
コリチーバが今、移籍市場で向き合っているのは、単なる補強の成否ではない。
ペドロ・ホシャという実績あるストライカー。
エンゾ・ヴァグネルという、未来を託したくなる若手。
そこに、チキーニョ・ソアレスというベテラン9番の名前が重なったとき、クラブは「どんな前線を作りたいのか」という問いに真正面から向き合わざるを得なくなる。
これは、プロクラブに限られた話ではない。
学校の部活でも、街クラブでも、日本代表でも同じだ。
あなたが関わっているチームは、どんな9番を必要としているだろうか。
- とにかく走り続けるFWなのか
- 背中でボールを守り続けるFWなのか
- ボックス内だけに集中する“職人”なのか
- いまは未完成だが、大きな可能性を秘めた若手なのか
その答えは、チームのスタイルや目標によって変わってくる。
だからこそ、他国のクラブの補強ニュースを、自分たちのチームづくりを見直すきっかけにしてみるのもいいかもしれない。
「9番」とは、ゴールを待つだけの人ではない
かつては、「9番」というと、ゴール前でボールを待つだけの人と見られることもあった。
しかし、現代サッカーにおいて、そのイメージは大きく変わっている。
ハイプレスの起点になり、ロングボールのターゲットになり、味方の時間を作り、チームの攻撃の重心を引き受ける。
9番は、ゴールを決める役割であると同時に、「チーム全体の形」を支えるポジションになってきた。
だからこそ、誰を9番に据えるのか。
どんな9番を育てるのか。
そこには、チームが目指す姿が映し出される。
チキーニョ・ソアレスをめぐるコリチーバの迷いは、もしかすると、私たち自身のサッカー観の迷いでもあるのかもしれない。
「9番をどうするか」は、「自分たちのサッカーをどうするか」という問いと、いつもセットになっている。
ゴール前に立つ一人の選手を見つめることは、チーム全体、そしてサッカーそのものをもう一度学び直すことにつながっている。
前線の一歩が、チームの未来を決める。
その重さを引き受ける覚悟を持ったとき、9番の背番号は、ただの数字ではなくなるのだと思う。
