ジャン=クロード・ダルモンが問うサッカーとお金の本質──フランスフットボール経済を発明した男の哲学と現代への問いかけ

“悪魔”と呼ばれたジャン=クロード・ダルモンが問いかける、サッカーとお金とロマンの現在形

DEFINITION
ジャン=クロード・ダルモンが問うサッカーとお金の本質とは
フランスのサッカービジネスを半世紀以上動かしてきたジャン=クロード・ダルモンは、スポンサー看板・胸スポンサー・放映権をフランスのクラブに持ち込み「お金を持ち込む悪魔」と呼ばれた。しかし彼の信条は「お金は手段であって目的ではなく、選手とクラブへの正当な対価をもたらすための仕組みを作ること」であり、84歳のいまも現場感を失わずフットボールそのものを愛し続けている。

「悪魔」と呼ばれた男、ジャン=クロード・ダルモンが教えてくれる“お金とフットボール”のほんとうの話

84歳になってもなお、タートルネックにジャージ姿で現場感を失わない男がいます。 ジャン=クロード・ダルモン。 フランス・フットボール界のビジネスを半世紀以上にわたって動かしてきた「お金の仕掛け人」です。

彼は新しい自伝「Destin : avoir plus de rêves que de souvenirs(運命:思い出よりも夢を多く)」と、Canal+のドキュメンタリー「L’Argentier(資金繰り人)」で、自らの人生とフットボールとの関わりを改めて語りました。

その話の中心にあるのは、「お金」と「ロマン」、そして「人間としての筋」の問題です。 今日のサッカーを見て、「お金だらけで嫌だな」と感じる人もいるかもしれません。 けれど、スタジアムの広告やテレビマネーがなければ、スター選手の年俸も、クラブの発展も、今とはまったく違う姿だったかもしれません。

パリのオフィスにペレ、モハメド・アリ、アラン・ドロン、ジョニー・アリデイの写真を飾りながら、「忘れられまい」と語るダルモンの言葉から、「フットボールビジネスとは何か」を一緒に考えてみたいと思います。

「ロマンチストの金儲け屋」という矛盾

ダルモンは自分をこう表現します。

「Je suis un romantique du foot ! Je suis un artiste, mais c’est terrible de dire ça quand on fait une carrière financière.」
「私はフットボールのロマンチストなんだ。アーティストなんだよ。金融のキャリアを歩んできた人間がこう言うのは、ひどく矛盾して聞こえるかもしれないけれどね。」

ビジネスで成功した人が「ロマン」や「美しさ」を語ると、どこか嘘っぽく聞こえてしまうことがあります。 しかし彼は、PSGやマルセイユだけでなく、ル・アーヴルのような小さなクラブの試合も欠かさず見ると言います。

「Il faut regarder le jeu, pas seulement le résultat… c’est normal qu’une Ferrari batte une trottinette.」
「大事なのは結果だけじゃなく“ゲーム”を見ることだよ。フェラーリがキックスケーターに勝つのは当たり前なんだからね。」

予算24億円程度のル・アーヴルと、800億円規模のパリ・サンジェルマン。 力の差があるのは当然。 それでも、彼は小さなクラブのビルドアップや連動に「美しさ」を見いだします。

クラブを応援する子どもたちも、大人のファンも、つい「勝った・負けた」「補強した・していない」に一喜一憂してしまいます。 でも、ダルモンのように「予算差も含めてゲームを見る」視点を持てたら、サッカーの楽しみ方はもっと豊かになるのかもしれません。

「お金のない時代」から「お金だらけの時代」へ

ダルモンは「フットボール経済」を“発明した男”とも言われます。 スポンサー看板、胸スポンサー、VIPラウンジ、テレビ放映権。 今では当たり前の収入源を、フランスのクラブに次々と導入していったのが彼でした。

「J’ai donc créé quelque chose qui n’existait pas : l’économie du football. J’ai révolutionné mon secteur, un peu comme certains footballeurs.」
「私は存在していなかったものを作った。フットボール経済というものをね。自分の分野を革命的に変えたんだ。偉大な選手たちがゲームを変えたように。」

ところが、その当時の評価はむしろ真逆でした。

「À l’époque, j’étais celui qui apportait de l’argent dans le sport, j’étais le diable.」
「当時の私は、スポーツにお金を持ち込む“悪魔”だったんだよ。」

「広告でユニフォームが汚れる」「お金がスポーツを壊す」。 フランスでは特に、「お金=汚いもの」という空気が強かったといいます。 その一方で、選手たちはいくらワールドカップでゴールを量産しても、最低賃金に近い給料しかもらえなかった時代がありました。

「Just Fontaine, meilleur buteur de la Coupe du monde, 13 buts, il touchait à peine le smic. Quand tu vois les salaires de Messi ou Ronaldo, ça n’a aucun sens.」
「ワールドカップで13得点したストライカー、ジュスト・フォンテーヌでさえ、ほとんど最低賃金レベルだった。いまのメッシやロナウドの給与と比べたら、まったく意味が分からないだろう。」

「お金まみれのフットボール」を批判するのは簡単です。 でも、お金がなかった時代の選手たちの暮らしを思い浮かべながら、「健全なお金の入り方・流れ方とは何か」を議論する必要もあるのではないでしょうか。

「悪魔」が守ったのは、選手とクラブへのリターン

ダルモンはこうも語ります。

「L’argent est un moyen, pas une fin.」
「お金は“手段”であって、“目的”ではない。」

スタジアムの広告、放映権の高騰、VIPシート、スポンサー。 これらは「お金儲けの象徴」のように見えます。 しかし、そのお金がなければ、選手たちの給料も育成も、クラブの施設も成り立ちません。

「À partir du moment où j’ai amené des recettes… il était logique que cet argent profite aux joueurs.」
「私が看板やスポンサー、テレビマネーで“収入”をもたらしたのだから、そのお金が選手たちに還元されるのは当然だった。」

一方で、その仕組みを作った彼自身は、長年「独占」「金の亡者」とも批判されてきました。

「Mon influence est celle de quelqu’un qui a fait beaucoup de choses pour eux. Ils avaient confiance en moi… J’ai inventé un produit, c’est tout.」
「私の影響力とは、彼ら(クラブ)のために多くのことをしてきた人間としてのものだよ。彼らは私を信頼してくれた。それだけのことさ。私がしたのは、新しい“商品”を発明したこと。それだけなんだ。」

新しいビジネスモデルを作る人は、たいてい最初は嫌われます。 現代のフットボールビジネスも、「ダルモン以前」と「ダルモン以後」でまったく別の世界になりました。

私たちは今、スターの移籍金や年俸をめぐって「高すぎる」「おかしい」と議論します。 でも、その裏には、かつて最低賃金レベルで世界最高の舞台に立っていた選手たちがいたこと。 そして、その不合理を変えようとした「悪魔役」の存在があったことを、少しだけ思い出してみても良いのかもしれません。

ビジネスの中に「人間らしさ」は残せるか

ダルモンは、自分をこう定義します。

「Par définition… je suis humaniste avant tout.」
「何よりもまず、私は“人間主義者(ヒューマニスト)”なんだ。」

お金が巨大に動くプロサッカーの世界で、「人間主義者」と名乗るのは、少し場違いにも感じられます。 では実際、どんな姿勢だったのでしょうか。

「Je ne pratique pas la charité, je pratique la solidarité.」
「私は“慈善”はしない。“連帯”をするんだ。」

一方的な「施し」ではなく、信頼関係のもとに“一緒にやる”こと。 彼は40年以上同じクラブと契約を続けた例もあると語ります。

「On peut mentir à quelqu’un une fois, mais pas à tout le monde tout le temps.」
「一度なら誰かを騙すこともできる。でも、ずっと、みんなを騙し続けることはできない。」

お金をめぐる争いの多いフットボール界で、「契約」「握手」「言葉」を大事にしてきたと強調するダルモン。 彼は「トラブルはあったが、“裏切られた”と本気で感じたことはほとんどない」とも言います。

ここで、読者の皆さんにも問いかけてみたいのです。

クラブ経営者、代理人、スポンサー、メディア。 お金と利害が絡み合う関係のなかで、「筋を通す」「言葉を守る」という姿勢は、どこまで貫けるのでしょうか。 そして、私たちファンや視聴者もまた、「安く買え」「ただで見せろ」と求めすぎていないでしょうか。

「戦う平和主義者」が見つめる“プレーそのもの”

ダルモンは、自分をこうも表現します。

「Je suis un homme de paix… Je suis un guerrier qui a de l’empathie.」
「私は平和を愛する人間だ。でも同時に、共感を持った“戦士”でもある。」

権利料の交渉、カメラ台数の駆け引き、スポンサーとの調整。 その裏では、表には出ない「戦い」がいくつもありました。 時にはテレビ局と真っ向からぶつかり、クラブを倒産から救うために、放映権の売り方をまるごとひっくり返したこともあります。

その一方で、今の彼を動かしているものは、驚くほどシンプルです。

「Ce qui me plaît, c’est le 4-2-4, le WM… le centre en retrait, c’est ça qui me rend heureux.」
「私を幸せにしてくれるのは、4-2-4の布陣であり、古いWMシステムであり、ゴール前の“折り返しのクロス”なんだ。」

最先端のビジネスモデルを作った男が、最後に戻っていくのは「プレーの形」「戦術」「連携」といった、どこまでもフットボールそのものの話です。

お金の話にうんざりしている子どもたちも、大人のサポーターも。 時にはダルモンのように、「いま、このチームはどんな崩し方をしているのか」「少ない予算でどうやって戦術を工夫しているのか」に目を向けてみると、昨日まで退屈に見えた試合が、少し違って見えてくるかもしれません。

「夢の数」を増やし続けること

ダルモンの新しい本の副題は「avoir plus de rêves que de souvenirs」。

「思い出よりも、夢の方を多く持て」とでも訳せる言葉です。

彼は、極貧の幼少期を過ごし、孤児院に預けられたこともあります。 1958年のワールドカップを、路上のテレビで「俳優を見るように」眺めていた少年が、その後ペレやフォンテーヌと友人になり、ヨーロッパ中のクラブとビジネスをしていく。 その道のりは、フットボールがいかに人の人生を変えうるかを物語っています。

「Quand je regardais la Coupe du monde 1958… jamais je n’aurais pu imaginer que je ferais tant de choses dans le foot.」
「1958年のワールドカップを路上で見ていたとき、自分がフットボール界でこれほど多くのことをするなんて、想像すらできなかった。」

そして、84歳のいまも、彼は毎朝6時に起きて仕事をし、「1時間余分に寝ると、1時間“生きる時間”を失った気がする」と言います。

プレーヤーとして大成できなくても、クラブ経営者にならなくても、ファンとして、あるいは地域のジュニアチームの一員として。 フットボールとの関わり方は無数にあります。

子どもたちにも、大人にも問いかけたいテーマがあります。

「自分にとっての“フットボールの夢”は何だろう?」
「その夢を、歳を重ねたあとも、思い出ではなく“現在進行形”として持ち続けられるだろうか?」

サッカーとお金、私たちはどう向き合うか

ダルモンは、お金をフットボールに持ち込んだことで「悪魔」と呼ばれた時代を生きました。 それでも彼は、「お金は目的ではなく、選手とクラブに正当な対価をもたらすための手段だ」と言い続けます。

広告看板、放映権、ビッグスポンサー。 私たちが「商業主義」とひとことで片付けがちなものの裏には、「貧しい選手たちを正当に報いたい」「クラブを倒産から守りたい」という意志もありました。

もちろん、現代のフットボールビジネスがすべて正しいわけではありません。 移籍金の高騰や、オイルマネー、国や巨大企業に支配されるクラブ運営。 考えるべき課題は山ほどあります。

それでも、ダルモンのように、「プレーそのものを愛しながら、お金とも向き合う」という姿勢は、これからのフットボールを考えるうえで一つのヒントになるはずです。

最後に、彼自身の生き方にも通じる言葉で締めくくりたいと思います。

「Le temps n’existe pas. Le seul temps qu’on a, c’est le présent.」
「時間なんて存在しない。僕らが本当に持っているのは、“今”という時間だけだ。」

サッカーを愛する私たち一人ひとりが、この「今」という時間をどう使い、どんな夢を描き続けるのか。 その選択が、これからのフットボールの姿をも、静かに形づくっていくのかもしれません。

COMPARISON / ダルモン以前とダルモン以後のフットボールビジネス比較
観点 ダルモン以前 ダルモン以後(現代) 評価
選手の報酬 ワールドカップ13得点のフォンテーヌも最低賃金水準 メッシ・ロナウドのような高年俸が実現 ◎ 正当な対価へ
クラブの収入源 入場料のみが主な収入 スポンサー・放映権・VIPラウンジなど多角化 ◎ 財政基盤の確立
胸スポンサー なし(ユニフォームは純粋とされた) 主要クラブには必須の収入源 △ 価値観の変化
テレビ放映権 整備されておらず収益化されていなかった クラブ・リーグの主要収益源に成長 ◎ 革命的変化
ビジネスモデルの認識 「お金はスポーツを汚すもの」という空気が強かった 経済的な健全性が競争力と直結する認識へ ○ 継続する議論
ダルモンの立場 「悪魔」と呼ばれ批判の的 フットボール経済の発明者として再評価 ◎ 時代が追いついた
◎=明確に改善/○=現在も議論が続く課題/△=賛否が分かれる変化
FOR COACHES / FOR COACHES 指導者が持ち帰る3ポイント
ダルモンのフットボール哲学から指導者が学ぶこと
  1. 試合の「結果」だけでなく「ゲームそのもの」を見る習慣を選手に伝える — ダルモンは予算差があっても小さなクラブのビルドアップや連動に「美しさ」を見出すと語った。格上相手に負けた試合でも「あの局面でのパス回しは良かった」「連動ができていた場面はここだ」と具体的に評価する声かけを習慣にする。
  2. クラブ・チームの資金状況を子どもたちに年齢に応じて伝える — ダルモンが示したように、お金がなければ選手は守られず施設も育成も成り立たない。「会費やスポンサーがどう使われているか」を伝えることで、チームへの当事者意識が育つ。
  3. 「一度なら騙せても、ずっとみんなを騙し続けることはできない」を信条にする — ダルモンは40年以上同じクラブと契約を続けた例もあると語る。言葉を守り、握手を大切にする指導者の姿勢が、選手・保護者からの長期的な信頼を生む。
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お金とサッカー──「商業主義」の裏側を知ると観戦が変わる
  1. 試合前のスポンサー広告やユニフォームの胸スポンサーを見て「これがなければ選手の給料はどうなるか」を考えてみる — ダルモンが持ち込んだ仕組みのおかげで、かつて最低賃金水準だったトップ選手たちが正当な報酬を得られるようになった。広告を「邪魔なもの」ではなく「サッカーを支える仕組み」として見る視点を子どもに伝える。
  2. 好きなクラブの予算規模と戦い方を合わせて見ると観戦の面白さが増す — ダルモンは「フェラーリがキックスケーターに勝つのは当然。それでも小さなクラブのプレーに美しさを見いだす」と語る。予算の少ないチームがどんな工夫で戦っているかに注目すると、サッカーの楽しみ方が豊かになる。
  3. 「思い出よりも夢の方を多く持て」という言葉を家族で話してみる — 84歳のダルモンは毎朝6時に起きて仕事をし、「1時間余分に寝ると1時間生きる時間を失う」と語る。サッカーに限らず、「歳を重ねても現在進行形で夢を持ち続けること」の価値を子どもと一緒に考えるきっかけにできる。
FAQ / よくある質問
Q. ジャン=クロード・ダルモンとはどんな人物ですか?
A. フランスのスポーツビジネスを半世紀以上動かしてきた人物で、スタジアムの広告看板・胸スポンサー・VIPラウンジ・テレビ放映権といった現在のクラブ収入の基盤をフランスに持ち込みました。当初は「お金をスポーツに持ち込む悪魔」と批判されましたが、84歳のいまも現役で活動し、自伝とCanal+のドキュメンタリーで自身のキャリアを語っています。
Q. ダルモンはなぜ「悪魔」と呼ばれたのですか?
A. 広告でユニフォームが「汚れる」「お金がスポーツを壊す」という空気が特にフランスで強かった時代に、スポンサーや放映権収入をクラブに持ち込んだためです。一方で当時の選手たちはワールドカップで活躍しても最低賃金水準の報酬しか得られておらず、ダルモン自身は「選手に正当な対価をもたらすために仕組みを作った」という立場を一貫して取っています。
Q. ダルモンはサッカーのどんな部分を今も楽しんでいますか?
A. 最先端のビジネスモデルを作った人物でありながら、「私を幸せにしてくれるのは4-2-4の布陣や古いWMシステム、ゴール前の折り返しのクロスだ」と語っています。PSGやマルセイユだけでなく、ル・アーヴルのような小さなクラブの試合も欠かさず見て、プレーの形そのものに美しさを見いだしています。
Q. ダルモンの「お金は手段であって目的ではない」はどういう意味ですか?
A. スポンサーや放映権で収入をもたらしたのは、そのお金が選手・クラブ・育成に還元されるべきだという考えからでした。「慈善ではなく連帯をする」「一度は騙せてもずっと全員を騙し続けることはできない」という言葉が示すように、信頼関係を基盤にしたビジネスを40年以上続けてきた姿勢がこの言葉の裏にあります。
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