マイケル・キャリック体制マンチェスター・ユナイテッドのコーチングスタッフ構成と異なる個性を束ねるチームマネジメントを解説する記事のサムネイル

マイケル・キャリック体制のマンチェスター・ユナイテッドに見る「異なる個性を束ねるバランス」のチームマネジメント

DEFINITION
異なる個性を束ねるチームマネジメントとは
マイケル・キャリックがマンチェスター・ユナイテッド暫定監督として示したのは「同じ人間を集めない」という原則だ。経験豊富なホランド、異論を唱えるウッドゲート、長所伸長を説くビニオンという異質な3人を意図的に組み合わせ、バランスを設計することがチームマネジメントの本質である。

マイケル・キャリック新体制のマンチェスター・ユナイテッド――「バランス」というキーワードから学ぶもの

マンチェスター・ユナイテッドが、クラブOBであり名ミッドフィルダーでもあったマイケル・キャリックを、シーズン終了までの暫定指揮官として迎えました。

そして、それ以上に注目すべきなのが、彼が組み上げた新しいコーチングスタッフです。

キャリックは、そのスタッフ陣についてこう語っています。

「With the staff it was important to be able to pull on different characters, different dynamics, different experiences as well.」
(「スタッフについては、異なるキャラクター、異なるダイナミクス、異なる経験に頼れることが重要だった。」)

この「違いを集めて、バランスをつくる」という考え方は、トップクラブのマネジメントだけでなく、育成年代の指導や、チームスポーツそのものを学ぶうえでも、大事なヒントを与えてくれます。

経験の厚みをもたらすスティーブ・ホランド――「変化」とどう向き合うか

まず目を引くのが、アシスタントコーチに就任したスティーブ・ホランドです。

ホランドは、ガレス・サウスゲートとともに8年間イングランド代表を支え、Euro 2020とEuro 2024で決勝進出を経験しました。

チェルシーでは、リザーブチームの監督としてリーグタイトルを獲得し、その後はトップチームのコーチとして、2012年のUEFAチャンピオンズリーグ制覇にも関わっています。

キャリックは、ホランドについてこう語ります。

「Steve’s got an unbelievable wealth of experience – massive, massive experiences at Chelsea in terms of going through similar situations to this, changeover of manager and coach and dealing with that and staying successful.」
(「スティーブは信じられないほどの経験を持っている。チェルシーでは、監督やコーチの交代といった、今と似た状況を何度も経験しながら、それでも成功を維持してきた。」)

監督交代、クラブの方針転換、選手の入れ替え。

その「揺れ」の中で勝ち続ける術を知る人物が、今のユナイテッドのベンチにいることは、決して小さな要素ではありません。

Jリーグの横浜F・マリノスでは、成績不振で短期間での解任という厳しい現実も味わいました。

成功も失敗も、両方を経験しているからこそ、選手に伝えられる言葉があります。

皆さんは、自分のチームに「変化を何度もくぐり抜けてきた人」がいることを、どれだけ意識したことがあるでしょうか。

監督やキャプテンだけでなく、「変化を知っている大人」の存在は、ピッチ内外で選手の支えになるはずです。

ジョナサン・ウッドゲート――監督を「押し返す」右腕の価値

次に挙げたいのが、元イングランド代表CBのジョナサン・ウッドゲートです。

リーズ、ニューカッスル、レアル・マドリード、トッテナム、ストークと、欧州の大舞台を知るDFであり、ミドルズブラやAFCボーンマスで監督経験も持っています。

キャリックは、彼との関係性をこう表現しています。

「Jonathan I’ve known and he’s loyal, he’s very knowledgeable; he’s the perfect balance to me personally. I think that’s important, I don’t want all the same. He challenges me, he pushes me.」
(「ジョナサンとは長く一緒にやってきた。彼は忠実で、とても博識だ。僕にとって完璧なバランスを与えてくれる存在だ。同じようなタイプばかりはいらない。彼は僕に異論を唱え、背中を押してくれる。」)

監督にとって、本当に頼りになる「No.2」とは、ただ従うだけの存在ではありません。

意見が違えば、きちんとぶつけてくれる人。

選手の視点や守備の視点から、「それではうまくいかない」と言ってくれる人。

皆さんのチームや職場には、「リーダーにノーと言える人」がいるでしょうか。

チームづくりを考えるとき、「誰が一番うまいか」だけでなく、「誰がリーダーを支え、ときに止められるか」という視点も、私たちはもっと意識してよいのかもしれません。

トラビス・ビニオン――マグワイアと「オールドスクールの価値観」

今回のスタッフ人事で、ユナイテッドのサポーターにとって特に象徴的なのが、アカデミー出身コーチ、トラビス・ビニオンの昇格です。

彼は2019年にユナイテッドに加入し、U14〜U16の選手育成責任者を務めた後、U18監督としてFAユースカップ優勝、そしてU21監督へとステップアップしてきました。

その前には、シェフィールド・ユナイテッドのアカデミーマネージャーとして10年以上働き、当時14歳だったハリー・マグワイアを育てた人物でもあります。

ビニオンは、若き日のマグワイアについてこう振り返ります。

「You could have looked at Harry Maguire at 16 and said ‘he can’t run’, because people in England like to find something a player can’t do.」
(「16歳のハリー・マグワイアを見て、『走れない』と言うこともできた。イングランドでは、選手ができないことを探したがる傾向があるからね。」)

しかし、シェフィールド・ユナイテッドは、そうした「できない点探し」ではなく、選手一人ひとりの良さを伸ばすことに重きを置いていました。

「We always said push strengths and hide weaknesses. Harry may not be the quickest, but he’s smart, he positions himself well, he uses his body well.」
(「私たちはいつも『長所を押し出し、短所は隠す』と言ってきた。ハリーは最速ではないが、賢く、ポジショニングがよく、体の使い方に優れている。」)

ここには、育成年代における大切な問いかけが含まれています。

私たちは、子どもや若い選手を見るとき、「できないこと」から評価を始めていないでしょうか。

足が遅い、体が小さい、技術が荒い。

そうした短所ばかりを並べる前に、「この子の一番の強みは何か」を探す視点を持てたら、見える景色は大きく変わるはずです。

ビニオンの「オールドスクール」論――時代が変わっても変わらないもの

ビニオンは、自分の哲学を語るなかで、こんな言葉を残しています。

「What is old school? Good values? Running hard, working, listening? Being responsible, resilient and honest? These are the qualities you want throughout the generations.」
(「『オールドスクール』って何だろう? 良い価値観? 一生懸命走ること、よく働くこと、人の話を聞くこと? 責任感、粘り強さ、正直さ? こうした資質こそ、世代を超えて求められるものだ。」)

最新のスポーツサイエンスやテクノロジーを取り入れることは大切です。

しかし、その「上に乗る土台」として、努力、責任感、チームメイトへの敬意といった要素がなければ、選手としても人としても伸びきることは難しいでしょう。

ビニオンは、アカデミーの役割をこうも語っています。

「You want anyone who comes into an Academy to leave as a better person.」
(「アカデミーに入ってくる誰もが、『より良い人間』として出ていけるようにしたい。」)

プロになれなかったとしても、サッカーを通じて身につけた経験や価値観が、人生の武器になる。

そう考える指導者が、ユナイテッドのトップチームのスタッフに加わったことは、単なる「人事」以上の意味を持つかもしれません。

皆さんの身の回りのクラブや部活では、「人としての成長」をどれくらい意識しているでしょうか。

勝つことと同じくらい、「どんな大人になってほしいか」という視点をチームで共有できたら、日々のトレーニングや声かけも、少し変わってくるのではないでしょうか。

ジョニー・エヴァンス――クラブを知る“生きた教科書”

新スタッフの中には、つい最近まで現役だったCB、ジョニー・エヴァンスの名前もあります。

エヴァンスは、ユナイテッドのアカデミーからトップチームに上り詰め、その後ウェスト・ブロムやレスターで主力としてプレーし、昨季オールド・トラッフォードで現役生活に幕を下ろしました。

北アイルランド代表としても107キャップを誇る、まさに「経験の塊」です。

キャリックは、エヴァンスへの信頼をこう表現します。

「Everything he stands for I respect and appreciate. He’s got unbelievable knowledge, he’s come through the whole thing in this football club and he gets it and he understands the day to day.」
(「彼が体現しているすべてのものを、僕は尊敬し、評価している。彼は信じられないほどの知識を持ち、このクラブのすべての過程をくぐり抜けてきた。だから、クラブの日常を心から理解している。」)

エヴァンスは、ユナイテッドの「ローンマネージャー」として若手の武者修行も見守った経験があり、トップからアカデミーまでの「つながり」をよく知る人物でもあります。

若い選手にとって、同じクラブの道を歩んできた先輩が、毎日のトレーニングで声をかけてくれることは、これ以上ない財産です。

皆さんのチームには、「そのチームをよく知る先輩」が戻ってきてくれる文化があるでしょうか。

OBが時々顔を出すだけでも、今いる選手たちにとって大きな励みになります。

ゴールキーパーコーチの継続性――小さなポジションに宿る大きな安定

ゴールキーパー部門では、2019年からユナイテッドにいるクレイグ・モーソンが、アシスタントGKコーチとして残留します。

トップチームのGKコーチ、ジョルジ・ヴィタルはルベン・アモリム退任とともにクラブを去りましたが、モーソンが「つなぎ役」として機能することで、急激な変化を和らげる狙いも感じられます。

GKは、特に「慣れ」や「信頼関係」が重要なポジションです。

指導者が短期間に何度も変わると、細かな修正やメンタル面に影響が出ることも少なくありません。

一方で、コーチの一貫性が保たれれば、新体制への移行もスムーズになりやすいものです。

選手だけでなく、コーチングスタッフの「継続」と「新陳代謝」のバランスをどう取るか。

クラブづくりの難しさをあらためて考えさせられます。

キャリックという人物――「見えにくいもの」を大切にしてきたキャリア

マイケル・キャリック自身も、「バランス」や「つなぎ役」を象徴するような選手でした。

ウェストハムのユースでFAユースカップを制し、トッテナムを経て、2006年にマンチェスター・ユナイテッドへ。

プレミアリーグ、FAカップ、リーグカップ、チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグ、クラブW杯。

主要タイトルをすべて手にしながら、派手なゴールやドリブルで注目を集めるタイプではありませんでした。

スペインの名司令塔チャビは、キャリックをこう評価しています。

「Carrick gives United balance and can play defensively too. He passes well, has a good shot and is a complete player.」
(「キャリックはユナイテッドにバランスを与える存在だ。守備もできるし、パスも良い。シュートも持っている、完成された選手だ。」)

ペップ・グアルディオラもまた、こう語りました。

「I am a big fan of Michael Carrick. He's one of the best holding midfielders I've ever seen in my life.」
(「私はマイケル・キャリックの大ファンだ。彼は人生で見てきた中でも、最高の守備的MFの一人だ。」)

目立たないところでバランスを整え、試合のリズムを作り出す。

そんな選手だったからこそ、監督キャリックがスタッフに求めるのも、「華やかさ」ではなく「補い合うバランス」なのかもしれません。

クラブ全体の動き――オーナーたちの“現地集結”が示すもの

今回の変化は、ベンチだけの話ではありません。

共同オーナーであるサー・ジム・ラトクリフが、ジョエル&アヴラム・グレイザーとともにマンチェスターに飛び、キャリントンでのエグゼクティブ・コミッティーに参加しています。

これまでモナコで行われることが多かった会合が、現地マンチェスターに移され、キャリックやスタッフとの直接対話の場が設けられました。

オーナーたちが実際にトレーニング施設を訪れ、新しく改装されたメインビルディングを自分の目で見る。

これは、クラブを「遠くから所有する」のではなく、「近くから関わる」方向へ、一歩踏み出したサインとも受け取れます。

トップから現場まで、どこまで「同じ方向」を向けるのか。

それは、ユナイテッドがこれから再び頂点を目指すうえで、避けて通れないテーマです。

あなたのチームにとっての「バランス」とは何か

今回のマンチェスター・ユナイテッドの新体制には、「バランス」というキーワードが何度も登場します。

経験豊富な戦術家スティーブ・ホランド。

監督に異論を唱えられる右腕、ジョナサン・ウッドゲート。

育成と人格形成を重んじるトラビス・ビニオン。

クラブを知り尽くすOB、ジョニー・エヴァンス。

そしてGK部門の継続性を担うクレイグ・モーソン。

「同じタイプの優秀な人」を集めるのではなく、「違った強み」を持つ人たちでチームを組む。

これは、サッカークラブだけでなく、学校の部活や社会のさまざまな組織にも当てはまる考え方ではないでしょうか。

あなたのチームには、どんな人が不足しているでしょうか。

よくしゃべる人はいるけれど、静かに支える人が足りない。

情熱的な人は多いけれど、冷静に分析する人が少ない。

フィジカルは強いが、ゲームを落ち着かせる選手がいない。

そうした「欠けているピース」を意識して埋めていくことが、上達や成長につながっていくのかもしれません。

バランスを信じて、一歩ずつ前へ

マイケル・キャリックは、現役時代を通して「バランス」と「つなぐ役割」を体現してきました。

監督としての新しい挑戦でも、彼は同じテーマを選び取っています。

すぐに結果が出るかどうかは、誰にも分かりません。

けれども、「異なる個性を集め、補い合いながら前へ進む」という姿勢は、どんなカテゴリのサッカーにも、そして私たちの日常にも応用できる考え方です。

最後に、キャリックのキャリアにも通じる、こんな言葉で締めくくりたいと思います。

「Talent wins games, but teamwork and intelligence win championships.」
(「才能は試合に勝たせてくれるが、チームワークと知性がタイトルをもたらす。」

マンチェスター・ユナイテッドが、そして私たち一人ひとりのチームが、その「チームワークと知性」をどこまで磨いていけるのか。

これからの歩みを、静かに見つめていきたいところです。

COMPARISON / キャリックが選んだコーチ3人の役割比較
コーチ 強み・背景 チームへの貢献 評価
スティーブ・ホランド イングランド代表8年・CL制覇経験 監督交代・変化への対処力を提供 ◎ 経験の厚みをもたらす
ジョナサン・ウッドゲート 欧州主要5クラブ経験・監督キャリア有 監督に異論を唱え背中を押す存在 ◎ 完璧なバランス
トラビス・ビニオン ユナイテッドアカデミー育成責任者 長所伸長の哲学・クラブの継続性 ○ オールドスクールの価値観
3人の共通点 異なるバックグラウンド 全員が「同じタイプ」ではない ◎ 意図的な異質の組み合わせ
ビニオンのマグワイア育成 走れないと言われた16歳を評価 短所探しではなく長所発見の視点 △ 時代が変わっても変わらぬ哲学
◎=キャリックが明確に言語化して評価した強み、○=チームに貢献する要素、△=育成哲学の軸
FOR COACHES / FOR COACHES 指導者が押さえる3ポイント
キャリックのスタッフ論から学ぶ3つの組織設計
  1. 異なる経験値をコーチングスタッフに意図的に配置する — 「変化を知っている人間」をベンチに入れ、監督交代・方針変更局面での安定を担わせる
  2. 自分に異論を唱えられる「No.2」を置く — 従順な右腕より「それは違う」と言える副官の方が戦術的死角を補い意思決定の質を上げる
  3. 選手評価を「できないこと探し」から「一番の強みは何か」に切り替える — ビニオンがマグワイアを評価したように、長所を軸に育成プランを組み立てる
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「違い」がチームを強くする——ハリー・マグワイアの話
  1. 「足が遅い」は致命傷ではない — マグワイアは16歳で「走れない」と言われたがポジショニングと体の使い方でプロになった。一つの弱点だけで可能性を閉じない
  2. チームの中で「自分にしかできない役割」を探す — 全員が同じタイプである必要はない。自分の強みがチームのバランスを作っているかを考える
  3. 親として「できないこと」から話し始めない — 試合後の最初の一言を「一番よかったプレーは何?」に変えることが子どもの自己評価を育てる
FAQ / よくある質問
Q. マイケル・キャリックはマンチェスター・ユナイテッドでどんなコーチングスタッフを組んだのですか?
A. キャリックはスティーブ・ホランド(イングランド代表・CL優勝経験)、ジョナサン・ウッドゲート(元イングランド代表CB・監督経験あり)、トラビス・ビニオン(ユナイテッドアカデミー育成責任者)という異なるバックグラウンドを持つ3人を意図的に選んだ。「同じキャラクターを集めたくない」とキャリック自身が語っている。
Q. チームマネジメントで「バランス」が大事な理由は何ですか?
A. リーダーひとりの視点には必ず死角がある。異なる経験・異なる性格のスタッフを配置することで、戦術・選手管理・変化対応のそれぞれに強みを持つ人間が補完し合い、チーム全体の判断精度が上がるためである。
Q. ハリー・マグワイアはどのように育てられましたか?
A. トラビス・ビニオンがシェフィールド・ユナイテッドのアカデミーで指導した際、「走れない」という短所ではなく「賢く、ポジショニングが良く、体の使い方に優れる」という長所を評価して育てた。「長所を伸ばし、短所は隠す」という方針がマグワイアをプロへと導いた。
Q. 指導者にとって「No.2」はどんな人物が理想ですか?
A. キャリックはウッドゲートについて「自分に異論を唱え、背中を押してくれる存在」と表現した。ただ従うだけの副官より「それではうまくいかない」と正直に言えるNo.2の方が監督の意思決定の質を上げる。忠実さと批判的視点の両方を持つ人物が理想とされる。
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