ローマのU-23構想に揺れる決断――急がないクラブが描く「10年後」の育成とリスクの天秤
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ローマの「U-23構想」から見える、クラブが決断を急がない理由

ローマというクラブが、ひとつの分かれ道に立っています。
トップチームでもプリマヴェーラ(ユース)でもなく、そのあいだに新しく「U-23チーム」をつくり、イタリア三部リーグのセリエCに参加させるかどうか。
ユベントス、アタランタ、ミラン、インテルがすでに進んでいる道。
そこに続くかどうかを、フリードキン体制のローマは慎重に見極めています。
選手だけでなく、クラブもまた、日々「どのプレーを選ぶか」を問われている存在なのだと気づかされます。
ローマが抱える「3つの足りないもの」
報道によれば、ローマがU-23チームをセリエCに登録するには、まだいくつか越えなければならないハードルがあります。
整理すると、おおまかに次の3つです。
- どこでプレーするのかという「スタジアム(インフラ)」
- どんなメンバー構成にするのかという「チームの中身」
- セリエCという舞台でどう戦うかという「コンテキスト(位置づけ)」
規則の面では、イタリアサッカー連盟はセリエCでの「セカンドチーム」を認めています。
ただし、空き枠がある場合だけ。
たとえば、クラブが経済的に破綻したり、運営上の問題でリーグから外れたりしたとき、その空いた椅子に座る形でしか、U-23を入れることはできません。
さらに、最低でも72万ユーロの拠出金が必要とされています。
経済的な負担も決して小さくありません。
それでもローマは、長年イタリアでも評価されてきた育成組織に、もう一段ギアを加える選択肢として、このU-23構想を検討し続けています。
ではなぜ、すぐに「やります」とはならないのでしょうか。
迷っているのではなく、「急いで決めない」という選択をしているようにも見えます。
一番難しいのは「ピッチの外」の問題
現時点で最大の問題と言われているのが「どこで試合をするのか」です。
ローマ市内にはいくつかスタジアムがありますが、どれも今のところセリエCの基準で本拠地としてすぐに使える状態ではないとされています。
候補地として挙がるのは、たとえばラツィオ州内の別の街。
ローマ市から離れた場所でも、カテゴリーの基準を満たせるならば、そこを選ぶという可能性も取り沙汰されています。
もう一つの案としては「トレ・フォンターネ」という施設があります。
ここはすでにクラブの重要な拠点のひとつであり、大掛かりな改修計画も進んでいる場所です。
イタリアサッカー連盟や欧州サッカー連盟のスタジアム基準を満たすように整備するプランもあると言われています。
ただ、このスタジアムはクラブが所有しているわけではありません。
借り物のピッチに、長期的なプロジェクトをどこまで乗せられるのか。
そこには、単純な「使える・使えない」以上の判断が必要になります。
| 観点 | 参戦済みクラブ(ユベントス・アタランタ・ミラン等) | 検討中クラブ(ローマ・フィオレンティーナ・トリノ) | 評価 |
|---|---|---|---|
| 現状 | セリエCでU-23を実戦経験中 | 最終決定未了、条件整備を継続 | △ 判断の差 |
| トップとユースの橋渡し | 公式戦のステップが存在する | プリマヴェーラとトップの間に空白がある | ◎ 参戦済みが有利 |
| 若手の実戦経験量 | セリエCレベルの真剣勝負を週次で経験 | レンタル移籍で外部経験が主体 | ○ それぞれにリスク |
| インフラ整備 | スタジアム・運営体制が確立 | 会場確保・改修計画が進行中(例: トレ・フォンターネ) | △ 課題が残る |
| 10年後の計画 | 仕組みの効果を示しつつある | 「あとで困らないように」を優先して慎重に設計中 | ◎ 長期視点の差 |
数字の計算だけでは測れない「リスク」と「覚悟」
U-23チームを持つことには、明らかなメリットがあります。
- トップとユースの間に公式戦のステップができる
- 若手により高いレベルの実戦経験を積ませられる
- 育てた選手をクラブ内で活かしたり、移籍で収益化するチャンスが増える
ユベントスやアタランタ、ミラン、インテルなどがすでにこの仕組みを取り入れ、その効果をある程度示している以上、ローマとしても「やる価値」は見えているはずです。
では、それでも「すぐには踏み切らない」というのは、どんな迷いがあるからでしょうか。
たとえば、こんな問いがクラブの中で飛び交っているかもしれません。
- 投資に見合うだけの若手を、毎年コンスタントに送り込めるのか
- セリエCで戦うことが、本当にすべてのタレントにとって最適なルートなのか
- 現行のレンタル制度とのバランスをどう取るのか
- インフラが「ギリギリ基準を満たすレベル」で始めて、数年後に困らないか
つまり、メリットばかりを追いかけるのではなく、「この先10年」の絵をどう描くのかが問われているように見えます。
プレッシャーの中で、あえて立ち止まる。
それもまた、一つの決断の形です。
イタリアの「U-23の波」と、そこに乗るかどうか

イタリア国内では、U-23をセリエCに参戦させるクラブがじわじわと増えています。
ローマだけでなく、フィオレンティーナやトリノも同じような構想を持っているとされますが、こちらもまだ最終決定には至っていません。
「周りがやっているから、うちもやる」ではなく、「本当に、自分たちに合っているのか」を見ているようにも映ります。
潮流に乗ることは簡単です。
難しいのは、「自分たちのリズムで乗るかどうか」を決めること。
そこには、クラブとしての哲学や、長期的なチーム作りの方針がにじみ出ます。
- 勝ち点のために安定した選手を使うか・伸びしろのある若手にリスクを取って時間を与えるかを毎試合言語化する — U-23がセリエCで戦う場面での判断と同様に、育成観や価値観を選手が感じ取れる形で示す
- 「今すぐ出られないが3年計画で見ている」と伝える際に、具体的な理由と見えている可能性を同時に添える — 「待て」ではなく「この部分の成長を見たいからここに置いている」という目的を持った待機として伝える
- クラブのインフラ整備の判断を選手のキャリア選択に置き換えて考えさせる — 「すぐ試合に出られる環境か・数年後の成長を見据えた環境か」という問いを選手自身が考えるきっかけを作る
もし自分がローマの若手だったら、何を望むだろう
ここで少し、立場を変えて考えてみます。
もし自分がローマのプリマヴェーラにいる18歳の選手だったら、U-23構想をどう見えるでしょうか。
一見すると「セリエCでプレーできる道ができるなんて、チャンスが広がる」と感じるかもしれません。
一方で、こんな不安もよぎるかもしれません。
- U-23に上がっても、トップチームに近づけるとは限らないのではないか
- セリエCに慣れた結果、「カテゴリーの選手」と見なされてしまわないか
- レンタルで外に出る道と、どちらが自分に合っているのか
そのとき、選手は何を基準に選ぶのでしょうか。
より出場機会が多そうな道か。
よりレベルの高い環境か。
クラブと一緒に育っていく感覚か。
「U-23があるかないか」だけでなく、その中で自分がどう生きるかを問われるのは、選手にとっても簡単ではありません。
- U-23に上がることが必ずしもトップへの近道とは限らないと理解する — セリエCに慣れた結果「そのカテゴリーの選手」と見なされるリスクもあり、レンタルで外に出る道と比較して自分に合う選択を考える必要がある
- より出場機会が多い道・よりレベルの高い環境・クラブと一緒に育つ感覚、のどれを自分は優先したいかを言葉にしてみる — U-23の有無だけでなく、その中で自分がどう生きるかが問われる
- 保護者として、すぐ試合に出られるクラブへの移籍と長期的な環境選択のどちらがわが子に合っているかを、子どもと一緒に考える機会を持つ — 「どちらにもリスクと可能性がある」という前提で話し合う
指導者にとってのU-23という「もう一つのチーム」
また、指導者の立場から見ると、U-23の存在は喜びと難しさを同時に運んできます。
一つのクラブに、トップ、U-23、プリマヴェーラ、さらに下のカテゴリーまであると、それぞれに「勝たなければ」という感情と、「育てなければ」という役割が生まれます。
U-23がセリエCで戦うとなれば、週末には本物のプロのクラブと真剣勝負をすることになります。
当然、残留や昇格といった目標も出てくるでしょう。
そのときに、チームを率いる指導者たちは、毎試合こう問いかけられます。
- 勝ち点のために、今いちばん安定している選手を使うのか
- 伸びしろのある若手に、リスクを承知で出場時間を与えるのか
どちらが「正しい」という話ではありません。
ただ、その判断をするたびに、クラブの育成観や指導者の価値観が、少しずつ形になっていきます。
選手もまた、それを敏感に感じ取ります。
「考えるクラブ」と「考える選手」はつながっている
ローマがU-23構想を簡単にスタートさせない理由のひとつには、「あとで困らないようにしたい」という意識があると報じられています。
スタジアムの問題も、その一つです。
今だけを見るなら、少し基準ギリギリでも使える会場を探してきて、「とりあえず始める」という選択肢もあるはずです。
しかし、「数年後に基準が厳しくなったら」「観客を増やしたくなったら」「欧州での大会を視野に入れたら」など、先のことを考え始めると、急いで決めるほど難しくなっていきます。
これは、選手のキャリア選択にもどこか似ています。
すぐに試合に出られそうなクラブを選ぶのか。
短期的には控えでも、数年後の成長を見据えた選択をするのか。
どちらにもリスクと可能性があります。
そしてその決断は、「誰かが教えてくれる正解」に従うだけではなく、自分自身で考え続けるしかありません。
日本で「U-23を持つクラブ」を想像すると、何が見えてくるか
日本サッカーを見ていると、Jリーグにもかつて「J3にU-23チームを参戦させる」という試みがありました。
当時、それぞれのクラブや選手、指導者にとって、いろいろな学びと課題があったはずです。
その経験を振り返りながら、今あらためて「U-23チームを持つ」というテーマを考えてみると、こんな問いが浮かびます。
- 若手が試合に出られる場を増やすことと、トップチームの競争を保つことをどう両立するか
- カテゴリーが一つ増えたとき、指導者の配置やクラブの哲学をどう一貫させるか
- 「勝つためのサッカー」と「育てるためのサッカー」のバランスを、どこで取るか
ローマのU-23構想を眺めることは、日本のクラブや育成年代が、もう一度自分たちの道を見直すヒントにもなり得ます。
「世界ではこうだから、日本も同じように」という発想ではなく、「自分たちの環境なら、どう形にできるか」を問うきっかけとして。
「すぐに答えを出さない」ことの価値
ローマは今、U-23をめぐる判断を急いでいません。
経済的なメリットも、育成面でのメリットも理解したうえで、「スタジアムはどうするのか」「将来のリスクはどこにあるのか」と、一つひとつの条件を吟味しているように見えます。
これは、試合中のプレーにも、どこか通じる姿勢です。
目の前にスペースがあると、すぐに縦に仕掛けたくなる瞬間があります。
しかし、本当にその一歩が自分たちを楽にするのか、それとも次の局面で追い込まれるのか。
一瞬だけ足を止めて、顔を上げて、状況を見直す選手がいます。
ローマが今しているのは、クラブレベルでの「顔を上げる」行為なのかもしれません。
読者への問いかけとしての「ローマU-23」
最後に、この話を自分ごととして考えてみたいと思います。
もしあなたが、ローマの経営陣だったとしたら、今シーズンからU-23をセリエCに参加させるでしょうか。
それとも1年待って、インフラを整え、より長期的な計画を固めてからにするでしょうか。
もしあなたが、ローマの若手選手だったら、U-23に残る道と、レンタルで外へ出る道のどちらを選ぼうとするでしょうか。
そしてもしあなたが、日本のクラブや育成年代に関わる立場だとしたら、同じような「トップとユースの間」のカテゴリーをどう位置づけるでしょうか。
正解は一つではありません。
ローマの決断を見守ることは、「自分ならどうするか」を考えるための、ひとつのきっかけに過ぎないのかもしれません。
サッカーの世界では、ピッチの中でも外でも、選択の連続が続いていきます。
そのたびに立ち止まり、自分の目で状況を確かめ、自分の言葉で問いを立てる。
ローマのU-23構想がどんな形に落ち着くにせよ、そのプロセスを追いかけること自体が、サッカーを深く味わう一つの方法なのだと思わされます。
答えが出る前の時間を、どう過ごすか。
その姿勢が、クラブにも、選手にも、そして私たち一人ひとりにも、静かに問いかけられているのかもしれません。
