コーナーキックのシーンでペナルティエリアに集まる長身選手たちとボールの軌跡

ダルムシュタットという「負けにくいチーム」から、日本サッカーが学ぶべき現実的な強さ

DEFINITION
「負けにくいチーム」はセットプレーと切り替えを武器にする
SVダルムシュタットは今季ブンデスリーガ2部で最少敗数(2敗)を記録しており、その強さの源泉はコーナーキック・フリーキックからの得点数リーグ最多と、ボール奪取直後のカウンター得点数リーグ2位という二大武器にある。華やかなポゼッションではなく「試合が揺れる瞬間」を制する現実的な強さが日本サッカーへの示唆を与える。

ダルムシュタットという「次の壁」から、サッカーを学び直す

相手のコーナーキックが左から入ってくる。 ペナルティエリアには長身の選手たちがずらりと並び、その中央でひときわ存在感を放つのがイスハク・リドベリ。 ボールが弧を描いて落ちてくる瞬間、ただのセットプレーが「武器」へと変わる。 それが、今季のSVダルムシュタットの姿だ。

1. FCニュルンベルクが、エルヴァースベルクに打ち勝って勢いに乗りかけた矢先に立ちはだかる相手。 それが、リーグで最も崩しにくいチームのひとつ、ダルムシュタットである。 数字を見れば、今季リーグで負けはまだ2つだけ。 他の2部クラブは最低でも4敗していることを考えると、その「負けにくさ」は際立っている。

では、このチームは何がそんなに特別なのか。 そして、その姿から、日本のサッカーは何を学べるのだろうか。 ニュルンベルク対ダルムシュタットという一戦を入り口に、「強いチームとは何か」を考えてみたい。

セットプレーと切り替えで生きるチーム

「リーグ最高」と評された二つの武器

ダルムシュタットは、ボーフムとの3対3の打ち合いを演じた直後だ。 その試合後、ボーフムのウーヴェ・レースラー監督は、相手を「リーグで最も優れている」と評した。 ただし、それは「全部が一番」という意味ではない。 彼が特に強調したのは、攻撃への切り替えとセットプレーである。

データは、その評価を裏付けている。 コーナーキックからの得点数はリーグ最多。 フリーキックからのゴールもトップに立つ。 ボール奪取からの攻撃やカウンターでの得点数でも、どちらもリーグ2位につけている。

つまり、ダルムシュタットは

  • 止まった状態からの再開(セットプレー)
  • 試合が「揺れ動く」瞬間(ボールロスト後や奪取直後)

この二つに、明確な強みを持ったチームだと言える。

華やかなポゼッションだけが「良いサッカー」ではない。 ゲームが最も不安定になる瞬間を、自分たちの得点源に変えてしまうこと。 そこに、このチームのしたたかさがある。

COMPARISON / ダルムシュタットの強さを構成する要素
要素 内容 リーグ内順位 評価
コーナーキック得点 高さと精度で得点を量産 リーグ最多
フリーキック得点 セットプレー設計の精度が高い リーグ1位
カウンター得点 ボール奪取直後に一気に仕留める リーグ2位
ペナルティエリア内失点 クロスを上げさせてもヘディングで跳ね返す リーグ2番目に少ない
ロングボール成功率 最多本数を蹴りながら精度も高い リーグ2位
スプリント・走行距離 ハードランニング系指標は低め リーグ上位外
◎=際立った強み ○=安定した特徴 △=弱点ではなく意図的な省エネ設計

ニュルンベルクに突き付けられる「問い」

1. FCニュルンベルクは、後半戦の初戦で3対2と攻撃的に戦い、内容も手応えあるものだった。 だが、ダルムシュタット戦で求められるのは、勝ち負け以前に「別の種類の試合運び」だろう。

相手の怖さを整理してみると、次のようになる。

  • 自分たちのセットプレーの守備が、90分のうち何度も試される
  • ボールを失った瞬間、カウンターで一気に仕留めにくる
  • どれだけボールを持っていても、ワンプレーで流れを変えられる

ニュルンベルクにとって、この試合は「攻撃の形をどれだけ出せるか」だけでなく、「危ない時間帯をどれだけ減らせるか」を問われる戦いになる。

観る側からすれば、「どちらが主導権を握るか」以上に、「どちらが自分の弱さを隠し切れるか」という視点で見ると、また違った楽しみ方ができるかもしれない。

最年長クラスのチームが示す「大人のサッカー」

FOR COACHES / FOR COACHES
セットプレーを「得点設計」として練習する
  1. セットプレーを毎練習で「本番想定」で実施する — ダルムシュタットのようにCKとFKを得点源の柱にするには、キッカー・ターゲット・セカンドボール要員の役割を明確に固定した反復練習が必要
  2. 「行かない守備」を言語化して教える — ゾーンプレスの「行く場所・行かない場所」を判断基準として提示し、「走る量より走る場所」を評価する文化をチームに作る
  3. 相手タイプ別にロングボール対応を練習する — 「つなぐチーム」への対策だけでなく、ダルムシュタット型の「精度の高いロングボール」への空中戦対応とセカンドボール回収を定期的に組み込む
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平均年齢の高さは、リスク管理の高さ

ダルムシュタットは、今季の2部リーグで最も平均年齢が高いチームだ。 前節も、スタメンで25歳未満だったのはわずか1人。 ピッチ上の多くが「経験値の高い大人」で占められていた。

彼らの強さは、単にフィジカルの強さだけではない。 特に

  • 空中戦の強さ(ヘディング)
  • コンタクトプレーのしたたかさ
  • 危険なゾーンを消すポジショニング

こうした要素が、セットプレーの得点力と、セットプレー守備の安定の両方につながっている。

守備では、あえて中央を固め、相手をサイドへ追い出すような戦い方をする。 その結果、ダルムシュタット相手にはクロスの本数が多くなる傾向がある。 ところが、ペナルティエリア内でのヘディングシュート数で見ると、彼らはリーグで2番目に少ないシュートしか許していない。

「クロスは上げさせても、中ではやらせない」。 この割り切りは、日本でもよく議論になる守備のテーマだ。 クロスをさせないことに全てのエネルギーを注ぐのか。 それとも、「上げられても跳ね返す」前提でエリア内を固めるのか。 ダルムシュタットは、かなりはっきりと後者を選んでいる。

FOR PLAYERS & PARENTS / FOR PLAYERS & PARENTS
「走らない強さ」と「行かない勇気」を理解する
  1. ポジショニングで一歩目を減らす — ダルムシュタットの選手はスプリント数が多くないにもかかわらず守備が機能する。「次のボールの場所を先読みして立っておく」準備の姿勢が実は一番のスプリント節約になる
  2. 空中戦は足より頭から準備する — クロスへの競り合いは助走の取り方・相手との体の当て方・ボール落下予測の三つが揃って初めて勝てる。試合観戦時にリドベリのゴール前の立ち位置を観察してみる
  3. ロングボールは「逃げ」ではなく「戦術」である — ボールをつなごうとすることが時に相手のカウンタープレスを誘発する。試合の状況を読んで「今は蹴る」と判断できる選択肢の広さが上のレベルで通用するかを左右する

日本の育成年代に足りない「経験の使い方」

日本では、「若手育成」と「ベテラン起用」が対立構造のように語られることがある。 しかし、ダルムシュタットのようなチームを見ると、「経験値の高さ」自体が、戦術そのものになっていることがよくわかる。

例えば、

  • セットプレーの一つひとつを、ゴールに直結する「場面」として扱えるか
  • 試合の流れが変わりそうな時間帯を感じ取り、リスクを抑えられるか
  • 反則ギリギリではなく、反則にならない範囲で体をぶつけ切れるか

こうした部分は、10代だけで完結する育成年代のサッカーでは、なかなか身につきにくい。

もしJリーグや日本代表が「世界で勝ち切る」ことを目指すなら、 「スピード」とか「テクニック」だけでなく、「経験がサッカーに与える影響」をどう組み込むか。 ダルムシュタットのようなチームから、そんなヒントを得ることもできるのではないだろうか。

「走らない強さ」と、変幻自在のゲームプラン

走行距離では測れないインテンシティ

興味深いのは、ダルムシュタットがいわゆる「走りまくるチーム」ではないことだ。 スプリント数、走行距離、プレッシングの指標などを見ても、リーグ上位には入っていない。

では、守備が緩いのかと言えば、そうではない。 彼らは4-2-3-1の形で守ることが多く、明確なマンツーマンというよりも、エリアを絞って「ゾーンとしての圧力」をかけてくる。 どこでスペースを空けて、どこは絶対に使わせないのか。 その優先順位づけが非常に整理されている。

ここで大きな役割を担っているのが、フロリアン・コーフェルト監督だ。 彼は、対戦相手に応じて守備のやり方を微調整することに長けている。 ニュルンベルク戦では、これまでとは違うプレッシングのスイッチや、ボールの奪いどころを設定してくる可能性が高い。

それを実行するのが、フレイザー・ホーンビーのような、守備でも賢く振る舞える選手たちだ。 彼らは「ただ走る」のではなく、「走るべき一歩」を選び取ることができる。

日本では「走る=いい守備」になっていないか

日本のサッカーでは、「走る量」や「ハードワーク」が評価されることが多い。 もちろん、それ自体が悪いわけではない。 ただ、ダルムシュタットのようなチームを見ると、「走らない強さ」もあることに気づかされる。

大事なのは、

  • どこを捨てて、どこを守るか
  • 走らないで済むように、ポジショニングで先回りできるか
  • 一歩目を早く踏み出すために、準備の姿勢を整えられるか

といった部分かもしれない。

ジュニア年代のトレーニング現場を思い浮かべてほしい。 「もっと走れ」「プレスに行け」と声をかける場面は多いが、「今は行かないほうがいい」という指導は、どれくらいされているだろうか。 ダルムシュタットの守備には、「行かない勇気」の重要性が、よく表れているように見える。

ロングボールとポゼッションを使い分ける知性

最も多くロングボールを蹴る、しかし雑ではない

もうひとつ注目したいのが、ダルムシュタットの攻撃だ。 このチームは、リーグで最も多くロングボールを蹴っている。 だが同時に、そのロングボールの成功率はリーグ2位の精度を誇る。

単に前へ蹴り出しているわけではなく、

  • 誰に向かって蹴るのか
  • どのエリアに落としたいのか
  • セカンドボールを誰が拾いに行くのか

が、あらかじめ整理されているロングボールだと言える。

普段は、ボランチの一人が最終ラインに落ちてビルドアップを助け、サイドの選手たちは内側に入り込む。 そこへ、オーバーラップしてくるサイドバックが絡んでくる。 つまり、ショートパスで崩す準備と、ロングボールで一気に裏を突く準備の両方を常に持っている。

前線にいるイスハク・リドベリは、その全ての狙いの「終点」になれる選手だ。 ゴール前でのポジショニング、フィジカルの強さ、シュートの決定力。 彼がいるからこそ、ダルムシュタットの攻撃は「クロスでも」「カウンターでも」「ポゼッションでも」点を奪える。

日本の「つなぐサッカー」は、選択肢を減らしていないか

日本では、「つなぐサッカー」が長く大事にされてきた。 ビルドアップで丁寧に運び、崩しきってゴールを奪う。 理想としては美しい形だ。

しかし、相手がダルムシュタットのように

  • 中央を締める
  • 空中戦に強い
  • 切り替えで牙をむく

というタイプの場合、きれいにつなぐこと自体がリスクになることもある。

そんなときに、「あえて蹴る」という選択を持てているかどうか。 ロングボールは逃げではなく、「相手の弱点を突く手段」として位置づけられているか。 ニュルンベルクも最近はロングボールを上手く織り交ぜているが、ダルムシュタット戦では、相手のロングボールへの対応という逆の課題も突き付けられる。

日本のチームや選手も、「つなぐか、蹴るか」を二者択一で考えるのではなく、「いまはどちらが有利か」を選び続ける感覚を持てれば、戦い方の幅はもっと広がるはずだ。

ニュルンベルクが挑む「別の種類の難しさ」

内容が良くても、違うタイプの試練が来る

ニュルンベルクは、ハノーファー戦、エルヴァースベルク戦と、攻撃の形を積み上げてきた。 特にエルヴァースベルク戦では、3得点を挙げ、自分たちの良さをしっかり出せた試合だった。

しかし、ダルムシュタット戦で問われるのは

  • 相手の武器(セットプレー、切り替え、ロングボール)をどれだけ消せるか
  • 自分たちの攻撃がうまくいかない時間帯に、どれだけ耐えられるか
  • 「押しているのにスコアは動かない」展開でも、集中を切らさないでいられるか

といった、メンタルとゲーム運びの部分だ。

ダルムシュタットのような、フィジカルと経験に優れたチームに対しては、きれいなサッカーだけでは結果を引き寄せられない。 時にはクリアで逃げ、時にはファウルも辞さず、時にはセットプレーの一つに全力を注ぐ。 「勝つための現実的なサッカー」ができるかどうかが、上位に食らいついていけるかの分岐点になる。

日本サッカーにとっての「ダルムシュタット戦」

この試合は、ブンデスリーガ2部の一カードに過ぎない。 それでも、日本のサッカーにとっての「ダルムシュタット戦」を想像してみると、見え方が変わってくる。

アジアの大会でも、世界の舞台でも、必ずと言っていいほどぶつかる相手がいる。

  • セットプレーに圧倒的な強みを持つチーム
  • フィジカルでねじ伏せてくるチーム
  • ロングボールとセカンドボールを徹底してくるチーム

そうした相手に対し、「自分たちのサッカー」をただ貫くだけでいいのか。 それとも、「どう勝つか」を逆算して戦い方を変えていくべきなのか。

今の日本サッカーは、その狭間で揺れているようにも見える。 ダルムシュタットというクラブは、その問いに具体的な「現場の答え」を突き付けている一つの例なのかもしれない。

あなたなら、どんなサッカーを選ぶだろうか

ニュルンベルクの挑戦と、私たちの問い

ニュルンベルクにとって、ダルムシュタットは間違いなく「次の壁」だ。 うまくいきかけている攻撃を、どこまで続けるのか。 相手の強さを前提に、どこで現実的になるのか。 その見極めが、この一戦のポイントになる。

観る側にとっても、この試合は問いを投げかけてくる。

  • きれいなサッカーと、勝つサッカーのどちらを大事にしたいのか
  • 若さと経験、どちらに価値を置くのか
  • 走り続けることと、走らずに守ること、どちらを「良し」とするのか

正解は一つではない。 それぞれのチーム、それぞれの年代、それぞれの選手にとって違う答えがあるはずだ。

FAQ / よくある質問
Q. SVダルムシュタットはどんなチームですか?
A. ドイツ・ブンデスリーガ2部に所属するクラブで、今季はリーグ最少タイの2敗という「負けにくさ」が際立っています。コーナーキックとフリーキックからの得点数がリーグ最多・トップを誇り、ボール奪取直後のカウンター得点もリーグ2位。平均年齢がリーグ最高水準で、経験を活かしたフィジカルとポジショニングで戦うチームです。フロリアン・コーフェルト監督が対戦相手に応じた守備の微調整を得意としています。
Q. セットプレーを得点源にするために必要なことは何ですか?
A. 三つの要素が揃う必要があります。第一にターゲット選手の質(ヘディングの強さ・競り合いのうまさ)、第二にキッカーの精度(どのゾーンに入れるか)、第三にセカンドボールを狙う選手の準備です。ダルムシュタットはイスハク・リドベリをターゲットに据えた体制が整っているため、コーナーキックとフリーキックが「武器」として機能しています。意図なく蹴るセットプレーとは再現性が根本的に異なります。
Q. 「クロスを上げさせる守備」と「クロスを上げさせない守備」の違いは何ですか?
A. 二つのアプローチは守備の優先順位が異なります。ダルムシュタットはサイドへ相手を追い出してクロスを上げさせ、ペナルティエリア内でヘディングで跳ね返す方針を徹底しています。その結果クロス本数は増えますが、エリア内での失点は最小限に抑えられています。一方「クロスを上げさせない」守備はサイドの封鎖に多くのエネルギーを使います。チームのフィジカル特性に合ったどちらを選ぶかが戦術設計の重要な決断です。
Q. 日本サッカーが「負けにくいチーム」を作るために必要な視点は何ですか?
A. 三つの視点が有効です。第一に「試合が揺れる瞬間(セットプレー・切り替え)を得点源にする設計」、第二に「走る量ではなくポジショニングで守るゾーン管理の徹底」、第三に「経験値を戦術に組み込む選手起用」です。日本では走行量・ハードワークが評価されやすいですが、ダルムシュタットは走らずに守り・セットプレーで点を取る現実的な強さを示しており、勝利への多様なアプローチの存在を教えてくれます。

サッカーは、選択のスポーツである

ダルムシュタットは、今季の戦いぶりを通じて、はっきりとした選択を示している。

  • セットプレーを武器にする
  • 平均年齢の高いチームで、経験とフィジカルを前面に出す
  • 走る量ではなく、ポジショニングとゲームプランで勝負する
  • ロングボールもポゼッションも、どちらも使い分ける

その選択が、今のところ「負けにくさ」という形で結果に現れている。

では、あなたのチームなら、どんなサッカーを選ぶだろうか。 あなた自身がピッチに立つとしたら、どんなプレーヤーでありたいだろうか。 ニュルンベルク対ダルムシュタットという一戦は、そんなことを考えさせてくれる試合になるかもしれない。

サッカーは、90分の中で何度も決断を迫られるスポーツだ。 その決断をどう積み重ねるかで、チームの色も、選手の価値も、そして人生の景色さえも、少しずつ変わっていくのだと思う。

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