120年目の奇跡をつかんだプラテンセ──「二人で一人」の共同監督が示した、エゴを超えるチームの勝ち方
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120年目の奇跡。プラテンセと「二人の監督」が見せた、サッカーのもう一つの勝ち方
アルゼンチンのクラブ、プラテンセが2025年アペルトゥーラでリーグ初優勝を果たしました。
クラブ創設から120年。
一度もリーグタイトルを取ったことがなかったクラブが、ついに歴史を変えたのです。
それは、イングランドでのクラウディオ・ラニエリ監督率いるレスター・シティ優勝や、スペインでのデポルティーボ・ラ・コルーニャのリーグ制覇になぞらえられるほどの、稀な物語でした。
しかも、この物語には、もう一つの大きな特徴があります。
「二人で一人」のように振る舞う、共同監督の存在です。
「監督が二人」のチームがつくった歴史

プラテンセを率いたのは、ファビオ・オルシとセルヒオ・ゴメス。
2011年からコンビを組み続けてきた、アルゼンチンでも珍しい「完全な共同監督」です。
彼らの関係性は、次の言葉によく表れています。
「Somos dupla adentro y afuera de la cancha.」 「僕たちは、ピッチの中でも外でも“デュオ”なんです。」
二人は、ベンチの上だけでなく、クラブとの交渉、メディア対応、選手へのメッセージなど、すべてを常に「二人で」行ってきました。
誰が“ボス”かは決めない。
誰かが主役になろうとしない。
そこには、はっきりとした哲学があります。
「Si hay dos entrenadores y no hay egos, se puede trabajar bien.」 「二人の監督がいて、そこにエゴがなければ、うまくやっていける。」
サッカーの世界では、カリスマ的な「一人の監督」に注目が集まりがちです。
しかし、プラテンセのタイトルは、「力を合わせる」という、ごくシンプルだけれど実行が難しい価値観によってつかみ取られたものでした。
読者の皆さんはどうでしょうか。
チームやクラス、職場の中で、「誰が一番えらいか」を競争する空気を感じたことはありませんか。
もしそこで、少しだけエゴを横に置けたら、何かが変わるのかもしれません。
アンダードッグの道のりは「テレビドラマ」以上にドラマチック
オルシとゴメスは、プラテンセでの優勝をこう表現しています。
「Desde lo deportivo, solo hay una palabra para definirlo: épico. Si fuera una serie de televisión, no le sacaríamos ningún capítulo, porque pasó de todo.」 「サッカー的な観点から言えば、言葉は一つだけ。“エピック(壮大)”です。もしこれがテレビシリーズなら、一話も削れないくらい、なんでも起こりました。」
その言葉どおり、優勝までの道のりは平坦ではありませんでした。
リーグの中で、プラテンセは「大クラブ」ではありません。
リーベル・プレートやボカ・ジュニオルスのような常連強豪ではなく、むしろ残留や一桁順位を目標とするクラブと言った方がしっくりきます。
それでも2025年アペルトゥーラでは、決勝トーナメントに進み、すべてアウェーという過酷な条件で勝ち抜いていきました。
ラシン・クラブを敵地で1-0撃破。
モヌメンタルでのリーベル戦は1-1からPK戦で4-2勝利。
準決勝ではサン・ロレンソをビデガインで1-0。
そして決勝は、二年前にカップ戦の決勝で敗れた同じスタジアム、エスタディオ・ウニコ・マドレ・デ・シウダデスでのフラカン戦。
敗北の記憶が残る場所で、クラブ創設以来初のリーグタイトルを手にしたのです。
「Para comprender la magnitud del logro con Platense en el Apertura 2025, es como cuando el Leicester City de Claudio Ranieri ganó la Premier League.」 「このアペルトゥーラ2025でのプラテンセの快挙を理解するには、ラニエリのレスター・シティがプレミアリーグを制した時を思い出してもらうといい。」
そう語られるほどの奇跡。
でも、その奇跡は、突然空から降ってきたわけではありませんでした。
泥だらけの練習場から始まった物語
オルシとゴメスが初めて一緒に歩き出したのは2011年。
当時の二人は無名に近く、クラブも小さく、環境も厳しいものでした。
特に印象的なのが、フランドリアというクラブでのエピソードです。
二人が監督に就任した直後、町を流れる川が氾濫し、ピッチはゴールポストの高さまで水没。
トレーニングができる場所がない。
そこで彼らが向かったのは、高速道路を渡った先の、学校のキャンプ用の公園でした。
芝生ではなく、泥。
ゴールもなく、二本の棒を立てて即席のゴールに。
そのすぐ後ろには、聖母像のある小さな洞窟がありました。
選手たちには攻撃的な姿勢を求めながらも、オルシとゴメスはこんな冗談を交えてチームを鼓舞します。
「No le peguen muy alto para no lastimar a la Virgen.」 「シュートは高く打ちすぎるなよ、聖母様をケガさせないようにな。」
水浸しの町、泥の中の練習、木の棒のゴール。
その環境から、翌年に昇格を成し遂げるチームが生まれました。
華やかなスタジアムからはかけ離れた光景ですが、プラテンセで120年目の奇跡を起こした根っこには、こうした「泥臭い現場」がありました。
皆さんは、自分の部活動や仕事、勉強の中で、「こんな環境でやっても意味があるのかな」と感じたことはありませんか。
もしかすると、その泥だらけの一歩が、後の大きな飛躍につながっているのかもしれません。
「現実主義」の中の理想。スタイルよりも、まずチーム
オルシとゴメスは、自らをこう表現します。
「Somos un cuerpo técnico pragmático.」 「僕たちは“プラグマティック(現実的)”なスタッフなんです。」
ここで言う「プラグマティック」とは、「守備的」という意味ではありません。
クラブの状況、予算、目標に合わせてスタイルを変えながらも、チームとしての「芯」はぶらさない、という姿勢です。
昇格争い、残留争い、タイトル争い。
どのステージに立っても、最終的に大事にするのは、サポーターとのつながりです。
「Lo importante es que el equipo tenga identidad. Que el hincha se sienta representado. Que pague una entrada y diga: ‘Sí, esto me representa’.」 「大事なのは、チームにアイデンティティがあること。ファンが“自分たちのチームだ”と感じられること。チケット代を払ってスタジアムに行き、『そうだ、これが俺たちのサッカーだ』と思ってもらえることなんです。」
勝つことは大切です。
しかし彼らにとって、勝利は「目的」であると同時に、「プロセスの結果」でもあります。
選手一人ひとりが、クラブの色をまとってプレーできているか。
サポーターが、自分たちの人生とチームを重ね合わせられるか。
その積み重ねの先に、120年ぶりのタイトルはありました。
あなたの応援するクラブは、今どんなサッカーをしていますか。
「強いかどうか」だけでなく、「自分がその一部だと感じられるか」という視点で、あらためて試合を見てみると、違った楽しみ方が生まれるかもしれません。
なぜ、頂点でクラブを去る決断をしたのか
この物語には、もう一つ大きなポイントがあります。
歴史的なタイトルを取った直後、二人はプラテンセを去る決断をしたのです。
「¿Por qué tomaron la decisión de no seguir en Platense?」 「どうしてプラテンセに残らないという決断をしたのか?」
多くの人が抱いた疑問に対し、二人は静かにこう語っています。
日々の中で蓄積していった「消耗」。
クラブ上層部との考え方の違い。
契約延長の話が先延ばしにされ、最終的にはまとまらなかったこと。
そうした現実を前に、残り二カ月は「ひたすらサッカーに集中する」と決めたといいます。
「Dejamos de lado todo los demás para trabajar en conjunto y enfocados en lo que queremos conseguir.」 「他のことはすべて脇に置き、ひたすら“目標を達成すること”だけに集中しました。」
タイトルを取り、喜びを分かち合ったあと、二人はクラブと向き合い、以前から抱えていた問題をあらためて伝えました。
しかし、クラブ側の見方は変わらない。
「Está bien, es el momento justo para irnos.」 「わかりました。今が、去るべきちょうどいいタイミングなんだと思います。」
そうして二人は、自らサイクルを閉じる決断をします。
「頂点にいるときに去る」ことは、ときに理解されにくい選択です。
でも、彼らには、はっきりした軸がありました。
「Debes tener un horizonte. El nuestro fue lograr lo que nunca nadie había logrado con Platense: salir campeón.」 「人は“地平線”を持たなければならない。僕たちにとってそれは、プラテンセで誰も成し遂げたことのないタイトルを獲ることでした。」
目標を達成したとき、それは「終わり」ではなく、「次の一歩を選ぶタイミング」にもなり得ます。
読んでいる皆さんにも、似た経験があるかもしれません。
志望校に合格したあと。
大きなプロジェクトをやり遂げたあと。
「ここで満足して留まるのか」「次のステージを目指すのか」。
プラテンセを離れた決断は、二人にとっての「次のステージ」を選ぶ勇気の表れでもありました。
何度も届かなかった夢、それでも諦めなかった二人

プラテンセの優勝だけを見ると、「突然のシンデレラストーリー」に見えるかもしれません。
でも実際は、「あと一歩届かなかった悔しさ」の積み重ねが、その背景にはあります。
サン・マルティン・デ・トゥクマンでは、勝ち点の70%を稼ぎながら、パンデミックの影響で昇格を逃しました。
フェロでも同じように昇格に届かず、「B(2部)ではやるべきことはやりきった」と感じて、ゴドイ・クルスでプリメーラ(1部)に挑戦。
ゴドイ・クルスでは降格圏からチームを救い、コパ・スダメリカーナまで「あと2ポイント」。
アトレティコ・トゥクマンでも、残留を果たしながら、国際大会出場を「得失点差」で逃しました。
そしてプラテンセでも、まずは降格圏から救い出し、「あと1ポイント」で国際大会を逃す経験をしています。
「Tres años seguidos nos pasó lo mismo. Doloroso, pero no nos tumbó.」 「3年続けて同じことが起きました。苦しかった。でも、僕たちは倒れませんでした。」
もう少しで手が届くのに、届かない。
そんな経験は、サッカーだけでなく、勉強でも、仕事でも、私たちの日常にたくさんあります。
そのときに、「運が悪かった」と嘆いて終わるのか。
それとも、「次こそ」と積み重ねていくのか。
オルシとゴメスは、後者の道を選び続け、その集大成として、プラテンセの初タイトルにたどり着きました。
二人がサッカーから教えてくれること
プラテンセの物語には、有名選手のスーパーゴールよりも、私たちの日常に近いヒントが多く詰まれています。
・目立たなくても、泥だらけでも、「今いる場所」でベストを尽くすこと。
・エゴを横に置いて、「二人で一人」のように動くパートナーシップ。
・チームやクラス、会社に「自分たちの色」をつくること。
・何度も届かなかった夢に対して、それでも挑戦し続けること。
・頂点に立った瞬間こそ、「次の地平線」を見つめ直すこと。
そして何より、「サッカーは結果だけではない」ということ。
もちろん、結果はプロの世界では不可欠です。
しかし、結果に至るまでのプロセスの中にこそ、サッカーを通して学べる「チームワーク」や「忍耐」や「誠実さ」が隠れています。
オルシとゴメスは、今、新たな挑戦の場を静かに待っています。
「Ahora esperamos con tranquilidad el siguiente paso. Lo tomamos con paciencia, porque sabemos que estamos preparados para lo que venga.」 「いまは、次の一歩を静かに待っています。焦らずに。自分たちには、これから何が来ても対応できる準備ができていると分かっているからです。」
プラテンセの120年目の奇跡は終わりました。
でも、その物語を知った私たち一人ひとりの中で、何か小さな「次の一歩」が始まるのかもしれません。
あなたにとっての「プラテンセ的な挑戦」は、どんなものですか。
チームの一員として。
家族の一員として。
あるいは、一人のサッカーファンとして。
それぞれの場所で、エゴを少し横に置き、仲間とともに一つの夢を追いかけること。
その積み重ねが、いつか思いがけない「歴史」を生むのかもしれません。
最後に、二人の歩みとクラブの物語にふさわしい言葉で締めくくりたいと思います。
「El éxito no es el final, el fracaso no es fatal: lo que cuenta es el valor para continuar.」 「成功が終着点ではなく、失敗が致命的なわけでもない。大切なのは、続けていく勇気である。」
| 観点 | 単独監督体制 | オルシ&ゴメス共同体制 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 意思決定 | トップが単独判断 | 常に2人で協議 | ◎ チームの強み |
| エゴの管理 | カリスマ依存になりやすい | 「エゴなし」を哲学に据える | ◎ 継続 |
| 対外対応 | 監督1人が窓口 | 交渉・メディア・選手対応すべて2人で行う | ○ 一貫性 |
| 環境への適応 | 苦境でも戦術を固定しがち | 状況に応じてスタイルを変える現実主義 | ○ 柔軟化 |
| サイクルの終え方 | クラブ主導で退任することが多い | 頂点で自ら去る決断 | △ 独自の選択 |
- エゴを仕組みで排除する — 「誰が決定者か」を曖昧にせず、2人の対等な合意プロセスをチームに見える形で示し、組織全体の心理的安全を作る
- 環境を言い訳にしない — 泥のグラウンドや水没した施設でも練習を成立させた姿勢を持ち、「今いる場所」でベストを尽くす指導を選手と共に実践する
- タイトル達成後に次の目標を設定する — 優勝後の燃え尽きを防ぐため、シーズン終了前に選手と「次の地平線」を一緒に設定しておく習慣を持つ
- 何度届かなくても積み重ねる — オルシとゴメスは昇格あと一歩・国際大会あと2ポイントを3年連続経験しても諦めなかった。悔しさを次への燃料として積み上げる習慣をつくる
- チームのカラーを自分たちで守る — 「ファンがスタジアムで『これが俺たちのサッカーだ』と感じられるか」が指針。自分たちらしいプレースタイルを意識して試合に臨む
- 目標を達成したら次のステージを選ぶ — 合格・達成・優勝は終点ではなく「次の一歩を選ぶタイミング」。わが子が壁を越えた後に次の目標を一緒に考える
