多文化を力に変えたモロッコ代表——ワリド・レグラギ監督のもとカタールW杯でアフリカ史上初のベスト4を達成した多国籍チームの物語

多文化を力に変えるモロッコ代表――レグラギが示した新たな強豪国のモデル

DEFINITION
モロッコ代表が強豪国に勝てた理由とは
ワリド・レグラギ監督は16人が海外生まれという多国籍チームを「家族とモロッコとの物語」という共通のセメントで束ね、欧州型戦術とモロッコ固有のテクニックを融合させることで2022年カタールW杯アフリカ史上初のベスト4を実現した。多文化を弱点ではなく力に変えるこのモデルは、新しい強豪国の形を世界に示した。

ワリド・レグラギとモロッコ代表──「多文化」と「アイデンティティ」がつくる新しい強豪国のかたち

2022年カタール・ワールドカップで、アフリカ史上初のベスト4に進出したモロッコ代表。 その快進撃を率いたのが、監督ワリド・レグラギです。

「3か月前に代表監督就任」「主力の多くが海外育ち」「強豪国だらけのグループ」。 普通なら「無理だ」と言われる条件のなかで、ベルギー、スペイン、ポルトガルを次々と撃破しました。

一体、何が彼らをここまで強くしたのでしょうか。 そして、その強さは一度きりの「サプライズ」ではなく、これからの世界サッカーを変えていくものなのか。

モロッコ代表の物語は、「多文化をどう一つのチームにまとめるか」という、これからの時代にますます大切になるテーマを教えてくれます。 小学生も大人も、一緒にサッカーを学ぶつもりで、このチームと指揮官の歩みを見つめてみましょう。

3か月で挑んだワールドカップ──「不可能」を前提にしない心

レグラギは、ワールドカップ本大会のわずか3か月前にモロッコ代表監督に就任しました。 準備期間は、たった「2試合と1つの親善試合」だけ。 グループにはベルギー、クロアチア、カナダという難敵が並びます。

周囲からは、こんな声もあったといいます。

「Si te vas, quizá fracases y eso mate tu carrera.」
「もし引き受けたら、失敗して監督としてのキャリアを終わらせてしまうかもしれない。」

それでもレグラギは決断しました。

「Desde pequeño, en mi personalidad siempre ha estado el intentar lo imposible. Y ganar.」
「子どもの頃から、僕の性格には『不可能に挑戦すること、そして勝つこと』がいつもあった。」

選手たちにも、ただ「楽しもう」とは言いませんでした。

「no íbamos solo a disfrutar, sino que teníamos que procurar hacer grandes cosas」
「楽しむためだけに行くんじゃない。大きなことを成し遂げなければならない。」

この言葉を、あなたならどう受け止めるでしょうか。

部活の試合でも、テスト勉強でも、「とりあえず楽しめればいいや」と考えるか、「せっかくやるなら、限界に挑戦してみよう」と考えるかで、準備の質は変わってきます。

モロッコ代表は、たった3か月でも、最新のテクノロジーを活用し、戦術面の準備を徹底的に行いました。 レグラギは、「20年前なら不可能だった」と振り返っています。

時間がないときに、「できない理由」を数えるのではなく、「どうすればできるか」を考える。 その姿勢こそが、強豪国を相手にした大躍進の土台になりました。

COMPARISON / モロッコ代表の強さを支えた二軸:多文化統合 vs 戦術融合
観点 従来のアフリカ代表のイメージ カタール大会のモロッコ 評価
選手の出身地 主に国内リーグ・一部欧州組 メンバー26人中16人が海外生まれ(9か国以上) △ 大きく変化
チームの結束軸 国籍・民族的な一体感が中心 「家族とモロッコとの物語」が共通のセメント ◎ 革新
プレースタイル 個人技・フィジカル優先が多い 欧州型戦術に北アフリカ固有の技術と即興性を融合 ◎ 継承+進化
指揮官の指導言語 単一言語(仏語・英語等) アラビア語主体+仏語・スペイン語・英語を選手ごとに使い分け ◎ 継承
国内育成との関係 国内選手か海外組の二択傾向 モハメド6世アカデミーから6人招集し国内育成も並立 ○ 柔軟化
◎=大きな強み・革新 / ○=柔軟化 / △=大きく変化した側面

16人が「海外生まれ」──ディアスポラと向き合う指揮官

カタール大会のモロッコ代表メンバーのうち、16人はモロッコ国外の生まれでした。 フランス、スペイン、オランダ、ベルギー、ドイツ、イタリア、ノルウェー、イングランド…。 まさに「世界中に散らばるモロッコ人の才能」が、一つのユニフォームの下に集まっていました。

レグラギは、この状況をこう語ります。

「Es el punto más complicado, la gente no se da cuenta de eso.」
「ここが一番難しいところなんだ。人々はそれに気づいていない。」

ヨーロッパのさまざまな国で育った選手たちは、それぞれ違う価値観、言語、サッカー文化を持っています。

「Hemos tenido una educación y una cultura diferentes, pero yo siempre peleo para que tengamos un sentido común.」
「僕たちはそれぞれ違う教育や文化のもとで育ってきた。でも、共通の感覚を持てるよう、いつも戦っている。」

そこでレグラギが示したのが、「チームのセメント(セメント=つなぎ)」となる考え方でした。

「Para construir una casa, necesitas cemento. Y nuestro cemento es la familia, la historia que cada uno tiene con Marruecos.」
「家を建てるにはセメントが必要だ。僕たちのセメントは、家族であり、一人ひとりが持つモロッコとの物語だ。」

違う国で育ち、違う言葉を話し、違うサッカースタイルを持っていても、「家族」「親の国」「自分のルーツ」という共通点で結びつく。

あなたの周りにも、海外にルーツを持つ友達や、帰国子女、留学生がいるかもしれません。 そうした人たちと一緒にチームを作るとき、モロッコ代表のように「共通のセメント」を意識できたら、もっと強い集団になれるのではないでしょうか。

ダブルカルチャーは「弱点」ではなく「大きな価値」

レグラギ自身もフランス生まれ・フランス育ちの二重文化を持つ人物です。

「Nací en Francia, me eduqué en Francia y mi cultura es francesa.」
「私はフランスで生まれ、フランスで教育を受けました。私の文化はフランスのものです。」

同時に、両親はモロッコ出身であり、そのルーツも強く意識してきました。 だからこそ、海外育ちの選手たちの心の揺れを深く理解できるといいます。

「solo los que son inmigrantes o hijos de inmigrantes pueden comprenderlo」
「移民や移民の子どもたちだけが、その感覚を本当に理解できる。」

二つの文化のあいだで迷うこと。 どちらの代表を選ぶかを迫られること。 それは時に、周囲から簡単に評価されがちです。

しかしレグラギは、こう言い切ります。

「siempre he dicho que es un valor increíble tener doble cultura」
「二つの文化を持っていることは、信じられないほど大きな価値だといつも言ってきた。」

「違う」を恐れるのではなく、「違う」からこそ生まれる価値を信じる。 サッカーだけでなく、学校や職場でも、大切にしたい視点ではないでしょうか。

FOR COACHES / FOR COACHES
レグラギが示す多文化チームの束ね方3つ
  1. チームの「共通のセメント」を言語化して全員に伝える — 異なる文化・学校・育ち方をしたメンバーをまとめるには、出自の差を超えた「なぜここにいるのか」という共通の物語を監督自ら言葉にして共有する
  2. 選手ごとの言語や背景に合わせたコミュニケーションを取る — チーム全体への話と個人への話を分け、個人対話では相手が育った文化や言語を意識して話しかけることで信頼と理解を深める
  3. 「二つの文化を持つ」ことをチーム内でポジティブに位置づける — 海外や異なる環境で育った選手の経験をチームの「弱点」ではなく「戦術の幅」として評価し、練習や戦術設計の中で活かす場面を意識的に作る
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モロッコのプレースタイル──「自由な技術」と「欧州的戦術」の融合

モロッコ代表を見ていると、テクニカルで創造性豊かな選手が多いことに気づきます。 レグラギもそれを強調しています。

「La cualidad natural del jugador marroquí es la técnica, la habilidad con el balón.」
「モロッコ人選手の自然な資質は、テクニックとボール扱いのうまさだ。」

一方で、ヨーロッパで育った選手たちは、「アカデミック」で戦術理解に優れていると話します。

「Los europeos, tácticamente son mejores y respetan más el juego, pero dejan de lado esta locura del futbolista…」
「ヨーロッパの選手たちは戦術的に優れていて、ゲームをよく尊重する。ただ、その一方で、かつてのような“クレイジーさ”を置き去りにしてしまうことがある。」

レグラギが目指したのは、この二つを融合させたスタイルでした。

ヨーロッパ的な組織、守備のブロック、戦術的なポジショニング。
そこに、ブーファル、ジィエフ、ウナヒといった選手たちのドリブル、ひらめき、思い切ったチャレンジを重ねる。

「no fue el estilo marroquí, sino más un estilo europeo, tácticamente bien colocado, pero con gente… con la capacidad de marcar diferencias técnicamente.」
「それは“従来のモロッコのスタイル”というより、戦術的に整ったヨーロッパ型のスタイルでありながら、技術で違いを生み出せる選手たちがいたということなんだ。」

戦術と自由、規律と創造性。 あなたなら、どちらを大事にしたいでしょうか。

モロッコ代表は、「どちらかを捨てる」のではなく、「両方を組み合わせる」ことで、新しい強さを手に入れました。 サッカーに限らず、「勉強と遊び」「型とオリジナリティ」など、二つの価値をどうバランスさせるかは、私たちの生活にも通じるテーマです。

「言葉」でつなぐチーム──レグラギのマルチリンガル指導

多国籍・多文化のチームをまとめるうえで、言葉の問題は避けられません。 レグラギは、こうした工夫をしています。

「Hablo siempre en árabe en la charla. Pero con traductor, para el que no lo entiende bien.」
「全体への話はいつもアラビア語で話す。でも、よく分からない選手のために通訳をつける。」

個人との対話では、スペイン語・フランス語・英語を使い分けます。

「siempre intento usar la lengua del país del jugador」
「選手が育った国の言葉を使うよう、いつも心がけている。」

言語は、単に情報を伝えるためのツールではありません。 「あなたを理解したい」「あなたの背景を大事にしている」というメッセージそのものになります。

チームメイトにとって居心地のいい言葉を選ぶ。 それは、小さなようでいて、信頼関係を生む大きな一歩なのかもしれません。

FOR PLAYERS & PARENTS / FOR PLAYERS & PARENTS
「違い」を力にするモロッコ代表から学ぶこと
  1. 複数の文化・環境を経験していることは「迷い」ではなく「強み」 — ブラヒム・ディアスがスペインではなくモロッコを選んだように、自分のルーツや歩みを「誇り」として受け入れることがプレーの軸になる
  2. 試合を観るとき各選手がどの国で育ったかを確認してみる — モロッコ代表の先発メンバーの出身国を調べると、多国籍チームが「セメント」でどう一体化したかが具体的に見えてくる
  3. 「頭を下げない姿勢」を観戦の視点として持つ — ベルギー・スペイン・ポルトガルを倒した試合で、格上相手でも守備から入らず自分たちの戦術を貫いたモロッコの姿勢を意識して振り返る

ブラヒム・ディアスの決断──「心」で選ぶ代表チーム

レアル・マドリードで活躍するブラヒム・ディアスのモロッコ代表選択は、大きな話題となりました。

スペイン代表を選ぶ道も当然あったブラヒム。 その彼が、父の祖国モロッコを選んだ背景には、レグラギの丁寧なアプローチがありました。

レグラギはまず、ACミラン時代のブラヒムをチャンピオンズリーグの試合で視察。 試合後、こう伝えます。

「tiene sangre marroquí, que el país de su padre le quiere con cariño y tiene un proyecto para él」
「君の血にはモロッコが流れている。父の祖国は、愛情を込めて君を待っているし、君のためのプロジェクトがある。」

すぐに決断を迫るのではなく、何度も会い、家族とも話し、ブラヒム自身にモロッコを訪れてもらう時間を用意しました。 彼は人生で初めてモロッコの地を踏み、施設を見て、人々の熱気を感じます。

レグラギは、この選択についてこう語ります。

「Envió un gran mensaje a todos los marroquíes del mundo: elegir el país es una decisión de corazón.」
「ブラヒムは世界中のモロッコ人に大きなメッセージを送った。国を選ぶというのは“心”の決断なんだと。」

もしあなたが、複数の国籍や地域にルーツを持っているとしたら、どのように「自分の代表」を選ぶでしょうか。

サッカーの世界では、「どの国を選んだか」が注目されがちですが、レグラギはその背景にある「心の物語」を何よりも大切にしているように見えます。

アカデミーと未来──自国育成とディアスポラの共存

モロッコ代表の強さは、海外育ちの選手だけに頼っているわけではありません。 ラバトにある「モハメド6世アカデミー」は、その象徴です。

「Mucho. Debemos tener instalaciones de vanguardia y también una academia para ofrecer una formación propia.」
「このアカデミーはとても重要だ。最先端の施設を持ち、モロッコ独自の育成を提供する必要がある。」

海外クラブのアカデミーで育った選手が世界中から集結する一方で、モロッコ国内でもトップレベルの育成環境を整える。

レグラギは、最新の代表メンバーに「アカデミー出身者を6人招集した」と語ります。

「si tenemos más academias como la de Rabat, vamos a contar con más talento formado en Marruecos」
「ラバトのようなアカデミーがもっと増えれば、モロッコ国内で育った才能も、もっと多く活躍できるようになる。」

自国育成とディアスポラ、国内と国外。 どちらか一方を否定するのではなく、両方を磨き、互いを高め合う未来像。

日本のサッカーにおいても、「Jリーグの育成」と「海外挑戦」のバランスがよく話題になります。 モロッコの取り組みは、そのヒントの一つになるかもしれません。

FAQ / よくある質問
Q. モロッコ代表はなぜカタールW杯でベスト4に入れたのですか?
A. ワリド・レグラギ監督がわずか3か月の準備期間で最新テクノロジーを活用した戦術分析を徹底し、16人が海外生まれという多国籍チームを「家族とモロッコとの物語」という共通のセメントで束ねた。欧州型の守備組織にモロッコ固有のテクニックと創造性を融合させ、ベルギー・スペイン・ポルトガルを撃破。組織と個の両立がアフリカ史上初のベスト4を生んだ。
Q. ワリド・レグラギはどんな監督ですか?
A. フランス生まれ・フランス育ちでモロッコ人の両親を持つ二重文化の持ち主。海外育ちの選手たちの心の揺れを自分自身の経験から深く理解し、アラビア語でチーム全体に話しながら個人対話では各選手の母国語(仏・西・英語等)を使い分ける。「二つの文化を持つことは信じられないほど大きな価値だ」という言葉が指導哲学の核心にある。
Q. ブラヒム・ディアスがモロッコ代表を選んだ理由は何ですか?
A. レアル・マドリードで活躍していたブラヒム・ディアスはスペイン代表を選ぶ道もあった。しかしレグラギが試合視察後に「君の血にはモロッコが流れている。父の祖国は愛情を込めて君を待っている」と伝え、急かさずに何度も対話を重ね、ブラヒム自身が初めてモロッコを訪れる機会を設けた。その体験が「心の決断」を促した。
Q. モロッコの国内育成はどうなっていますか?
A. ラバトにある「モハメド6世アカデミー」が中心で、レグラギは最新代表メンバーにアカデミー出身者を6人招集したと語る。海外クラブアカデミーで育った選手が世界各地から集結する一方、モロッコ国内でもトップレベルの育成環境を整え、ディアスポラと国内育成の両方を磨いて互いを高め合う体制を構築している。

「もう頭を下げない」──モロッコが世界に示した自信

カタール大会での成功後、モロッコはFIFAランキングで世界トップ12に入りました。 多くの選手がチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグでプレーし、アフリカネイションズカップやワールドカップの開催国にも名乗りを上げています。

レグラギは、こうした変化を次のように表現します。

「Ya no hay que bajar la cabeza frente a los grandes equipos.」
「もはや大国を前にして、うつむく必要はない。」

かつては「アフリカのダークホース」と呼ばれていた国が、いまや「堂々と世界の強豪と肩を並べる存在」になりつつあります。

あなた自身は、強い相手や難しい課題を前にしたとき、つい「自分なんて」と思ってしまうことはないでしょうか。

モロッコ代表の歩みは、「結果」とともに「姿勢」を変える力を教えてくれています。

私たちはこの物語から何を学ぶのか

レグラギとモロッコ代表をめぐるストーリーには、いくつものキーワードがありました。

「不可能に挑戦する心」
「多文化をつなぐセメントとしての家族とルーツ」
「二つの文化を持つことの価値」
「戦術と自由のバランス」
「言葉で相手を尊重する姿勢」
「心で選ぶ代表チーム」
「自国育成とディアスポラの共存」
「大国の前で頭を下げない自信」

サッカーの話でありながら、これはそのまま、これからの社会で私たち一人ひとりが向き合うテーマでもあります。

あなたなら、自分のチームやクラス、職場、家族のなかで、どのキーワードを大事にしたいと感じましたか。

ワールドカップのベスト4という「結果」はいつか塗り替えられるかもしれません。 しかし、そこで示された「価値観」や「在り方」は、長く語り継がれていくはずです。

モロッコ代表の現在地

多文化を束ね、ルーツを力に変え、世界の舞台で堂々と戦うモロッコ代表。 その姿を照らす言葉として、こんな名言を最後に添えたいと思います。

「Fútbol es la patria de los que no tienen patria.」
「サッカーとは、祖国を持たない者たちの祖国である。」

複数の国、複数の文化、複数のアイデンティティを抱えて生きる人たちが、「一つのチーム」としてピッチに立つとき。 そこには国境を越えた新しい「祖国」のかたちが見えてきます。

モロッコ代表とワリド・レグラギが示した物語は、サッカーを通して、「自分はどこから来て、どこへ向かうのか」という問いを、私たち一人ひとりに静かに投げかけているのかもしれません。

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