勝ちきれないロンドリナとまだ勝てていないスポルチ──セリエBの一夜に問われる「リスク」と「引き分け」の意味
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「勝ちそうなチーム」と「まだ勝てていないチーム」が出会う夜に、何が問われているのか

パラナ州ロンドリナにあるエスタジオ・ド・カフェ。
ブラジル時間の夜、セリエB第3節でロンドリナとスポルチが対戦する。
数字だけ見れば、ロンドリナが「少し上」にいるように見える。
3位、4ポイント、ホームで首位を狙う試合。
一方のスポルチは11位、2試合連続ドローで、まだ今季のセリエBで勝ちがない。
しかもオッズや予想スコアは、「ロンドリナ勝利」や「ロンドリナが先制」という見立てでほぼそろっている。
では、この試合は本当に、紙の上で描かれた通りに進むのだろうか。
そして、その「予想された試合」の中で、ピッチに立つ選手や指導者は、どんなことを選び、どんなことを迷うのだろうか。
「勝っているチーム」が抱える、見えにくい不安
負けが少ないことは、本当に“安心”なのか
ロンドリナは2026年に入ってから、17試合でわずか1敗という成績を残している。
州選手権では準優勝、セリエBでも3位スタート。
数字だけを拾えば、順調そのものだ。
しかしホームの成績を細かく見ると、そこには別の姿が浮かび上がる。
今季ホームでの9試合は、3勝5分1敗。
「負けていない」と同時に、「引き分けがとても多い」チームでもある。
しかも最近の試合結果も、勝ち・引き分け・引き分け・負け・引き分けという並び方になっている。
負けない強さをどれだけ手にしたとしても、「勝ちきれない時間」をどう捉えるかは、まったく別の問いになる。
ベンチに座る指揮官アラン・アールは、試合前の数日間、おそらくこんなことを考えたのではないだろうか。
- 今の守備の安定感は手放したくない
- ただ、引き分けを重ねるだけでは、昇格争いでは置いていかれるかもしれない
- もっとリスクを取って、勝ちに行くべきなのか
「今の良さを守るか」「一歩踏み込んで変えるか」。
どのカテゴリーのチームにも起こりうる、この静かな揺れが、ロンドリナの内側にもきっとある。
| 観点 | ロンドリナ | スポルチ | 評価 |
|---|---|---|---|
| セリエB順位 | 3位・4ポイント・ホーム | 11位・2ポイント・アウェー | △ 変化 |
| 直近の傾向 | 引き分け多数(9試合で3勝5分1敗) | 2試合連続ドローで今季未勝利 | △ 変化 |
| シーズン全体 | 2026年17試合で1敗のみ・州選手権準優勝 | 18試合9勝7分2敗・州選手権優勝 | ◎ 継承 |
| 無失点の安定感 | 直近15試合の13試合が2.5ゴール未満 | アウェー6試合連続無敗(3勝3分) | ◎ 継承 |
| 監督体制 | アラン・アール継続 | ロジェル解任・マルシオ・ゴイアーノが代行 | ○ 柔軟化 |
少ない失点と「2.5ゴール未満」が物語るもの
もうひとつ、データが示していることがある。
ロンドリナの直近15試合のうち13試合、ホームでの15試合のうち13試合が、どちらも「2.5ゴール未満」だという事実だ。
点の取り合いになる試合よりも、1-0や1-1といった、スコアが大きく動かない試合が多いということになる。
こうしたチームは、守備面での組織や約束事がはっきりしている一方で、「どこで勝負に出るか」という判断が、より重くのしかかってくる。
例えば、0-0で迎えた後半70分。
ホームで、昇格を目指し、観客は勝利を期待している。
そのときベンチは、こうした選択に迫られる。
- 守備的MFを1枚削って、前線の枚数を増やすか
- サイドバックを高い位置に送り出すか
- それとも、引き分けでも「悪くない」と受け止めるか
どれも正解にもなりうるし、間違いにもなりうる。
大事なのは、「なぜその選択をするのか」を、自分たちなりに言葉にできるかどうかだろう。
もし読者自身が選手なら、0-0で迎える70分に、どんなプレーを選ぶだろうか。
安定のためにリスクを抑えるか、それとも一歩前に出るか。
「まだ勝てていないチーム」が、失っていないもの
- 「引き分けでも悪くない」と「勝ちに行く」の基準を試合前に共有する — ベンチが迷っているとピッチも迷う。「どの時間帯から攻勢をかけるか」をスタッフ間で言語化しておく
- 守備的MFを削って前線を増やす判断の根拠を選手に説明する — 「なぜ交代するのか」を伝えることで、残った選手が自分の役割を再定義できる
- 「追いついた後」の共通認識を練習で作っておく — 同点に追いついた直後に失点するパターンを防ぐには、その時間帯の守り方・攻め方を事前にチームで決めておく練習が必要
スポルチの「勝てていないけれど、負けていない」日々
スポルチは、セリエBでは2試合続けて引き分け、まだ勝利がない。
ただ、シーズン全体で見れば、18試合で9勝7分2敗。
州選手権では優勝し、コパ・ド・ノルデスチでは2戦2勝。
ここだけを見ると、「調子が悪いチーム」という印象は薄い。
それでもリーグ戦だけを切り取れば、「まだ勝っていないチーム」として扱われる。
このギャップの中で、選手やスタッフが何を感じているのかを想像してみると、見えてくるものがある。
- 内容は悪くないが、結果がついてきていない感覚
- 外からの「そろそろ勝たないと」というプレッシャー
- それでも、自分たちのやり方を大きく変える必要はないかもしれないという手応え
事実として、スポルチは直近4試合で負けていない。
アウェーでは6試合連続無敗で、3勝3分という結果も残している。
「勝っていない」という一点だけで判断すると見えなくなるものが、そこには確かに存在している。
- スコアではなく「どのリスクを選んだか」を見る — 早い時間に守り固めた1-0と、押し込まれてカウンターで決めた1-0では次の試合への意味が全然違う
- 「負けていないチーム」と「勝てていないチーム」を区別して見る — スポルチのようにシーズン全体では好成績なのにリーグ戦だけ引き分けというチームは、内容で判断しないと見誤る
- 自分が0-0の70分にボールを受けたらどう選ぶか想像する — 観戦しながら「自分ならここで縦に行くか、横にはたくか」を考えると、プレーの選択眼が養われる
指揮官交代という「不安」と「自由」
スポルチは、シーズンの途中で監督ロジェル・シウバが解任され、新たな指揮官を探している状況にある。
このタイミングでチームを率いるのは、マルシオ・ゴイアーノ。
指揮官の交代は、チームにとって大きな出来事だ。
戦術が変わるだけではなく、選手一人ひとりの立場も揺らぐ。
これまであまり出場機会がなかった選手にとってはチャンスにもなり、主力として出ていた選手にとっては、序列が変わる怖さもある。
システムをどうするのか、スタメンをどこまでいじるのか。
マルシオ・ゴイアーノは、ロンドリナ戦という具体的な相手を前にしながらも、クラブ全体のバランスも見ないといけない。
「ここで結果を出すべきか」「長期的な形づくりを優先するか」。
この問いに対して、完璧な答えはない。
だからこそ、どのチームでも、指揮官は「揺れたままピッチに送り出す」時間を経験する。
日本の育成年代でも、監督やコーチが代わる場面はある。
そのとき、選手として何を意識するのか。
- 新しい監督に「どう見られるか」だけを気にするのか
- これまで自分が大切にしてきたプレーの軸を、あえて手放さないのか
スポルチの選手たちもまた、そんな問いの中で日々を過ごしているのかもしれない。
「1-0で勝つチーム」をどう見るか
予想スコア1-0が意味する、もうひとつの物語
多くのメディアや予想では、この試合は「ロンドリナが1-0で勝つ」と見立てられている。
2.5ゴール未満の試合が多いこと、ロンドリナのホーム力、スポルチの引き分け続き。
これらの要素を組み合わせると、確かに1-0というスコアは「もっとも現実的」なのかもしれない。
しかし、1-0という結果も、その中身はさまざまだ。
- 早い時間に先制して、そのままコントロールした1-0
- 押し込まれながら、カウンターの一発で決めた1-0
- 90分まで0-0で粘り、最後の最後に奪った1-0
同じ1-0でも、そこに辿りつくまでの道のりは、大きく違ってくる。
試合を見ているとき、ついスコアだけで勝敗を判断してしまいがちだ。
けれど、選手や指導者は「1点を取るまでに、何を選び、何を我慢したのか」というプロセスを、常に背負っている。
例えば、ロンドリナが1-0で勝ったとしても、それが「守備的になりすぎてしまった末の、ギリギリの1-0」なのか、「ボールを持って試合を支配したうえでの、落ち着いた1-0」なのか。
チームとして次に進むための課題や手応えは、その違いによって大きく変わる。
日本の試合を見ているとき、どこまで想像できるか
このロンドリナ対スポルチの構図は、日本のサッカーにもそのまま重ねて考えることができる。
Jリーグでも、
- 「負けないけれど、引き分けが多くて上位に届かないチーム」
- 「まだ勝てていないけれど、内容的には悪くないチーム」
は、どのシーズンにも存在する。
そうしたチームの試合を見ているとき、私たちはつい「もっと点を取りに行けばいいのに」「守りすぎじゃないか」と一言でまとめてしまいがちだ。
ただ、もし自分がそのチームの一員だったらどうだろうか。
- 勝ち点1を積み上げることの価値
- リスクをかけてでも勝ち点3を取りに行く覚悟
- 監督や仲間と共有しているゲームプラン
こうした要素の中で、自分はどんなプレーを選ぶか。
どこまでが許されるリスクで、どこからが無謀なのか。
その境界線を、自分の頭で考えながらプレーしているかどうかで、「同じ0-0」や「同じ1-0」でも、意味が大きく変わってくる。
「考える余白」としてのセリエB
派手ではないリーグが教えてくれるもの

ブラジル・セリエBは、世界的なスターが集まるわけでもなく、日本で大々的に取り上げられるリーグでもない。
しかし、ロンドリナやスポルチのようなクラブの歩みには、サッカーの本質に近い問いが、むしろ濃く現れているようにも思える。
- 一つの敗戦をどう受け止めるのか
- 引き分けを「前向きな一歩」と見るか、「勝てなかった試合」と見るか
- 監督交代の中で、クラブとして何を守り、何を変えるのか
これらは、どの国、どの年代、どのレベルのチームにも共通するテーマだ。
そして、その答えはいつも一つではない。
「自分ならどうするか」を持ち込んで見る
ロンドリナ対スポルチの試合を、結果だけで追いかけることもできる。
0-0だったのか、1-0だったのか。
どちらが首位争いに近づいたのか。
もちろん、それもサッカーの楽しみ方のひとつだ。
ただ、もし自分のサッカーにも何かを持ち帰りたいと思うなら、こんな見方をしてみるのもいいかもしれない。
- ロンドリナの選手たちは、「負けないチーム」でいることと、「勝ちに行くチーム」でいることの間で、どんなプレーを選んでいたか
- スポルチの選手たちは、「まだ勝てていない」という状況でも、自分たちの良さをどこまで信じ続けていたか
- もし自分が0-0の時間帯にボールを受けたら、どんなリスクとどんな安全を天秤にかけるか
画面の向こうで起きている出来事を、「誰かの物語」として眺めるだけでなく、「自分だったらどうするか」という問いと一緒に見てみる。
そうすることで、セリエBの1試合が、日本でサッカーをしている自分自身のプレーや指導、応援の仕方を静かに揺さぶってくるかもしれない。
結末よりも、その途中にあるもの
結果が出る前に、どれだけ考えられるか
試合前のオッズは、ロンドリナ優勢を示している。
多くのデータも、その見立てを後押ししている。
それでも、キックオフの笛が鳴ってしまえば、選手たちがその瞬間ごとに下す小さな判断の積み重ねが、試合をゆっくりと別の方向にねじ曲げていくことがある。
前に出るか、つなぐか、蹴るか、運ぶか。
声をかけるか、黙ってプレーで示すか。
一つひとつの選択に、「なぜそうするのか」という問いを通してみると、サッカーの見え方は変わってくる。
ロンドリナが首位に近づくのか、スポルチが今季初勝利をつかむのか。
その答えは、笛が鳴ったあとにしか分からない。
だからこそ、答えが出る前の揺れている時間に、どれだけ自分の頭で考え続けられるか。
その姿勢こそが、静かに積み上がっていく本当の力になっていくのかもしれない。
セリエBの一試合を追いながら、私たち自身もまた、「自分ならどう考えるか」という問いを、そっと胸の中に置いておきたい。
サッカーは、90分で終わるけれど、その問いは、試合が終わってからも続いていくのだから。
