ラ・マシアから5部のピッチへ──レオ・ドス・レイスが語る「届かなかった夢」のその先
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バルサの宝石たちと、5部で戦うレオ・ドス・レイス ラ・マシア出身選手が歩む「もうひとつの現実」
FCバルセロナのラ・マシアといえば、世界中のサッカー少年が憧れる場所です。
ラミン・ヤマル、パウ・クバルシ、ガビ(Pablo Páez ‘Gavi’)、フェルミン・ロペス、アレハンドロ・バルデ、マルク・カサド、マルク・ベルナル、ジェラルド・マルティン。
彼ら“子どもたち”が、揺れ動くクラブをもう一度明るく照らしていることは、今や世界中が知るところです。
かつて監督としてバルサのベンチに座ったシャビ・エルナンデスは、その伝統を取り戻しました。
ラ・マシアの若手を次々とトップチームに引き上げ、チャンピオンズリーグやワールドカップの舞台にまで送り出しています。
しかし、ここでひとつ問いかけてみたくなります。
ラ・マシアで育つ全員が、彼らのような道を歩めるのでしょうか。
そして、その扉が開かなかった選手たちは、どんな日々を送っているのでしょうか。
ラ・マシアで「夢の真ん中」にいた少年、レオ・ドス・レイス
レオ・ドス・レイス(Leo Dos Reis)は、現在スペイン5部にあたるリーグで戦うクラブ、UEコルネジャ(Unió Esportiva Cornellà)のストライカーです。
22歳の彼は、11歳のとき、その運命を大きく変える一本の電話を受けました。
「バルサのカンテラに来ないか」。
当時、彼は今所属しているコルネジャで育っていました。
しかし、ラ・マシアからの誘いを断る理由はありません。
彼は迷わずバルサ行きを決断し、約6年間ラ・マシアで過ごすことになります。
レオは、その時をこう振り返ります。
「Fue muy bonito dar el paso a La Masia y vivir en su residencia. Creo que fue la mejor decisión de mi vida」 「ラ・マシアに行く決断をして、寮で生活したことは本当に素晴らしかった。
人生で一番良い決断だったと思っています」
当時の彼は、強烈なフィジカルと決定力を兼ね備えたセンターフォワードとして、ラ・マシアの中でも「ダイヤの原石」と期待されていました。
スペイン代表のユースカテゴリーにも招集され、誰が見ても“プロへの階段”を順調に登っているように見えたはずです。
| 時期 | 所属クラブ | リーグ/カテゴリー | 評価 |
|---|---|---|---|
| 〜2019年 | FCバルセロナ ラ・マシア | バルサ育成(約6年) | ◎ |
| 2019-20 | UEコルネジャ(レンタル) | スペイン下部 | ○ |
| 2021年 | バーミンガム・シティ B | イングランド(2部系列) | ◎ |
| 2021-23 | モンツァ育成/ジローナB/マルティナ等 | イタリア・スペイン各下部 | △ |
| 2024-25 | UEコルネジャ(復帰) | スペイン5部(4位・昇格争い) | ○ |
同じロッカールームにいた「今のスターたち」
レオが所属していたのは、2003年生まれの世代。
ロッカールームを共にした名前には、思わず目を引かれます。
シャビ・シモンズ(Xavi Simons)、アレハンドロ・バルデ、マルク・カサド、フェルミン・ロペス。
そして、1学年下ながら飛び級で同じ世代に加わっていたガビ。
今、世界のサッカーファンが注目する選手たちと、彼は同じ時間を過ごしていました。
レオは、当時の仲間についてこう語ります。
「Mantengo la relación con ellos, con algunos más que otros. Son excelentes chavales, la verdad que tuvimos la suerte de formar un gran grupo, una familia. Es un orgullo que estén ahí arriba, son un ejemplo a seguir」 「今も連絡は取っています、全員というわけではないけれど。
みんな本当に素晴らしい仲間です。
あのとき、僕らは強いグループ、まるで家族のような関係を築くことができました。
彼らが今トップレベルで活躍しているのは誇らしいし、僕にとっても目標です」
ここには、うらやみや嫉妬ではなく、純粋な誇りと尊敬がにじんでいます。
同じ釜の飯を食べた仲間が、カンプ・ノウ(現モンジュイック)やチャンピオンズリーグのピッチに立つ。
それを、今は5部のクラブから眺めながらも、彼は「誇り」と言い切るのです。
- 「結果」以外の成長指標を選手と共有する — レオはラ・マシアを「人生で一番良い決断」と振り返る。トップに届かなくても、育成環境で得た姿勢・適応力・人間関係が長期的なキャリアを支えることを選手・保護者に伝える
- 出場機会の多い環境へ移籍する選択を肯定的に評価する — レオがカデーテ(中学年代)では活躍しフベニールで出番を失った経験のように、カテゴリーを下げてでもプレーし続けることが選手の自信回復に直結することを指導方針に組み込む
- サッカー以外の学びへの関心を奨励する — レオはイングランド移籍で学業を中断したが「再開したい」と語り、モデルの仕事にも挑戦する。学業・表現活動をサッカーと並行する文化を育成現場に根付かせる
「エリートへの距離」という、見えない深い溝
ラ・マシアには、あふれるほどの才能が集まります。
しかし、「下部組織所属」と「トッププロとして成功すること」の間には、想像以上に深い溝があります。
トップチームでデビューできるのは、ほんのひと握り。
リーガで継続的に試合に出る選手はさらに少なく、チャンピオンズリーグやワールドカップとなると、その確率は限りなくゼロに近づいていきます。
では、その狭き門をくぐれなかった選手には、どんな現実が待っているのでしょうか。
レオは、その「もう一つの現実」をこう語ります。
「Al final, algunos estamos en estas categorías aún y no hemos dado el paso. Pero pienso que todos los que hemos pasado por este tipo de canteras tenemos el nivel para estar arriba y si somos constantes podemos llegar al máximo nivel」 「結局のところ、僕らのように今も下のカテゴリーにいて、まだ“あの一歩”を踏み出せていない選手もいます。
でも、こうしたビッグクラブのカンテラを経験してきた選手は、みんな上でやれる力があると思っています。
継続して努力し続ければ、最高レベルに届くと信じています」
「ラ・マシアから出られなかった選手」と聞くと、どこか挫折や失敗のイメージを持ってしまいがちです。
ですが、レオの言葉から伝わってくるのは、「まだ続いている物語」です。
あなたはどう感じるでしょうか。
サイン入りユニフォームを着てスターの名前を叫ぶとき、その陰で“あと一歩”届かなかった選手たちも、同じように少年時代の夢を追い続けていることを、どれだけ想像できているでしょうか。
- 仲間の活躍を「嫉妬」ではなく「誇り」に変える — レオはガビやフェルミン・ロペスの活躍を「誇らしい、目標だ」と語る。自分と違う道を歩む仲間の成功を自分のモチベーションに変える心の持ち方を意識する
- 「まだ途中」と言い切れる現在地を大切にする — レオは22歳で「まだプロを目指す途中の人間」と自己紹介する。カテゴリーの高低より「続けているかどうか」こそ、自分のサッカー人生の価値基準にする
- サッカー以外の可能性を持つことを恐れない — 「自分の人生をサッカーだけに頼らない」というレオの姿勢は弱さではなく強さ。学校の勉強や別の興味を持つことは、むしろ長いキャリアを支える安全網になる
バルサからコルネジャへ、そしてヨーロッパ中をめぐる旅
2019-20シーズン。
レオ・ドス・レイスは、バルサのフベニールB(ジュニアユースからユースへの移行期)で思うように出場機会を得られずにいました。
「カデーテ(中学年代)のときはチームの柱で、たくさんゴールを決めて、ほぼフル出場していた。
でもフベニールへのステップが難しかった」。
そこで彼は、一度“原点”であるコルネジャへレンタル移籍を決断します。
試合に出て、自信を取り戻すためです。
この選択は、結果的にバルサとの別れにもつながりました。
レンタル終了後、彼は2021年にイングランド・チャンピオンシップ(2部)に所属していたバーミンガム・シティのBチームへ完全移籍します。
そのときの印象を、彼はこう語ります。
「En aquel entonces, el Birmingham ‘A’ estaba en segunda división y a nosotros nos trataban como a un primer equipo. Las estructuras del club eran impresionantes. Fue de las mejores experiencias que tuve」 「当時、バーミンガムのトップチームは2部にいましたが、僕らBチームもまるでトップと同じように扱われていました。
クラブの施設も本当に素晴らしくて、僕のサッカー人生で最高の経験の一つでした」
その後も、レオの旅は続きます。
イタリアのモンツァの育成組織、ジローナB(スペイン・セグンダ・フェデラシオン)、マルティナ(イタリア・セリエD)、そしてスペインのマルベリ、セルダニョーラなど、約5年で8クラブを渡り歩きました。
「Buscaba una oportunidad ahí arriba, hacerme un hueco」 「とにかく、上のカテゴリーでチャンスを掴みたかった。
自分の居場所をつくりたかったんです」
若くして、異国の地で言葉も文化も習慣も違うなかでサッカーを続けること。
これは、テレビには映らない“もうひとつの欧州サッカー”の姿でもあります。
彼は、その経験をこうまとめます。
「Me ha aportado muchísimo estar en tantos sitios, no solo a nivel futbolístico sino también a nivel personal. Son experiencias que te hacen crecer」 「いろんな場所を経験できたことは、本当に大きな財産です。
サッカー面だけでなく、人としても成長させてくれました。
ああいう経験は、自分を大きくしてくれるんです」
「コルネジャは僕の家」 原点回帰から、もう一度上を目指す
そんなレオが、最終的に戻ってきた場所が、UEコルネジャのトップチームでした。
今、彼はスペイン5部で戦うストライカーとして、再び緑色のユニフォームに袖を通しています。
彼はその想いを、こう表現します。
「Cornellà es mi casa. Uno siempre vuelve al lugar donde fue feliz, y siempre que he pasado por aquí lo he sido. Me conocen bien y desde pequeño me han cuidado mucho」 「コルネジャは僕の家です。
人はみんな、幸せだった場所に戻ってくるものだと思うし、ここに来るたび、僕は幸せでした。
クラブの人たちは僕のことをよく知っているし、小さいころからずっと大切にしてくれました」
「Volver aquí es un gran paso y creo que me puede ayudar a dar pasos aún mayores」 「ここに戻ってきたこと自体が大きな一歩だし、ここからもっと上へ進む助けになると思っています」
現在、コルネジャはリーグ4位と昇格争いのポジションにつけています。
レオ自身も、開幕から13試合で4ゴールと、着実にチームの力になっています。
「El objetivo es subir y de momento está yendo bien. Vamos partido a partido」 「目標は昇格です。
今のところ順調に来ているし、一戦一戦、積み重ねていくだけです」
ここには、5部だからといって諦めた様子はほんの少しもありません。
目の前の1試合、その先の1つ上のカテゴリー、そのまた先にある「最高レベル」。
それらを遠くの夢ではなく、「今の一歩につながる梯子」として見据えています。
サッカーだけが人生じゃない それでもサッカーを諦めない
レオの物語には、もうひとつ大切な視点があります。
それは、「サッカーだけに自分の人生を預けない」という、冷静さです。
彼は、イングランドに渡ったタイミングでバチジェラート(高校後期課程)を中断しました。
しかし、今も心のどこかで「学業を再開したい」と考えていると語ります。
さらに、最近はモデルの仕事にも挑戦を始め、Riverというエージェンシーに所属。
「En el ámbito del deporte y el fútbol me siento cómodo, aunque también me gusta el mundo de la moda. No creo que dependa solo del fútbol para vivir」 「もちろん、スポーツやサッカーの世界は自分にとって居心地がいい場所です。
でも、ファッションの世界も好きなんです。
自分の人生を、サッカーだけに頼ろうとは思っていません」
プロの世界に立てるのは一握り。
さらに、サッカー選手として活躍できる期間は、ほかの職業よりもずっと短い。
そう考えたとき、「サッカー以外の道を持つ」という考え方は、大人にも、今ボールを蹴っている子どもたちにも、どこかで心に留めておきたい視点かもしれません。
スターの光と、その周りで輝こうとする無数の光
ラ・マシア出身のスターたちは、これからもたくさん現れるでしょう。
ラミン・ヤマルがドリブルでスタジアムを沸かせ、ガビやフェルミン・ロペスが中盤で戦い、バルデがサイドを切り裂く。
一方で、その名前がテレビに映らないラ・マシア出身者たちも、大勢います。
レオ・ドス・レイスのように、5部で戦う者もいれば、別の国の2部、3部、セミプロ、あるいはすでに別の仕事に就いている者もいるでしょう。
彼らの多くは、子どものころ、同じピッチで同じ夢を見ていました。
違ったのは、その後の“ほんの数センチ”の差かもしれません。
ケガ、監督の好み、チーム事情、タイミング。
自分ではコントロールできない要素に左右されるのもまた、サッカーの現実です。
それでも、レオは自分の道を「失敗」とは呼びません。
ラ・マシアを「人生で一番良い決断だった」と言い、その仲間たちを「誇り」と言い、自分の現在地を「ここから上に行くための一歩」と言う。
その姿勢にこそ、「育成組織のもうひとつの価値」が表れているのではないでしょうか。
ラ・マシアで学んだのは、戦術やテクニックだけではなく、困難に向き合い続ける姿勢、環境が変わっても学び続ける姿勢なのかもしれません。
あなたなら、もしラ・マシアでプレーして、トップに届かなかったとしたら、どういう気持ちでその後のキャリアを歩むでしょうか。
そこからもサッカーを続けますか。
それとも、別の道に進みますか。
どちらを選んだとしても、そこにはきっと、その人なりの「プロフェッショナル」があるはずです。
夢はひとつじゃなくていい
レオ・ドス・レイスは、こう語ります。
「Leo Dos Reis es un chaval que lleva años intentando escalar en el mundo del fútbol y ser profesional」 「レオ・ドス・レイスは、何年も前からサッカーの世界を登っていこうとしている青年で、プロの選手になろうとしている途中の人間です」
まだ途中。
そう言い切れる22歳の言葉には、「終わり」を語る気配がまったくありません。
ラ・マシアでの時間も、ヨーロッパ各地のクラブを渡り歩いた経験も、そして今コルネジャで戦っている日々も、すべてが「プロを目指す物語」の一部なのです。
ピッチの上だけが“夢”ではありません。
学び直すことも、別の仕事を持つことも、同時に夢であっていい。
それでも、ボールを追いかけ続けることもまた、一つの尊い選択です。
ラ・マシアのスターたちを応援するとき、こんな選手たちの存在も、ほんの少しだけ思い浮かべてみてください。
ガビやバルデ、フェルミン・ロペスの背後には、数え切れない仲間たちの“物語”が折り重なっています。
その一つひとつが、サッカーというスポーツの豊かさをつくっているのかもしれません。
最後に、こんな言葉を添えたいと思います。
「Success is not final, failure is not fatal: it is the courage to continue that counts.」 「成功がすべての終着点ではなく、失敗がすべての終わりでもない。
大切なのは、続けようとする勇気である」
