フランスの1-0に隠れた強さ──マチュイディ、ジルー、エムバペから日本サッカーが学ぶべきこと
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極寒のエカテリンブルクで見えた、「1-0のフランス」が強い理由

吐く息が白く凍るロシア、エカテリンブルク。 ピッチをぐるりと囲むスタンドは、赤と白のユニフォームで埋め尽くされていました。 そこに響くのは、ほとんどペルーのチャントばかり。 数字にすると2万人以上、まるで南米のスタジアムをそのまま北へ運んできたかのような空気でした。
その中で、フランス代表は冷静に、そして最小限の差で勝ち切ります。 スコアは1-0。 決めたのは、19歳のキリアン・エムバペ。 この1点でフランスは決勝トーナメント進出を確定させ、ペルーは大会から姿を消すことになりました。
派手なゴールラッシュでも、劇的な逆転勝利でもない。 それでも、この試合は「なぜフランスは強いのか」「なぜ日本はこういう勝ち方に慣れていないのか」を考える材料に満ちていました。
マチュイディは「左サイドハーフ」か、「左の守備職人」か
ディディエ・デシャンの小さな違和感から始まった形
フランスの指揮官ディディエ・デシャンは、オーストラリア戦の終盤から一つの答えを見つけていました。 オリヴィエ・ジルーとブレーズ・マチュイディの同時起用です。 ペルー戦の先発でウスマン・デンベレとコランタン・トリッソを外し、ジルーとマチュイディを入れたことで、チームは大会を通しての「基本形」を手に入れました。
面白いのはマチュイディの立ち位置です。 紙の上では4-2-3-1。 しかし、彼は純粋な左ウイングでも、インサイドハーフでもありませんでした。 左サイドに出て相手のサイドバックをケアしながらも、守備時には中に絞って三人目のボランチのように振る舞う。 攻撃時は少し外で幅を取り、守備では内側で数的優位を作る。
右にはエムバペ、中央にグリーズマン、前にジルー。 その後ろでポール・ポグバとエンゴロ・カンテがダブルボランチ。 こうしてフランスは、攻撃では4人が前線に顔を出し、守備では中盤に厚みを持たせる「非対称」のチームになりました。
| 選手 | 役割 | 数字への貢献 | チームへの貢献 |
|---|---|---|---|
| ブレーズ・マチュイディ | 非対称左サイド・守備職人 | △ | ◎ |
| オリヴィエ・ジルー | ポスト型CF・スペース創出 | △ | ◎ |
| キリアン・エムバペ | 右WG・最終得点者 | ◎ | ○ |
| ポール・ポグバ | ダブルボランチ・起点 | ○ | ○ |
| エンゴロ・カンテ | ダブルボランチ・守備 | △ | ◎ |
日本でマチュイディ型の選手はどう扱われるか
ここで一つ問いかけてみたくなります。 もし、マチュイディのように「走力があって、気が利いて、でもドリブルで抜き去るタイプではない」選手が、日本の育成年代やプロチームにいたらどう評価されるでしょうか。
日本では、サイドの選手には
- 1対1で相手を抜けるか
- クロスの精度が高いか
- 得点かアシストを量産できるか
といった分かりやすい基準が求められがちです。 しかし、このペルー戦のマチュイディは、そうした「派手さ」の物差しでは測りにくい選手でした。
彼の価値は、
- 相手のカウンターの芽をことごとく摘むこと
- ポグバやエムバペが攻撃に出ていった後ろを、何事もなかったかのように埋めること
- フルスプリントで戻り、相手の嫌なスペースに体を滑り込ませること
といった「チームが安心してリスクを取れる状態を作ること」にありました。
日本でも、こうした「マチュイディ型」の選手を、ただの便利屋で終わらせずに、チーム戦術の中心に据えられるかどうか。 それは、これからの日本サッカーが勝ち切る力を身につけられるかどうかに直結しているのかもしれません。
エムバペの「一番簡単なゴール」が持つ重み
- 走力があって気が利くが派手さのない選手を「便利屋」で終わらせず、カウンター封殺・スペース埋めなどチーム戦術の中心的役割として位置づける
- ジルーのように得点よりポストプレーや守備貢献が光るFWには「今日のポストプレーが助かった」と役割の価値を言葉で伝える
- 1-0の状況ではリスクを冒さず時間を管理する交代と戦い方を練習からシナリオとして準備しておく
華やかさではなく、そこにいることの価値
ゴールが生まれたのは前半34分。 ポグバが中盤でボールを奪い、ジルーに預けます。 ジルーのシュートは相手DFアルベルト・ロドリゲスに当たって軌道が変わり、ループ気味のボールがゴール方向へ。
そのボールを、エムバペはただ押し込むだけでした。 もしかすると、そのままでも入っていたかもしれないようなボール。 19歳のスター候補が決めたのは、キャリアでも一番簡単と言っていいゴールだったかもしれません。
それでも、その瞬間に刻まれたのは記録です。 ワールドカップでゴールを決めたフランス代表選手としては史上最年少。 この「何でもないように見える1点」は、フランスの未来と歴史をつなげる象徴になりました。
- エムバペのゴールはアクロバティックなシュートではなく押し込みだった。こぼれ球に詰める習慣とゴール前ポジショニングの感覚を日頃から磨く
- マチュイディのような「ハイライトに映らない貢献」がチームの安心感を生む。自分の役割を地味でも誇りを持って全うすることがチームの強さにつながる
- ベンチから見る「試合運びの管理」を学ぶ機会にする。交代のタイミング・コーナーでのボールキープなど勝負を決める細部に気づく目を育てる
日本のストライカーは「きれいに決めよう」としすぎていないか
ここでもう一つ、日本に引き寄せて考えてみます。 日本のストライカーは、得点シーンに「美しさ」や「完結したプレー」を求めすぎてはいないでしょうか。
エムバペは、その直前にも難しいアクロバティックなシュートを狙っています。 しかし、ゴールとして残ったのは、派手さのない押し込みでした。 大事なのは、「最後にそこにいること」、そして「味方のシュートがこぼれてきた時、迷わず触ること」。
ジュニア年代の指導現場でも、
- こぼれ球に詰める習慣
- ゴール前でのポジショニングの感覚
- 「自分のゴール」への執着心
をどこまで優先して教えられるか。
きれいなミドルシュートやドリブル突破のゴールは目を引きます。 一方で、このエムバペのようなゴールは、ハイライトで一瞬で流されてしまうかもしれません。 それでも、勝ち点3を持って帰るのは、こういう1点だったりします。
ジルーという「点を取らないエース」の存在
ゴール以外で試合を支配するセンターフォワード
この試合で最も評価されたフランスの選手は、得点を決めていないオリヴィエ・ジルーでした。
彼は前線で「的」となり、背中でボールを受け、エムバペやグリーズマンに時間とスペースを与え続けました。 エムバペのゴールの場面でも、ポグバからのパスを引き出したのはジルーであり、シュートを打ったのもジルーです。
その後も、グリーズマンのパスにあと一歩で届きそうになり、ルーカス・エルナンデスのシュートのこぼれ球を狙い続けました。 セットプレーでは自陣のゴール前に戻り、ヘディングでピンチを防ぐ。 数字に残らない部分で、彼は何度も試合の流れをフランス側に引き寄せていました。
日本サッカーの「センターフォワード観」を問い直す
日本では、センターフォワードに対して「ゴール数」で評価が集中しがちです。 しかし、ジルーのように、
- 味方のためにスペースを作る
- ボールを収めて周囲を生かす
- 守備でもゴール前を守る
といった役割を担うFWをどう受け止めるか。
日本代表でも、ポストプレーが得意なFWが起用されるたびに、「得点が少ない」「決定力がない」という評価が飛び交います。 しかし、フランスがこの大会で世界の頂点に立ったとき、彼らの9番は、得点王ではなく「チームのバランスを完成させる存在」でした。
もし、あなたのチームのFWがジルーのようなタイプだったら、どう声をかけるでしょうか。 「もっと点を取れ」だけではなく、「今日のポストプレーが助かった」と、役割の価値を伝えられるか。 それもまた、勝てるチーム作りの一歩なのかもしれません。
「走るペルー」と「待つフランス」 真逆のスタイルがぶつかった夜

ボールを持たされるフランスの苦しみ
前半の途中から、試合の構図ははっきりしていきました。 ペルーは前から出ていき、ボールを動かし、シュートまで持ち込もうとします。 一方のフランスは、自陣でコンパクトに構え、奪った瞬間にエムバペやグリーズマン、ジルーにボールを預けて一気に運ぶ。
特に前半の39分には、そのコンセプトが見事に表現されました。 タッチライン際からポグバが前方のスペースへエムバペを走らせ、そのスプリントで相手DFを一人置き去りに。 エムバペがグリーズマンに預け、さらにジルーへとボールは流れていきます。 3本のパスで60メートル近く進む、フランスらしい速攻でした。
しかし、それが常に出せたわけではありません。 後半、ペルーが守備ブロックを下げ、フランスにボールを持たせる形になると、攻撃は一気にぎこちなくなりました。
フランスは、
- 自分たちから崩しに行く場面
- 相手に持たせて奪ってから走る場面
この二つを使い分ける必要に迫られ、その「前者」の部分では、決して世界最高レベルとは言えないもろさも見せていました。 グリーズマンは後半、ほとんど存在感を失い、ジルーへのボールも減っていきます。
攻めるペルー、耐えるフランス──日本はどちらに近いのか
ペルーは、キャプテンのパオロ・ゲレーロを中心に、何度もフランスゴールに迫りました。 前半の決定機をウーゴ・ロリスに止められ、後半にはペドロ・アキーノのミドルシュートがクロスバーとポストの角を叩きます。
試合内容だけ見れば、ペルーが押し込む時間帯も長く、スタジアムの雰囲気は完全に南米側。 それでもスコアは動かない。 最後まで耐え切ったフランスが、1-0で逃げ切りました。
日本代表は、ここ10年ほどでボールを握るサッカーを志向し続けてきました。 しかし、ワールドカップの舞台では、強豪相手に「ペルーのように攻め続けて押し切る」パターンと、「フランスのように耐えながら一撃で仕留める」パターンのどちらを現実的な道筋として設定すべきなのか。
もちろん、どちらが正しいとは言えません。 ただ、この試合は、
- 内容で勝るチームが負けることもある
- チャンスの数より、試合の流れを管理する力がものを言う場面がある
という現実を、改めて突きつけていました。
「1-0で勝つ」という技術を、日本はどう学び直せるか
フランスが手にしていた「スコアのコントロール」
試合終盤、デシャンはポグバを下げてスティーヴン・エンゾンジを投入しました。
この交代には、
- イエローカードをもらっていたポグバを守る
- 空中戦と守備に強いエンゾンジで、ペルーの勢いをいなす
という意図がありました。 そして、時間の使い方も徹底していました。
コーナーキックでボールをキープし、タッチライン際でファウルをもらい、リスクを冒して2点目を取りに行くよりも、今ある1点を守り切ることを優先する。
そこには、「この1-0で十分」という冷静な判断がありました。 勝てばグループ突破が決まる。 ペルーの攻撃は勢いを増している。 ならば、リードを広げる勝負よりも、今あるスコアをコントロールする方が大事。
日本にとっての「1-0」の重み
日本代表の歴史を振り返ると、「1点差を守り切る勝利」は、実はそれほど多くありません。 リードしていても、どこか落ち着かず、攻め続けることでしか守れない感覚がチームに漂うこともあります。
一方で、この試合のフランスには、「怖さ」を抱えながらも、それを受け入れて守り切る覚悟がありました。 2点目が取れないことに焦るのではなく、「取れないなら、取られなければいい」と切り替える発想です。
日本サッカーが次の段階に進むとき、
- 内容が悪くても勝ち点3を取る
- 相手の時間帯をやり過ごす
- 1点差で勝ち切るための交代と戦い方を準備しておく
といった「試合運びの技術」をどれだけ磨けるかが問われるのかもしれません。
ペルーが見せた情熱と、日本が重ね合わせるべき悔しさ
36年ぶりのワールドカップと、届かなかった1点
ペルーにとって、このロシア大会は1982年以来のワールドカップでした。 キャプテンのパオロ・ゲレーロは、ドーピングによる出場停止処分をめぐる紆余曲折の末、ギリギリで出場が認められました。 彼にとっても、国にとっても、この大会は特別な意味を持っていたはずです。
それでも、結果としてペルーはグループステージで姿を消します。 フランス戦での善戦も、デンマーク戦での惜敗も、最終的には「あと1点」が足りなかった。
日本もまた、ワールドカップのたびに「あと一歩」「あと一点」「あと数分」といった言葉を積み重ねてきました。 ペルーの姿は、どこか日本代表の姿と重なって見えます。
あなたなら、この1-0から何を学び直すか
このフランス対ペルーの試合は、派手な名場面の連続ではありませんでした。 それでも、
- 非対称なシステムでバランスを取る工夫
- マチュイディのような「陰の主役」の価値
- ジルーが体現した、点を取らないエースのあり方
- エムバペの「簡単なゴール」にこそ宿るストライカーの本質
- 攻め続けるペルーと、耐えながら勝つフランスの対比
といった、多くの問いを私たちに投げかけてくれます。
もしあなたが選手なら、この試合からどんなプレーを自分のものにしたいでしょうか。 もしあなたが指導者なら、どの選手をチームの「ジルー」や「マチュイディ」として見出すでしょうか。 そして、もしあなたがサポーターなら、「内容より結果」の試合を、どんな気持ちで受け止めるでしょうか。
サッカーは、ときに華やかさを手放してでも、勝ちにしがみつかなければならないスポーツです。 そして、その1点差の裏側には、目に見えにくい工夫と、目立たない献身が必ず隠れています。
派手なゴールよりも、地味な1-0を噛みしめられるようになったとき、チームも、選手も、そして私たちのサッカーの見方も、少しだけ強くなっているのかもしれません。
大差の勝利が拍手を呼ぶなら、1点差の勝利は、静かな学びを残してくれる。
