イタリア若手サッカー選手たちの欧州“旅立ち”――創造性と育成環境、そして未来への課題
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若き才能たちの「旅立ち」:イタリアサッカーが直面する現実と問い
20世紀の終わり頃から、世界中のクラブが国境を越えた人材獲得に本腰を入れる中、イタリアの若き才能たちもまた、海を渡り自らの可能性を追い求める時代になっています。2024年、カタールで行われたU-17ワールドカップの舞台で躍動したイタリア代表の新星、サムエレ・イナシオ(Samuele Inacio)は、まさにその象徴とも言える存在です。
ピッチの「10番」が示す、創造力の価値
イタリアU-17代表の10番、イナシオ。彼は父ナポリやアタランタで活躍したイナシオ・ピアを持ち、母国でも屈指の育成環境であるアタランタの下部組織で育ちました。しかし、2024年夏、彼は新たな地を選びます。ドイツの名門、ボルシア・ドルトムントに加わり、すぐさまクラブワールドカップへも帯同。“10番”の持つ創造性と自由な発想、彼の憧れである「Neymar」や「Ronaldinho」へのリスペクトが、そのプレーには強く宿っています。
「A Dortmund hai sempre tutto a disposizione per migliorare il tuo livello e le tue prestazioni」
(ドルトムントでは常に自分のレベルやパフォーマンスを向上させるための全てが揃っている)と彼自身が語るように、ドイツが誇るインフラや育成システムは、彼を始めとするイタリアの若き才能を強く惹きつけています。
| 比較観点 | イタリア | ドイツ・スペイン・ポルトガル | 評価 |
|---|---|---|---|
| トップへの出場機会 | U-19でのリーグ出場が「話題」になるほど希少 | 若手を積極起用する文化が定着 | △ イタリアが不利 |
| 一貫した育成哲学 | クラブごとに断絶が生じやすい | バルセロナのように下部から一貫した同スタイル(ナタリ証言) | △ イタリアが不利 |
| インフラ・サポート体制 | 整備水準にクラブ間格差あり | 「常に全てが揃っている」(イナシオのドルトムント評) | △ イタリアが不利 |
| 多様性の取り込み | 移民ルーツ選手の代表入りが増加傾向 | 多様なバックグラウンドを早期から戦力化 | ○ 改善中 |
| 代表育成の結果 | U-17欧州制覇・U-20W杯準優勝と好結果 | 先進国も近年強化が続く | ◎ 結果は出ている |
| 国内クラブへの残留率 | 才能の海外流出が顕著(リベラリ・コレッタ等) | 国内トップリーグが若手の受け皿に | △ 流出リスク大 |
「外」へと向かう、次世代イタリアンたち
イナシオと共にドルトムントでプレーするフィリッポ・マネ(Filippo Mané)やルカ・レッジャーニ(Luca Reggiani)、またバイエル・レバークーゼンで夢を追うアンドレア・ナタリ(Andrea Natali)、バイエルン・ミュンヘンのグイド・デッラ・ロヴェレ(Guido Della Rovere)など、今や10代半ばのイタリア人選手がブンデスリーガや欧州各国のトップ育成クラブに活躍の場を求めるのは珍しくありません。
特筆すべきは、その「旅立ち」が単なる偶然ではないという点です。ドイツやスペイン、ポルトガルのクラブは、選手たちに言語や生活面も含めた手厚いサポートや、戦術・技術発展のための環境を当たり前のように用意しています。ナタリが語る「Al Barcellona fa specie vedere che da quando sei piccolino fino alla prima squadra c'è lo stesso stile di gioco」(バルセロナでは、下部組織の少年からトップチームまで同じサッカースタイルが貫かれているのが驚きだった)は、まさに一貫した育成哲学の表れでしょう。
- 一貫した戦術哲学をU年代から体系化する — バルセロナのように「下部から同じスタイル」を持つクラブが選手に選ばれる。年代間のスタイルの断絶は選手の流出を招く。
- 出場機会を「与えるコスト」ではなく「育成への投資」として捉える — 国内でチャンスを得られないと判断した選手は海外へ移籍する。若手に出場機会を与えることがクラブ力の蓄積につながる。
- フィジカル・戦術・言語など多面的なサポートを準備する — マンブクが「フランスはフィジカル、イタリアは戦術」と語ったように、多様なアプローチが選手に多面的な成長をもたらす。複数の要素を組み合わせた環境設計が必要だ。
なぜ“外”へ向かうのか? その内的要因と問いかけ
近年、イタリアのクラブと欧州他国の若手へのチャンスの与え方やクラブ内環境の差は、さらに拡大しつつあります。“国内最高レベル”とされるミランの下部組織を巣立ったリベラリ(Mattia Liberali)もセリエBでは出場機会を持てず、新天地を探しました。またローマの逸材コレッタ(Federico Coletta)は育成環境やチャンスを求めてベンフィカへ移籍。実際、彼自身も「Il Benfica è un club che lavora molto bene con i giovani, dedicando loro molta attenzione e offrendo loro le migliori condizioni possibili」(ベンフィカは若手にとても良い環境を用意してくれる)とコメントしています。
「セリエA上位クラブにおけるU-19選手の扱い」「ヨーロッパの他リーグと育成哲学、インフラ面での違い」―これらの現実を前に、読者は何を感じるのでしょうか。もし自分が若き才能の「親」であったなら、あるいは指導者であったなら、どんな選択を後押しするのか。サッカー大国イタリアの将来を、担い手たちが海を越えて追う現象から何を学ぶべきなのでしょうか。
- 「育成環境の質」を基準に進路を選ぶ視点を持つ — コレッタがベンフィカを選んだように、ビッグネームのクラブより「若手への投資」が明確なクラブが成長を加速させることがある。
- 言語・生活面のサポート体制を事前に確認する — ドルトムントやバルセロナは選手に生活・語学サポートを当然のように提供する。海外移籍を検討する際はこの環境整備を条件として確認することが重要だ。
- 多様な文化・スタイルへの適応力がプロでの武器になる — グローバルに育った選手がイタリア代表に新たな視点をもたらしているように、異文化体験はサッカーの幅を広げる強みになる。
グローバル化するサッカーと、イタリア代表の“多様性”
選手たちは今や、ヨーロッパ中の育成組織、さらには南米やアジアのサッカー文化をも身に着けたグローバル人材となっています。ベンジャミン(Emanuel Benjamin)のようにスペイン育ちでイタリアU-17代表に加わり、ジャン・マンブク(Jean Mambuku)のようにフランスやイングランドの環境で育ち、そのままイタリア代表入りする例も増加。
「In Francia c’è più fisicità, in Italia più attenzione alla tattica」
(フランスはよりフィジカル、イタリアは戦術により注意が払われている)
と語ったマンブクの言葉からも、彼らの多様な視点がイタリアサッカー界に新たな風をもたらしていることが伝わります。
組織改革と現実の“壁”
この数年で、イタリアの下部代表チームはU-19欧州制覇、U-20ワールドカップ準優勝、U-17欧州制覇という結果で“若さ”の可能性を示してきました。しかし最大の課題は、若手の「プロ入り」への橋渡しが難しい現実――すなわち、下部組織からトップチームへスムーズに進む“出口戦略”の希薄さです。
元バルセロナでアルティンの監督であるファブレガス(Cesc Fàbregas)も、「In Spagna abbiamo l’ossessione della crescita dei giovani, qui invece molto meno」(スペインでは若手育成に執着するほどだが、イタリアではそこまで強くない)と指摘。イタリアではU-19の出場が“話題”になるほど、トップチームと若手の間には依然として高い壁が存在しているのです。
求められるイタリア独自の「若手戦略」
もちろん、国内でもジェノアがホネスト・アハノールやジェフ・エカトル、ロレンツォ・ヴェントゥリーノらU-19世代を積極起用し新たなモデルを提示しました。また、移民ルーツの選手たちが続々と現れ、国籍や生まれの“多様性”によるチーム力の向上も注目されています。しかし、システム全体としては多くの才能を「囲い込み切れない」状況です。
読者のみなさんは、イタリアサッカーのこの現状をどう受け止めるでしょうか? 海外で磨かれた多様なフットボール観やスキルは、むしろ新時代のイタリア代表を大きく進化させる可能性も秘めています。一方で、伝統の国内サッカー文化との調和は難しく、出口戦略の不在は将来の課題を深刻化させかねません。それでも、夢を追い自らの意思で挑戦を選ぶ少年たちの姿には、サッカーというスポーツの持つ「希望」と「普遍性」が原点として存在しています。
未来を照らす若き旅人たちにエールを
サムエレ・イナシオや仲間たちは、サッカー王国イタリアの誇りと根強い課題、その両面を体現しています。彼らが見せてくれる未来への歩みに、私たちも引き続き注目し、問いかけを続けていきたいものです。
最後に、このテーマにふさわしい名言を紹介します。
「Non c'è strada troppo lunga per chi cammina lentamente senza fretta, non c'è meta irraggiungibile per chi si prepara con perseveranza.」
(急がず一歩ずつ進めば、どんなに遠い道も歩み切れる。粘り強く準備すれば、どんな目標も決して届かないものはない。)
彼らイタリアの若き才能たちの“旅路”が、いつか世界最高峰の舞台で花開くことを願ってやみません。
