ミラノが「世界の富裕層都市」になった理由――デクレート・ロナウドが変えたお金と都市の新しい関係
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ミラノが「世界の富裕層都市」になった理由とは? デクレート・ロナウドと新しい都市のかたち

イタリア・ミラノという街を思い浮かべると、みなさんは何を想像するでしょうか。 サン・シーロでの熱いサッカーの試合、インテルやミランのユニフォーム、ファッションウィークのランウェイ、あるいは石畳の街並みでしょうか。 いま、この「小さな大都市」ミラノは、世界の中でも特別な意味を持つ街になりつつあります。 それは「サッカーの都」でも「ファッションの都」でもありながら、「富裕層が集まる都」という顔を強くしているからです。
イギリスのコンサルティング会社Henley & Partnersによると、ミラノにはおよそ11万5000人のミリオネア(資産が100万ドル以上の富裕層)が暮らしています。 この数字だけを見ると、世界ランキングでは11位。 ニューヨークやロンドン、東京、シンガポール、ロサンゼルスなどが上位に名を連ねる中で、ミラノは絶妙な位置にいます。 しかし、ミラノの本当の特徴は「人口に対する富裕層の割合」にあります。
12人に1人がミリオネアという都市
ミラノでは、住民登録されている人を12人集めると、そのうち1人はミリオネアという計算になります。 「one in twelve(ワン・イン・トゥエルブ)」、つまり 「12人に1人がミリオネア」 ということです。
これは次のような大都市よりも高い比率です。 「New York: one in 22(ニューヨーク:22人に1人)」 「London: one in 41(ロンドン:41人に1人)」 「Rome: one in 54(ローマ:54人に1人)」
ローマと比べると、その差はとても大きく見えます。 同じイタリアの都市なのに、どうしてここまで違いが出てしまうのでしょうか。 サッカーでいえば、同じリーグに所属しているのに、クラブの予算規模がまるで違うようなものです。 ローマが伝統ある強豪クラブだとすれば、ミラノは世界中から投資家やスター選手が集まってくる「ビッグクラブ」に近い存在になりつつあります。
| 都市 | ミリオネア数 | 人口比(約) | 評価 |
|---|---|---|---|
| ミラノ | 115,000人 | 12人に1人 | ◎ 突出した密度 |
| ニューヨーク | 384,500人 | 22人に1人 | ○ 絶対数は最多 |
| ロンドン | (参考) | 41人に1人 | ○ 金融都市 |
| ローマ | 51,800人(26位) | 54人に1人 | △ 同国でも大差 |
| ミラノ(センティミリオネア) | 182人(1億ドル超) | 7,692人に1人 | ◎ モナコに匹敵 |
| モナコ(比較) | 192人 | (人口僅少) | ◎ 富裕層の聖地 |
「百ミリオネア」が示すミラノの本当のインパクト
さらに興味深いのは、資産1億ドル以上の「centimillionaires(センティミリオネア)」の数です。 ミラノには、この超富裕層が182人暮らしているとされています。 「centimillionaire(センティミリオネア)」とは 「100 million dollars or more in liquid investable assets (少なくとも1億ドルの流動資産を持つ人)」 という意味です。
この182人という数字は、モナコの192人に迫り、チューリッヒやマイアミ、さらにはモスクワをも上回ります。 人口規模から考えれば、ミラノがどれほど「お金の密度」が高い街か、イメージしやすくなるかもしれません。 およそ7692人に1人が1億ドル以上の資産を持つ計算で、その割合はロサンゼルスやパリと肩を並べ、ニューヨークやロンドンを上回ります。
ここで一つ問いかけてみたくなります。 あなたが子どもと一緒にミラノの街を歩いているとします。 カフェで隣に座っている人、信号待ちで一緒になった人、地下鉄で向かい側に座っている人。 その中に「1億ドルプレーヤー」が混ざっているかもしれない、という都市。 そこで暮らす人たちの感覚は、いったいどう変わっていくのでしょうか。
- クラブの補強力と都市の経済力を結びつけて説明する — ミラノの富裕層密度がインテル・ミランの財政規模につながることを示し、「なぜビッグクラブは特定の都市に集中するのか」を選手と議論する授業を組む
- 「税制=ルールのデザイン」という視点を持たせる — 各国が富裕層を呼び込む税制競争を、サッカーの移籍市場の契約条件競争に例えて説明。制度設計がゲームの結果を変えることを伝える
- 経済ニュースをサッカーの話題から入門させる — デクレート・ロナウドという固有名詞を入口にして、税制・都市経済・雇用創出の連鎖を保護者向け勉強会や部活の朝礼で紹介する
「デクレート・ロナウド」と呼ばれる税制
では、なぜミラノにこれほどまでに富裕層が集まっているのか。 その背景には、都市としての魅力だけでなく、はっきりとした「制度」があります。 それが、2017年に導入された「regime opzionale(レジーメ・オプツィオナーレ)」と呼ばれる税制優遇措置です。
この制度は、イタリアの税法第24-bis条に基づき、海外からイタリアに移住してくる富裕層に対して、海外で得た所得に対する税金を「定額」にするというものです。 その金額は、 「un’imposta forfettaria di 200.000 euro (20万ユーロの定額課税)」 とされています。
サッカーファンにとって興味深いのは、この制度が 「decreto Ronaldo(デクレート・ロナウド)」 と呼ばれていることです。 ポルトガルのスター選手、クリスティアーノ・ロナウドがユベントスに移籍した際、この税制が大きな魅力となったとされているからです。 有名選手にとって、年俸の「手取り」がどれくらいになるかは、クラブ選びに直結します。 それは実業家や投資家にとっても同じことで、ミラノは一気に「移住先として有利な都市」と見なされるようになりました。
3600人の富裕層が動かした「20.7ビリオンドル」

この「デクレート・ロナウド」の威力は、数字ではっきり表れています。 2025年のデータによると、イタリアには3600人の新しい富裕層が移住し、その多くがミラノを拠点としました。 彼らがイタリアに持ち込んだ資産は、合計でおよそ 「20.7 billion dollars(207億ドル)」 1人あたりでは 「5.7 million dollars(570万ドル)」 に相当します。
この資産に対し、彼らが支払う税金は年間20万ユーロ。 「È il costo dell’attrattività fiscale. (それが、税制による“魅力”のコストである)」 という指摘がなされています。 世界中の国々が、優秀な人材や大きな資産を呼び込むために、税制という「ルールのデザイン」を競い合っているのです。
私たちがサッカーの世界で、あるクラブが「年俸総額」や「移籍金」で他クラブと競っているのを見るのとよく似ています。 各国は「国家クラブ」、都市は「ホームスタジアム」、そして税制は「契約条件」。 ミラノは、ここ数年でその条件を一気に魅力的にし、多くのスターを引き寄せた、とも言えます。
- クラブの強さは都市の経済力と連動している — ミラノがインテルとミランという2大クラブを擁せるのは偶然ではない。都市の富裕層密度・企業集積・スポンサー力がクラブの補強予算を支えている現実を知ろう
- 「デクレート・ロナウド」が選手の移籍先選びにも影響している — 年俸の手取りが増える税制は、スター選手のクラブ選択に直結する。ロナウドのユベントス移籍にもこの制度が影響したとされていることを覚えておこう
- 富が集まる街では新しい仕事も生まれる — 移住富裕層の60%以上が起業家や創業者で、高給職を間接的に何千も生み出す。サッカー選手だけでなく、スタジアム経営・スポーツマーケティング・データ分析など多様なキャリアが存在することを知ろう
相続税という「第二の魅力」
もう一つ、ミラノを含むイタリアの魅力として挙げられるのが「相続税の低さ」です。 イタリアの相続税はおおむね4%前後で、スイスの伝統的な税率に近い水準とされています。 一方、世界にはオーストラリア、オーストリア、カナダ、香港、イスラエル、マルタ、モナコ、シンガポール、アラブ首長国連邦といった「相続税ゼロ」の国・地域もあります。
それにもかかわらず、富裕層がイタリア、とくにミラノを選ぶのはなぜでしょうか。 そこには、「税金」だけでは説明できない、街そのものの魅力が関係しているのかもしれません。 サッカー、ファッション、デザイン、歴史、食文化、そしてヨーロッパの中心に位置する地理的条件。 ビジネス、金融、モード、デザインの「グローバル・ハブ」としてのミラノは、生きる場所・働く場所としての価値を高めているのです。
富裕層は本当に「仕事」を生み出すのか
富裕層の流入には、もちろん懸念もあります。 住宅価格や生活コストが上がり、もともと住んでいた人たちが暮らしにくくなるのではないか、という不安です。 「ミリオネアだらけの街になって、普通の人はどうなるのか。」 そう感じる方もいるでしょう。
一方で、国際的なレポートは、富裕層の移住がもたらす「ポジティブな側面」も示しています。 移住してくる人たちのうち、およそ15%は起業家や創業者であり、新しい会社を興し、現地での雇用を生み出すことが多いとされます。 また、センティミリオネアやビリオネア(10億ドル以上の資産を持つ人)の場合、この割合は60%を超えるともいわれています。
さらに、次のような指摘もあります。 「l’effetto forse più rilevante è la creazione indiretta di migliaia di posti di lavoro ben retribuiti. (おそらくもっとも重要な効果は、高給の仕事を何千も間接的に生み出すことである)」
具体的には、 高級ホテル、ハイエンドのレストラン、ラグジュアリー小売り、高級ファッション、不動産、テック産業、資産運用、ファミリーオフィスなど。 これらの分野で、多くの雇用が生まれ、専門性の高い人材が育っていきます。
ミラノを歩けば、観光客だけでなく、世界中から集まったビジネスパーソンやクリエイター、エンジニアが働いている姿を見ることができます。 サッカーで言えば、世界中から優秀な選手やスタッフが集まる「ビッグクラブ」が、その街にもたらす経済効果と、どこか重なって見えてきます。
ランキングの中のミラノとローマ
改めて、ミリオネアの数で都市を並べてみると、次のようになります。 ニューヨーク(384,500人)、ベイエリア、東京、シンガポール、ロサンゼルス、ロンドン、パリ、香港、シドニー、シカゴと続き、その次にミラノが入ります。 ミラノのミリオネアは115,000人。 一方、イタリアの首都ローマはトップ20圏外の26位で、51,800人とされています。
サッカーでたとえるなら、セリエAという同じリーグの中で、財政規模の大きなクラブと、伝統はありながら資金面では一歩譲るクラブが並んでいるようなものです。 スタジアムがある街の経済力と、クラブの補強費や選手の年俸には、どうしても重なり合う部分が出てきます。 もしあなたが子どもと一緒に試合を見ながら、「どうしてこのクラブは毎年スター選手を取れるの?」と聞かれたとしたら、都市のこうした背景を少しだけ説明してみるのも、良い学びになるかもしれません。
富が集まる街で、何を学ぶか
ミラノは、サッカー、ビジネス、ファッションという異なる世界が、不思議なバランスで共存している街です。 「富裕層が増えること」は、単純に良い、悪いと決めつけることはできません。 生活コストの上昇や格差の拡大への懸念もあれば、新しい仕事やビジネス、文化が生まれるチャンスもあります。
大切なのは、その変化を「自分ごと」として考えてみることかもしれません。 もし、あなたが今10歳だとして。 20年後、ミラノのように世界中から人とお金とアイデアが集まる街で働くとしたら、どんな仕事をしてみたいでしょうか。 サッカークラブの経営に関わる人になるのか、スタジアム周辺の街づくりをする人になるのか、あるいはデータ分析やファイナンスでクラブを支える人になるのか。 富が集まる街は、「お金が動く場所」であると同時に、「新しい役割が生まれる場所」でもあります。
そして、親世代にとっては、こうしたニュースをどう子どもに伝えるかも、一つの問いになるでしょう。 「お金持ちの数」をただ眺めるのではなく、その裏にある「制度」「都市の戦略」「働き方の変化」を、サッカーや身近な話題と結びつけて一緒に考えていく。 それは、これからの時代を生きるうえでの「経済リテラシー」を育てる、ささやかな一歩になるのかもしれません。
ミラノが選んだのは、税制や都市の魅力を武器に、世界中の富裕層と企業家を引き寄せる道でした。 では、あなたの住む街は、これからどんな道を選んでいくのでしょうか。 そして、あなた自身は、その変化の中でどんなポジションを取りたいと思いますか。 サッカーのピッチで、自分のポジションを見つけるのと同じように、都市という大きなフィールドの中で、自分の役割を考えてみることが求められているのかもしれません。
最後に、一つの言葉を紹介して締めくくりたいと思います。 「La ricchezza è come il talento: vale solo se viene messa in gioco. (富は才能と同じで、使われてこそ価値がある)」
ミラノに集まる富が、どれだけ多くの人の挑戦と学びにつながるのか。 それを決めるのは、制度だけでなく、そこに生きる一人ひとりの選択なのかもしれません。