ティグレス監督グイド・ピサーロが示す「ポジションではなく生きる場所を探す」指導哲学と選手の特徴を生かす戦術設計

ポジションではなく「生きる場所」を探すサッカー――グイド・ピサーロに学ぶ選手の特徴から考える指導と戦術

DEFINITION
グイド・ピサーロが示す「生きる場所」を探す指導哲学とは
ティグレス監督グイド・ピサーロは、システムに選手を当てはめるのではなく選手の特徴に合わせてシステムを変える指導哲学を持つ。「自分の特徴がどこなら一番生きるか」を選手と探し、ピッチ内での自律的な選択ができるチームをつくることを目指している。

ポジションではなく、選手を見るということ

「どこで使うか」ではなく「どう生きるか」

ある指導者は、自分の選手時代を振り返りながらこう語っている。 子どもの頃から、とにかく「今、ピッチで何が起きているのか」を考えるのが好きだった、と。

その結果、彼はひとつのポジションにとどまらなかった。 インサイドハーフ、ダブルボランチ、アンカー、右や左のセンターバック、時にはリベロ。 システムのどこに置かれても、目の前で起きていることを理解しながら、自分の役割を探し続けてきた。

今、その元選手はメキシコの強豪クラブ、ティグレスの監督としてベンチに座っている。 名前はグイド・ピサーロ。 アルゼンチン出身で、長くティグレスでプレーし、キャプテンも務めた選手だ。

彼は今、選手たちに「システム」を教えながらも、 同時に「目の前のサッカーをどう理解するか」を問い続けている。 攻撃でも守備でも、なぜ今このポジションなのか。 なぜこのパスなのか。 自分がなぜここに立っているのか。

それは、「どのポジションが適性か」という話とは少し違う。 むしろ、「自分の特徴が、どこなら一番生きるか」を一緒に探すような作業に近い。

COMPARISON / ピサーロ式指導:「型に合わせる」vs「特徴を生かす」比較
場面 型優先のアプローチ 特徴優先のアプローチ 評価
ウイングの使い方 システム通りに内側へ絞らせる 縦突破が得意なら縦のまま使う ◎ 特徴優先
ポジショナルプレーの適用 ゾーンを厳密に守らせる 選手の動きたい方向とリズムを部分的に尊重しミックスする ○ 柔軟適用
コンバート時の指導 「今日からセンターバックの動きだけをしなさい」 中盤経験をビルドアップにどう生かすかを一緒に探す ◎ 橋渡し
システム選択の基準 理想のシステムを先に決めて選手を配置 選手の顔ぶれを見てからシステムを決める ◎ 現実的
試合中の判断設計 監督がタッチラインから全てを指示 ピッチ内で選手が自律的に状況を解釈し選択できるよう育てる ◎ 自律志向
ミスへの対応 答えを即座に与えて修正させる 「なぜそのポジションをとったか」を一緒に考える材料にする △ 時間がかかる
◎=ピサーロ哲学の根幹 / ○=現場での柔軟な応用

システムは好き、でも「選手の型」を押しつけない

ピサーロは、システムの話も隠さない。 4-3-3、4-2-3-1、3-5-2…。 「システムがシステムを打ち消す」という感覚を持っていて、相手との組み合わせを考えるのが好きだと話している。

ただ、それと同じくらい強く、こうも言う。 チームの形は、選手の特徴によって変わっていくものだ、と。

例えば、ビルドアップで数的優位を作りたい場面を想像してみる。 後ろからつなぎたい。 相手を片側に寄せて、逆サイドを空けたい。 そういう時、指導書には「ウイングが中に入ってインサイドで数的優位を作る」と書かれているかもしれない。

ピサーロも、その考え方自体は理解している。 実際に、片側のウイングは内側に絞り、反対側はタッチラインぎりぎりまで幅を取ることで、相手を伸ばし、ライン間にスペースを作ろうとする。

ただし、ひとつだけ条件をつける。 「そのウイングに、内側でプレーするだけの感覚や特徴があるなら」という条件だ。

もし、その選手が縦への突破や、サイドで1対1を仕掛けることに長けているのだとしたら。 内側で細かく顔を出し続ける役割は、もしかしたらその選手の良さを消してしまうかもしれない。 ピサーロは、そこを無理に変えようとはしない。

彼が大事にしているのは、「型に合わせるために特徴を削る」ことではなく、「特徴を生かすために型を少し変える」ことだからだ。

FOR COACHES / FOR COACHES 指導者が持ち帰る3つの実践視点
「このシステムで、この選手はどこで生きるか」を問い続ける
  1. ポジションを決める前に「この選手の得意なリズム」を言葉にする — 「チームに都合がいい場所」と「この選手の特徴が最も伸びる場所」が一致しない場合があることを前提に、起用理由を自分の言葉で説明できるようにする。
  2. コンバートした選手の「以前のポジションの感覚」を消さない — センターバックに転向した中盤出身者には、その経験をビルドアップや状況判断にどう生かすかを一緒に探し、ポジション名で役割を固定しすぎない。
  3. プレーの前後に「なぜその選択をしたか」を選手と話す時間をつくる — 答え合わせではなく「一緒に考える材料」として、うまくいったプレーも失敗したプレーも同じように取り上げ、監督不在でも自律判断できるチームをつくる。
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ポジショナルプレーを「別の角度」から見る

ピサーロは、ポジショナルプレーについても同じように考えている。 エリアごとに立ち位置を整理し、ボールと味方と相手の関係をコントロールする。 そこには確かに多くのメリットがある、と彼も認めている。

ただ一方で、「決められた位置を守るあまり、選手の特徴が窮屈になっていないか」という疑問も、彼は手放していない。 だからこそ、ポジショナルプレーの考え方に、自分なりの「別の角度」を加えようとする。

例えば、

  • ゾーンを守ること
  • 選手が自然に動きたくなる方向
  • その選手が持つリズムや間合い

これらがぶつかったとき、どこまでを「守るべき約束」とし、どこからを「選手に委ねる自由」とするのか。

そのバランスを探る中で、ピサーロは「ミックス」という言葉を使う。 ポジショナルな考え方をベースにしつつ、選手の特徴を封じないために、少しだけ固定観念をずらしてみる。 その結果としてしか、チームの「最適な形」は見えてこない、と考えているからだ。

そして、その前提にはいつもひとつの条件が並ぶ。 「その形でプレーできるだけの、適切な選手たちがいること」。 つまり、どんなに理想的に見えるシステムやモデルでも、そこに立つ選手の顔ぶれによって、現実は変わるということを認めている。

FOR PLAYERS & PARENTS / FOR PLAYERS & PARENTS 選手・保護者が問い直す3つのこと
今のポジションは「自分の良さが一番出る場所」ですか
  1. 「今のポジション以外ならどんな自分が見えるか」を一度想像する — 別の場所でなら違う自分を見せられる可能性を考えることが、自分の特徴を理解する出発点になる。
  2. 試合で「なぜ今そこにいたのか」を帰り道に自分に問い直す — ボールだけを追うのではなく「相手と味方の関係を見てその場所を選んだか」を言語化する習慣が、ピサーロが選手に求める「状況を理解する力」につながる。
  3. 保護者はポジション名より「そこで何を感じているか」を聞く — 「今日はどこで出た?」より「あのポジション、楽しい?どんなところが難しい?」と問うことで、子どもが自分の特徴を言葉にする機会を自然につくれる。

「監督は選手のためにいる」という発想

ピサーロは、監督としての自分の役割を「選手の上に立つ人」とは表現しない。 むしろ「選手のために働く人」として、自分を位置づけている。

自分の考えるサッカー像を選手に押しつけるのではなく、 選手の特徴を見ながら、その力が一番発揮される場所を一緒に探していく。 そして、その場所で必要な情報やヒントを渡しながら、少しずつプレーの幅を広げていく。

その姿勢は、「ポジションのコンバート」の考え方にも表れている。 センターバックとして起用されている選手の中には、もともと中盤の選手だった者もいる。 サイドバックとして出ている選手が、以前はウイングだったことも少なくない。

そうした選手たちに対して、「今日からあなたはセンターバックだから、こういう動きだけをしなさい」とは言わない。 むしろ、中盤でプレーしていた感覚を、最終ラインからのビルドアップにどう生かすか。 ウイングとしての突破力や、1対1の強さを、サイドバックのポジションでどう表現するか。

ピサーロは、自分が多くのポジションを経験してきたからこそ、その「間」にある感覚を大切にしているのかもしれない。 ポジションが変わっても、選手の中に残り続ける「得意なリズム」を、簡単には手放さないのだ。

日本のサッカー現場で、どう受け取るか

ここまでの話を、日本の育成年代や現場に重ねてみると、いくつかの問いが浮かんでくる。

例えば、ジュニアや中学生年代の現場では、こんな会話が飛び交うことがある。

  • 「この子はサイドバックの選手だ」
  • 「あの子はボランチっぽい」
  • 「点が取れるから、とりあえずフォワードで使おう」

もちろん、特性を見てポジションを決めることは大切だ。 ただ、その瞬間に「その子の将来の可能性」をどこまで一緒に考えているだろうか。 「今一番チームにとって都合がいい場所」と、「この選手の特徴が一番伸びる場所」が、必ずしも一致しないこともある。

また、日本では「戦術理解」という言葉がよく使われる。 相手のシステムに合わせて、自分たちの配置をどう変えるか。 可変システム、ポジショナルプレー、ハイプレス…。 新しい考え方が入ってくるたびに、名称や形に注目が集まる。

ピサーロの姿勢に立ってみると、そこにもうひとつ違う問いを重ねたくなる。 「この戦術を、この選手たちでやるとしたら、誰がどこで一番生きるだろうか」。 「今のシステムに、この選手を無理に当てはめていないだろうか」。

もし、自分が指導者だったら。 もし、自分の子どもが、あるいは自分自身が選手だったら。 そう問い直してみると、ポジションの選び方や、「合っていないかもしれない場所」でのプレーの意味が、少し違って見えてくるかもしれない。

「理解する力」は誰のものか

ピサーロは、「選手に、ゲームの中で何が起きているかを理解してほしい」と繰り返し語る。 監督がタッチラインから全てをコントロールするのではなく、 ピッチの中で、選手が自分で状況を解釈し、選択できるようになることを目指している。

そのためには、プレーの前後で「なぜ、今あのポジションを取ったのか」「他にどんな選択肢があったか」を話し合う時間が欠かせない。 うまくいったプレーも、うまくいかなかったプレーも、答え合わせではなく「一緒に考える材料」として扱われる。

このスタンスは、年齢やレベルに関係なく、どの現場にも持ち込める。 ジュニア年代でも、プロのトップレベルでも、「理解する力」は最終的に選手自身のものだからだ。

指導者ができるのは、その力を奪わないこと。 そして、「考えてもいい」「選んでいい」という空気をつくること。 それは、戦術ボードを使った説明だけでなく、日々の声かけや、失敗に対する反応の仕方にも表れる。

「答えを急がない」ことの難しさ

一方で、サッカーの現場には、いつも「結果」が付きまとう。 試合に勝ったかどうか。 大会でどこまで勝ち進んだか。 プロなら、順位表や契約、評価が待っている。

だからこそ、シーズンの途中で、短期的な解決策に飛びつきたくなることもある。 「この形にすれば結果が出やすい」という成功体験があればなおさらだ。

ピサーロのように、「選手の特徴を見ながらシステムを変えていく」というやり方は、正直に言えば時間がかかる。 ポジションの理解も、選手同士の関係性も、一朝一夕には身につかない。 当然、その途中ではミスも増えるし、うまくいかない試合もある。

それでも、「なぜ今こういう形にしているのか」「なぜこの選手をここで使っているのか」を、指導者自身が説明できるかどうか。 そして、その問いを、自分の中で急いで片付けてしまわないでいられるかどうか。

選手に考えることを求めるなら、指導者もまた、「答えを急がない」覚悟が必要になる。 すぐに答えを出したくなる場面でこそ、「本当にそうか」と一度立ち止まる。 その小さな躊躇が、長い目で見れば、選手の可能性を守る時間になるのかもしれない。

自分なら、どこで生きたいか

ここまで読んで、もしあなたが選手なら、自分に問いかけてみてほしい。 「今、自分がやっているポジションは、本当に自分の良さが一番出る場所だろうか」。 「別のポジションなら、違う自分を見せられるだろうか」。

もしあなたが指導者なら、こんな問い方もできるかもしれない。 「この選手をこのポジションで起用している理由を、自分は説明できるか」。 「システムに合わせるためではなく、この選手が生きるために、形を変える余地はないだろうか」。

そして、もしあなたが保護者なら。 お子さんがどのポジションで出ているかだけでなく、「そのポジションで何を感じているか」を聞いてみるのもひとつの関わり方だろう。 「楽しいか」「難しいか」「どんなところが大変か」。 その言葉の中から、その子がどんな特徴を持ち、どこで生きようとしているのかが、少しずつ見えてくるかもしれない。

FAQ / よくある質問
Q. グイド・ピサーロはどんな監督で、どんな指導哲学を持っていますか?
A. アルゼンチン出身でティグレスのキャプテンも務めた元選手で、現在はティグレスの監督を務めています。インサイドハーフ・ボランチ・アンカー・センターバックなど複数ポジションを経験した背景から、「ポジションの型に選手を合わせる」のではなく「選手の特徴が最も生きる場所を一緒に探す」ことを指導の核心に置いています。
Q. ポジショナルプレーと選手の特徴はどう両立できますか?
A. ピサーロは「ミックス」という考え方を使っています。ポジショナルプレーの立ち位置の整理をベースにしながら、選手が自然に動きたい方向やリズムを部分的に尊重することで、システムの利点を保ちつつ選手の特徴を消さない設計を探しています。「どんなに理想的に見えるシステムでも、そこに立つ選手の顔ぶれによって現実は変わる」という前提に立っています。
Q. 育成年代でポジションのコンバートをする際に気をつけることは何ですか?
A. ポジション名で役割を固定しすぎないことです。ピサーロは中盤出身者をセンターバックで使う際、「今日からこの動きだけしなさい」とは言わず、以前のポジションで身につけたビルドアップ感覚や状況読解力をどう最終ラインで表現するかを一緒に探します。選手の中に残る「得意なリズム」を新しいポジションで生かす橋渡しがコンバート成功の鍵です。
Q. 「選手のために働く監督」とはどういう意味ですか?
A. ピサーロは監督の役割を「選手の上に立つ人」ではなく「選手のために働く人」と定義しています。自分のサッカー像を押しつけるのではなく、選手の特徴を見てその力が最も発揮される場所を一緒に探し、必要な情報やヒントを渡しながらプレーの幅を広げていくことが自分の仕事だと考えています。この姿勢がピッチ内での自律的な状況判断力を持つチームづくりにつながっています。

サッカーは、立ち位置を選び続けるスポーツ

ピサーロが歩んできた、複数ポジションでのキャリア。 システムを好みながらも、選手の特徴に合わせて柔らかく形を変えようとする視点。 そして、監督として「選手のために」自分の考えを使おうとする姿勢。

そこには、「サッカーとは、立ち位置を選び続けるスポーツだ」という静かな前提が流れているように思う。 ピッチの中で、どこに立つか。 どのタイミングで動き出すか。 どの選択肢を手放し、どの選択肢を残すか。

その繰り返しの中で、選手は少しずつ、自分のサッカーを形づくっていく。 指導者もまた、チームの立ち位置を選び続ける。

どの答えが正しいかは、きっと簡単には決まらない。 だからこそ、急いで正解を探すのではなく、「なぜその選択をしたのか」を一緒に考えていく時間にこそ、意味が宿るのかもしれない。

今日の練習や、次の試合の中で、あなたはどんな立ち位置を選ぶだろうか。 サッカーのピッチは、いつもその問いに、静かに答えを求め続けている。

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