パッラディーノ新体制アタランタの現在地と未来図──ガスペリーニ時代を継承し進化させる「整理されたダイナミズム」
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ラファエレ・パッラディーノの新生アタランタとは何者か ―ガスペリーニ時代の先へ進む「次の一歩」を考える
ベルガモの街に、また新しい物語が始まろうとしています。
「ガスペリーニのアタランタ」と聞けば、多くのサッカーファンがすぐにイメージできるでしょう。
勇敢なマンツーマン守備。
ハイテンポで前へ前へと押し出す攻撃。
そしてヨーロッパ常連となった約10年のサイクル。
その長い物語のあとを継いだのが、ラファエレ・パッラディーノです。
ナポリとの初陣、3−1の黒星という結果だけを見れば厳しいスタートに見えます。
しかし、その中には新生アタランタの「現在地」と「これから」が、はっきりと描かれていました。
3バックは継承、でも中身は変える 「カオス」から「整理されたダイナミズム」へ
パッラディーノが選んだ基本システムは3-4-2-1。
ディフェンスに入れば5-2-1-2や5-4-1にも変形し、攻撃では3-1-4-2や3-4-3へと揺らぎます。
大枠はガスペリーニ時代からの「3バック+ウイングバック」という伝統を引き継ぎながら、その中身に「整理」と「ルール」を付け足そうとしているのが見えてきます。
パッラディーノの狙いは、いわば「カオスの中の自由」から「秩序の中の創造性」へのシフトです。
彼が志向するのは、こうしたサッカーです。
「costruzione dal basso」 (ビルドアップを後ろから丁寧に行うこと)
「uso sistematico dei mezzi spazi」 (ハーフスペースを体系的に使うこと)
「fase difensiva organizzata」 (組織だった守備)
これを日本語に重ねるなら、 「後ろから丁寧につなぎ、ハーフスペースを使い、組織的に守るサッカー」。
激しさだけに頼らず、より合理的に、より計画的に戦うアタランタを目指していると言えるでしょう。
カルネセッキから始まる攻撃 「現代型GK」がチームの第一の司令塔に
新しいアタランタの象徴のひとりが、背番号29のマルコ・カルネセッキです。
シュートストップ能力に優れ、ハイボールにも強い守護神ですが、パッラディーノのもとで特に重要なのは、足元の技術と判断力です。
カルネセッキは、単なる「最後の砦」ではありません。
彼はビルドアップの「最初の司令塔」として振る舞います。
センターバックにボールを預けるだけではなく、自らボールを引き出し、相手を誘い込み、空いた選手へパスコースを作る役割を担います。
相手が前からプレスをかけてくれば、 「短くつなぐか、スカマッカやクルストヴィッチへロングボールを当てるか」 この二択を試合ごと、場面ごとに選び分ける。
この判断が、そのままアタランタの攻撃の質を左右します。
読者のみなさんはどうでしょうか。
自分がGKだったら、リスクを取ってつなぎますか。
それとも、安全に前へ蹴り出しますか。
スカマッカ、デ・ケテラエル、ルックマン 多彩な前線が生む「答えの多い攻撃」
アタランタの前線には、実に個性豊かなタレントが揃っています。
・9番 ジャンルカ・スカマッカ
・90番 ニコラ・クルストヴィッチ
・11番 アデモラ・ルックマン
・17番 シャルル・デ・ケテラエル
・7番 カマルディーン・スレマナ
スカマッカは、いわゆる「攻撃の柱」です。
身体を張り、楔を受け、味方を押し上げる仕事をこなしながら、自らもミドルシュートでゴールを狙うことができます。
クルストヴィッチは、より縦に速く、スペースへ走るタイプ。
一方で、 ルックマンは「予測不能なドリブラー」。 スレマナは「純粋なスピードと突破力」。 デ・ケテラエルは「前線のレジスタ(司令塔)」のような存在です。
彼はボールを受ける位置を微妙に変えながら、 相手の守備ラインの「ほころび」を探ります。
足元で受けて、ワンタッチで味方を使う。 少し運んで、逆サイドへ展開する。
このような選択を繰り返しながら、相手守備を「揺らし」続けます。
ルックマンやスレマナが1対1を仕掛けるとき、スタジアムは一瞬息を呑みます。
「ここで抜けるか、止められるか」 そのたった数秒に、試合の流れが大きく傾くこともあるからです。
ナポリ戦では、シュート14本のうち枠内は3本。
xG(期待値)に見合うだけのゴールは生まれませんでした。
けれど、攻撃の「形」が見え始めているからこそ、あと一歩の精度が上がったとき、どれほど危険なチームになるのか。
その可能性を感じ取ることができる内容でした。
ハーフスペースとウイングバック ピッチを「縦3レーン」で使うアタランタ
パッラディーノのサッカーを理解するうえで欠かせないキーワードが「mezzi spazi(メッツィ・スパーツィ)」です。
これは、日本語で言う「ハーフスペース」にあたります。
タッチライン沿いではなく、中央でもない。
その中間にある縦のレーン。
ここに、エデルソンやムサ、パシャリッチ、サマルジッチ、デ・ケテラエルといった選手たちが柔軟に顔を出します。
ボール保持時の形は、例えばこんなイメージです。
・3バック+カルネセッキで後方の安定
・デ・ローン、エデルソンが時に最終ラインに降りてビルドアップをサポート
・ベルラノーヴァ、ザッパコスタらウイングバックが高い位置を取って幅を確保
・ハーフスペースには攻撃的MFが立ち、内側のパスコースを提供
パッラディーノは、 「giocare tra le linee」 (守備のライン間でプレーすること) を大切にしています。
「相手の守備ラインと中盤ラインのあいだでボールを受ける」 ということです。
これは、見る人によっては難しく感じるかもしれませんが、子どもたちにも伝えやすく言えば、
「相手と相手のあいだに、こっそりポジションを取る」 「パスをもらって、振り向ける場所を探す」
ということです。
みなさんが試合を見るとき、ボールだけではなく、ハーフスペースに立っている選手たちにも注目してみてください。
アタランタの攻撃の「仕掛け」が、よりはっきり見えてくるはずです。
激しく、しかし整理された守備へ 「ガスペリーニ的DNA」をどう進化させるか
守備面では、アタランタの「DNA」はまだ色濃く残っています。
ナポリ戦でも、前線からの激しいプレスと、マンツーマン気味の対応はたびたび見られました。
「uomo su uomo, in modo aggressivo」 (人に対して、アグレッシブに守る)
この守り方は、うまくいけば相手に自由を与えず、高い位置でボールを奪うことができます。
一方で、 ひとつのマークが外れた瞬間、 一人が出過ぎた瞬間、 一気に背後を突かれてしまうリスクも抱えています。
ナポリ戦の失点のなかには、まさにその「一瞬のズレ」を突かれた場面がありました。
ウイングバックが下がって5バックを形成しているようで、 実際にはラインの背後を取られ、クロスに対するマークの甘さから失点。
「守備の形」はあっても、「守備のタイミング」と「距離感」がまだ不十分な印象です。
パッラディーノの課題は、 ガスペリーニ時代から引き継いだ「前向きな守備の姿勢」を残しながら、 ポジションバランスとカバーリングをより組織的なものへと整えていくこと。
デ・ローンやエデルソンが、どこまで「消すべきパスコース」と「追うべき相手」を整理し、全体を落ち着かせられるか。
それが、このチームが上位で安定して戦うためのカギになるでしょう。
トランジションで光るポテンシャル スカマッカのゴールが示した「未来図」
ナポリ戦の52分、スカマッカが決めたゴールは、新生アタランタの「強み」の一端を示していました。
ボール奪取から一気に加速し、 前線の動き出しと中盤の押し上げが噛み合う。
パッラディーノのチームは、守備から攻撃への切り替え――トランジションの場面で、すでに高いポテンシャルを見せています。
ルックマンやスレマナが前を向いて走り出し、 スカマッカが中央で起点となる。
ここに、ハーフスペースからパシャリッチやエデルソンが飛び込めば、相手守備は一気に「数的不利」に追い込まれます。
一方で、逆のトランジション――攻撃から守備への切り替えでは、まだまだ課題が残ります。
「攻撃に出ていく人数」と「ボールロスト時のリスク管理」のバランス。
これをどう調整していくかが、今後の成長ポイントです。
あなたがもしアタランタの選手だったら。 ボールを失った瞬間、 すぐにボールホルダーへ寄せにいきますか。 それとも、自分のマークやスペースを守ることを優先しますか。
その「一歩」の選び方が、チーム全体の運命を左右します。
強みと弱みをどう活かし、どう克服するか ―SWOTから見える成長のシナリオ
強み:豊富な人材とビルドアップのポテンシャル
・多彩な攻撃陣(スカマッカ、ルックマン、デ・ケテラエル、スレマナ、クルストヴィッチ) ・ビルドアップに参加できるカルネセッキやスカルヴィーニ、コスーヌ ・運動量と強度を兼ね備えた中盤(デ・ローン、エデルソン、ムサ、パシャリッチ)
これらは、相手や状況に応じて柔軟な戦い方を可能にします。
「ボールを持って主導権を握る」サッカーを志向するうえで、非常に大きな武器です。
| 観点 | ガスペリーニ時代 | パッラディーノ新体制 | 継承/変化 |
|---|---|---|---|
| 基本システム | 3バック+ウイングバック | 3-4-2-1(同じ3バック系) | ◎ 継承 |
| 守備スタイル | マンツーマン・ハイテンポ | マンツーマンを残しながら組織的カバーへ整備中 | ○ 柔軟化・発展途上 |
| ビルドアップ | 前へ押し出す攻撃志向 | カルネセッキ起点の後方からの丁寧な組み立て | △ 大きな変化 |
| ハーフスペース活用 | やや直線的な攻撃 | mezzi spaziを体系的に活用する設計 | △ 新要素 |
| GKの役割 | 最後の砦 | 攻撃の第一司令塔として積極的にビルドアップ参加 | △ 大きな変化 |
| チームの完成度 | 10年かけて熟成した高い完成度 | 守備連携に課題残る・成長段階 | ○ 成長過程 |
| 攻撃の多様性 | 強度と運動量が武器 | スカマッカ・ルックマン・デ・ケテラエルら多彩な個性 | ◎ 継承+強化 |
弱み:守備組織と決定力の不安定さ
・まだ整いきっていない守備の連携とカバー ・クロス対応や背後のケアの甘さ ・多くのシュートを打ちながら、枠内シュートが少ない決定力の波
これらは、勝ち点を積み上げるうえで、じわじわと効いてくる要素です。
しかし、言い換えれば「改善すれば一気に伸びるポイント」とも言えます。
- GKをビルドアップの「最初の司令塔」として育てる — カルネセッキのように「短くつなぐか前線にロングボールを当てるか」を試合ごとに判断させる訓練を積み、GKの役割を守備限定から広げる意識をチーム全体に持たせる
- 「相手守備ラインと中盤ラインのあいだに立つ」ポジショニングを言語化して伝える — 「相手と相手のあいだにこっそりポジションを取る」「パスをもらって振り向ける場所を探す」という感覚を走りのパターンと合わせて練習に落とし込む
- 新しいシステムへの移行期には「守備のタイミングと距離感」を映像で繰り返し確認する — ナポリ戦の失点にあるように形はあってもタイミングが合わないとカバーが効かない。練習後に映像でズレを共有する習慣を作る
チャンス:モダンで完成度の高いチームへ
もし守備の組織が整い、決定力が安定してくれば、アタランタは再びセリエAでもヨーロッパでも「怖い相手」に戻るでしょう。
テクニック。
強度。
戦術理解度。
それらを兼ね備えた選手たちが揃っている以上、時間とともに熟成が進む可能性は十分にあります。
- ハーフスペースの選手に注目して試合を観る — タッチライン沿いでも中央でもない縦のレーン(ハーフスペース)に立っている選手を追うとアタランタの攻撃の仕掛けが見えてくる
- GKがボールを持ったときの「判断」を見逃さない — カルネセッキが「つなぐか蹴るか」を選ぶ瞬間にチームの攻撃設計が凝縮されている。GKの足元の選択がそのまま試合の流れを左右することを意識して観戦しよう
- 「今日うまくいかなかったことが半年後には自然とできている」という成長の時間軸を持つ — パッラディーノのアタランタと同じように自分やわが子の新しいポジション・戦い方への適応も時間と繰り返しが必要。焦らず続ける姿勢を大切にする
リスク:結果を急ぐあまり「長所」を失わないか
一方で、結果が出ない時間が長引けば、 「新しいサッカー」への信頼が揺らぐ危険もあります。
ガスペリーニ時代の成功体験があるからこそ、 「前みたいにもっとガンガン行ったほうがいいのでは」と思う声も出てくるかもしれません。
新しい監督、新しいアイデア、新しい自動化された動き。 それらがチームとして身につくには、どうしても時間が必要です。
その時間を、クラブ、選手、サポーターがどこまで共有し、我慢できるか。
これもまた、プロジェクトの一部と言えるでしょう。
私たちは「変化」をどう見つめるか アタランタから学べること
アタランタの変化のプロセスは、サッカーを学ぶ私たちにとっても、ひとつの教材のように感じられます。
・長く続いた成功のあとにやってくる「変化」のタイミングをどう受け止めるか。
・新しいスタイルの中で、何を残し、何を変えていくべきか。
・うまくいかない時期を、どう「成長の途中」として捉えられるか。
子どもたちがサッカーを始めたとき。 新しいポジションを任されたとき。 チームで戦い方を変えようとするとき。
そのどれもが、アタランタと同じように、「変化のプロセス」です。
今日うまくいかなかったプレーが、半年後、一年後には自然とできているかもしれない。
そのために、何を見て、何を学び、どう考えるのか。
ナポリ戦で見えた、守備の綻びと攻撃の兆し。
この「未完成さ」こそが、パッラディーノのアタランタの面白さなのかもしれません。
あなたは、このチームがどんな進化を遂げると思いますか。
そして、自分自身のサッカーに、どんな「次の一歩」を加えてみたいですか。
最後に、チーム作りと成長の物語にふさわしい言葉を添えたいと思います。
「Il successo non è mai definitivo, il fallimento non è mai fatale: è il coraggio di continuare che conta.」 「成功は決して最終地点ではなく、失敗も致命的ではない。大切なのは、続ける勇気だ。」
