マッシモ・チェッリーノのカリアリ・リーズ・ブレシアにわたる33年間の監督交代劇とクラブ経営の功罪を伝えるコラムのサムネイル画像

マッシモ・チェッリーノの功罪――「監督喰い」オーナーから学ぶクラブ経営とサポーターの力

DEFINITION
マッシモ・チェッリーノとは(監督喰いオーナーの功罪)
マッシモ・チェッリーノはカリアリ・カルチョ、リーズ・ユナイテッド、ブレシアを渡り歩いたイタリア人オーナーで、33年間で約70回の監督交代を断行した「Il mangia-allenatori(監督喰い)」として知られる。17という数字への迷信や衝動的な解任劇が話題を集める一方、2025年にブレシアが未払い給与約300万ユーロを理由に破産・消滅したことで、オーナーへの権限集中がクラブを破壊する構造問題を体現した人物である。

「イル・マンジャ・アッレナトーリ」マッシモ・チェッリーノという、ひとりのオーナーから学ぶサッカークラブ経営

マッシモ・チェッリーノ。 カリアリ、リーズ・ユナイテッド、ブレシアと、ヨーロッパの伝統クラブを渡り歩いたイタリア人オーナーです。 その異名は「Il mangia-allenatori(イル・マンジャ・アッレナトーリ)」――「監督喰い」。 33年でおよそ70回の監督交代という数字は、彼の衝動的な決断の連続をよく物語っています。

この記事では、カリアリでの22年、イングランドのリーズ、そして最後に破綻へと向かったブレシアの歩みをたどりながら、 「クラブを愛する」とは何か、「オーナーの力」と「サポーターの力」はどう違うのかを、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。 小学生のサッカーファンから大人のサポーターまで、一緒に「サッカーの裏側」を学ぶ時間だと思って読んでみてください。

カリアリでの22年――成功と混沌、「17」という数字への恐怖

チェッリーノが一躍有名になったのは、セリエAのクラブ、カリアリ・カルチョでの長い支配です。 カリアリでは、17シーズン連続でセリエAに残留させるなど、クラブとしては一定の成功を収めました。 一方で、その裏側にあったのは、次々と監督が入れ替わる落ち着かない日々です。

カリアリ時代だけで、監督交代は30回以上。 クラブの練習場アッセーミニの建設など、インフラ面では功績もありましたが、 彼の名前にいつも付きまとったのは、監督解任のニュースでした。

そしてチェッリーノを語る上で外せないのが「迷信」です。 彼は17という数字を極端に嫌いました。 カリアリのスタジアムでは、座席番号の「17」を「16B」に変更。 紫色も嫌っていて、これはイタリアで「葬式」や「不吉」を連想させる色だと言われています。

スペイン語のコラムでは、こんなエピソードが紹介されています。 チェッリーノは、ある試合が17日に行われると知ると、観客にこう呼びかけたと言います。

「Precisamente por la fecha, Cellino instó a los aficionados a ir vestidos al estadio con ropa púrpura」 「まさにその日付(17日)だったから、チェッリーノはサポーターたちに“紫の服を着てスタジアムに来てくれ”と呼びかけた」

17という「不吉な数字」に、あえて「不吉な色」とされる紫で立ち向かう。 迷信なのか、ユーモアなのか。 サポーターからすれば「またチェッリーノが何かやっている」と、苦笑いしながらも、どこか愛着を感じる瞬間だったかもしれません。

リーズ・ユナイテッド――「監督がいない」ままの5-1と、ソファとコーチの勘違い

混乱から始まったエランド・ロードの物語

2014年2月、舞台はイングランド・チャンピオンシップ、リーズ・ユナイテッド。 ウェスト・ヨークシャー・ダービー、リーズ対ハダースフィールド。 エランド・ロードには3万1千人以上の観客が詰めかけていました。

しかし、ただならぬ空気が漂っていました。 サポーターはクラブの混乱に怒りを募らせ、新たなオーナー候補であるチェッリーノへの不信感を募らせていたからです。 その渦中に起きたのが、ブライアン・マクダーモット監督の「解任騒動」でした。

「Sin embargo, hay algo raro en el ambiente. Se respira un halo de hostilidad hacia el Leeds…」 「しかし、スタジアムの空気はどこかおかしい。リーズに対する敵意のようなムードが漂っていた…」

監督不在のはずのチームは、この試合で5-1と大勝。 それは結果だけ見れば「華々しいスタート」に見えたかもしれませんが、その裏にはサポーターとオーナー候補との深い溝がありました。

COMPARISON / チェッリーノが関わった3クラブの比較
観点 カリアリ リーズ・ユナイテッド ブレシア
在任期間 22年(長期) 約3年(2014〜2017年) 2017年〜2025年
主な功績 17シーズン連続セリエA残留・練習場建設 買収直後5-1大勝・売却で混乱収束 トナーリ擁してセリエA昇格
監督交代数 30回以上 複数回(マクダーモット騒動含む) 7年で21人
迷信エピソード 座席番号「17」を「16B」に変更 17番永久欠番・「コーチかカウチか」解任騒動 同様の迷信行動が継続
結末 ◎ 安定した残留継続 ○ 売却後に混乱収束 △ 未払い給与・破産・クラブ消滅・再建
◎=比較的良好、○=収束あり、△=深刻な問題。3クラブで繰り返されたパターンの比較。

「コーチ」か「カウチ」か――解任劇の真相

後に明らかになったのが、マクダーモット解任騒動の“オチ”のようなエピソードです。 チェッリーノ本人は、2023年のインタビューでこう語っています。

「I asked for the couch to be replaced, not the coach. I was misunderstood.」 「替えてほしいと言ったのは“コーチ(監督)”じゃなくて“カウチ(ソファ)”だったんだ。勘違いされただけさ。」

彼が変えたかったのは、紫色のソファ。 しかし、その発音が「coach(監督)」と聞き間違えられ、マクダーモット解任という大事件になった――。 信じるかどうかは読者次第ですが、チェッリーノらしい「迷信+早とちり」の象徴的な話です。

こうした騒動の連続は、サポーターから見れば「クラブがオモチャにされている」と感じても不思議ではありません。 一方でチェッリーノ自身は、サポーターへの強い敬意も口にしています。

「I'm the richest man in the world with these fans and I can challenge anyone, everyone.」 「このファンたちと一緒なら、僕は世界一の金持ちだ。誰にだって、どんな相手にだって挑める。」

サポーターを「唯一の資産」と呼び、 「The fans are the only asset the club has.(ファンこそがクラブの唯一の資産だ)」 とまで語ったチェッリーノ。 その言葉と、実際の行動(監督交代、チケット配分での騒動、放送局との対立など)とのギャップこそが、リーズ時代を象徴しているのかもしれません。

FOR COACHES / FOR COACHES
指導者の仕事環境がチーム育成の質を決める
  1. 長期育成ビジョンを文書化してフロントと共有する — チェッリーノ型の短期主義オーナーのもとでは「3連敗したら解任」という環境になりやすい。就任前に「何シーズンで何を達成するか」を書面で合意しておき、指導計画の継続性を守る
  2. 「なぜこの方針か」を選手に繰り返し説明する習慣を持つ — 監督が頻繁に変わる環境では育成方針がリセットされる。選手自身が方針の理由を理解していれば、指導者が変わっても主体的に成長できる力が残る
  3. 就任前にクラブのガバナンス構造を確認する — 短期主義のオーナーや保護者がいる現場では、育成計画が実行できる環境かどうかを事前に見極めることが自身のキャリアとチームの健全性を守る第一歩になる
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17番を消したクラブ、17日に生まれたGK

リーズでも「17」は、チェッリーノの迷信の中心にいました。 2014年5月、クラブはなんと「17番の背番号を永久欠番」にします。 表向きは「オーナーの迷信への配慮」。 現実には、前任者マイケル・ブラウンを最後に、17番は空席となりました。

さらに控えGKパディ・ケニーの契約解除をめぐる“噂”です。

「Cellino dejó momentos hilarantes como propietario del Leeds, aunque nada comparado con la rescisión del guardameta Paddy Kenny por nacer un día 17…」 「チェッリーノはリーズのオーナーとして数々の珍事を残したが、その中でも突出していたのが、“17日生まれ”という理由でGKパディ・ケニーを放出したとされる一件だ…」

代理人は否定しましたが、「17」にまつわる伝説として、いまもエランド・ロードに語り継がれています。 背番号を消し、誕生日にもこだわる。 オーナーの個人的な迷信が、ここまでクラブの現場に影響を与えるべきなのでしょうか。

ブレシアの昇格と破綻――21人の監督と未払い給与

FOR PLAYERS & PARENTS / FOR PLAYERS & PARENTS
クラブの「仕組み」を知って応援するチームを選ぶ
  1. 監督がよく変わるクラブは育成面での要注意サインと覚えておく — 特に育成年代では指導者交代が続くと戦術や方針の連続性が断たれ、選手の成長機会が損なわれる可能性がある
  2. 「サポーターズ・トラスト」や50+1ルールなど、クラブのガバナンスの仕組みに関心を持つ — ドイツの50+1ルールはファンが議決権の過半数を持つ仕組みで、1人のオーナーによる権限集中を防ぐ。自分が応援するクラブがどう運営されているかを調べてみよう
  3. 給与未払い・財務問題の報道をクラブ選びの判断材料にする — ブレシアの破産のように、財務トラブルはクラブの存続に直結する。プロを目指す選手なら移籍先を選ぶ際の重要な基準になる

トナーリとともに昇格、その後の急降下

2017年、リーズを去ったチェッリーノは母国イタリアへ戻り、今度はブレシアを買収します。 若き才能サンドロ・トナーリを擁し、チームはセリエBからセリエAへと昇格。 この時期だけを切り取れば、「やはりフットボールを知っているオーナー」と評価したくなるかもしれません。

「cabe decir que su inicio fue de lo mejor que ha dejado Cellino en el fútbol. Con un Sandro Tonali a punto de despegar, lograría el ascenso del equipo a la Serie A.」 「少なくとも言えるのは、ブレシアでのスタートは、チェッリーノがサッカーに残した中でも最良の部類だったということだ。飛躍前夜のサンドロ・トナーリとともに、チームをセリエA昇格に導いたのだから。」

しかし、そこから歯車が狂い始めます。 わずか7年で21人もの監督が就任・退任を繰り返し、給与の未払い問題が浮上。 クラブは勝てなくなり、雰囲気は荒れ、選手も指揮官も落ち着いて仕事ができない環境になっていきました。

マリオ・バロテッリの加入も話題になりましたが、混乱したクラブを立て直すには至りません。

FAQ / よくある質問
Q. チェッリーノが「監督喰い」と呼ばれる理由は?
A. カリアリ、リーズ、ブレシアの3クラブを合わせた33年間で約70回の監督交代を断行したことが由来です。イタリア語で「Il mangia-allenatori(監督を食べる者)」と呼ばれ、短期的な結果が出ないと衝動的に解任するオーナーとして知られています。カリアリだけでも30回以上の交代がありました。
Q. ブレシアが破産した直接の原因は何ですか?
A. 約300万ユーロの未払い給与をチェッリーノが解消できず、リーグから4ポイントの減点処分を受けてセリエBから降格したことが直接の引き金です。最終的にチェッリーノが負債を引き受けなかったためクラブは消滅し、新クラブとして再建されました。
Q. チェッリーノの「17」と「紫」への迷信とはどういうものですか?
A. イタリアで不吉とされる17という数字と紫色を極端に嫌いました。カリアリでは座席番号「17」を「16B」に変更し、リーズでは17番を永久欠番にしました。「17日生まれ」のGKパディ・ケニーを放出したとされるエピソードも語り継がれています。
Q. サポーターズ・トラストや50+1ルールとは何ですか?
A. サポーターズ・トラストはファンがクラブの株を保有してガバナンスに参加する仕組みです。50+1ルールはドイツのプロリーグ制度で、議決権の過半数をファン・会員組織が持つことを義務付けており、1人のオーナーによる過剰な権限集中を防ぐ役割を果たします。

4ポイント減点、給与未払い、そして破産

そして、2025年6月。 ブレシアは約300万ユーロの未払い給与を埋められず、4ポイントの減点処分。 結果としてセリエBから降格し、破産を宣言するに至りました。

「los problemas por impagos se apoderaron de un club centenario que cayó en picado… expulsado de las ligas profesionales y, finalmente, refundado al no asumir Cellino la deuda de más de tres millones.」 「未払いによる問題が、百年クラブを完全に覆い、クラブは急降下していった… プロリーグから締め出され、最終的には300万ユーロ超の負債をチェッリーノが負わなかったことで、クラブは消滅し、再建を余儀なくされた。」

サポーターにとって、これは何を意味するのでしょうか。 親や祖父母の代から応援してきたクラブが、たった一人のオーナーの判断と責任問題で姿を消してしまう。 新クラブとして「生まれ変わる」ことはできても、歴史そのものは連続性を断たれてしまいます。

70度の監督交代が語るもの――「決断力」と「持続性」

カリアリ、リーズ、ブレシア。 三つのクラブで繰り返されたのが「監督交代」です。 

「En 33 años sentado en los palcos, Cellino llevó a cabo hasta 70 cambios de entrenador…」 「33年間、VIP席に座り続けた間に、チェッリーノは実に70回もの監督交代を断行した…」

決断力がある、と言えば聞こえはいいかもしれません。 しかし、チーム作り、アカデミーの育成方針、戦術の浸透、選手の適応…。 どれも「時間」が必要なものです。 とくにリーズやブレシアのように、昇格・降格のプレッシャーが重くのしかかるクラブでは、短期的なショック療法だけでは乗り切れません。

みなさんが監督だったらどうでしょうか。

・3連敗したらクビかもしれない ・オーナーの気分や迷信で評価が変わるかもしれない ・長期計画を描いても、半年後に立場があるか分からない

こうした環境で、本当に「若手を育てていこう」「戦術を2~3年かけて浸透させよう」と考えられるでしょうか。 子どもたちがサッカーを学ぶとき、監督や指導者がコロコロ変わる環境で本当に成長できるのか。 それを、プロクラブの歴史が問いかけているようにも感じます。

オーナーは悪者か、それとも“極端な例”か

もちろん、チェッリーノだけが問題だった、と決めつけるのは簡単です。 しかし、サッカービジネスの世界では、短期的な結果を求めるオーナーや経営者は少なくありません。

彼はときに率直で、サポーターを誰よりも称え、 「The fans are the only asset the club has.(ファンこそ唯一の資産)」 と語りました。 その一方で、サポーターの意見を無視したチケット政策や、メディアとの対立、頻繁な監督交代といった行動が、クラブの基盤を揺るがしました。

問題は、人格の善し悪しというより、 「ひとりのオーナーに、どこまでの権限と責任を集中させるべきか」 「クラブを“資産”としてではなく“公共財”として守る仕組みをどう作るか」 という、構造的な問いではないでしょうか。

2010年、チェッリーノはウェストハム・ユナイテッド買収にも近づいていたと言われています。 

「De una buena se salvaron los aficionados del West Ham cuando en 2010 estuvo a punto de comprar el club.」 「2010年、ウェストハムを買収しかけたとき、あの一件を回避できたのはウェストハムのサポーターにとって“最大の幸運”だったかもしれない。」

これは単なるジョークかもしれません。 ですが、クラブの未来を左右する「オーナー選び」が、いかに重要かを示す一文でもあります。

サポーターにできることは何か――あなたのクラブはどう守る?

チェッリーノは、去り際にこんな言葉も残しています。

「if you can survive working with me, you can survive anything」 「僕と一緒にやってこれたなら、君たちはこの先、どんなことにも耐えられる」

冗談半分、本音半分かもしれません。 リーズも、ブレシアも、カリアリも、彼とともに激しいアップダウンを経験しました。

では、サポーターには何ができるでしょうか。

・クラブ経営の情報に関心を持つこと ・オーナーやフロントの動きを「感情」だけでなく「仕組み」として理解しようとすること ・ときに声を上げ、ときにクラブの存続のために支えること

ヨーロッパでは、ファンが株を持つ「サポーターズ・トラスト」や、 一定比率の議決権をファンが持つ「50+1ルール」(ドイツ)など、 クラブを「みんなのもの」として守る試みも広がっています。

みなさんが応援するクラブは、どんな仕組みで運営されているでしょうか。 もし、チェッリーノのようなオーナーが突然現れたら――。 そのとき、自分たちは何ができるのか。

サッカーを「見る」ことから一歩進んで、「支える」「守る」という視点を持つこと。 それは、将来クラブを支える子どもたちにとっても、大切な学びになるはずです。

サッカーは、誰のものか

マッシモ・チェッリーノの物語は、極端で、時に滑稽で、しかしどこか悲しいフットボールの一面を映し出しています。

監督を食べ尽くしたオーナー。 17という数字におびえ、紫色のソファにこだわった男。 クラブを昇格させ、同時に破綻へと追い込んだ経営者。

そのすべてを笑い話として消費することもできます。 ですが、その背後にはいつも、スタンドで歌い続けたサポーターや、クラブに人生を捧げてきた人々の存在があります。

「サッカーは誰のものか?」 この問いに、ひとつの正解はありません。 しかし、こうした歴史を振り返るたびに、ある言葉が思い出されます。

「Football without fans is nothing.」 「ファンのいないフットボールには、何の意味もない。」

チェッリーノの激動のキャリアも、最終的にはこのシンプルな真実を、強烈な形で私たちに教えているのかもしれません。

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