サウサンプトンのセント・メリーズ・スタジアム命名権契約Level 1 powered by Pepsi Maxが問うクラブ経営と伝統の選択を解説するコラム

サウサンプトンの「Level 1」が問いかける、クラブ経営と伝統のあいだの選択

DEFINITION
サウサンプトンのスタジアム命名権契約が問うクラブと伝統の選択とは
サウサンプトンはセント・メリーズ・スタジアム内の一角を「Level 1 powered by Pepsi Max」と名づけ、Carlsberg Britvicと複数年のスポンサーシップを締結した。この決断は単なるマーケティングではなく、チャンピオンシップ中位というクラブ状況において「何を守り・何を新しく差し出すか」という優先順位の問いそのものだ。スタジアム全体の名称は残しながら内部エリアに命名権を付与したこの選択は、ピッチ上の判断と同じ構造を持つ。

「レベル1 powered by Pepsi Max」が問いかけてくるもの

サウサンプトンのホームスタジアム、セント・メリーズ・スタジアムの一角が、新しい名前を手に入れた。

「Level 1 powered by Pepsi Max」。

イングランド南部の伝統あるクラブが、飲料大手のCarlsberg Britvicと複数年のパートナーシップを結び、スタジアム内の一エリアにネーミングライツが付いたというニュースは、一見するとマーケティングの話にしか見えないかもしれない。

しかし、少し立ち止まってみると、そこには「クラブは何を選び、何を手放すのか」という、ピッチ上の判断ともつながる問いが隠れているように思える。

ピッチの外でも「選ぶ」ことを迫られるクラブ

サウサンプトンは現在、イングランド2部リーグ(チャンピオンシップ)に所属している。

32節を終えて勝点は46、順位は中位。

プレミアリーグにいた頃と比べれば、収入面でも注目度の面でも、クラブを取り巻く環境は大きく変わっているはずだ。

その中で、Carlsberg Britvicと手を結び、Pepsi Maxを「公式ソフトドリンクパートナー」として迎え入れる決断をした。

この契約によって、Level 1だけでなく、The Dellと名付けられたスペース、ホスピタリティラウンジ、ファンゾーンなど、スタジアム各所で同社の商品が提供される。

Pepsi、Pepsi Max、7UP、Tango、Lipton Ice Tea、Jimmy’s Iced Coffee、Robinsons Fruit Shoot。

サポーターがスタジアムに足を運ぶと、こうしたブランド名が自然と視界に入ることになる。

試合当日だけでなく、その他のイベントでも同じだ。

さらに、ピッチ周囲のLEDボード、ビジョンの広告、インタビュー背景のボード、ホスピタリティやマッチデーでの企画など、クラブの「見える資産」にもPepsi Maxが登場する。

クラブの収益担当ディレクターであるグレッグ・ベイカーは、「セント・メリーズでのファン体験を高めたい」という思いを口にしている。

その言葉には、単にお金を得たいだけではない、もう少し複雑な事情がにじんでいるように感じられる。

COMPARISON / サウサンプトンの命名権契約:クラブが選んだものと守ったもの
観点 選んだもの(変化) 守ったもの(継続) 評価
スタジアム名称 内部エリア「Level 1」に命名権を付与 スタジアム全体名「セント・メリーズ」は維持
スポンサーの役割 空間設計に直接関わるパートナーとして位置づけ 試合そのものへの介入はなし
収益構造 スタジアム体験への投資で観客来場動機を補強 チーム強化費は別財源で確保する方針
ファン体験 飲食・ホスピタリティ・ファンゾーンを充実させる 試合当日以外のイベントでも体験価値を維持
ブランド露出 LEDボード・ビジョン・インタビュー背景に展開 クラブカラー・ユニフォームへの介入はなし
長期戦略 複数年契約で収益を安定化させる 昇格争いの資金余力を確保する意図
◎=クラブ・ファン双方に明確なメリット/○=バランスの取れた選択/△=長期的な検証が必要

「ファン体験を高める」とは、具体的に何を指すのか

クラブ側は「ファン体験の向上」と言う。

その中身を少し分解して考えてみると、いくつかの要素が見えてくる。

  • スタジアムでの飲食の選択肢が増えること
  • 試合前後の時間を過ごす場所が整備されること
  • スポンサーと連動したイベントや企画が行われること

表面的には、どれも「あると嬉しい」ものだ。

ただ、クラブの経営陣にとっては、もうひとつ大きな意味がある。

それは、昇格争いに絡み切れていないチーム状況の中でも、「スタジアムに行く理由」を絶やさないことだ。

順位表の中位にいるチームのホームゲームに、毎試合足を運び続けてもらうためには、勝敗以外の価値も用意しなければいけない。

どんな相手と、どんな試合内容になるかはコントロールできないが、スタジアムの雰囲気やサービス、体験の質は、クラブが意志を持って変えていける領域だからだ。

選手がピッチの中で「どこにパスを出すか」を選ぶように、クラブは「どこに投資し、何を強化するか」を選んでいる。

FOR COACHES / FOR COACHES 指導者が押さえる3ポイント
「何を守り・何を変えるか」をチームで言語化する
  1. クラブの方針変化をチームの文脈で説明する — スポンサー契約・施設変更・予算方針などクラブ側の決断が起きたとき、選手に「これはチームにとって何を意味するか」を自分の言葉で伝える準備をする
  2. スタジアム以外の要素がチーム文化に与える影響を観察する — 環境・施設・スポンサーの存在感が選手の帰属意識やモチベーションに影響することを意識し、変化があれば丁寧にフォローする
  3. 「守るもの」と「変えるもの」の優先順位をスタッフで共有する — ピッチの戦術方針だけでなく、チームの文化として譲れない部分と柔軟に変えられる部分を言葉にしておく
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名前を売ることは、クラブの誇りを売ることなのか

ネーミングライツという仕組みは、日本でも採用されている。

スタジアムやスタンド、練習場、クラブハウス、さまざまな場所に企業名がつく。

このとき、いつも浮かび上がる問いがある。

「名前を売ることは、クラブの伝統や誇りを売ることになるのか」

サウサンプトンでは、スタジアム全体の名前はセント・メリーズのまま残し、その内部の「Level 1」というエリアにPepsi Maxの名前を重ねた。

クラブにとって、「どこまでなら企業名をつけていいのか」「どこからは残さなければならないのか」というラインを引いた結果とも言える。

もし、あなたがクラブの決定権者だったら、どこに線を引くだろうか。

  • スタジアム名は絶対に変えないが、内部エリアなら企業名をつけてもいい
  • 歴史的な呼び名だけは残したいので、そこには手をつけない
  • ファンが愛着を持つエリアはそのままにし、それ以外をパートナーと共有する

どれが正しいかではなく、「何を守り、何を新しく差し出すか」という優先順位の問題だ。

ピッチの中で、選手が「ボールを失わないこと」を最優先にするのか、「リスクを負ってでも前進すること」を優先するのかが問われるのと、どこか似ている。

FOR PLAYERS & PARENTS / FOR PLAYERS & PARENTS 選手・保護者が使える視点
クラブの「見えない選択」をサッカーとして読み解く
  1. スタジアムの変化をクラブの意思として受け取る — 命名権やスポンサー看板の増減は、クラブが財政と伝統の間でどんな判断をしているかの表れ。感情的に拒否する前に「なぜその選択をしたのか」を考えてみる
  2. スポンサーをチームの一部として捉え直す視点を持つ — ユニフォームの胸スポンサーや練習場の名称変更は「外からお金を出す存在」ではなく、クラブ体験をともに作るパートナーとして見る見方もある
  3. 子どもが通うクラブの経営状況に関心を持つ — 施設の充実・遠征の質・コーチ陣の厚さはクラブの財政に直結する。スポンサー契約がチームの強化や環境整備につながる側面を親子で話し合う機会にする

中位にいるクラブが見つめる「もう一つのゲーム」

現在のサウサンプトンは、チャンピオンシップの中位に位置している。

昇格争いに食い込みたい一方で、シーズンは長く、すぐに結果が出るとも限らない。

そんな状況で、「ピッチ上のゲーム」と並行して、「クラブとしてのゲーム」が進んでいく。

  • どのようなパートナーと組むか
  • どこに資金を投じ、どこを我慢するか
  • ファンにどんなクラブ像を提示したいのか

この「もう一つのゲーム」は、サポーターからは見えにくいが、確実に勝敗を左右する。

良い選手を獲得するにも、育成を整えるにも、スタジアムをアップデートするにも、お金と時間が必要になるからだ。

そのお金をどう生み出すかという問いに対して、サウサンプトンは、Carlsberg BritvicとPepsi Maxという選択肢を取った。

クラブにとっては、これは「ロングボール」ではなく、「ビルドアップ」の一つかもしれない。

すぐに派手なリターンがあるわけではなく、数シーズンかけて、スタジアム体験や収益構造を少しずつ変えていこうとする試みとも読み取れる。

もし日本のクラブだったら、どう考えるだろう

このニュースを、日本のサッカーシーンに重ねてみると、また別の景色が見えてくる。

Jリーグクラブもまた、地域に根ざしながら、スポンサーとともに歩んでいる。

ただ、日本では「企業色が強すぎると、クラブの独自性が薄まるのではないか」という不安が語られることも少なくない。

一方で、観客数や放映権だけでは十分な収入が得られない現実もある。

その中で、もし日本のクラブが、サウサンプトンと同じようなオファーを受けたとしたら、どんな会話がクラブ内で交わされるだろうか。

  • 伝統的な名称を守りたい現場やサポーターの声
  • 財政面の安定や、投資余力を増やしたい経営サイドの思い
  • スタジアムをより快適にしたい、運営スタッフの願い

それぞれが違う立場で、それぞれの正しさを持っている。

「どちらかが間違っている」のではなく、「どこで折り合いをつけるか」が問われる。

もし自分が選手なら。

自分の所属クラブが大きなスポンサーと組むことで、遠征が少し楽になり、食事やケアの質が上がるかもしれない。

一方で、スタジアムの一部が企業名になることに、違和感を覚えるかもしれない。

そのとき、自分ならどう考え、どう受け止めるだろう。

スポンサーは「外」なのか、「チームの一部」なのか

サウサンプトンの今回の契約では、Pepsi Maxは単なる広告主ではなく、スタジアムの空間づくりに直接関わる存在になっている。

Level 1 powered by Pepsi Maxは、単なる看板ではなく、サポーターが集い、飲み物を手にし、時間を過ごす「場」として設計される。

これは、スポンサーを「外側にいるお金を出す人」と見るのか、「クラブと一緒にスタジアム体験をつくるパートナー」と見るのかという、意識の違いにもつながっていく。

日本でも、ユニフォームの胸スポンサーやスタジアム広告を見て、「お世話になっている会社」と感じる人もいれば、「クラブの色が企業に染まってしまう」と感じる人もいる。

どちらの感覚も、きっと正直なものだ。

サウサンプトンの決断を眺めながら、自分はスポンサーという存在をどう捉えているのか、静かに問い直してみる時間も、無駄ではないかもしれない。

「完璧な答え」はおそらく存在しない

クラブ経営の選択も、ピッチ上の判断と同じように、「その瞬間にベストだと信じたもの」を選んでいくプロセスの連続だ。

サウサンプトンがCarlsberg BritvicとPepsi Maxを選んだ背景には、きっと多くの検討と議論があったはずだ。

  • どの程度の期間、どのくらいの規模で組むのか
  • スタジアム内でのブランドの見せ方をどう設計するのか
  • サポーターとの距離感をどう保つのか

そのどれもが、「やってみないとわからない」部分を含んでいる。

思った以上にファン体験が良くなるかもしれないし、逆に反発の声が出るかもしれない。

クラブは、その結果を受け止めながら、次のシーズン、次の契約に活かしていくしかない。

選手が試合の中で、「あの場面はシュートではなくパスだったかもしれない」と振り返りながら成長していくように、クラブもまた、選択の結果を振り返りながら進んでいく。

「どう思うか」を、少し自分に向けてみる

今回のニュースは、ピッチ内の華やかなゴールシーンや劇的な逆転劇の話ではない。

それでも、サッカーを続けていくためには、こうした「見えにくい選択」が必ずどこかで行われている。

もし、あなたが選手なら。

自分のクラブが、こうした決断をしたとき、どうやって受け止めるだろうか。

もし、あなたが保護者なら。

子どもが通うクラブが、スポンサーとより深く組み始めたとき、その変化をどう見守るだろうか。

もし、あなたが指導者なら。

クラブの方針と、自分のチームづくりの哲学が、どこで交わり、どこで距離を取るべきだと感じるだろうか。

サウサンプトンの「Level 1 powered by Pepsi Max」は、イングランド南部の一スタジアムの新しい名前にすぎない。

けれど、その裏側には、クラブが何を大事にし、何を新しく取り入れようとしているのかという「考えるプロセス」が隠れている。

FAQ / よくある質問
Q. サウサンプトンのLevel 1 powered by Pepsi Maxとはどういう取り組みですか?
A. サウサンプトンがセント・メリーズ・スタジアム内のエリアをCarlsberg BritvicのPepsi Maxブランドに命名権付与した契約。スタジアム全体の名称は維持したまま、特定エリア・ファンゾーン・ホスピタリティ・試合日イベント・LEDボード広告などにPepsi Maxが展開される複数年パートナーシップだ。
Q. サッカークラブが施設に命名権を売ることは伝統への裏切りになりますか?
A. 記事はこれを「伝統か商業か」の二択ではなく「何を守り・何を新しく差し出すか」の優先順位の問題として捉える。サウサンプトンはスタジアム全体名は維持しながら内部エリアに命名権を付与した。どこに線を引くかはクラブの価値観・財政状況・ファンとの信頼関係によって異なると示している。
Q. チャンピオンシップに所属するクラブが大型スポンサーと組む理由は何ですか?
A. 記事では、プレミアリーグ降格後は収入・注目度ともに大きく変わるなかで、「勝敗以外の来場価値」を提供するために施設投資が必要になると示している。スタジアム体験・飲食・ホスピタリティの充実は、昇格争いに絡めていない時期でもサポーターに足を運んでもらうための「もう一つのゲーム」だと表現している。
Q. 日本のクラブが同様のスポンサー契約を結ぶ場合、どんな点を考慮すれば良いですか?
A. 記事は、伝統的名称への愛着を持つ現場・サポーターと、財政安定や施設強化を求める経営陣・スタッフのそれぞれの立場を紹介する。「どちらが間違いか」ではなく「どこで折り合いをつけるか」が問われるとし、ファンへのクラブ像の提示・スポンサーとの関係設計・長期的な観客体験の設計を同時に考える必要があると示している。

急いで答えを出さなくてもいい

こうした話題になると、「伝統か、商業か」「純粋か、ビジネスか」と、二択で語られがちだ。

しかし、実際の現場では、その間のグラデーションの中で悩み続ける人たちがいる。

サウサンプトンの今回の決断を見て、「自分はこう思う」と即座に言語化できる人もいれば、「なんとなくモヤモヤするけれど、うまく言葉にできない」という人もいるだろう。

どちらの感覚も、大切にしていいのだと思う。

大事なのは、「なぜ自分はそう感じるのか」を少しだけ見つめてみること。

そして、急いで結論を出さずに、その感覚を抱えたまま、しばらくサッカーを見続けてみること。

いつか別のクラブのニュースや、自分のチームでの出来事とつながり、少しだけ輪郭が見えてくるかもしれない。

ピッチの中でも外でも、サッカーは選択の積み重ねでできている。

サウサンプトンが選んだ一つのスポンサー契約は、その一つの例にすぎない。

そこから何を感じ取り、どんな問いを自分の中に置いておくのかは、見る側の選択に委ねられている。

答えが出ないままでも、サッカーを見に行き、ボールを蹴り続けること。

その時間の中で、少しずつ自分なりの「クラブとの距離感」が形になっていくのかもしれない。

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