決め切れない9番と迷い続ける10番──アトレチコ・パラナエンセのジレンマから考える、サッカーの「選択」と「時間」
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「決めきれない9番」と「答えの出ない10番」──アトレチコの迷いから考える、サッカーの選び方

決め切れない1点の重さから、物語は始まる
ブラジル全国選手権、セリエA。
アトレチコ・パラナエンセは州選手権の準決勝で敗退し、さらにボタフォゴ戦が延期になったことで、リーグ戦の合間に思いがけない「空白の2週間」を手にした。
その間に組まれたサンタ・カタリーナとの練習試合は1−1の引き分け。
勝ち負け以上に、チームにとって大事だったのは「試合勘を完全に失わないこと」と「次の14日間で4試合を戦うための準備」をどう進めるかだった。
日程が再開すると、フルミネンセとのマラカナン。
その後は、アレーナ・ダ・バイシャーダでのホーム3連戦が待っている。
指揮官オダイール・ヘルマンが背負うテーマはひとつ。
セリエAでここまで4試合、勝率58%という悪くないスタートを、どうやって「維持」し、どこまで「伸ばすか」。
ここで問われているのは、戦術の正解探しではなく、限られた選択肢の中から何を優先するのか、というクラブ全体のものさしだ。
| 観点 | 決定機に走る9番を継続起用 | 決定力のある別FWに交代 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 決定機創出 | シュート数・ゴール前への侵入が多い | 侵入頻度が下がる可能性 | ◎ |
| 短期得点力 | 外す回数が多く安定しない | 少ないチャンスで決める可能性 | ○ |
| 長期的成長 | 失敗を重ねることで伸びる | 出場機会が減り成長が遅れる | ◎ |
| チーム戦術適合 | 攻撃スタイルによって必要タイプが異なる | 守備的カウンター時は有効 | △ |
| 監督への信頼 | 信じ続けることで選手の自信が育つ | 交代多用は不信感を生む場合も | ○ |
点を取れない9番を、どう扱うか
数字だけ見れば、1人のストライカーに視線が集まる。
コロンビア人の9番、ケヴィン・ビベロス。
統計サイトによると、今季のブラジル全国選手権で「決定機逸」が最も多いFWのひとりになっている。
4試合で14本シュートを放ち、そのうち「大きな決定機」とされるチャンスを7回外している。
同じ前線では、スティーヴン・メンドーサやジュリマーもチャンスを逃しているが、シュート数自体はビベロスが突出して多い。
結果として、ゴール数はビベロスとメンドーサが1点ずつ、ジュリマーは2点。
数だけ追えば、「一番外している9番」と「少ないチャンスで決めているジュリマー」という構図が浮かぶ。
では、指揮官はどう考えるのか。
シュートを外している事実は変えられない。
そこから先の解釈が、監督という仕事の難しさだ。
たとえば、こんな問いが頭に浮かぶかもしれない。
- 多く外しているが、それだけ多くの決定機に顔を出せている9番を、信じ続けるべきか
- 決定力が高いように見えるジュリマーを、より中心に置くべきか
- 相手や試合展開によって、役割や優先順位を変えるのか
守備からのカウンターなのか、セットプレーなのか、ポゼッションなのか。
チームの攻撃スタイルによって、必要とされる9番のタイプは変わる。
ビベロスを下げれば、決定機に入り込む回数も減るかもしれない。
ジュリマーを中心に据えれば、違う形の攻撃が生まれるかもしれないが、その分ビベロスのポテンシャルを短期的に諦める選択にもつながる。
数字を見れば、判断は一見シンプルに見える。
でも、プロのチームほど、その「シンプルさ」に飛びつかない。
選ぶのはいつも、「今」ではなく、「この先も含めた今」だからだ。
もし自分が監督なら、どうだろうか。
大事な試合で、決め切れない9番を、それでもピッチに送り続けられるだろうか。
あるいは、結果を優先して、迷いを切り捨ててしまうだろうか。
- 外している選手の「プロセス」を記録する — 決定機に何回走り込めているかを数え、シュート数と決定率を切り分けて評価する習慣を持つ
- 起用理由を言語化し練習後に一言添える — 選手が「なぜ今日使われたのか」を理解することで、信頼とモチベーションが両立する
- 補強候補をポジションの穴埋めではなくチーム哲学で選ぶ — 即戦力と将来の主力候補を分けてリスト化し、クラブの方針に合う選手を優先する
中盤の三人が抱える、役割と時間のジレンマ
アトレチコのもうひとつのテーマは、中盤にある。
開幕直後、オダイール・ヘルマンは、コロンビア代表にも名を連ねるフアン・ポルティージャと、アルゼンチン人のブルーノ・ザペリを中盤の軸に据えた。
その後、経験豊富なルイス・グスタヴォが加わり、中盤は3人組になっている。
ところが、結果も内容も、まだ理想には届いていない。
ポルティージャはコンディションやリズムが上がり切っておらず、「代表レベル」の存在感を、リーグ戦で発揮できているとは言い難い。
ルイス・グスタヴォは、ピッチ内外でリーダーになりつつある。
ザペリは、コーチ陣の信頼が厚いが、その才能を「試合を決める力」としてどこまで表現できるかが問われている。
ここにも、監督の難しい選択がある。
- 今、最も調子が良い選手だけを並べるのか
- 少し調子が落ちていても、先でチームの柱になる選手に、我慢して時間を与えるのか
- リズムとフィジカルを優先して、タイプの違う選手を入れ替えるのか
選んだ3人のうち、誰かを外すということは、その選手の現在だけでなく、未来への投資を一度止める、という意味も持つ。
一方で、勝てなければクラブとしての立場が危うくなる。
チームのために、あえて「今の最適解」を選ぶべき状況も、必ずやってくる。
選ばれる側の選手もまた、揺れる。
「なぜ自分は今日、ピッチに立てたのか」
「なぜ今日は外されたのか」
その答えは、必ずしも説明されるわけではない。
だからこそ、ピッチに立つ一分一秒が、その選手自身の「説得力」になる。
- 「外した」ではなく「決定機に入れた」と捉え直す — ゴール前に走り込む動きは続けてこそ評価される。失敗を積み重ねる時間がキャリアをつくる
- 起用・非起用の理由をコーチに質問する勇気を持つ — 説明されなくても自分で「なぜ今日は自分だったのか」を振り返ると、次の準備が変わる
- 親はすぐに「替えてほしい」と声を上げる前に監督の視点を想像する — 数字だけでなく「この先も含めた今」を見ていることを前提に、応援の言葉を選ぶ
良いDFがいても、失点は減らないという現実
守備にも、別の問題が横たわる。
センターバックのカルロス・テラン、アルトゥール・ジアス、フアン・アギーレは、いずれも高い評価を受けている。
しかし、4試合でクリーンシートは開幕戦のインテルナシオナウ戦のみ。
その後は、サントス、コリンチャンス、ブラガンチーノに毎試合のようにゴールを許している。
ただ守備陣だけを責めるのは簡単だ。
けれど、たとえばコリンチャンス戦の失点は、テランがクロスを必死に弾き返したあとのセカンドボールから生まれている。
誰か1人のミスではなく、ライン全体、中盤の戻り方、セカンドボールへの反応、その積み重ねが「1失点」という形で表面化している。
失点が多いからといって、DFを大きく入れ替えればいいのか。
結果だけ見れば、それもひとつの解決策に見える。
でも、守備は連係と信頼のスポーツだ。
隣の選手が、どのタイミングでラインを上げるのか。
クロスのときに、誰がどこまでついていくのか。
そうした細かな「約束事」は、試合とトレーニングを繰り返しながら、少しずつ揃っていく。
選手を変えれば、その約束事は最初からやり直しになる。
だから、失点を減らすために、あえて「変えない」という決断もある。
一方で、補強が必要な現実も突き付けられている。
DFのレオ・ペレの退団が近づき、残る3人のセンターバックに何かがあれば、一気に最終ラインが薄くなる。
21歳のダンタス(ノボリゾンチーノ)の獲得交渉は、そのリスクに備える一手だ。
現時点での即戦力かどうか。
数年後の成長も含めての投資なのか。
いずれにしても、クラブは「誰かが怪我をしてから考える」のではなく、「まだ問題が起きていないうちに手を打つかどうか」を迫られている。
「エル・マゴ」という名の10番が、魔法を使えないとき
そして、このチームでもっとも議論を呼ぶ存在が、10番のブルーノ・ザペリだ。
サポーターの間では、「エル・マゴ(魔法使い)」というニックネームで呼ばれるほど、技術とアイデアに満ちた選手。
一方で、「決め手になっていない」という声も少なくない。
プレーの映像を見れば、そのタッチや視野の広さ、ボールの置き方は、間違いなくチームで最も独創的だと分かる。
しかし、今季セリエAで記録されている「決定機の演出」は2回。
同じ数字をビベロスやエスキベルも残している。
ゴールはというと、今シーズン7試合で1点。
それも、パラナ州選手権の準々決勝で、4部にあたるセリエDに出るフォス・ド・イグアス相手の5−0の大勝の中の1点だ。
クラブ在籍は現在のメンバーの中で最も長く、2023年途中加入からすでに143試合13ゴール。
才能と実績、期待と数字。
そのギャップが、サポーターの評価を二分している。
10番という背番号は、攻撃の「答え」を求められる立場だ。
しかし、ザペリは今、まだ「問い」を立てている途中なのかもしれない。
彼を中盤の底で使えば、ビルドアップは安定するが、ゴール前での決定的な仕事は減る。
トップ下に置けば、決め手になるチャンスは増えるが、守備の強度やゲーム全体のバランスに負担がかかるかもしれない。
選手自身もきっと、揺れている。
- 自分は「試合を作る人」なのか
- それとも「試合を決める人」なのか
- どこでボールを受ければ、チームにとって一番意味があるのか
10番でありながら、まだ「自分の10番像」を探している段階。
目の前の1試合で答えを出せと言われながら、その一方で、長いキャリアの中で自分のスタイルを固めていかなければならない。
プロのピッチには、「時間をかけていい迷い」など、ほとんど存在しない。
それでもザペリは、90分の中で、1本のパス、1つのターン、1回のシュートで、自分の「今の答え」を表現し続けるしかない。
補強という「正解のない決断」

クラブのフロントにも、グラウンドとは別の試合がある。
国内移籍のウインドウが閉まるまで、残りはわずか。
アトレチコは、センターバックに加え、右サイドバック、ウイング、そしてビベロスの控えになれるセンターフォワードの獲得を検討している。
これは、単なる「穴埋め」ではない。
今いる選手の立場、チームの将来像、予算、移籍市場の状況。
それぞれが絡み合い、「今、誰を連れてくるのか」が問われる。
- ベテランを連れて来れば、今季の安定感は増すかもしれないが、若手の出場時間は減る
- 若手有望株に賭ければ、即戦力性は下がるが、数年後の主力と売却益を見込める
- クラブの哲学に合う選手かどうかも考えなければならない
外から見ると、「足りないポジションに補強をする」という単純な話に見えるかもしれない。
だが実際には、
「今の選手たちに、どれだけの我慢とチャンスを与えるのか」
という、非常に人間的な問いが隠れている。
選手たちも、それを敏感に感じ取る。
「自分たちだけでは心もとない、と思われているのか」
「競争が激しくなる分、成長のチャンスだと捉えるべきなのか」
同じ出来事に対して、受け取り方は一人ひとり違う。
日本の現場だったら、何を選ぶだろうか
ここまでの話を、日本のサッカーと重ねてみると、見えてくるものがある。
たとえば、次のような状況が、自分のチームにもないだろうか。
- 決定機を何度も外すストライカーを、どこまで信じて起用するか
- 才能はあるが、数字や結果が伴わない10番に、どのポジションを任せるか
- 安定した中盤のベテランと、伸びしろのある若手のどちらに時間を与えるか
- 守備の失点を、個人の問題と見るか、チーム全体の距離感や連係の問題と見るか
- 補強やメンバー入れ替えを、「今の選手の力不足」と捉えるか、「チームを強くする競争」と捉えるか
選手としてピッチに立つとき、保護者として子どもを見守るとき、指導者としてベンチに座るとき。
どの立場であっても、「何を選ぶか」は、常に迫られている。
そして、その選択には、すぐに正解だと分かるものもあれば、数か月、数年経ってからしか意味が見えないものもある。
「もっと決定力のある子を使ってほしい」
「なんであの子ばかりチャンスをもらえるのか」
そう感じたとき、一度立ち止まってみる。
監督は、もしかしたらビベロスのような「外していても、そこに走り込める9番」の未来を信じているのかもしれない。
ザペリのように、まだ形になっていない創造性に、時間をかけて賭けているのかもしれない。
その選択が「正しい」かどうかは、誰にも分からない。
ただ、そこには必ず「なぜそうしたのか」という思考のプロセスがある。
答えを急がないことが、サッカーの楽しみ方になる
アトレチコ・パラナエンセは、これからの14日間で4試合を戦う。
攻撃の決定力、中盤のバランス、守備の安定、補強の是非。
そのどれもが、「今すぐ答えを出したい」テーマだ。
けれどサッカーは、ときに残酷なほど、答えを引き延ばしてくる。
外し続けていた9番が、ある日突然、連続ゴールを決め始めることがある。
評価が割れていた10番が、大一番で試合を決める一発を放つこともある。
そのとき、私たちは結果だけを見て、「起用した監督は正しかった」「我慢してきた甲斐があった」と言いやすい。
でも、本当は、その「前の時間」にこそ、サッカーの面白さが詰まっているのかもしれない。
外しても、またゴール前に走り込む9番。
批判を浴びても、自分のプレースタイルを探し続ける10番。
迷いながらも、誰を送り出すかを決めなければならない監督。
補強の決断ひとつに、クラブの未来と選手たちのキャリアを重ねて考えるフロント。
そこにあるのは、「正解」ではなく、「どう考え、どう選んだか」という物語だ。
もし次に試合を見るとき、あるいは自分がプレーするとき、こんな視点をひとつだけ持ってみてほしい。
「自分なら、ここで何を選ぶだろうか」
走るコース、パスを出す相手、シュートを打つか、持ち直すか。
あるいは、誰をスタメンにするか、どこまで同じ選手を信じるか。
その問いを急いで閉じずに、少しの間、胸の中に置いておく。
答えが出るまでの時間を、楽しめるようになったとき。
サッカーは、勝ち負け以上の景色を、きっと見せてくれるはずだ。
