勝てない現実とどう向き合うか──エラス・ヴェローナが「人に強くつく守備」を貫く理由
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「勝てていないチーム」が、それでも貫こうとしているもの──パオロ・ザネッティとエラス・ヴェローナの選択

18位、3ポイント。それでも彼らがやめないこと
6試合を終えて、勝利ゼロ、3引き分け、18位。
エラス・ヴェローナの今季のスタートは、数字だけ見れば決して明るいものではありません。
夏の移籍市場では、ギフト・オルバン、ジオヴァネ、ネルソン、ベルネデ、アクパ・アクプロ、セルダルなど、特徴のはっきりした選手たちを獲得し、指揮官パオロ・ザネッティは新しい色をチームに塗ろうとしました。
それでも、まだ「形になった」とは言い切れない。
では、そんなチームがピッチで何を試みているのか。
そして、その選択の裏側にはどんな考えがあるのか。
結果だけを見て「うまくいっていないチーム」と片付けてしまう前に、その問いに少し時間をかけてみたいと思います。
| 選手・ポジション | 主な強み | ゲームモデルでの役割 | 評価 |
|---|---|---|---|
| GKモンティポ | シュートストップ優秀、足元は得意でない | ロングキックでラインを一気に飛ばす配球 | ◎ 特性を活かす |
| CBネルソン | ロングキック・縦パスに優れる | 後ろから細かくつながず一気に飛ばす | ◎ ビルドアップの起点 |
| CBヌニェス | フィジカルに秀でたデュエル | マンツーマン気味の守備でデュエルに勝つ | ◎ 守備の核 |
| MFアクパ・アクプロ | 強度・走力・ボックス・トゥ・ボックスの動き | ボールを奪って前へ運ぶ、レジスタではない | ○ 特性通りの使い方 |
| MFベルネデ | 高い位置を取る・ライン間のポジション | 前線の6人の一員としてセカンドボール回収 | ○ 攻守の連携 |
| FWオルバン・ジオヴァネ | 走力とフィジカルを兼ね備えた2トップ | 中央でボールを奪ったら縦パスで直接勝負 | ◎ カウンターの完結点 |
3-5-2から始まる「自分たちの土俵」の探し方
ヴェローナは基本的に3-5-2で試合に入ります。
オルバンとジオヴァネという走力とフィジカルを兼ね備えた2トップ、そして5枚の中盤で中央を厚くする配置です。
ボールを持っているときは3-1-2-4のような形に変化し、ボールを失ったときには5-3-2に戻る。
形だけを追えば「最近よくある3バックのチーム」に見えるかもしれませんが、その中身にはかなりはっきりした「選択」があります。
ひとつは、ボールを持って主導権を握るチームではなく、「守備から試合をつかみにいくチーム」でいることをはっきりと選んでいることです。
もうひとつは、その守備の中身を「人と人の勝負」に寄せていることです。
- GK・CB・中盤・FWの特性を紙に書き出してゲームモデルを設計する — 「やりたいサッカー」に選手をはめるのではなく、GKの足元・CBの配球傾向・中盤の強み・FWの武器を一覧にしてから「どんな形が現実的か」を考える
- 結果が出ない期間でも「モデルの何を変えて、何を維持するか」を明確にする — 外からの「システムを変えろ」という声に対して、モデルそのものを変えるのか・やり方の細部を変えるのか・選手起用を変えるのかを区別して判断する
- マンマーク型の守備リスクをチームで共有しておく — 1対1で負けるとラインが崩れる・相手のローテーションにマーク受け渡しが難しくなる・終盤の体力低下時にギャップが生まれる、という構造的リスクをチームで把握したうえで採用する
なぜ「人につく守備」を選ぶのか
ヴェローナの守備は、5-3-2のブロックを敷きながらも、中央ではかなりはっきりしたマンツーマン気味のプレッシングを行います。
2トップが相手のセンターバックに行き、中盤3枚がその背後で相手の中盤を捕まえる。
相手がビルドアップでボールを動かそうとしても、簡単には前進させない。
相手がユヴェントスのようにボール保持に長けたチームであっても、ヴェローナはそこに真っ向から「人の強さ」でぶつかろうとします。
プレッシングの狙いはシンプルです。
・中央でボールを奪う
・すぐに縦へ、2トップのスピードとパワーに託す
チームとして「うちは細かくつないで崩すチームではない」と理解したうえで、フィジカルと走力を最大限に生かす道を選んでいるように見えます。
この選択は、ある意味でとても正直です。
・テクニックやパスワークでリーグ上位のクラブには及ばない
・しかし、走る、ぶつかる、奪うでは簡単に負けない
その現実を受け入れたうえで、「じゃあ、どうやって勝ち筋を作るか?」を考えた結果としての5-3-2とマンツーマン寄りの守備。
もし自分がこのチームの監督だったら、同じ選択をするでしょうか。
もっとボールを持つサッカーを目指したい、と欲張るでしょうか。
- 18位でも「このメンバーでどう勝ち筋を探すか」を問い続けているヴェローナに注目する — 自分のチームの強みと弱みを冷静に言葉にしたうえで「こういう戦い方なら勝てる」という仮説を持てているかを、自分自身に問い直す機会になる
- 自分の「ベースに何を置き、その上に何を積むか」を考える — ヴェローナはフィジカルと走力を土台にポジション的工夫を積んでいる。自分はどんな強みを土台にして、その上にどんな技術やスキルを積もうとしているかを言葉にしてみる
- 保護者として「勝てない時期に何を守るか」を子どもと話し合う — 結果が出ないとき「もっと違うサッカーをしろ」と言いたくなるのは自然だが、「何が変わって何が変わっていないか」を観察する視点を持つと、子どもの成長が見えやすくなる
選手の特性から逆算するという考え方
ヴェローナを見ていると、「やりたいサッカー」に選手をはめているというより、「いる選手から逆算して形を決めている」印象が強くあります。
例えば、後ろからのビルドアップ。
・GKモンティポはシュートストップには優れる一方、足元の技術は得意とはいえない
・ネルソンはロングキックや縦パスに優れるが、細かくつなぐよりも「ラインを一気に飛ばす」配球をしたいタイプ
・中盤のアクパ・アクプロは強度と走力、ボックス・トゥ・ボックスの動きが持ち味で、ゲームを落ち着かせるレジスタというよりは、ボールを奪って前へ運ぶ選手
こうした特性を眺めたとき、「後ろから細かくつないで相手のプレッシャーを外していくサッカー」を選ぶのは、どこか無理が生じます。
だからこそ、ヴェローナははっきりと割り切ります。
・ゴールキックからもロングボールを多用する
・セカンドボールの回収に人とエネルギーを割く
・奪ったらできるだけ少ない手数で前へ
もちろん、それは「理想的な美しいサッカー」とは違うかもしれません。
けれど「今いる選手で、現実的に勝ちを拾うにはどうするか」と考えたとき、それはひとつの筋の通った答えでもあります。
日本の育成年代では、つい「自分たちがやりたいサッカー」を先に決めてしまいがちです。
その一方で、目の前にいる選手をどう活かすかという視点は、いくつ持てているでしょうか。
・GKの特徴
・センターバックの得意な配球
・中盤の強み(走力なのか、パスなのか)
・FWの武器(裏への抜け出しなのか、ポストプレーなのか)
もし今、自分がチームのキャプテンなら。
あるいは、指導者なら。
こうした要素を一度紙に書き出してみたら、どんな形が浮かび上がるでしょうか。
6試合勝てない中で、それでもぶらさないもの
ヴェローナは、開幕から勝利がない中でも、基本的なゲームモデルを大きく変えてはいません。
・守備では5-3-2をベースに、人についていくプレッシング
・攻撃では2トップのスピードとフィジカルを生かす縦志向
・中盤のベルネデやセルダルが高い位置を取り、セカンドボール回収とカウンターの起点になる
この「変えない」という選択は、ときに勇気のいる決断です。
結果が出ていないとき、外からは必ず「システムを変えるべきだ」「もっとボールをつなげ」「5バックでは守り一辺倒だ」といった声が聞こえてきます。
そこで、本当にモデル自体を変えるべきタイミングもあるかもしれません。
一方で、「まだ判断するには早い」と踏んで、同じモデルの中で微調整を重ねる道もある。
ザネッティは今、後者を選んでいるように見えます。
例えば、プレッシングのスイッチを入れる高さや、セカンドボールを回収するポジション。
または、どのタイミングでサイドにボールを運び、どの瞬間に一気に縦を狙うのか。
6試合、勝てない。
その間、ベンチに座る監督の頭の中では、「モデルを壊すべきか」「信じて続けるか」という葛藤が何度も往復しているはずです。
プレーヤーとして試合に出られないとき、自分のスタイルを変えるか、貫くかで悩むことはないでしょうか。
どこまでが「柔軟さ」で、どこからが「ブレないこと」なのか。
ヴェローナの現状は、その線引きを考えるには、ちょうどいい題材かもしれません。
「人の強さ」に頼るサッカーのリスクと、それでも選ぶ理由

ヴェローナの守備のベースには、「1対1の強さ」があります。
センターバックのネルソンやヌニェス、中盤のアクパ・アクプロやニアッセといったフィジカルに秀でた選手たちが、相手とのデュエルで優位に立てること。
その前提があるからこそ、マンツーマン気味のプレッシングという選択が可能になります。
ただし、このスタイルには明確なリスクもあります。
・一人が負けると一気にラインが崩れる
・相手にポジションチェンジやローテーションを多用されると、マークの受け渡しが難しくなる
・試合終盤、体力が落ちたときのギャップが大きくなる
ヴェローナは、あえてそのリスクを受け入れています。
なぜか。
それは、リスクを取ってでも「自分たちが勝てる可能性」を最大化しようとしているからだと考えられます。
ボールを保持しながら攻める「きれいなサッカー」を志向すれば、ミスを減らせるかもしれません。
でも、そのサッカーで上位クラブに勝ち切るイメージはあるか。
逆に、「デュエル」と「走力」に振り切ることで、1試合ごとのアップセットを起こす確率は上がるかもしれません。
長いシーズンを生き残るためには、「自分たちがどのゲームで勝ち点を拾うか」という現実的な計算も必要になります。
そこに、スタイルの是非とは少し違う、プロフェッショナルとしての視点が見え隠れします。
育成年代で同じことをやるべきかどうかは、また別の議論です。
しかし、「自分たちが持っているカードから逆算して、あえてリスクのある選択をする」という思考は、どの年代でも学べる部分があるのではないでしょうか。
日本で同じ状況になったら、どう考えられるか
ここで、少し視点を日本に移して考えてみます。
もし日本のクラブや学校チームが、同じように開幕6試合で勝てなかったとき。
どんな反応が起きるでしょうか。
・すぐにシステムを変える
・ボールをつなぐサッカーから、よりシンプルなロングボールに切り替える
・あるいはその逆で、「やっぱりつながないと」と方向転換する
外からの声や結果に押されて、「短期間で大きな舵の切り直し」を迫られることは少なくありません。
そんなときに必要になるのが、「何を守って、何を変えるのか」を自分で選ぶ力です。
・モデルそのものを変えるのか
・モデルは残して、やり方の細部を変えるのか
・選手の起用を変えて、同じモデルを別の解釈でやってみるのか
ヴェローナのように、結果が出ない中でもモデルを一定レベルで貫くという選択は、日本ではときに勇気のいる行動かもしれません。
同時に、そこには「短期の結果」と「長期の成長」のバランスをどう取るかという問いも潜んでいます。
育成年代なら、なおさらそのバランスをどう設定するかが重要になってきます。
いま、自分が関わっているチームは、どこにその線引きを置いているでしょうか。
勝てない時期に、何を守り、何を変えるのか。
「縦に速い」だけではない、攻撃の中の小さな工夫
ヴェローナの攻撃は、「カウンターで縦に速く」というイメージが強いかもしれません。
確かに、ボール奪取からオルバンやジオヴァネに一気に縦パスを入れ、スピードとパワーで勝負させる形は、彼らの最大の武器です。
一方で、ビルドアップからの攻撃でも、小さな工夫が見られます。
・3バック+1ボランチの「3+1」の土台
・ベルネデとセルダルの2枚のインサイドハーフが高い位置を取り、「2枚の中間ポジション」を作る
・サイドのウイングバックと2トップを含めた「4枚の前線」と、その背後の「2枚の中盤」で、合計6人が相手陣に深く関わる
ここでの狙いは、「一気に縦に入れる」ことだけではなく、「相手の1つ目のプレッシャーラインを飛ばして、前線と中盤の6人で崩し切る」ことです。
もちろん、まだその連係は発展途上です。
一方で、カウンターというわかりやすい強みの陰で、こうした細部の積み上げが続いていることも事実です。
目立つのは、ゴール前でのスプリントやデュエルかもしれません。
でも、その裏には「どうポジションを取れば、相手のライン間で受けられるか」「どのタイミングで前に顔を出すか」という、地味で時間のかかる作業があります。
日本の選手にとっては、ここに共感できる部分も多いのではないでしょうか。
身体能力を武器にしづらい環境だからこそ、ポジショニングやタイミングにより敏感になる。
ヴェローナは逆に、「身体の強さ」を土台にしつつ、その上に少しずつポジション的な工夫を積んでいるようにも見えます。
どちらが正しい、という話ではありません。
ただ、「ベースに何を置き、その上に何を積むか」という順番は、改めて考える価値がありそうです。
「今の自分なら、どんなサッカーを選ぶか」を考えてみる
ヴェローナのサッカーは、好みが分かれるかもしれません。
・とにかく走って戦うスタイルに、共感を覚える人もいるでしょう
・ボールを握って主導権を握るサッカーが好きな人には、物足りなく感じるかもしれません
大切なのは、どちらか一方を「正しい」と決めることではなく、なぜ今このチームがこのサッカーを選んでいるのか、その背景に目を向けることです。
リーグの順位表では、ヴェローナは18位に沈んでいます。
その事実は消えません。
それでも、ピッチの中では毎試合、「このメンバーで、どう勝ち筋を探すか」という思考と試行錯誤が続いています。
読んでいる人自身に置き換えるなら、こんな問いが浮かび上がってきます。
・自分のチームの強みと弱みを、本当に冷静に言葉にできているか
・そのうえで、「こういう戦い方なら勝てる」と、自分なりの仮説を持てているか
・結果が出ないときも、その仮説をすぐに捨てず、「どこを変えればよくなるか」を考え続けられるか
ヴェローナが今、イタリアで直面している現実は、日本のグラウンドでボールを追う誰かの姿とも、どこか重なります。
答えを急がずに、問いを持ち続けるということ
シーズンの早い段階で結果が出ないチームを見ると、人はどうしても「このやり方は失敗だ」と結論づけたくなります。
けれど、本当にそうでしょうか。
・選手の特性から逆算して選んだ戦い方
・フィジカルと走力を武器に、あえて人につく守備を選んだ勇気
・勝てない期間でも、モデルを急に手放さず、細部の修正を重ねている姿勢
そこには、数字だけでは見えにくい「思考」と「選択」の積み重ねがあります。
サッカーは、90分で白黒がついてしまうスポーツです。
しかし、その背景にあるプロセスまで含めて見ようとすると、白と黒の間には驚くほど多くのグラデーションがあります。
いま自分が関わっているチーム、あるいは自分自身のプレーについて、そのグラデーションをどれだけ丁寧に見ようとしているか。
ヴェローナの今季の戦い方は、「すぐに正解を決めつけない」という姿勢を思い出させてくれます。
次に試合を観るとき、あるいは自分がピッチに立つとき。
結果の裏側にある「なぜこの選択をしたのか」という問いを、少しだけ長く手元に置いてみる。
その時間が、サッカーの見え方を、ほんの少しだけ深くしてくれるのかもしれません。
