少年サッカーの練習風景。コーチが子どもたちに穏やかに声をかけながら、ボールを使ったトレーニングをサポートしている

結果より「勝てるようになる力」を育てる――FCプリーとバルサに学ぶジュニアサッカーの本質

DEFINITION
ジュニアサッカーで育成と結果はどちらが大事か
育成年代のサッカーにおいて「勝つこと」より「勝てるようになること」を優先することが長期的な選手成長につながる。バルサのU16哲学が示すように、短期的な敗北よりも挑戦と学習の積み重ねが選手の本質的な力を育てる。

「結果」と「成長」はどちらが大事か。FCプリーとバルサから学ぶ、子どものサッカーの本質

「大事なのは3ポイントだ。」

「ダービーは、内容じゃない。勝つか負けるかだ。」

「ホームでは、結果はひとつ。勝利だけだ。」

サッカーをしてきた人なら、一度はどこかで耳にしたことがある言葉ではないでしょうか。

少年団のベンチでも。

アマチュアのロッカールームでも。

あるいはテレビ中継の解説でも。

では、こうした「結果至上主義」の言葉は、子どもたちのサッカーにとって、本当に正しいのでしょうか。

そして、私たちは本当に「成長が大事」「楽しむことが大事」と“実際に”考え、行動できているのでしょうか。

アンケートが映し出した「建前」と「本音」

スイスのグラスルーツサッカーで行われたアンケートには、120人以上が回答しました。

そこでは多くの人が、次のような考えに賛同しています。

  • 「チームが成長しているなら、負けても構わない。」
  • 「勝てなくても、サッカーを楽しむことはできる。」

言葉だけを見れば、とても前向きです。

「負けてもいい、学ぶことが大切だ。」

「楽しむことが第一だ。」

これ自体は、多くの指導指針や協会の理念にも通じる考え方です。

しかし、FCプリー(FC Pully)で40年以上にわたりジュニアを指導してきたダニエル・ブルンナーは、こう指摘します。

「言うことと、それを“実際に生きること”は、同じではない。」

試合が始まると、スコアボードの数字がすべてになってしまう。

ミスをした子に、つい厳しい言葉が出てしまう。

終わったあと、真っ先に口から出るのは「何対何で勝った?」という質問。

頭では「成長が大事」とわかっている。

それでも、心は「勝ち負け」に強く縛られてしまう。

このギャップこそが、現場で起きているリアルな問題なのだと、ブルンナーは静かに語ります。

COMPARISON / 「結果至上主義」vs「育成優先」の比較
観点 結果至上主義 育成優先 推奨
選手起用 上手い子だけを多く出場させる 全員に均等な出場機会を与える ◎ 育成優先
チャレンジへの姿勢 リスクを避けた安全なプレーを要求 ミスを恐れずに挑戦させる ◎ 育成優先
試合後の問いかけ 「何対何で勝った?」と問う 「どんなプレーができた?」と問う ◎ 育成優先
戦術の目的 この試合に勝つための戦術を最優先 練習テーマを試合で試させる ◎ 育成優先
コーチの感情表現 ミスに激しく反応する 静かに見守り的確にフィードバックする ◎ 育成優先
◎=長期的成長に有利 FCプリー・ダニエル・ブルンナーの指導哲学をもとに整理

「結果の重み」は、なぜ低年齢から強くなってしまうのか

アンケート結果を見ていくと、ある傾向が見えてきます。

競技レベルが上がれば上がるほど、「結果」が重視されるようになっているのです。

大人の上位リーグで結果が求められるのは、ある意味では当然です。

クラブの経営、昇格降格、スポンサー、観客の期待。

多くのものが勝ち点と結びついています。

しかし、ブルンナーが特に懸念するのは、その「結果重視」が、ジュニア年代、しかも11〜13歳のプレフォーメーション期から強く出始めていることです。

本来、スイスサッカー協会(ASF)はこの年代に対して「結果よりもプレーを優先する」方針を掲げています。

それにもかかわらず、現場では次のような考えが顔を出します。

  • 「ときには短期的な勝利を優先してもいい。たとえそれが成長を遅らせたとしても。」

この「ときには」が、いつのまにか「いつも」に変わっていないか。

ブルンナーは、その背景に「クラブからのメッセージ」が大きく影響していると見ています。

試合後、最初にかけられる言葉が「何点で勝った?」であれば、子どもたちの意識は自然とスコアに向いてしまいます。

一方で、こう尋ねることもできます。

  • 「今日、どういうサッカーができた?」
  • 「何か新しいことにチャレンジできた?」
  • 「この試合で、何を学んだ?」

問いかけを変えれば、子どもたちの視線も変わります。

結果から「内容」へ。

勝ち負けから「成長」へ。

あなたなら、子どもにどちらの問いを投げかけたいでしょうか。

FOR COACHES / FOR COACHES
コーチ自身が「最大の教科書」になる
  1. 問いかけを変えて選手の視線を変える — 試合後の最初の一言を「何対何で勝った?」から「今日どんなプレーができた?」に変えるだけで、選手の学習軸がスコアから成長へシフトする
  2. 練習テーマを試合で試させる環境を作る — ある週の練習テーマを設定し、試合でのチャレンジを認める姿勢を持つ。ミスをしても「練習を試合で出そうとした姿勢」を肯定的に評価する
  3. シーズン開始時に保護者への説明会を実施する — クラブの育成哲学・選手に求めること・審判へのリスペクトを共有することで、タッチライン際からの過剰なプレッシャーを防止する
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FOR PLAYERS & PARENTS / FOR PLAYERS & PARENTS
負けた試合にも必ず「学び」がある
  1. 今日のプレーを自分の言葉で振り返る — 試合後に「何を試みたか・何ができたか・次に挑戦したいこと」を言葉にする習慣が、成長の速度を大きく変える
  2. 保護者は「強い言葉」に注意する — タッチライン際での「絶対」「ダメ」は子どもの心にミスを恐れる気持ちを育ててしまう。応援は行動を認める言葉を選ぶ
  3. 「勝てるようになること」に価値を置く — 一度の勝利より、失敗から立ち上がる力・仲間と協力する姿勢・チャレンジする勇気が人生に続く本当の財産になる

点差が縮まるほど高まる「感情の温度」

アンケートでは、「感情の荒れ」を引き起こす要因として、結果が大きな影響を持っていることも見えてきました。

回答者の12%は、「ピッチ上のネガティブな振る舞いの原因は審判にある」と考えています。

しかし多くは、「結局は選手本人の性格や態度による」とも認めています。

興味深いのは、108人もの人が、この1年の間に「審判への批判」を目撃していると答えている点です。

そうした場面は、どんなときに多いのか。

  • スコアが拮抗しているとき。
  • 試合に負けそう、あるいは負けているとき。

つまり、「結果」が揺れ動く時間帯ほど、感情も荒れやすくなるのです。

さらに、半数以上の参加者が、直近6カ月のなかで「結果をめぐる対立や衝突」を経験していると答えています。

試合後の口論。

ベンチでの不満。

保護者同士、あるいは保護者とコーチの間の緊張。

本来は「子どもがサッカーを楽しむ場所」であるはずのグラウンドで、なぜここまでピリピリした空気が生まれてしまうのか。

その中心にあるのも、やはり「スコア」という数字なのだと、このアンケートは教えてくれます。

FCバルセロナに学ぶ、「負けてもいい」育成の哲学

では、結果をまったく気にしなければいいのか。

もちろん、それも極端な話です。

ブルンナーは、そのバランスを考える上で、FCバルセロナの育成を例に挙げます。

バルサは、世界でも有数の育成クラブとして知られています。

彼が紹介するのは、こんな考え方です。

「U16までは、エスパニョールに負けても構わない。

U17で勝てるようになればいい。」

ここには、はっきりとしたメッセージがあります。

  • 目先の勝利より、長期的な成長を大切にする。
  • 「今勝つこと」よりも、「将来どういう選手になるか」に軸を置く。

この姿勢があるからこそ、バルサは、技術的にも戦術的にも優れ、ゲームを深く理解した選手を多く輩出してきました。

一方で、ブルンナーはこうも語ります。

「育成において破壊的なのは、『勝利がすべて』になったときだ。」

勝利がすべてになると、そこから逆算した選手起用や戦い方が選ばれるようになります。

  • 「下手な子」はベンチに座る時間が長くなる。
  • 「リスクのあるチャレンジ」は避けられ、「安全な選択」だけが求められる。
  • 長期的な成長より、「この試合に勝つための戦術」が最優先される。

しかし、本当に出場時間が必要なのは、まだうまくいかない子どもたちの方です。

本当に経験がいるのは、ミスを恐れずにボールを受ける勇気です。

「勝つためだけのサッカー」は、そうした成長の芽を静かに摘んでしまいます。

大人にとっては「1試合」でも、子どもにとっては「一生で一度しかない年代の経験」です。

あなたなら、その時間を「結果」だけに捧げてしまってよいと思うでしょうか。

「コーチこそ、最大の教科書」であるという視点

ブルンナーは、育成年代のサッカーにおいて、「コーチの存在」を何度も強調しています。

「若い選手に良い態度を求めるなら、まずコーチ自身がそれを示さなければならない。」

子どもたちは、大人が思う以上に、コーチの一挙手一投足を見ています。

  • 審判に対して、どのような言葉を投げているか。
  • ミスした選手に、どんな顔で、どんな声で話しかけるか。
  • 試合に負けたあと、ベンチでどのように振る舞うか。

「学びの目標はトレーニングで決め、試合でその達成度を測るべきだ。」

ブルンナーはそう語ります。

例えば、ある週の練習テーマが「ビルドアップ」だったとします。

試合で果敢に後ろからつなごうとして、ボールを奪われ、失点してしまうこともあるでしょう。

このとき、「だから言っただろ、前に蹴れ!」と感情的に叱るのか。

それとも、「チャレンジしたこと」「練習したことを試合で出そうとした姿勢」を認めるのか。

結果だけを基準にすると、前者の反応になってしまいがちです。

しかし、「学び」を基準にすれば、後者の関わり方が自然になっていきます。

ブルンナーは、こんな言葉も残しています。

「大声で怒鳴らないからといって、何もしていないわけではない。」

静かに見守ること。

適切な場面で的確な声をかけること。

ジェスチャーや表情で安心感を与えること。

そうした「見えにくい指導」が、子どもたちのチャレンジする勇気を支えています。

親のスタンドから生まれる「目に見えないプレッシャー」

サッカーの環境をつくるのは、コーチだけではありません。

ブルンナーは、「親」の存在も大きいと話します。

「結果へのプレッシャーは、ピッチの中だけから来るものではない。

その周りの環境からもやって来る。」

例えば、タッチライン際から飛んでくる声。

  • 「そこは絶対にミスしちゃダメだぞ!」
  • 「なんでそこでシュート打たないんだ!」
  • 「この試合は絶対勝たないといけないぞ!」

そこに悪気はなくても、「絶対」「ダメ」という強い言葉は、子どもの心の中で「ミスを恐れる気持ち」を大きくしてしまいます。

だからこそ、ブルンナーは、シーズンの始めに「保護者への説明会」を開くことの重要性を強く語ります。

「この時間は、とても大切だ。

クラブの育成哲学。

子どもたちにとって何を一番大切にするのか。

そして、審判や相手チームに対するリスペクトの重要性。

そうしたことをしっかりと共有する機会になる。」

残念ながら、多くのクラブでは、この時間が十分に取られていません。

その結果、「クラブが目指すサッカー」と「親が期待するサッカー」の間でズレが生まれ、試合の日に小さな衝突や誤解が積み重なってしまいます。

ブルンナーは、こう締めくくります。

「もっと多くのクラブが、自分たちの哲学を明確にし、それを保護者と共有する時間を持てたなら、サッカーはきっと、今よりも健全になるはずだ。

育成は、順位表よりも前に来なければならない。」

「勝つこと」と「勝てるようになること」は違う

アンケート結果と、ダニエル・ブルンナーの言葉を重ねていくと、ひとつの問いが浮かび上がってきます。

「私たちは、子どもたちに何を教えたいのか。」

一度きりの勝利でしょうか。

それとも、「勝てるようになる力」でしょうか。

ブルンナーはこう言います。

「目的は『どんな手段を使っても勝つこと』ではない。

『どうやって勝てるようになるか』を学ぶことだ。」

この違いは、小さなようでいて、とても大きな違いです。

  • 「勝つこと」だけを目指すと、結果が出ないとき、すべてが無意味に思えてしまう。
  • 「勝てるようになること」を目指すと、たとえ負けても、その中に学びや成長を見つけることができる。

サッカーの試合は90分で終わります。

しかし、そこで身につけた「挑戦する勇気」「失敗から立ち上がる力」「仲間と協力する姿勢」は、人生のずっと先まで続いていきます。

あなたが、もしジュニアのコーチだったなら。

あなたが、もしサッカーをする子どもの親だったなら。

今日の試合後、最初の一言に、どんな言葉を選ぶでしょうか。

「何対何で勝った?」ではなく。

「どんなプレーができた?」と、問いかけてみる。

そこから、子どもたちのサッカーの景色が、少しずつ変わっていくのかもしれません。

最後に、このテーマにふさわしい言葉を添えて終わりたいと思います。

「勝利とは、ひとつの結果ではない。

正しい道のりを、あきらめずに歩み続けることそのものだ。」

FAQ / よくある質問
Q. 育成年代でも勝利を目指すことは間違いですか?
A. 勝利を目指すこと自体は問題ありません。問題は「どんな手段を使っても勝つこと」が最優先になったときです。バルサのU16哲学が示すように「U16までは負けても構わない、U17で勝てるようになればいい」という視点では、勝利は長期的な成長の結果として自然についてくるものとして捉えています。
Q. 結果を気にしない育成はいつまで続けるべきですか?
A. FCプリーのブルンナーは特に11〜13歳のプレフォーメーション期を重要視しています。この年代は技術・戦術・精神面の基礎が形成される時期であり、ここで「恐れずに挑戦する文化」を作れるかどうかが長期的なプレーの質を決定します。15〜16歳以降は徐々に結果への意識を取り入れていくことが自然な流れです。
Q. 保護者がタッチライン際で激しく叫ぶことの影響は?
A. アンケートでは、半数以上の参加者が直近6カ月に「結果をめぐる対立や衝突」を経験しています。保護者の激しい叫びは子どものミスを恐れる気持ちを高め、チャレンジを避けさせる要因になります。クラブが育成哲学を保護者と共有するシーズン開始時の説明会が有効な対策とされています。
Q. 「大声で怒鳴らないコーチ」は指導していないのですか?
A. ブルンナーはこの誤解を明確に否定しています。「大声で怒鳴らないからといって、何もしていないわけではない」と言い切っています。静かに見守ること・適切な場面での的確な声かけ・表情やジェスチャーでの安心感の提供が、子どもたちのチャレンジする勇気を支える見えにくい指導として機能しています。
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