流動性で進化するフィオレンティーナの3バック――パオロ・ヴァノーリ体制が描く「柔軟な構造」と未完成の攻撃モデル
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パオロ・ヴァノーリ新体制のフィオレンティーナを読み解く ――「3バックの継承」と「流動性」というキーワード

2025-26シーズン、フィオレンティーナはパオロ・ヴァノーリを新たな指揮官に迎えました。 トリノやヴェネツィアでの実績を経てセリエAに戻ってきたヴァノーリは、「3バック」をベースにしながらも、きわめて流動的なサッカーを志向しています。 数字だけを見ると、トリノでの成績は40試合で勝率も高くはなく、1試合平均1.18ポイントと決して派手ではありません。 それでもクラブが彼を選んだのは、「構造」と「柔軟性」を両立させるゲームモデルへの信頼ゆえでしょう。
ここでは、小学生から大人まで一緒にサッカーを学ぶような感覚で、ヴァノーリ版フィオレンティーナがどのように「攻守の形を変えながら」戦っているのかを整理してみます。 そして最後に、「このサッカーはどこへ向かうのか?」という問いを、読者のみなさんと共有したいと思います。
基本は3-5-2、それでも「ひとつの形」に止まらないフィオレンティーナ
ベースシステム:3-5-2という選択
ヴァノーリがフィオレンティーナで採用するベースは3-5-2。 前任者ピオリ時代からの「3バック継続」は、いきなりチームを大きく変えすぎず、選手たちの混乱を避ける意味でも、非常に現実的な選択です。
しかし興味深いのは、「守備の土台」は3-5-2で安定させながらも、攻撃では複数のシステムに自在に変化する点です。 たとえば攻撃局面では、こんな形に変形していきます。
- 3-1-4-1-1
- 3-1-5-1
- 3-3-3-1
- 3-2-4-1
- 2-3-4-1
- 2-2-4-2
- 2-3-5
数字だけを見ると難しく感じるかもしれませんが、根底にある考え方はシンプルです。 「誰がどのラインに立つか」を流動的に変えることで、
- 幅(サイドの広がり)
- 深さ(相手ゴール方向への前後の距離)
- 人数(局地的な数的優位)
を、相手や状況に合わせてコントロールしようとしているのです。
| フェーズ | システム | 特徴 | 評価 |
|---|---|---|---|
| ベース(全局面) | 3-5-2 | 前任ピオリからの3バック継続で選手の混乱を最小化 | ◎ 安定した土台 |
| 攻撃変形・主力 | 3-1-4-1-1 | ニコルッシ・カヴィーリアを底に置き前線に厚みを出す | ◎ 最頻出形 |
| 攻撃変形・可変 | 2-3-4-1 / 2-3-5 | ラニエリとポングラチッチが前進し最終ラインが2枚に | ○ リスク高め |
| 守備基本 | 5-3-2 | 両ウイングバックが最終ラインまで撤退する基本形 | ◎ コンパクト |
| 守備可変 | 4-3-3 | ポングラチッチが前に出て中盤を埋めるポジション変化 | ○ 状況限定 |
守備時は5-3-2・5-2-3・4-3-3に変化
ボールを失ったときのフィオレンティーナは、まず「後ろに素早く人数をそろえる」ことを優先します。 その結果、守備時は主に次のような形になります。
- 5-3-2:両ウイングバックが最終ラインまで下がる基本形
- 5-2-3:一枚のインサイドハーフ(多くはマンドラゴラ)が前線に出てパスコースを消す形
- 4-3-3:ポングラチッチが前に出て中盤を埋める形
ここでもキーワードは「柔軟性」です。 状況に応じて選手が一列前後に動き、相手のビルドアップのカギとなる選手を捕まえに行きます。 その分、ラインが割れやすくなるリスクもありますが、「誰を優先して消すか」を明確にしていることが特徴です。
フィオレンティーナの主役たち ――名前から見るゲームモデル
- 守備の土台を固定してから攻撃の可変を導入する — ヴァノーリ流の成功要因は「守備は5-3-2で安定、攻撃で変形」という段階的な設計にある。まず守備の原則を徹底させてから可変を練習する順序が重要
- 選手ごとに「可変の役割」を明確に設定する — ラニエリが左に広がる、ソームが中盤の底まで降りるなど、誰がどう動くかを事前に設計することで流動性が混乱でなく武器になる
- xGとシュート数で攻撃の質を定期評価する — クロス17本・xG0.77というデータが示すように、シュート数や機会の質を継続的に測定することで、どの局面を改善すべきか客観的に特定できる
後方の要:デ・ヘアと3バック
ゴールキーパーのデ・ヘアは、単なるシュートストッパーではなく「ビルドアップの一員」として機能します。 センターバックのポングラチッチ、マリ、ラニエリと連動しながら、時にはロングボールで前線のピッコリを狙う役割も担います。
ポングラチッチは右ストッパーとしてビルドアップに関わりつつ、ときに高い位置でマークに出ていきます。 マリは「最初のプレーメーカー」として中央から攻撃を組み立てる役割。 そして左のラニエリは、守備だけでなく高い位置まで出ていける「可変の駒」として、時に中盤や前線にまで顔を出します。
こうした3バック+デ・ヘアの構造は、 「後ろから崩す」か「一気に前線へ飛ばす」かを使い分けるための土台になっています。
- システムの数字よりも「動く理由」を理解する — 3-5-2が2-3-5に変わるのは数字の話ではなく「誰がどこにいると相手が困るか」という判断の積み重ね。原則を理解すると試合観戦がより面白くなる
- クロスの精度と中央の崩しは補完関係にある — フィオレンティーナのクロス偏重という課題は多くのチームに共通する。サイドとセンターを使い分けることで相手の守備が崩れやすくなる
- グズムンドソンのような「どこにでも顔を出す」選手の重要性 — 決まったポジションにいないことで相手の守備が迷い、チーム全体に流動性が生まれる。ポジションに縛られない判断力はどの年代でも鍛えられる
中盤の軸:ニコルッシ・カヴィーリアと「周りの動き」
中盤の底に位置するニコルッシ・カヴィーリアは、いわば「2人目のプレーメーカー」。 センターバックの前に立ち、相手の中盤に「マークに出るか、スペースを守るか」というジレンマを与えます。
その周囲で大きく動くのが、マンドラゴラとソームです。 マンドラゴラは縦の動きが多く、ビルドアップに下がることもあれば、クロスに飛び込んでフィニッシュに顔を出すこともあります。 ソームはフォルティニと連動しながらポジションを入れ替え、パス精度の高さで決定機を生み出します。 ジェノア戦でも、コロンボへのスルーパスでゴールを演出しました。
サイドの対照性:ドドとフォルティニ
右サイドのドドは、とにかく「クロスを上げる」ことを狙います。 この試合では6本中成功0本と精度は課題ですが、サイド深くまで進んでからのボール供給は明確な狙いです。
左サイドのフォルティニは、「縦突破」よりも内側に切れ込んでクロスを上げるタイプ。 スピード勝負よりも、利き足である右足に持ち替えて精度の高いボールを供給しようとします。 サイドアタックという同じテーマでも、右と左で性格が異なるのが面白いポイントです。
前線:ピッコリとグズムンドソンのコンビ
前線のピッコリは、いわゆる「ターゲットマン」。 ロングボールの的になり、ボックス内では常に相手センターバックを引きつけます。 パス成功率は高くありませんが、ボールを収めようとする動きとエリア内でのポジショニングが攻撃の基準点です。
それを自由に補完するのが10番グズムンドソン。 「どこにでも現れる」プレーメーカーとして、サイドにも中央にも顔を出し、時には中盤のラインに降りてビルドアップを助けます。
ヴァノーリの構想の中で、グズムンドソンは「流動性そのもの」を体現する存在です。 だからこそ、「スペースを読む力」と「最後の質」が大きな責任としてのしかかります。
攻撃の原則 ――幅・深さ・スピードをどう使うか
ビルドアップ:3-1-4-1-1からの変形
フィオレンティーナはビルドアップ時、多くの場合「3-1-4-1-1」からスタートします。 3バックの前にニコルッシ・カヴィーリア、その前に4人の中盤(インサイドハーフ+ウイングバック)、さらに前にグズムンドソン、最前線にピッコリという構図です。
そこから、状況に応じて次のような変形が生まれます。
- ラニエリが左に大きく広がって前進の出口を作る
- マンドラゴラが右サイドに落ちてビルドアップをサポート
- ソームが中盤の底まで降りて数的優位を作る
- グズムンドソンが中盤ラインまで下がり、ゲームメイクに参加
こうした動きによって、3-1-4-1-1は3-2-4-1や3-3-3-1、2-3-4-1へと姿を変え、「どこからでも前進できる形」を探し続けます。 ヴァノーリは、ひとつの決まったポジションよりも、「その瞬間にふさわしい位置」を選ぶことを選手に求めているのです。
サイド攻撃:クロス17本の意味
攻撃が進むほど、フィオレンティーナはサイドにボールを集め、クロスを選択する傾向があります。 この試合でのクロス数は17本。 ただし成功率は約12%と高くなく、特にドドは6本すべてが不成功でした。
それでもクロスを増やす理由は、「エリアの中に人数をかけて、相手を混乱させたい」からです。 ピッコリ、グズムンドソン、逆サイドのウイングバック、逆サイドのインサイドハーフと、4人がボックスに入る形を繰り返し狙っています。 いわば「質より量」で圧をかけるやり方ですが、xG(期待値)は0.77(PK除く)と、まだ十分な破壊力には至っていません。
みなさんは、こうした「クロス偏重」の攻撃をどう感じるでしょうか。 安心感のあるスタイルなのか、それとももう一歩の工夫が足りないのか。 データと映像を照らし合わせながら、自分なりに考えてみるのも面白い視点です。
中央での崩し:グズムンドソンとソームの役割
サイドからのクロス一辺倒ではなく、中央での崩しももちろんあります。 鍵を握るのは、グズムンドソンとソームです。
グズムンドソンはボールを受けて前を向くと、
- サイドに展開してクロスを引き出す
- ピッコリへのスルーパスを狙う
という2つの選択肢を持ちながらプレーします。 ソームもまた、相手ゴール前でのパス成功率が高く、ピッコリへの絶妙なスルーパスでチャンスを演出しました。
とはいえ、「ラストパスの質」と「フィニッシュの精度」がまだ十分とはいえず、 良いポジションを取っているのにシュートで終わらない、という場面も少なくありません。 「アイデア」と「実行」の距離をどう埋めるかが、今後の大きなテーマと言えるでしょう。
守備の考え方 ――リスクを管理しながら、何を優先して消すのか
前から行かない勇気:「高い位置のプレッシング」をあえて捨てる
フィオレンティーナは、現時点では「前からの激しいプレッシング」をあまり選択していません。 相手のセンターバックにまで深追いするのではなく、ボールの後ろにコンパクトに構え、 「危険なゾーンを消す」ことを優先しています。
もちろん、ボールホルダーにプレッシャーがかかっている「パスコースが見えやすい局面」では、連動したプレスに出ていきます。 しかしそれも常時ではなく、場面を絞った選択です。
これは、「ラインを高く上げて裏を取られるリスク」を避けるための戦略的な決断だと言えます。 みなさんなら、自分のチームを指揮するとしたら、どのくらいリスクを取って前からボールを奪いに行きたいでしょうか。
中盤の守備:マンマークとゾーンのハイブリッド
中盤では、相手選手を「ゾーンの中でマンマーク気味に見る」というハイブリッドな守備を行います。 例えば、
- ニコルッシ・カヴィーリアは、フレンドルップを「中盤のラインまで」マークし、それ以上深くは追いかけない
- ソームはエレルトソンを追いかけ、サイドに流れてもついていくことで相手の簡単な前進を阻止
- マンドラゴラはソールスビー(トールスビー)を見つつ、時には前線に出て相手の3バックへのパスコースを遮断
といった具合です。 純粋なマンツーマンではないため、ラインが空きにくい一方、相手のキープレーヤーはしっかりと捕まえにいける仕組みになっています。
最終ラインのリスクとリターン:ラニエリとポングラチッチの「つききり守備」
最終ラインでは、ラニエリがコロンボを、ポングラチッチがトールスビーをタイトにマークする場面が目立ちます。 ときには自分のポジションをかなり離れてまでついていき、その結果、最終ラインが「割れて」しまうリスクもはらんでいます。
それでもヴァノーリは、「この相手を自由にさせてはいけない」という相手を見極め、そこへの厳しい守備を優先します。
一方でマリは、ヴィティーニャに対してはやや距離を保ち、「スペースのカバー」を重視した守備を選択しています。 同じ3バックの中でも、「誰がどの程度つききるか」を役割分担しているのが印象的です。
トランジションとデータが語る「今」と「これから」

ボールを奪ったあとの狙いはシンプルに「速く、前へ」
フィオレンティーナは、ボールを奪った瞬間の「トランジション攻撃」に大きな比重を置いています。 グズムンドソン、マンドラゴラ、ウイングバックたちが一気に前へ運び、
- サイドからのクロス
- ピッコリへのスルーパス
- ロングボールで一気に前線へ
という形を素早く選択します。
「じっくりボールを保持して崩す」というより、「相手の整っていない時間に刺す」イメージに近いでしょう。 このスタイルは、決まれば非常に危険ですが、決まり切らないと、味方の陣形も伸びてしまい、カウンターを受けるリスクも高まります。
xGが示す課題:0.77という数字の意味
PKを除いたxG(期待ゴール)の値は0.77。 シュート数はわずか7本。 つまり、「ゴール前まで行けているように見えても、実際には大きな決定機まで持ち込めていない」という現実が見えてきます。
ヴァノーリのモデルは、
- 構造的には整理されている
- ビルドアップや前進の形も豊富
- トランジションにも明確な意図がある
という点で非常に現代的です。 その一方で、
- クロスの質
- フィニッシュの精度
- 中央でのバリエーション
といった「最後の30メートル」に改善の余地が大きく残されています。
もしあなたがアナリストだとしたら、このチームにまずどんなトレーニングを提案したくなるでしょうか。 クロスの質を高める? フィニッシュの練習を増やす? あるいは、グズムンドソンとソームの周囲にもう1人、「創造的な選手」を置くことを考えるでしょうか。
ヴァイオラの「未完成の流動性」はどこへ向かうのか
パオロ・ヴァノーリのフィオレンティーナは、
- 3バックをベースにしながらも形を自在に変える柔軟性
- デ・ヘア、マリ、ニコルッシ・カヴィーリアを通じたビルドアップの安定感
- ラニエリやグズムンドソン、ソームといった「流動的な駒」を活かした前進
- ピッコリを基準としたクロスとスルーパス主体のフィニッシュ
という、現代的でコンセプトのはっきりしたチームです。 その一方で、
- クロス偏重による攻撃の単調さ
- マークを優先するあまりラインが割れる守備のリスク
- xGやシュート数に表れる決定機創出の少なさ
といった課題も、データのうえでははっきりと浮かび上がっています。
この「よく整理されたモデル」と「まだ追いついていない技術的な質」のギャップを、これからのトレーニングと補強、選手の成長でどう埋めていくのか。 そのプロセスこそが、今後のフィオレンティーナを見るうえでの一番の楽しみになるのかもしれません。
そしてもうひとつ、大切な問いが残ります。
「戦術的に正しいだけでなく、スタジアムを沸かせるサッカー」に、このチームはたどり着けるのか。 数字と図だけでは語り切れない「感情」と「熱狂」を、ヴァノーリの流動的なサッカーはどのように生み出していくのでしょうか。
最後に、サッカーと分析に向き合うすべての人に響く言葉を添えたいと思います。
「戦術とは、選手を縛るためのものではない。 選手を自由にするための約束事である。」
フィオレンティーナの挑戦は、まさにその言葉の真価が試されるシーズンになりそうです。
