フォワードの仕事は「点を取る」だけじゃない──ミスタのトレーニングが教える、スペースとタイミングをめぐる思考法
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「動く」前に何を考えるか?ミスタのトレーニングから見える、フォワードのもう一つの仕事

一歩、ボールから離れる勇気
ゴール前、あなたがフォワードだとする。
目の前にはボールを持つ味方と、こちらをにらむセンターバック。
本能は叫ぶ。
「ボールをくれ」
でも、その瞬間にスペインの元ストライカー、ミゲル・アンヘル・フェレール「ミスタ」がデザインしたトレーニングでは、あえて「ボールから離れる」動きが求められる。
彼が携わるアカデミー、VIA Sportsで行われているのは、2トップの連携とコミュニケーションをテーマにしたシンプルなエクササイズだ。
登場するのは、3つのフラットマーカーと1つのゴール、そして数個のボールだけ。
青いマーカーの位置にはボールを持ったコーチ。
赤いマーカーには、少し前に出た1人目のフォワード。
その前方かつ斜めに置かれた黄色いマーカーは、裏へ飛び出すもう1人の選手の位置を示している。
状況としては、とてもシンプルだ。
だが、ここには「フォワードはどう考えるのか」という問いが、ぎゅっと詰まっている。
| 役割 | 動きの特徴 | チームへの効果 | 難易度 |
|---|---|---|---|
| サポートに降りてマークを引きつける | ボールに近づきセンターバックを釣る | 背後にスペースが生まれ味方が裏抜けできる | ◎ 判断力要 |
| 背後への裏抜け | 空いたスペースへ一気に飛び出す | GKと1対1のシュートチャンス創出 | ○ スピード要 |
| セカンドボールへの準備 | シュート後すぐリバウンドゾーンを空ける | こぼれ球を2人目が狙える状態をつくる | △ 習慣化が必要 |
| タイミングの合わせ | 2選手が相手・味方・ボール保持者を同時に読む | コンビネーションが成立し連携として機能 | ◎ 繰り返しが必要 |
| 「型」の理解 | なぜこの動きが存在するかを言葉で説明できる | 相手が変わっても応用が利く柔軟な対応 | ○ 概念理解要 |
| 日本での応用 | 1トップ+シャドーやウイングとの連携に置換 | スペースを誰が使うかの責任の明確化 | △ 翻訳が必要 |
「もらう」動きではなく、「味方のために空ける」動き
ミスタが目指しているのは、フォワードが「スペースをどう使うか」を、よりリアルに感じられるようにすることだと説明されている。
設定されている役割はこうだ。
- 赤のマーカーにいるフォワードは、最初にコーチ(ボール保持者)へ近づくサポートの動きをする
- その動きでセンターバックのマークを自分に引きつけることをイメージする
- すると、その背後にスペースができる
- 黄色のマーカーにいる味方は、その背後へ一気に飛び出す「裏への動き」を行う
一見すれば、「ただの動きのパターン練習」にも見える。
でも、ここで問われているのは、「自分が点を取るかどうか」ではなく、「どのスペースを誰が使うのか」という考え方だ。
自分がボールに近づく。
だが、その目的は「自分がもらってシュートを打つこと」だけではない。
「マーカーを引きつけ、味方のためにスペースを空けること」も、同じくらい重要な目的として置かれている。
もし自分がフォワードなら、どう感じるだろうか。
せっかくボールに近づいたのに、そこにパスが来ないかもしれない。
自分はおとりになり、ゴールを決めるのは別の選手かもしれない。
その動きを「損」だと感じるのか。
それとも、「チームとしての得」を優先して選ぶのか。
このトレーニングは、そんな小さな葛藤も内側に抱えたまま、前線の選手に「自分の動きの意味」を問いかけているように見える。
- 「なぜこの動きがあると思う?」と選手に問い返す — サポートに降りる・裏に抜ける・セカンドボールを狙う動きを「そう決められているから」ではなく「ディフェンダーがこう釣られるから」と選手自身が説明できるまで問いかけ続ける。理解ある動きは状況が変わっても崩れない。
- シュート後に「次の一手」を習慣にするドリルを組み込む — 打って立ちつくすのではなく、すぐにリバウンドゾーンを空けてセカンドボールを狙う動きを毎回のセットで要求する。「考えるクセ」は繰り返しで自動化される。
- 日本のシステムに合わせて「スペースを誰が使うか」の責任を明示する — 4-2-3-1や4-3-3でも、1トップとシャドーの役割分担・ウイングの絞りと裏抜けの連携で同じ原理を応用できる。「誰がスペースを空け、誰がそこを突くか」をポジション名ではなく役割として全員に共有する。
タイミングという見えない会話
もう一つ、このエクササイズで強調されているのが「タイミング」だ。
赤のフォワードがサポートに降りる動きと、黄色の選手が裏に抜ける動き。
この2つがズレてしまえば、コーチからのパスは通らない。
早すぎても、遅すぎても、うまくいかない。
つまり、2人のフォワードは常に「相手」と「味方」と「ボール保持者」の3つを同時に感じながら、自分の一歩目を選ばなければならない。
では、そのタイミングは誰が決めるのか。
- ボールを持つコーチの顔が上がった瞬間なのか
- ディフェンダーが一歩つられた瞬間なのか
- 裏へ走る味方のスピードに合わせてなのか
答えは一つではない。
だからこそ、繰り返しの中で「自分たちなりのタイミング」を探すしかない。
フォワード同士がアイコンタクトで合わせるのか。
あらかじめ「ここを合図にしよう」と決めておくのか。
それとも、各自が状況を読みながら自然に合わせていくのか。
トレーニングという限られた時間の中で、選手と指導者は、その「合わせ方」も選ぶことになる。
- ゴール前の動き出しで「なぜ今ボールから遠ざかったのか」を考える — フォワードがわざとボールから離れる動きをしたとき、それは「マーカーを引きつけて味方のためのスペースを空けている」可能性がある。ボールに向かう動きだけがフォワードの仕事ではないと知ると、観戦の解像度が上がる。
- シュートを外した後の選手の動きを観察する — 優れた前線の選手は外した瞬間に次のポジションへ素早く移動している。「打ち終わり」ではなく「打つ前から次を考えている」選手の動きを意識して追いかけると、サッカーの見方が変わる。
- 「どの役を自分は好きか」を練習前に考えてみる — サポートに降りる・裏を抜ける・セカンドボールを拾う3役のうち、どれが得意でワクワクするかを自分なりに言葉にできると、チームの中での自分の強みが見えてくる。
「打って終わり」にしない、次の一手への意識
このメニューには、シュートで終わらない視点も組み込まれている。
ボールを受けてシュートした選手は、その場に立ちつくしていてはいけない。
すぐにリバウンドゾーンから外れ、次の選手がセカンドボールを狙えるように場所を空けることが求められている。
シュートは、プレーの「ゴール」でありながら、「終わり」ではない、という考え方だ。
こぼれ球を誰が拾うのか。
どこに立てば、そのボールに一番早く反応できるのか。
最初のシュートに意識が集中しがちな場面で、「次の一手」にまで頭を残しておけるかどうか。
これは、技術よりもむしろ「考えるクセ」の問題かもしれない。
ミスタは、このエクササイズを通じて、フォワードに「セカンドボールへの注意」を習慣として植え付けたい、と説明している。
では、自分が前線の選手ならどうだろう。
打ったシュートの結果を追いかけてしまって、動き出しが遅れていないか。
ボールがネットを揺らしたかどうかよりも早く、「次」に反応できているか。
「型」を教えるのか、「考え方」を身につけるのか
ミスタは「動きを自動化する」という意図も語っている。
2トップと、そこへ関わる二列目の選手の連携。
サポートの動きでマーカーを引きつける役。
空いたスペースを一気に突く役。
そして、セカンドボールに備える役。
何度も同じパターンを繰り返すことによって、試合の中で自然にその動きが出るようにする。
これは一見すると、「型にはめる」やり方のようにも見える。
しかし、ここで問われているのは、「型」そのものよりも、「なぜその型が存在するのか」という理解だろう。
なぜ、1人がボールに近づき、もう1人が裏へ走るのか。
なぜ、シュートを打った選手がエリアを空ける必要があるのか。
その理由を、自分の言葉で説明できるかどうか。
もし選手が「そう決められているから」だけで動いているなら、そのプレーは相手や状況が少し変わるだけで簡単に崩れてしまう。
一方で、「ディフェンダーはこう釣られるから、あえてこの動きをする」と理解していれば、相手やフォーメーションが変わっても、自分で微調整しながら応用できる。
同じトレーニングでも、
- 答えだけをなぞる時間にするのか
- 答えの「理由」を探す時間にするのか
選ぶのは結局、選手と指導者自身だ。
日本の育成年代で、このトレーニングをどう見るか
このメニューは、2トップやセカンドラインの選手に向けたものとして紹介されている。
では、日本の育成年代や、Jリーグのクラブで多く採用される4-2-3-1や4-3-3といったシステムでは、どう活かせるのだろうか。
例えば、1トップとシャドー、あるいはウイングとの関係に置き換えてみる。
- 1トップがサポートに落ちてくる動きでセンターバックを引きつける
- 空いた背後にシャドーが飛び出す
- 逆に、ウイングが内側に絞って裏を狙う形に変える
配置は変わっても、本質的に問われているのは同じだ。
誰がスペースを空ける役を引き受けるのか。
誰がそこを突くのか。
そして、誰がセカンドボールに一番近い位置を取るのか。
日本では、ボールをきれいに繋ぐことや、ポジション通りに整列することに意識が向きやすいと言われることがある。
だが、このトレーニングは「ラインとラインの間で、誰がどのスペースを責任を持って使うのか」をはっきりさせることを促しているように見える。
もし、同じことを日本の現場でやるとしたら、どこを変え、どこをそのまま使うだろうか。
- 2トップではなく、トップとインサイドハーフの関係にするのか
- ゴール前だけでなく、中盤のエリアでも同じ原理を応用するのか
- 左右を入れ替えて、どちらの足でも同じことができるようにするのか
「スペインの元ストライカーがやっているメニューだから真似する」のではなく、「この考え方を、自分たちのサッカーにどう翻訳するか」という視点も持てると、また違う景色が見えてくる。
「正解」が一つに見えるメニューだからこそ、問いを増やしてみる

この種のパターントレーニングは、一見「こう動けば正解」という一本のレールが見えやすい。
だが、だからこそ、あえて問いを増やしてみる余地がある。
例えば、こんな問い方ができるかもしれない。
- もしディフェンダーが釣られてこなかったら、どうするのか
- もしパスが浮き球ではなく速いグラウンダーになったら、コントロールの仕方は変わるのか
- 裏に走った選手がボールに届かなかったとき、次に危険になれるポジションはどこか
- サポートに降りたフォワードは、その後どこまで関わり続けるのか
保護者がタッチラインから見守るときも、「決めた・外した」で評価したくなる気持ちを、少しだけ我慢してみる。
「今のプレーは、どんな意図があったんだろう」と、あとで子どもに尋ねてみると、こちらが想像もしていなかった視点が返ってくることもある。
指導者もまた、「こう動け」と指示を伝えるだけでなく、「なぜこの動きがあると思う?」と選手に問い返してみる。
そのやり取りの中から、トレーニングは「型」から「対話の場」に変わっていく。
自分なら、どの役を選ぶか
このエクササイズには、少なくとも3つの役割がある。
- サポートに降りてマークを引きつけるフォワード
- その背後のスペースを全力で突く選手
- こぼれ球を狙うために、次の一歩を準備する選手
どの役も、ゴールに直結する可能性を秘めている。
でも、自分は本当はどの役が得意なのか。
どの役を任されたとき、一番ワクワクするのか。
「裏へ抜けて決めるのが好きだから、黄色の役がいい」と思う選手もいれば、「相手をだましてスペースを空けるのが楽しい」と感じる選手もいるかもしれない。
あるいは、「セカンドボールを拾って泥くさく決めるのが自分らしい」と考える選手もいる。
どれが正しくて、どれが間違い、という話ではない。
大切なのは、「自分はどの役を選びたいのか」を一度立ち止まって考えてみることかもしれない。
答えを急がないトレーニングの見方
ミスタが作ったこのメニューには、「フォワードとはこうあるべきだ」という一つの視点が込められている。
だが、それをそのまま呑み込んで終わるのか。
自分たちの言葉で問い直してみるのか。
そこに差が生まれる。
プレーするときも。
教えるときも。
見守るときも。
一つの動きの裏にある意図を想像してみる。
「なぜ今、彼はボールから遠ざかる一歩を選んだのか」
その問いを持ち続けることが、結果として、ピッチの上での「自分の一歩」を変えていくのかもしれない。
ゴールに向かって走るだけでは見えない景色が、「一度立ち止まって考える時間」の先には、きっと用意されている。
