3試合連続ドローの中で問われる「なぜ」と「どうして」――バルサBが日本の育成現場に投げかけるもの
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3試合連続ドローの先にあるもの――バルサBが教えてくれる「選ぶ勇気」

勝てないわけではない、でも勝ち切れないという時間
90分が終わってスコアボードを見上げたとき、「また引き分けか」と感じる時間がある。
負けてはいない。
内容も悪くない。
それでも、勝点3ではなく勝点1が積み上がっていく感覚は、選手にとっても指導者にとっても、どこか落ち着かないものだ。
3試合連続ドローで足踏みしているバルサ・アトレティック(バルセロナのBチーム)は、そんな時間の中にいる。
昇格プレーオフ圏内ギリギリの5位。
次の相手は、残留プレーオフ圏に沈むバレンシア・メスタージャ。
立場だけを見れば、「勝たなければいけない試合」に見える。
だが、実際にピッチに立つ選手やベンチに座る指導者の頭の中は、そんな単純な言葉では片づかない。
| 観点 | 結果優先 | 育成優先 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 選手起用の基準 | 実績・安定した戦力を優先 | 若手に経験を積ませる | ○ 状況次第 |
| ドロー連続時の判断 | 新戦力で流れを変える | 既存メンバーで継続修正 | △ 文脈で変わる |
| デビューのタイミング | 勝ち点が必要な時に避ける | 緊張感ある試合が成長機会 | ◎ 両者に正解 |
| 引き分けの捉え方 | 「なぜ勝てなかったか」を急ぐ | 「崩れていない部分を確認する」 | ◎ 後者が重要 |
| 「穴埋め」か「戦力評価」か | ケガ人対応として呼ぶ | 実力を評価した機会として伝える | ○ 伝え方が鍵 |
| 日本との対比 | 答えを早く求めすぎる傾向 | 「なぜ」のプロセスを大切にする | △ 改善余地あり |
「デビュー」という決断の重さ
バルサ・アトレティックを率いるジュリアーノ・ベレッティは、この試合でウルグアイ人DFのパトリシオ・パシフィコをデビューさせる可能性を示している。
パシフィコはセンターバックも、サイドバックも、中盤もこなせる選手だと紹介されている。
一見すると「便利な選手」だが、指導者からすれば、便利であるがゆえに、どこで使うのかという選択が難しくなる存在でもある。
しかも、チームは3試合連続引き分け。
勝ち切れない流れを変えたいとき、新戦力の投入は魅力的なカードだ。
同時に、デビュー戦をどんな状況で迎えさせるかという視点も、指導者は手放せない。
例えば、こういう問いが頭をよぎるかもしれない。
- 守備を安定させるために、センターバックとして起用するのか
- 攻撃のスイッチを増やすために、サイドバックとして前進させるのか
- 中盤に置いて、ゲームのリズムを作らせるのか
- それとも、この試合ではベンチで様子を見せ、別のタイミングを待つのか
外から見れば、これは「起用するか・しないか」の2択に見える。
しかし実際は、「どういう時間帯に、どんな役割で、どのメンバーと一緒に出すのか」という、いくつもの選択の組み合わせになっている。
もし自分が指導者なら、どう決めるだろうか。
勝点がほしい今だからこそ、リスクを抑えて既存メンバーを優先するか。
それとも、チームの可能性を広げるために、新しいピースを迷わずピッチに送り出すか。
- ドロー連続後のミーティングで「なぜ決めきれなかったか」より「どんな選択肢があったか」を問う — 結果の原因を急いで断定するより、複数の選択肢を整理して振り返る場を作ることで、選手自身の判断力が育つ
- 「呼んだ理由」を若手にはっきり伝える — ケガ人補充であっても「実力を評価している」というメッセージを明確に言語化する。選手の「なぜ自分はここにいるのか」という問いに答えることが、ピッチでの集中力を高める
- 「早すぎるデビュー・遅すぎるデビュー」より「デビューまでに何を考えたか」を重視する — 年齢や時期の早さ遅さではなく、その選手がデビューに至るプロセスで何を積み上げてきたかを日々の練習から把握しておく
ケガ人だらけの現実と、「呼ばれた」ユース選手たち
ベレッティが難しい選択を迫られているのは、単に勝敗の状況だけが理由ではない。
トニ・フェルナンデスが左足首のケガで約1か月の離脱。
すでにランドリ・ファレ、ジョフレ・トレンツ、ジョアン・アナヤ、ロジェール・マルティネス、ダニ・ロドリゲス、イブラヒム・ディアラ、ビクトル・バルベラ、オスカル・ジスタウと、多くの選手が負傷離脱している。
さらに、ファーストチームに招集されたトミー・マルケスも帯同しない。
その結果として、ベレッティはユースカテゴリーからギリェム・ビクトル、アレックス・カンポス、ペドロ・ビジャル、エブリマ・トゥンカラ、ヌフ・フォファナらを呼び寄せ、遠征メンバーを整えた。
名簿だけを見れば、「チャンスを与えられた若手」と映るかもしれない。
ただ、選手の立場になってみると、その感情はもう少し複雑だ。
- ケガ人が多いから呼ばれたのか
- それとも、実力を評価されて呼ばれたのか
- 自分はこの1試合だけの「穴埋め」なのか、それとも本気で「戦力」と見られているのか
もちろん、指導者としては可能な限り、信頼のメッセージを伝えようとするはずだ。
だが、選手の胸の内に浮かぶ揺れは、簡単には消えない。
日本の育成現場でも、事情は違えど似たような場面がある。
- 大会前に主力がケガをして、急きょ招集された選手
- カテゴリーを飛び級して上の学年に混ざることになった選手
- スタメンと控えの間を行き来している選手
こうした選手たちは、プレーだけでなく、「自分はなぜここにいるのか」という意味づけを、自分自身で探さなければいけない。
その問いは、誰かが代わりに答えてくれるものではない。
- 「急きょ呼ばれた」状況でも自分の役割を自分で見つける — ケガ人が多くて呼ばれたのか実力で呼ばれたのか、という問いを抱えたまま試合に出る選手は多い。「誰かが代わりに答えてくれる問いではない」と知ることが、ピッチ上の主体性につながる
- 3試合引き分けのあとに見る映像を選べる選手になる — 決定機を外したシーンだけを繰り返すのか、周りのサポートの動きも観察するのか。同じ映像からでも、何を見るかで学びの質が変わる
- 「正解を急がない」観戦の仕方を試す — 「戦術が悪い」「メンバー選考が間違い」と素早く結論を出したくなるとき、「複数の要素が絡み合っている」という視点を一度持つだけで、サッカーの見え方が変わってくる
フィールドに立つまでの「見えない90分」
サッカーの試合は、キックオフから終盤のホイッスルまで90分だとよく言われる。
しかし、実際には、その前後にも「見えない90分」が存在する。
今回のバレンシア・メスタージャ戦では、予想スタメンにユース年代の選手たちの名前が並んでいる。
右サイドバックのチャビ・エスパルト、センターバックのカンポス、中盤のペドロ・ビジャル、前線のアジズ・イッサーなど、若さと伸びしろを持つ選手たちが、既に重要なピースとして扱われている。
試合は、彼らがピッチに立った瞬間から始まるわけではない。
スタジアムに向かうバスの中。
ロッカールームでスパイクを結ぶ瞬間。
監督が名前を読み上げるときの、心臓の鼓動。
「自分は何を求められているのか」
「今日はどこまでリスクを取るべきか」
「いつものプレーと、チームのためのプレー、そのバランスをどう取るか」
そのひとつひとつが、ピッチ上の1本のパスや1度のプレスの質に、静かに影響していく。
もし、自分がその立場ならどうだろうか。
昇格プレーオフのかかったシーズン終盤。
ケガ人だらけのチームに呼ばれたユース選手として、何を優先するのか。
- 絶対にミスをしないように、安全な選択だけを続けるのか
- 評価を勝ち取るために、あえて難しいプレーに挑むのか
- 監督の指示を忠実に守ることに徹するのか
- 自分が普段から磨いてきた武器を、恐れずに出し切るのか
「正解」はない。
あるのは、そのときその場所で、自分がどうありたいのかという、ひとりひとりの選択だけだ。
「勝たなければいけない試合」で、何を優先するのか
バルサ・アトレティックにとって、バレンシア・メスタージャ戦は、単なる1試合ではない。
昇格プレーオフ圏内を維持するための重要な勝点3であり、3試合連続ドローの流れを変えるきっかけにもなりうる。
一方で、相手のメスタージャにとっても、この試合は残留争いを左右する可能性のあるゲームだ。
立場が違えば、同じ90分でも「賭けるもの」が変わる。
だからこそ、指導者は問い続けなければならない。
- 結果を優先するなら、どの程度までリスクを避けるべきか
- 育成を優先するなら、どこまで若手に責任を背負わせるのか
- 勝つことと育てることの、両方を満たす道はあるのか
日本のクラブや学校チームでも、同じ悩みが繰り返されている。
- 高校最後の大会で、3年生を優先するのか、実力のある1・2年生を使うのか
- 全国大会出場がかかった試合で、チャレンジングな戦い方を貫くのか、現実的に守り切るのか
- 育成年代の公式戦で、「結果」と「経験」のどちらに比重を置くのか
たぶん、「どちらが正しい」という話ではない。
その時々の状況や、クラブが大切にしている価値観によって、最適な選択は変わる。
大事なのは、「なぜその選択をしたのか」を、自分の言葉で説明できることではないだろうか。
早すぎるデビュー、遅すぎるデビューという問い
バルサ・アトレティックでは、エブリマ・トゥンカラのように、非常に若い年齢でBチームデビューを果たした選手もいる。
早く上のカテゴリーでプレーすることは、多くの選手の夢だ。
しかし、そのスピードが速ければ速いほど、周囲の期待も、本人のプレッシャーも強くなる。
「早く上げすぎたのではないか」
「いや、早い段階で厳しさを知ることは必要だ」
こうした議論は、日本でもたびたび起こる。
飛び級で世代別代表に選ばれる選手。
高校1年でトップチームに抜擢される選手。
逆に、大学を経てからプロになる選手。
どの道にも、それぞれの難しさと価値がある。
「早ければ成功する」「遅いからダメ」という単純な線引きは、現実の選手たちの歩みには当てはまらない。
パトリシオ・パシフィコがこの試合でデビューするとしたら、それはひとつの通過点にすぎない。
問題は、「何歳でデビューしたか」よりも、「そのデビューまでに何を考え、これから何を選び続けるのか」の方にある。
引き分けから学べることは何か
今季のバルサ・アトレティックとバレンシア・メスタージャは、前回対戦でも2−2の引き分けに終わっている。
今回も緊張感のある接戦が予想される。
日本では、育成年代の大会で「勝ち切れなかった試合」を振り返るとき、どうしても「どこで勝てたはずか」という視点が強くなりやすい。
だが、3試合連続ドローという状況を、違う角度から見てみることもできる。
- 負けていないからこそ、崩れていない部分はどこか
- 試合終盤に、どんな判断の迷いが起きているのか
- そうした迷いを、次の試合までの時間でどう整理できるのか
もしあなたが選手なら、3試合続けて引き分けたあと、どんな映像を見るだろうか。
- 決定機を外したシーンだけを繰り返し見るのか
- 守備のズレが生まれた場面を丁寧に追いかけるのか
- 自分のプレーだけでなく、周りのサポートの動きを観察するのか
もしあなたが指導者なら、チームにどんな問いを投げかけるだろう。
- 「なぜシュートを決められなかったのか」
- 「なぜその選択をしたのか」
- 「他にどんな選択肢があったと思うか」
同じ引き分けでも、そこから取り出せる学びはまったく変わってくる。
日本サッカーは「答えを急ぎすぎていないか」

こうしたバルサ・アトレティックの状況を眺めていると、日本サッカーの現場についても考えたくなる。
結果が出ないとき、すぐに
「戦術が悪い」
「メンバー選考が間違っている」
「練習方法を変えるべきだ」
と、答えを急いでしまう場面はないだろうか。
もちろん、改善のための変化は必要だ。
ただ、「なぜそう選んだのか」というプロセスを丁寧に振り返る前に、次の答えを探しにいくと、同じことを繰り返してしまう危険もある。
今回のバルサ・アトレティックのケースには、いくつもの要素が絡み合っている。
- ケガ人の多さ
- ユース選手の台頭
- 昇格プレーオフのプレッシャー
- 新加入選手のデビュータイミング
この中のどれかひとつだけを切り取って「原因」と決めつけてしまえば、たしかに話は簡単になる。
しかし、現場で決断している人たちは、重なり合った要素の中から、ひとつひとつ選び取る作業を続けている。
日本の選手や指導者が、この物語から持ち帰れるものがあるとすれば、それは「すぐに正解を求めない姿勢」かもしれない。
引き分けが続くときこそ、デビューのタイミングが難しいときこそ、「なぜそうするのか」を問い続ける時間を手放さないこと。
自分なら、どう選ぶだろうか
バレンシアでのフィリアル対決がキックオフを迎えるころ、どこか別の場所でボールを蹴っている誰かも、自分なりの選択を迫られているはずだ。
今日は、リスクを恐れずに前を向く日なのか。
それとも、チームのためにバランスを取る日なのか。
練習から、どんなテーマをもって取り組むのか。
パトリシオ・パシフィコがデビューするかどうかも。
ユース選手たちがどのポジションで起用されるかも。
ベレッティがどんなメンバーで「勝ち切り」に挑むのかも。
答えは、90分が終わったあと、スコアと一緒にしか分からない。
そして、その答えですら、「次の選択」を考えるための通過点にすぎない。
サッカーは、ピッチの中で行われるプレーだけのスポーツではない。
その裏側で、選手と指導者が重ねている思考や迷い、決断の積み重ねが、目には見えない大きな流れをつくっていく。
次に試合を見るとき、こんなふうに想像してみてほしい。
このパス、この交代、この起用。
その一つひとつの裏に、「なぜ」と「どうして」がいくつも重なっているとしたら、自分ならどう考えるだろうか、と。
答えを急がずに、少しだけ立ち止まって考えてみる。
その時間が、サッカーを観る目も、プレーする自分自身も、少しずつ変えていくのかもしれない。
