まだ自分のポジションを知らない天才──アルファジョ・シセがセリエBで示す「背中で受ける」才能と未完成の輝き
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アルファジョ・シセという「まだ自分のポジションを知らない天才」
「Mi piace giocare un calcio molto offensivo, mi piace l’uno contro uno e tutte queste cose qua da ruolo offensivo… Eh… Niente」 「とても攻撃的なサッカーをするのが好きです。 1対1が好きで、攻撃的なポジションの選手がやるようなことが全部好きで……えっと……それだけです」
アルファジョ・シセがカタンザーロ加入会見でこう語ったとき、その照れくさそうな表情と、あどけない話し方に、周囲は少し驚きました。
頬はふっくら、歯には矯正器具。 遠目には「中学生かな?」と思うような雰囲気です。
けれどピッチに立てば、その印象は一瞬で覆されます。
すでにセリエBでも屈指のタレントと評される18歳。 彼はまだ、自分がどんな選手なのかを言葉にできていないのかもしれません。 しかし、その「言葉にならなさ」こそが、今のアルファジョ・シセの可能性の大きさを物語っています。
カタンザーロの「頼みの綱」となった18歳
カタンザーロは今季、結果が安定しない試合が続いています。 調子に波があり、試合内容も良いときと悪いときの差が大きいチームです。
そんななかで、サポーターが一番心の拠り所にしている存在が、実はこの「少年のような」シセです。
彼はエラス・ヴェローナからのレンタル加入。 同じ夏にクラブにやってきたのは、リベラリ、ウダン、ディ・フランチェスコといった、カテゴリー的にはより「有名な」選手たちでした。
しかし、シーズンが始まると、チームで一番ボールを託したい存在は、18歳のシセになっていきました。
9月のレッジャーナ戦で決めた、30メートルのカーブする直接FK。 ポストにキスをしてネットに吸い込まれていったあのゴールは、 「これがアルファジョ・シセだ」 と、イタリア中に名刺を配るような一撃でした。
けれど、本当に人の心をつかんだのは、そのゴールだけではありません。 ボールを受ける位置、体の向き、1対1への仕掛け方―― そのすべてが、18歳とは思えない「大人びた感覚」に満ちていたのです。
サン・リベラーレからヴェローナ、そしてセリエAの扉
シセは、トレヴィーゾのサン・リベラーレという地区で育ちました。 そこは、1944年4月7日の爆撃で家を失った人たちのためにつくられた街。 歴史の重さを背負った地域から、一人の才能がサッカーの世界へと飛び込みました。
12歳のとき、エラス・ヴェローナのスカウトでありユース部門の責任者だったマッシモ・マルジョッタに見出され、黄色と青のシャツに袖を通します。
ヴェローナでは、16歳にしてプリマヴェーラ(U-19)で主力に。 2023-24シーズンには、トップ下やインサイドMFの位置から、30試合16ゴールという数字を叩き出します。
この活躍が認められ、パオロ・ザネッティ監督は最終節のインテル戦で、シセをセリエAデビューさせました。
とはいえ、その後の立ち位置は簡単ではありませんでした。 トップチームには帯同するものの、出場は2試合で合計7分。 一方で、プリマヴェーラでは8試合のみ。
「大人のサッカーにはまだ早い」 しかし 「ユースで主役として出続けるには、すでに物足りない」
そんな宙ぶらりんな時間を、彼は過ごしました。
もしかしたら、すでに昨季からレンタルで出るべきだったのかもしれません。 それでも、この経験は明らかにシセに「大人の世界」の感覚を教えました。
その証拠に、今季カタンザーロでは、いきなり「不可欠な存在」になっているのです。
アクイラーニのポジショナルサッカーとシセ
カタンザーロは今季、監督にアルベルト・アクイラーニを迎えました。
「ポジショナルプレー」を志向する指揮官として、ボールの位置だけでなく、人の立ち位置や距離感をすごく大事にするタイプです。
そんなアクイラーニのサッカーに、シセは驚くほど自然にフィットしています。
シセ自身は本来「ボールが大好きな選手」です。 中盤まで下りていき、できるだけ早くボールに触りたくなるタイプの10番気質。
それでも、彼は理解しています。 「今は下りていいときなのか」 「いまは高い位置、ライン間にとどまるべきなのか」
ポジショナルプレーにおいては、「ボールからあえて離れること」も重要な要素です。 ボールを追いかけ過ぎると、チームとしての形が崩れてしまうからです。
シセは、ボールを受けに下りていけば前を向きやすいことも知っています。 一方で、ライン間で待つと、背後からマークがついてスペースのない状況でもらうことになることも分かっています。
しかし、彼にとってそれは大きな問題ではありません。 なぜなら、彼は「背中で受ける天才」だからです。
「背負って受ける」という武器――“お尻”でサッカーをする選手
エラス・ヴェローナのプリマヴェーラでゴールを量産していた頃から、シセの大きな特徴として挙げられていたのが、「背中で受けるうまさ」です。
カタンザーロの背番号80が持つ最大の武器は、まさにここにあります。
彼の身長は約181センチ。 攻撃的MFとしては決して小さくはありません。 上半身も強く、フィジカルコンタクトに負けない土台を持っています。
そして何より特徴的なのが、「アザールのようなお尻」です。
少し表現は面白いですが、この「重心の低い下半身」は、狭い局面で相手を背負い、ボールを隠し、バランスを崩さないためにとても大きな武器になります。
シセは体をうまくひねり、お尻と肩、腕を使って相手を遠ざけつつ、ボールは常に自分のコントロール下に置きます。
それだけではありません。 彼はいつも、ピッチ上での「周りの位置」を把握しています。
どこからプレッシャーが来るか。 どちら側に抜ければいいか。 あえてボールを見せて「ここから取りに来い」と誘い、相手に食いつかせてから、逆方向にターンしてかわしていく。
「Delle volte, Cissè ha così chiaro come aggirare i difensori che è lui stesso, con la postura, a manipolarli」 「時々、シセはあまりに明確に『どう相手を外すか』を理解しているので、自分の姿勢ひとつで守備者を操ってしまうのです」
守備側からすると、「取れそうで取れないボール」を延々と見せられ、踏み込んだ瞬間に置き去りにされます。
パレルモ戦とマントヴァ戦――「大人の試合」と「ショータイム」
カタンザーロがパレルモと対戦した試合は、アクイラーニにとってもターニングポイントでした。
パレルモは今季のセリエBでもトップクラスの戦力を誇るチームです。 ボールを保持して主導権を握ることを得意とする相手に対し、カタンザーロはあえてボールを譲りました。
そのうえで、彼らが選んだ「唯一の出口」が、シセへのボールでした。
GKからのロングフィード。 相手に押し込まれた状態から、背負ってボールを収めてくれるターゲット。
「とにかくシセの足元に届ければ、そこで一息つける」 チーム全体が、そう信じられるほどに、彼の「背中でのプレー」は頼りになるものでした。
結果的に彼は、この試合で決勝点となる1-0のゴールも記録します。
派手なドリブルや華麗なシュートよりも、あの試合で印象に残ったのは、「90分間、大人としてゲームを支えた姿」でした。
一方で、マントヴァ戦はまるで別の顔を見せます。
自陣近くまでついてきたマンマークのディフェンダー、ステファノ・チェッラを、シセは一つの体のフェイントで完全に転ばせてしまいます。
肩をすっと揺らし、向きとリズムを変えるだけで、相手はバランスを崩してピッチに倒れ込む。
そこから始まったドリブルは、やがてチームの同点ゴールへの布石となりました。
そして自らも、左サイドからの柔らかなループシュートをクロスバーの角に巻き込むように決めて2-1の勝ち越し弾。
あの日のマントヴァ戦は、「このリーグでは別格」と言わしめるショータイムでした。
数字と課題――リスクを恐れないドリブラー
12試合時点で、シセはセリエBで3位のドリブル成功数(21回)。 そして、ファウルを最も多く受けている選手(46回)でもあります。
それはつまり、「常に仕掛け、常に相手にとって危険な存在であり続けている」という証でもあります。
一方で、成功率は45.7%と、半分には届いていません。
しかし、これは決してネガティブな数字ではありません。
「Lamine Yamal supera di poco il 50%」 「世界で1対1に最も優れた選手の一人であるラミン・ヤマルでさえ、ドリブル成功率はようやく50%を少し上回る程度です」
リスクを取って内側の危険なエリアで勝負する以上、ロストもつきものです。 カウンターの起点になってしまうような失い方も、ときどきあります。
例えばヴェネツィア戦では、中央でのドリブルロストが、そのままゴール前のピンチにつながりました。
そしてそこから、少し影をひそめてしまう時間もありました。
モンツァ戦でも同じです。 カウンターの場面でパスミスをしてしまったあと、しばらくプレーが消極的になったと指摘されています。
ミスをしたあとに、そのまま自信を失ってしまう。 このメンタルの揺れ方は、まだ彼が「18歳の青年」であるということを、逆に感じさせる部分かもしれません。
しかしこれは、見方を変えれば、とても人間らしい一面とも言えます。
読む側の私たちからすると、 「自分と同じように落ち込むこともあるんだ」 と親近感を持てる部分でもあるのではないでしょうか。
セリエAへの階段と、「ポジションなき才能」が向かう先
今シーズン、シセはここまで13試合5ゴール。 期待ゴール(xG)は1.8とされています。
つまり、「ゴールになる確率が高いシュート」だけでなく、自ら難しいゴールもこじ開けてきたということです。 彼には、ボールを曲げ、沈める「バレースキル」がすでに備わっています。
一方で、まだチームのパス回しをコントロールする「ゲームメーカー」としての影響力は、これから伸びていく段階です。
パスコースを見つける目はあり、狭い角度でも通せる技術もある。 それでも、試合全体を支配するレベルまでは達していません。
それは、まだ彼が「どのポジションの選手なのか」自分でもつかみ切れていないからかもしれません。
トップ下なのか。 インサイドハーフなのか。 ウイングなのか。 時には、U-21イタリア代表のバルディーニ監督にセンターフォワードとしても起用されました。
でも、それでいいのかもしれません。
「ポジションに当てはめにくい選手」が、現代サッカーの中で特別な価値を持つケースは少なくありません。
試合の流れの中で、エリアを渡り歩きながら、 「ここだ」という瞬間に顔を出す。
今のシセは、まさにそんな「まだ形になりきっていない才能」です。
来季、彼がどのクラブでセリエAに挑むのか。 カタンザーロを残留に導き、ヴェローナに戻るのか。 それとも、別のプロジェクトが待っているのか。
いずれにせよ、この先のキャリアがトップリーグと結びついていくであろうことは、もはや疑いようがありません。
私たちは「成長の途中」をどこまで待てるのか
アルファジョ・シセの物語は、サッカーの技術的な話だけでなく、私たち自身への問いかけでもあります。
「まだ完成していない才能」と、どう向き合うか。
1つのミスで落ち込んでしまう18歳を、 「メンタルが弱い」と切り捨てるのか。 それとも、 「ここからどう立ち直っていくのか」を一緒に見守るのか。
クラブも、サポーターも、メディアも、そして私たち観る側も、「待つ力」が試されています。
サッカーは、完成されたスターを見るスポーツであると同時に、 「まだ形になりきっていない原石」が削られ、磨かれていく過程を共有するスポーツでもあります。
あなたはどちらの瞬間が、より好きでしょうか。
セリエBという舞台で、カタンザーロというクラブのユニフォームを着ながら、「まだ自分のベストポジションも分かっていない」アルファジョ・シセ。
その成長の物語を、今から追いかけておくことは、きっと大きな意味を持つはずです。
アルファジョ・シセの今
まだ少年の面影を残した18歳が、背中でボールを抱え、強豪クラブのプレスからチームを解放し続けている。
その姿を見ていると、ある言葉が浮かびます。
「Il talento ti fa vincere una partita, l’intelligenza e il lavoro di squadra ti fanno vincere i campionati.」 「才能は1試合を勝たせてくれる。 だが、勝ち続けるためには、知性とチームワークが必要だ。」
アルファジョ・シセが、この「才能」に「知性」と「仲間との関係性」を重ねたとき。 そのとき、本当の意味での「スター」が生まれるのかもしれません。
| 指標 | シセの数値 | 比較対象・備考 | 評価 |
|---|---|---|---|
| ドリブル成功数 | 21回(セリエB3位) | リーグトップクラスと競争 | ◎ |
| ファウルを受けた回数 | 46回(リーグ最多) | 常に仕掛け続けている証 | ◎ |
| ドリブル成功率 | 45.7% | ヤマルでも50%強と比較されたレベル | ○ |
| ゴール数(13試合) | 5ゴール | 期待ゴール(xG)1.8を上回る実績 | ○ |
| プリマヴェーラ時代(2023-24) | 30試合16ゴール | U-19で主力として圧倒的な結果 | ◎ |
| ヴェローナトップ出場(2023-24) | 2試合・計7分 | 宙ぶらりんの時期を経験 | △ |
- 「背負ってのボールキープ」を練習メニューに組み込む — シセのように上半身・お尻・肩を使って相手を遠ざけながらボールを守る技術は反復練習で身につく。狭いエリアでの1対1キープを日常的に取り入れる
- ミスの後に縮んでしまう選手へのフォローを怠らない — シセがヴェネツィア戦やモンツァ戦でドリブルロスト後に消極的になった例のように、ミス直後の選手にすぐポジティブな声かけをして次のプレーへの怖さを取り除く
- ポジショナルプレーを学ぶ選手には「あえてボールから離れる価値」を教える — シセがアクイラーニのシステムで「今は下りていいタイミングか、ライン間にとどまるべきか」を判断できるようになったように、ボールを追わない判断もトレーニングの対象にする
- ベストポジションが分からなくても、今できることで勝負する — シセ自身がトップ下・インサイドハーフ・ウイング・CFとさまざまな役割を経験しながら18歳でセリエBの主役になったように、今の自分のポジションを固定しすぎず可能性を広げながらプレーする
- ドリブルで相手を「操る」感覚を追求する — シセが「自分の姿勢だけで守備者を操る」と評されるように、フェイントは手や足の動きだけでなく体重移動・目線・リズムで相手を誘導する意識を練習で磨く
- ミスで落ち込んでも「18歳のシセも落ち込む」と知る — ミス後に消極的になることはシセでも起きている。それが人間らしさであり、次の試合で取り返す姿勢こそが成長につながると理解する
