18位発進のヘラス・ヴェローナが示す、「ボールを持たない」勇気と自分たちで選ぶサッカーの意味
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18位スタートのヘラス・ヴェローナから考える、「自分たちで選んだ戦い方」とは何か

セリエAのテーブルの下から3番目、18位。
6試合を終えて勝利はゼロ、3分3敗で勝点3。
数字だけを切り取れば、パオロ・ザネッティ率いるヘラス・ヴェローナの2025-26シーズン序盤は、決して明るい光景ではありません。
けれどピッチの中では、別の物語が進んでいます。
3-5-2から5-3-2、そしてボールを持てば3-1-2-4へと形を変え、オルバンやジョヴァネといった快足のアタッカーに一気に縦パスを通すサッカー。
ボールを「持たない」ことを前提に、あえて相手に主導権を渡し、そこから奪って一気に前へ出る選択。
成績が伴っていない中で、この「選び方」をどう受け止めるか。
そこには、単なる戦術の是非を超えた、「自分たちで決める」というサッカーの根本的な問いが隠れているように感じます。
「ボールを持たない」という、ひとつの意思表示
なぜヴェローナはボールを手放すのか
今のヴェローナは、ボールを長く保持して相手を揺さぶるチームではありません。
どちらかと言えば、こう言えます。
「ボールを握ることを、あえて最優先にはしていないチーム」。
3-5-2で構え、守備では両ウイングが下がって5-3-2のブロックを作る。
ボールを奪った瞬間に、オルバンとジョヴァネを一気に走らせる。
ゴールキックからですら、GKモンティポがしばしばロングボールを選ぶのは象徴的です。
もちろん、それは「ビルドアップが下手だからロングボールに逃げている」のではありません。
チームの特徴を冷静に見た結果の、意図的な選択でもあります。
ザネッティのもとに集まった選手たちは、総じて走力とフィジカルに優れています。
中盤には、相手を追い回し、ボールを刈り取ることに長けたアクパ・アクプロやニアッセ。
前線には、スペースに飛び出す能力に秀でたオルバンとジョヴァネ。
テクニカルなパスワークで相手を手玉に取るチームというより、
「走る」「奪う」「前に出る」ことに強みを持つ集団です。
それなら、ボールを長く持って相手のプレッシャーを受け続けるより、
あえて相手に持たせて、奪った瞬間の一撃に全てを賭ける方が、
今の選手たちには合っている、という見立てがあっても不思議ではありません。
監督とスタッフたちは、夏の補強や選手の特性を見ながら、こう自問したはずです。
「自分たちのいまの武器は何か。」
「それを一番生かせるゲームプランは何か。」
結果として、ボールを「持たない」ことは、逃げではなく、ある意味では勇気ある選択です。
| 局面 | ヴェローナの選択 | メリット | 評価 |
|---|---|---|---|
| 守備構造 | 3-5-2 → 5-3-2に変形・マンツーマンに近いプレッシング | 相手中盤に自由を与えず最終ラインまで降りさせる | ◎ 意図的なブロック |
| ボール保持 | GKモンティポがロングボールを多用・ポゼッション非優先 | 自チームの走力特性を最大化・プレッシャー下でのミス削減 | ○ 特性に合わせた選択 |
| 前線の役割 | オルバン(スピード・決定力)とジョヴァネ(ライン間・強さ)が縦パスを受ける | カウンター時に一気にゴールへ向かえる | ◎ 特性の活用 |
| インサイドHFの飛び出し | ベルネデ・セルダールが相手SBやCBにまで飛び出す | 相手の展開を封じるが背後のスペースが空くリスク | △ リスクを承知の選択 |
| シーズン序盤の成績 | 6試合で勝利ゼロ・3分3敗・勝点3 | スタイルはある程度機能も結果が追いついていない | △ 継続するか修正するかの判断局面 |
日本で同じ選択をしたら、どう見られるだろうか
日本のサッカー現場で、「ボールを持たない」を明確に選ぶチームは、まだ多くはありません。
少年サッカーであれば、保護者から
「なぜうちのチームはボールをつながないのか」
「蹴ってばかりでいいのか」
と問われることもあるでしょう。
同じように、選手自身も揺れます。
「ポゼッションを高める方が“いいサッカー”なのではないか。」
「ロングボール主体の戦い方は“雑”に見えるのではないか。」
そこで問われるのは、見た目の美しさではなく、「なぜそれを選ぶのか」という理由です。
もしあなたが指導者なら、
- 自分たちの今の武器は何か
- その武器を最大限に発揮できるのは、どんなゲームプランか
- それを選んだ理由を、選手や保護者にどう説明するか
一つひとつ言葉にしてみたとき、ヴェローナの選択が別の姿に見えてくるかもしれません。
3-5-2という「形」に隠れた、細かな選択
- 「自分たちの武器は何か」を選手・保護者に説明できる言葉を持つ — ヴェローナのようにボールを持たない選択をする場合、「ロングボールに逃げている」ではなく「この選手たちの走力と決定力を最大化するための意図的な選択」と伝えられるかどうかが指導者の力量を示す
- 結果が出ない中でいつまで継続し、どこから修正するかを「判断の軸」として自分の中に持つ — 「短期的な勝敗でスタイルを変えるのか、どこを我慢と呼びどこを柔軟な修正と呼ぶか」の線引きを事前に言語化しておく
- インサイドハーフの飛び出しのように、リスクを承知の上で出るか出ないかを選手自身が文脈で判断できるよう練習から意識を育てる — 「行けと言われたから行く」ではなく「状況を見て自分で行く・行かないを選ぶ」内側の意識の違いを練習中に問いかける
同じ3-5-2でも、中身はこんなに違う
数字だけを見れば、ヴェローナの基本形は3-5-2。
しかしその内側では、多くの細かい選択が積み重なっています。
守備では5-3-2に変形して、ほぼマンツーマンに近い激しいプレッシング。
中盤の選手たち、特にベルネデやセルダールの両インサイドハーフが、
相手のサイドバックやセンターバックにまで飛び出していきます。
前線の2人は相手ボランチへのパスコースを切ることを優先し、
中盤の3人は相手が外に展開した瞬間に一気に圧力をかける。
相手の中盤が、しばしば最終ラインまで降りないとボールを受けられない場面が見られるのは、その守り方が機能している証拠でもあります。
数字上は同じ3-5-2でも、
- どこでプレッシングをかけるのか
- 誰がどこまで出て行くのか
- どこを捨ててどこを締めるのか
その一つひとつに、明確な考えとリスクの天秤が存在します。
例えば、インサイドハーフが高く出て行くということは、
自分の背中のスペースが空くことを意味します。
空いたスペースを相手に使われるかもしれない。
それでも出て行くのか。
それとも、出るのを我慢してブロックを固めるのか。
試合中、その判断は何度も何度も繰り返されます。
もしあなたがベルネデやセルダールの立場なら、どこまで出て行けるでしょうか。
「行けと言われたから行く」のか。
「状況を見て、自分で行く・行かないを選ぶ」のか。
同じ動きでも、その内側にある意識はまるで違うはずです。
- GKのゴールキックでロングボールを選ぶ場面に注目する — ヴェローナのモンティポがロングボールを選ぶ場面は「下手だから蹴っている」ではなく「前線の選手の特性を生かすための意図的な選択」であることを意識すると、チームのゲームプランが見えてくる
- ボールのない選手のポジショニングを追う — サイドで2対1を作る場面で、ボールを持っていない選手がどのポジションを取るかによって攻撃の質が左右される。ヴェローナのウイングバックとインサイドハーフのサポートの動きを見ると、「ボールなしの選択」がいかに重要かがわかる
- 順位表の数字だけでなく、チームが何を大事にして戦っているかを親子で話してみる — 18位という成績も、「スタイルを持ちながら結果が追いついていない段階」と「成績が悪いだけ」では全く違う。指導者の意図を想像する視点が子どものサッカー理解を深める
守備で消耗しながら、それでも前を向くということ
ヴェローナのサッカーは、とにかく走ります。
走らされるのではなく、自分たちから走りに行きます。
当然、終盤になれば疲れが出て、集中力も落ちてきます。
そんな中でも、ボールを奪った瞬間には前を向き、縦にパスを出し、オルバンやジョヴァネを走らせます。
「いまはつなぐ余裕はない。それでも、ここは前を選ぶ。」
その一歩には、身体だけでなく、心のスタミナも試されます。
試合中、うまくいかない時間帯ほど、
「やり方を変えるべきか」「このまま続けるべきか」
という迷いが顔を出します。
その揺れの中で、それでも自分たちの選んだ戦い方を続けるのか。
それとも、別のプランに切り替えるのか。
どちらが「正しい」という話ではなく、
「なぜ続けるのか」「なぜ変えるのか」を自分の中で説明できるかどうかが問われているように思えます。
攻撃の「2つの道」と、選手一人ひとりの役割

ロングボールか、ショートパスかではなく、「どの瞬間にどちらを選ぶか」
ヴェローナの攻撃は、大きく分けると2つのパターンがあります。
- 中盤や最終ラインで奪って、そのまま縦に速く、オルバンやジョヴァネの深い位置への走りを使う
- ビルドアップで相手の1列目を外し、インサイドハーフのベルネデやセルダールを通してから、サイドや中央でコンビネーションを狙う
頻度としては、前者の「速い縦への攻撃」が多く見られます。
ただ、だからといって「蹴るだけ」のサッカーではありません。
3バックとアンカーが作る「3+1」の土台から、相手のプレッシャーをいなせれば、
一気に前線に6人が関わる形も出てきます。
そのとき、
- どのタイミングでリスクを取って縦パスを入れるのか
- 一度預けて落ち着かせるのか、それとも一気に裏へ通すのか
パスを出す側のDFや中盤、そして受ける側のFWやウイング、それぞれに選択があります。
オルバンはスピードと決定力が武器ですが、判断が少し本能的になる場面もあると言われます。
ゴールへ最短距離で向かうか。
時間を作るためにボールを収めるか。
どちらを選ぶかは、その瞬間の彼の「読み」と「決断」に委ねられています。
ジョヴァネは、強さとスピードに加えて、ライン間でボールを受ける動きが得意です。
最終ラインの裏だけでなく、少し降りてチームの基点にもなれる。
もしあなたがジョヴァネなら、
- 相手CBの背後のスペースを狙い続けるか
- 一度中盤まで降りて、仲間を押し上げる時間を作るか
どのようにポジションを選びますか。
監督のプランはあっても、最後に決めるのはピッチに立つ選手自身です。
サイドでの「2対1」をどう生かすか
ヴェローナはサイドをよく使います。
左のブラダリッチや右のベルガリ、カスタノスといったウイングバックが幅をとり、
インサイドハーフがサポートに出て、「2対1」の状況を作ろうとします。
時には、オルバンやジョヴァネ自身が外へ流れて、そこに関わることもあります。
サイドで数的優位ができれば、
- クロスを上げる
- カットバックを狙う
- 内側にドリブルで切れ込む
選択肢はいくつもあります。
ただ、そのどれを選ぶのかは、ボールを持った選手だけでなく、周りのサポート次第でもあります。
日本の育成年代でも、サイドで味方と1対2を作る場面は多く見られます。
そのとき、
- ボールを持っている選手だけに解決を任せていないか
- ボールのない選手は、自分から「こうしてほしい」とポジションを取れているか
ヴェローナのサイド攻撃を眺めていると、「ボールを持っていない選手の選択」が、どれほど攻撃の質を左右するかをあらためて感じます。
「走り続けるサッカー」が抱える葛藤
体力に頼るだけではない、「消耗」との付き合い方
ヴェローナのように、マンツーマンに近い激しいプレッシングと速いトランジションを繰り返すスタイルは、大きなエネルギーを必要とします。
6試合で勝ちがないという現実は、このやり方がまだ完成形に達していないことを示しているのかもしれません。
一方で、相手の中盤に自由を与えず、ロングボールやバックパスに追い込む場面も多く作れている。
守備のアイデア自体は、一定の手応えを得ているはずです。
問題は、それを90分間、そしてシーズンを通して続けられるかどうか。
選手たちは、きっとこんなことを考えているかもしれません。
「このまま走り続けて、最後に失点したらどうする。」
「もっとボールを持って、休む時間を増やした方がいいのではないか。」
それでも、監督のプランに乗り、自分たちの選んだスタイルを信じるのか。
あるいは、選手からの声を受けて、やり方を調整していくのか。
そこには、結果が出ない中でも「答えを急がない」姿勢が求められます。
短期的な勝敗だけでスタイルをコロコロ変えるのか。
それとも、どこまでを“我慢”と呼び、どこからを“柔軟な修正”と呼ぶのか。
その線引きは、とても難しいものです。
日本の現場なら、どこで「変える」決断をするか
日本のクラブや学校チームでも、シーズン序盤につまずくことはあります。
そのとき、
- 結果が出ないからといって、すぐやり方を変えるべきなのか
- 選手たちのストレスや不安と、スタイルへのこだわりをどう両立させるか
指導者にとっては、悩ましい局面です。
例えば、
- 前からのプレッシングにこだわるのか、ブロックを下げるのか
- ロングボール中心から、ビルドアップ重視に切り替えるのか
- 守備的に安定させて、まずは引き分けを増やしにいくのか
どの決断にも、メリットとデメリットがあります。
大切なのは、その選択を「なんとなく雰囲気で」ではなく、
「こういう理由で、今はこうする」と説明できることではないでしょうか。
選手や保護者に伝えるときも、
「勝てていないから守りを固めます」ではなく、
「今のメンバーの強みを考えたとき、こういう戦い方が一番生かせると判断しました」
という言葉の方が、曇りが少ないはずです。
「自分ならどうするか」を、ヴェローナから借りてみる
ピッチの外に持ち帰れる問い
勝てていないチームを眺めるとき、つい「何がダメなのか」を探してしまいがちです。
けれど、ヴェローナのように明確なスタイルを持ちながら結果が出ていないチームを見るとき、
そこから拾えるのは、問題点だけではありません。
むしろ、こうした問いかけを自分に向けるきっかけになります。
- 自分のチームや自分自身の「強み」は何だろうか
- その強みを試合で一番生かせるのは、どんなプレー選択だろうか
- 結果が出ないとき、どこまで続け、どこから変えるのか
選手であれば、
「監督の指示どおりに動く」だけでなく、
「その中で自分は何を選べるか」を考えてみる余地があります。
指導者であれば、
「この形なら流行っているから」ではなく、
「いまの自分たちの素材で、何を大事にしたいか」から逆算することもできるはずです。
保護者であれば、
「勝った・負けた」だけでなく、
「今日のチームは、どんな意図でこの戦い方を選んだのか」
と視点を少しずらして観てみると、子どものプレーの見え方が変わるかもしれません。
答えの出ないまま、シーズンは続いていく
ザネッティのヴェローナは、たぶんこの先も、何度も揺れるはずです。
走り続けるのか。
スタイルを少し変えるのか。
結果と内容のバランスをどこでとるのか。
その過程に、はっきりとした「正解」が現れる瞬間は、おそらく多くありません。
それでも、試合のたびに選手は走り出し、
監督はゲームプランを選び、
クラブはシーズン全体の方向性を決めていきます。
サッカーは、そんな「決め続けるスポーツ」でもあります。
ピッチの中のヴェローナの11人が、
うまくいかない中でも、自分たちで選んだ戦い方を続けるのか、変えるのか。
その揺れを想像しながら試合を眺めてみると、順位表の18位という数字も、少し違って見えるかもしれません。
そして自分自身のサッカーにも、「自分ならどう考えるか」という静かな問いが、そっと置かれていることに気づきます。
答えが出るのは、ずっと先かもしれません。
それでも、その問いを抱えたまま、今日もボールは転がり続けています。
