ポジション変更、ラストチャンス、ベンチの日々――ブラジルの10代から日本の若い選手が学べる「選択し続ける力」
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「ピアス・ド・カジュ」が選んだ道から、日本の10代は何を学べるか

18歳のセンターバックが、プロのピッチでボールを受ける。
ほんの一年前まで「クビ候補」だった選手が、今はブラジル最高峰のリーグで90分フル出場を続けている。
アスレチコ・パラナエンセのアルトゥール・ディアス。
かつては結果の出ないアタッカーだった少年が、指導者に説得されてセンターバックにコンバートされる。
そこで「続けるか、諦めるか、受け入れるか」という選択を迫られた末に、今の姿がある。
この「ポジション変更」という出来事ひとつを取っても、そこにはたくさんの思考と葛藤の跡が見える。
同じクラブからは、他にも多くの若手がブラジル全国リーグ2026の舞台で存在感を見せている。
10番として定着した左利きの司令塔ドゥドゥ。
州選手権で得点王になったストライカー、フェリペ・キケチ。
17歳で欧州クラブから注目される攻撃的MFブルニーニョ。
昇格の立役者でありながら、今季は出場機会が減っているジョアン・クルス。
先発から外れる時間が増えても、少しずつチャンスを得ている左サイドバック、レオ・デリキ。
彼らのストーリーは、ただ「ブラジルの有望株がいる」という話では終わらない。
なぜクラブはこれほど大胆に若手を起用できるのか。
なぜ彼らの多くは、一度は「見切られかけた」あとに伸びているのか。
そして、その過程を日本の選手や保護者、指導者はどう受け取るだろうか。
若手を「使う」前に、クラブは何を選んでいるのか
いまのアスレチコは、単に若手を「試している」わけではない。
監督のオダイール・ヘルマンのもと、ブラジル全国リーグで上位を狙いながら、同時に自前の選手たちに多くの出場時間を与えている。
クラブとしては、二つのリターンを見据えていることがわかる。
- スポーツ面でのリターン(チームを強くする)
- 将来的な移籍金という経済的リターン
例えば、ドゥドゥの国際移籍に設定された違約金は6000万ユーロ。
ブルニーニョについては、欧州クラブからの関心が伝えられ、クラブ側も「売るとしたら少なくとも1500万ユーロ」とラインを引いていると言われる。
数字だけ見ると、ただのビジネスに見えるかもしれない。
しかし、その前段階には「この選手をどこまで信じるか」という、スポーツ面での決断が必ずある。
ドゥドゥは今季、アルゼンチン人MFブーノ・ザペリをベンチに追いやり、10番としてスタメンの座を勝ち取った。
監督は、より経験のある外国人選手に依存する道もあったはずだ。
それでも、動きの量や攻守の貢献度、ポジションの柔軟性といった要素を見て、21歳の自前の選手を選んだ。
それは、単に「若いから使う」のではなく、「チームの現時点のベストをよく考えた結果として若手が選ばれた」ということでもある。
同じように、クラブはリスクも受け入れている。
- アルトゥールのように、プロデビューでいきなり大きなミスをしてしまうこともある
- ジョアン・クルスのように、昇格のヒーローでも翌年にはレギュラーを外れることもある
- ブルニーニョのように、将来を見据えて契約延長を優先した結果、いつか主力を放出しなければならない日もくる
それでもクラブは、短期的な失敗をゼロにはできないと理解したうえで、「育てながら勝つ」道を選んでいるように見える。
日本ではどうだろうか。
Jリーグのクラブも育成に力を入れているが、「勝たなければならない」と感じるほど、ベテランや実績ある選手に頼りたくなる場面は多い。
若手を起用すること自体が、クラブにとっての「選択」であり、覚悟が必要な決断だということは共通しているはずだ。
| 場面 | 直面した状況 | とった選択 | その後の変化 |
|---|---|---|---|
| ポジション変更 | アタッカーからセンターバックへのコンバート要求 | 受け入れてCBとして勝負する | ◎ フル出場を続ける主力CBに成長 |
| ラストチャンス | 成果が出ず移籍話も浮上した状況 | クラブに残り州選手権で結果を出す | ◎ 得点王で評価を逆転 |
| 契約交渉の停滞 | 給与・違約金交渉が長期化 | 今すぐ移籍せずクラブで力を証明する | ○ 高額違約金付き長期契約を締結 |
| 出場機会の減少 | 前年の昇格ヒーローが翌年に控えへ | 移籍を急がずレギュラー奪還を目指す | △ 競争継続中・先行き不透明 |
| プロ初出場でのミス | デビュー戦で大きなミスを犯す | 切り替えてビルドアップの強みを磨く | ◎ 連戦フル出場の主力に定着 |
一度は「外」に近づいた選手たちが、なぜ残ったのか
興味深いのは、ここで名前が挙がる選手の多くが、「一度はクラブを去りかけた」という点だ。
フェリペ・キケチは、2025年の時点でポルトガルのクラブに移籍する可能性があった。
ブルニーニョも、契約延長の交渉が長引き、クラブとの距離が広がりかけた。
アルトゥールは、そもそも下部組織での序列が高くなく、解雇候補に挙げられていたと言われる。
そのたびに、選手とクラブ、指導者は「どうするか」を選び直している。
- このクラブで競争を続けるのか
- 別の国、別の文化に飛び込むのか
- ポジションを変えてでも、生き残りにかけてみるのか
フェリペは、ポルトガルへの移籍ではなく、アスレチコでの「ラストチャンス」を選び、州選手権で一気に結果を出した。
キツい言い方をすれば、それまで数字が物足りなかったからこそ、移籍話も浮上したのかもしれない。
そこで彼は、自分の状況をどう受け止めたのだろうか。
「見返してやる」という感情があったのか。
「ここでダメなら仕方ない」と腹をくくったのか。
外からはわからないが、少なくとも「もう一度ここで勝負する」という選択をしたことだけは事実だ。
ブルニーニョは、17歳で給与アップと高額な違約金を含む新契約を結んだ。
それは、「今すぐ飛び出すこと」よりも、「このクラブで力を証明してから出ていく」という道を選んだとも言える。
10代の選手にとって、どれが正解かは誰にもわからない。
ただ、どの選手にも共通しているのは、自分のキャリアについて「何となく」ではなく、必ずどこかで自分なりの選択をしているということだ。
日本では、進路を決めるのは高校の監督かもしれないし、保護者かもしれない。
あるいは、クラブから提示された「トップ昇格」や「レンタル移籍」を、そのまま受け止めることも多い。
そのとき、当事者である選手自身は、どこまで「自分の選択」としてかみしめているだろうか。
- ミスをした選手をすぐ外す前に「次の練習で何が変わったか」を確認する — 1試合のミスで評価を固定せず、修正しようとしているかを観察することが「選択し続ける力」を育てる環境になる
- ポジション変更を提案するときは選手の「なぜ」を受け止める時間を作る — 一方的な指示では選手が受け身になる。強みが活きる場面を具体的に伝えることで選手が自分の選択として受け入れやすくなる
- 控えの選手に「今日の練習で自分がチャレンジすること」を毎回確認する — 出場機会が少ない期間に何を選択しているかが、次にチャンスが来たときのプレーの質を左右する
プレー時間が減ったとき、何を守り、何を変えるか

アスレチコの若手たちの中で、今季の立場が最も揺れているのがジョアン・クルスだろう。
19歳にして、2025年のリーグ戦では昇格の決定打を含む重要なゴールを決め、サポーターから強い支持を得た。
しかし、今季は同じ監督のもとで出場機会が限られている。
前年は主力で、翌年は控えに回る。
それは、どのリーグでも起こりうることだ。
おそらく彼は、こうした問いに向き合っている最中なのだと思う。
- 自分のプレーのどこを変えなければいけないのか
- 一方で、どの部分は「持ち味」として失ってはいけないのか
- クラブへの愛着と、自分のキャリアの野心をどうバランスさせるのか
彼はクラブへの強い思いを口にしていると伝えられ、すぐに移籍を求める様子はない。
その一方で、契約には高額な違約金が設定されており、いつかは大きなオファーが届く可能性もある。
「このままここでレギュラーを勝ち取りたい」という思いと、「より高いレベルでプレーしたい」という思いは、必ずしも矛盾しない。
でも、現実の選択肢の前では、どこかで優先順位をつけなければいけない瞬間が来る。
日本でも似た状況はある。
- J1では控えだが、J2なら試合に出られそうな選手
- ユースからトップ昇格したが、レンタル移籍の話が来ている選手
- 高校サッカーの名門でベンチに甘んじる選手と、地方の学校ならエースになれる選手
どの道を選んだとしても、「本当にこれでよかったのか」という問いは、後から何度も頭に浮かぶかもしれない。
それでも、自分で考えて選んだ道であれば、うまくいかなかったときにも、次に何を変えるか考えやすくなる。
- ポジション変更を言われたときに「まず1か月試す」という選択肢を持つ — 拒絶する前に実際に試してみると、新しいポジションで思いがけない強みが見つかることがある
- 「今すぐ結果を出さないといけない」という焦りを手放す練習をする — 高校選びや進路の判断が重なる時期こそ、「今日の練習で何を選ぶか」という目の前の問いに戻ることが最も現実的な準備になる
- 保護者はキャリアの選択に「答え」を持ち込まない — 子どもが「なぜそうしたいのか」を言語化できるよう問いかける役割に徹することが長い目で見た最良のサポートになる
「ミスした選手」をどう扱うかという視点
アルトゥール・ディアスの話に戻ろう。
彼はプロ初出場の試合で大きなミスを犯したが、そこで終わることはなかった。
クラブも、監督も、彼自身も、あの瞬間を「キャリアの終わり」ではなく、「成長の過程」として捉えたのだろう。
そこには、少なくとも三つの選択があったはずだ。
- クラブが「まだ早い」と判断して、しばらくチャンスを与えない選択
- 監督がリスクを恐れて、信頼を別の選手に移す選択
- 選手本人が自信を失い、守備のプレーから逃げてしまう選択
結果として、彼は2026年シーズンに入り、両足を使えるセンターバックとして、連戦でフル出場する存在にまでなった。
この変化の裏には、「ミスしても終わりではない」という空気をクラブ全体が共有している可能性がある。
日本ではどうだろうか。
1試合のミスが、評価を大きく左右してしまう環境はないだろうか。
選手自身も、1回の失敗で「もうダメだ」と決めつけてしまうことはないだろうか。
アルトゥールのケースは、ミスをしたあとに「何を変え、何を変えなかったのか」を考えるヒントになる。
プレー面では、ポジショニングや判断を見直しながらも、自分の強みであるビルドアップ能力や対人のアグレッシブさまでは手放さなかったのかもしれない。
指導者側に置き換えれば、「あのミスをどう扱うか」を問われていることになる。
- ミスをしたから外すのか
- ミスをしたからこそ、もう一度チャンスを与えるのか
- どちらを選ぶにしても、その理由をどう伝えるのか
数字と「今ここ」のプレー、そのあいだで揺れる10代
現代の選手は、幼い頃から「市場価値」や「違約金」といった言葉にさらされる。
フェリペ・キケチには、ゴール数やアシスト数とともに、評価額がついて回る。
ドゥドゥやジョアン・クルスの契約には、数十億円規模の違約金が設定されている。
ブルニーニョは、18歳の誕生日を境に「いつヨーロッパへ渡るのか」がニュースになる。
彼らの頭のなかには、こんな声が交錯しているかもしれない。
- もっとゴールを決めないと、評価が下がるかもしれない
- ケガをしたら、大きな移籍のチャンスを失うかもしれない
- でも、目の前の試合で全力を出さなければ、そもそもオファーは来ない
この「将来」と「今ここ」のあいだの揺れは、日本の10代にも共通している。
中学3年生は、高校選びのことで頭がいっぱいになりながら、最後の大会に臨む。
高校3年生は、大学やプロ入りの話を気にしながら、選手権予選を戦う。
どちらを優先すべきかは、誰にも決められない。
ただ、どんな将来像を描いていても、最終的には「今日の練習」「今日の試合」で何をするかに戻ってくる。
フェリペ・キケチが、州選手権でのラストチャンスをどう捉えたのか。
目の前の90分を「人生を変えるかもしれない時間」として受け止めたのか。
それとも、「いつも通り」を貫こうとしたのか。
答えは表には出てこないが、5ゴール3アシストという結果の裏には、何かしらの「心の決断」があったはずだ。
もし自分だったら、どこで立ち止まるだろうか
ブラジルの若手選手たちのストーリーは、日本のサッカーとは環境も文化も違う。
それでも、彼らが直面している問いは、驚くほど身近なものでもある。
- ポジションを変えると言われたとき、自分ならどう考えるか(アルトゥール)
- 「ラストチャンス」と言われた大会で、どんな準備をするか(フェリペ)
- 契約や将来の話が先に進まないとき、何を拠り所にプレーするか(ブルニーニョ)
- 一度はヒーローになった後、控えに回ったときの心の持ち方(ジョアン・クルス)
- ライバルが結果を出しているなかで、自分なりの役割をどう見つけるか(レオ・デリキ)
それぞれの場面で、「正しい答え」はない。
あるのは、そのときに自分なりに考え、選んだプロセスだけだ。
日本の選手であれば、こんな場面が重なって見えるかもしれない。
- 監督に「サイドバックでやってみないか」と言われたとき
- レギュラーから外れ、途中出場が続くようになったとき
- クラブユースか、高校サッカーかで迷う中学3年生の冬
- 進学か、J下部組織の昇格かで悩む高校3年生の夏
そのとき、自分ならどう考えるだろうか。
どこまでを「譲れない軸」として守り、どこからを「変えてもいい部分」として捉えるだろうか。
答えを急がないからこそ、見えてくるもの
アスレチコの若手たちを見ていると、「成功」と呼ばれる瞬間は、いつも後から名前がつけられていることに気づく。
ポジション変更を受け入れたときも、契約延長にサインしたときも、ベンチに座る試合が続いたときも、誰も「ここがターニングポイントだ」とはわからない。
それでも一つひとつの場面で、自分なりに考え、選び、続けてきた結果が、あとから「ブレイクした」「移籍金が跳ね上がった」と語られていく。
日本でサッカーを続ける人たちにも、似たような時間が何度も訪れるだろう。
そのたびに、周りは早く答えを求めてくるかもしれない。
- どの高校に行くのか
- どのクラブを選ぶのか
- いつまで本気でプロを目指すのか
そんなときにこそ、目の前のラベルや結果だけで判断せず、「なぜそうしたいのか」「他にどんな道があるのか」を一度立ち止まって考えてみる余白があってもいいのかもしれない。
ブラジルのピッチで、10代の選手たちは今日も迷いながらボールを蹴っている。
その迷いごと抱えたプレーが、いつか一つの物語になっていく。
サッカーの面白さは、ゴールや勝敗だけでなく、「その一歩手前で、何を考え、何を選んだのか」という見えない時間の中にも、静かに息づいている。
