フレデリック・ギルベールが語るバイユーFCの理念:ノルマンディーの小さなクラブが体現する「クラブは街のもの」というアマチュアサッカーの未来図

フレデリック・ギルベールが描く「クラブは街のもの」という未来図──ノルマンディーの小さなバイユーFCから見えるアマチュアサッカーの可能性

DEFINITION
フレデリック・ギルベールが語る「クラブは街のもの」とはどういう意味か
フレデリック・ギルベールが語る「クラブは街とコミュニティのものだ」とは、クラブをオーナーの所有物としてではなく地域の人々が自分の物語を重ねる公共的な場として捉える哲学であり、バイユーFCでの活動を通じてプロ選手自らが地域クラブの価値づくりを実践している姿勢を指す。

フレデリック・ギルベールがくれた「アマチュアクラブの未来図」──バイユーFCとノルマンディーの物語

イタリア・セリエAのレッチェに所属しながら、大学院でスポーツマネジメントを学び、さらにはフランス・ノルマンディーのアマチュアクラブ「バイユーFC」のパートナー顧問も務めるフレデリック・ギルベール。

ひとりのプロ選手が、なぜここまでして「地域のクラブ」と向き合おうとしているのでしょうか。

そして、R1(フランス6部相当)の小さなクラブが、カーンを倒してクープ・ド・フランス8回戦まで進んだ背景には、どんな価値観が隠れているのでしょうか。

「キャリアは終わっていない」プロ選手がアマチュアクラブに関わる理由

まずギルベールは、自分の立ち位置をはっきりさせます。

「Ma carrière de footballeur professionnel n’est pas terminée.」 「僕のプロサッカー選手としてのキャリアは、まだ終わっていないんだ。」

彼は現役のまま、リヨン第1大学のスポーツ組織マネジメントのコース(DUGOS)で学び、その実地の場としてバイユーFCに関わっています。

「Je me suis engagé avec Bayeux dans le cadre d’une formation… pour approfondir mes compétences dans l’organisation d’un club.」 「クラブ運営の力を高めるための研修の一環として、バイユーと関わることにした。」

サッカー選手としてだけでなく、「クラブをつくる側」を学ぼうとする姿は、子どもたちにも大人にも、ひとつの問いを投げかけているように見えます。

サッカー選手の「夢のゴール」は、本当にピッチの上だけでしょうか。 引退したあと、あるいはプレーと並行して、クラブや地域のために何ができるのか。 ギルベールは、その答えを探しながら、今まさに歩き始めているのだと感じます。

COMPARISON / お金で補強するクラブ vs 一体感で戦うバイユーFC:アマチュアクラブの二つのアプローチ
比較軸 補強型クラブ(R1他) バイユーFC 評価
選手獲得方針 給料を払って戦力補強。即戦力確保 給料なし。クラブ育成・コミュニティ出身選手中心
チームの一体感 寄せ集めになりがちで関係構築に時間かかる 会長の「人間味」を核にした美しい調和と協調
クープ・ド・フランス成績 カテゴリー通りの結果が多い カーンを倒して8回戦進出という番狂わせを達成
クラブの社会的役割 プロに近い戦力組成を優先 広報・マーケ・SNS等で「地域の会社」的役割を担う
選手の生活スタイル サッカー専業に近い 仕事・学校・家族と両立しながら週末に試合
◎=バイユーFCの優位 ○=双方に利点 △=ハンデとなる面。数字に出ない強さを体現

バイユーFCという“学び場”──人間味あるクラブと成長の余地

ギルベールが選んだのは、派手なビッグクラブではなく、ノルマンディーの地方クラブ・バイユーFCでした。

「À Bayeux, y a une belle osmose, une harmonie dans la vie du club.」 「バイユーには、クラブの生活の中に美しい一体感と調和がある。」

「J’ai choisi Bayeux parce que je suis proche de son président Luis Ferreira-Pavesi. C’est quelqu’un d’humain, qui a redonné une vraie crédibilité au club.」 「バイユーを選んだのは、会長のルイス・フェレイラ=パヴェジと近しいからだ。彼は人間味があって、クラブに信用を取り戻した人なんだ。」

そこには、「自分が役に立てる場所を選ぶ」という、シンプルだけれど重要な視点があります。

「L’idée, c’est de trouver un projet où je peux être utile.」 「自分が役に立てるプロジェクトを見つけること、それが大事なんだ。」

自分の“名前”や“実績”を、どこでどう生かすのか。 子どもたちが部活やクラブチームを選ぶときも、社会人が転職や地域活動を考えるときも、本質は同じかもしれません。

あなたなら、どんな場所で「自分はここで役に立てる」と感じたいですか。

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「役に立てる場所」を選ぶことがチームを変える
  1. チームの「役割」より「関係性」の質を先に整える — ギルベールが指摘する「一体感から生まれる強さ」のように、メンバーが互いを信頼して支え合う土台を作ってから戦術指導に入る
  2. 選手に「自分はここで役に立てる」という実感を持たせる — 強いポジションより貢献実感が継続意欲を生むため、練習の役割設計で各自が違う強みを発揮できる場面を意図的に作る
  3. クラブの「価値観」をピッチの言葉と行動で見せ続ける — ランスの例のように、失敗しても「誠実に取り組む姿勢を見せること」がサポーターや選手からの信頼を維持する土台となる
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クラブはもはや「小さな会社」──それでもお金だけが答えではない

ギルベールは、アマチュアクラブの現実も冷静に見つめています。

「Un club tourne comme une entreprise : il faut créer du revenu pour faire vivre l’association.」 「クラブは会社のように回っている。クラブという“協会”を生かすには、収入を生み出さなければならない。」

広報、マーケティング、SNSのビジュアル制作、スポンサー探し。 今やR1でも、クラブは「仕事の場」としての顔を持つようになりました。

一方で、アマチュアクラブの中には、選手に給料を払って戦力強化をするところも増えています。

「En R1, certains clubs payent leurs joueurs pour se renforcer ! Pas nous.」 「R1でも選手に給料を払って補強するクラブがある。でも、うちは違う。」

では、お金をかけることは本当に強くなる近道なのでしょうか。

「Je pense qu’une bonne harmonie dans une équipe, un esprit d’équipe, une cohésion à l’échelle du club, ça crée plus qu’un assemblage de joueurs que tu rémunères.」 「チームの良い調和、チームスピリット、クラブ全体の一体感は、給料で集めた選手たちの寄せ集め以上のものを生み出すと思う。」

サッカーゲームのように「強い選手カード」を並べることは、確かに魅力的に見えます。

それでも、毎日顔を合わせて支え合う仲間、クラブを支えるボランティア、スタンドで声を枯らすサポーター。 その関係性から生まれる力は、数字や年俸には現れません。

あなたの周りにいるチームや部活は、「お金で集めた強さ」と「一体感から生まれる強さ」、どちらに近いでしょうか。

FOR PLAYERS & PARENTS / FOR PLAYERS & PARENTS
仕事と家族と両立しながら戦う選手たちの誇り
  1. 「プロかどうか」より「どんな気持ちでプレーしているか」が選手の魅力を決める — バイユーFCの選手たちが仕事後に練習し試合に出る姿をギルベールが「本当に素晴らしい」と称えるように、ひたむきさ自体が価値を持つ
  2. 地元クラブを応援することで自分もその「物語」に参加できる — クラブのチャントやスタジアムの雰囲気など、地域の人々が自分の物語を重ねる場を自分も積極的に共有する
  3. プロを目指す過程で「選ばないこと」の積み重ねが成長をつくる — ギルベール自身がシェルブールからボルドーへと進む過程で夜遊びを断ち続けたように、習慣の選択が将来の差をつくる

「価値」を守るということ──カーン、ランス、そしてサポーター

ギルベールは、自らの古巣カーンや、ランス、ストラスブールといったクラブにも話を広げていきます。

カーンについては、こう語ります。

「Caen mérite d’être au plus haut niveau.」 「カーンはもっと高いレベルにいるにふさわしいクラブだ。」

ただ、クラブを外から批判するのではなく、「サポーターが自分たちのクラブだと感じられているか」という問いを投げかけます。

「Est-ce que les supporters se retrouvent dans l’équipe qui joue le week-end ? Est-ce que les valeurs que défendent les Normands sont visibles sur le terrain ?」 「週末にプレーしているチームに、サポーターは自分たちを重ねられているだろうか。ノルマンディーの人たちが大事にしている価値観は、ピッチの上で見えているだろうか。」

一方で、成功例として名前が挙がるのがRCランスです。

「Des clubs comme Lens ont tout compris : ils font des choses pour leurs supporters.」 「ランスのようなクラブはすべてを分かっている。サポーターのためにいろいろなことをしているからだ。」

「Et quand ils font des erreurs, ils sont pardonnés parce qu’on voit qu’ils font en sorte que ça marche.」 「たとえ失敗しても、うまくいくように努力しているのが見えるから、サポーターは許してくれる。」

どの街にも「地元のクラブ」があります。

ユニフォームの色、スタジアムの雰囲気、チャント、クラブが掲げるスローガン。 その一つひとつが、地域の人たちにとっては「自分の物語」の一部です。

あなたは、自分の好きなクラブのどんなところに「自分らしさ」や「地域らしさ」を感じるでしょうか。

「ノルマン人らしさ」とは何か──誠実さがあれば、許される

ノルマンディー生まれのギルベールにとって、「ノルマン人らしさ」はただのキャッチコピーではありません。

彼はこう表現します。

「Les Normands sont chauvins, ils aiment la Normandie.」 「ノルマンディーの人たちは郷土愛が強くて、ノルマンディーをとても愛している。」

そして、バイユー対カーンという特別な一戦では、心が揺れ動いたと打ち明けます。

「Lors de Bayeux-Caen, l’ambiance était superbe. J’étais comme tout le monde : le cul entre deux chaises.」 「バイユー対カーンの試合の雰囲気は最高だった。僕もみんなと同じで、“ふたつの椅子のあいだに座っている”状態だったよ。」

「Quand Bayeux marquait, j’étais déçu et content, et vice versa.」 「バイユーがゴールすると、うれしくて同時に少しがっかりする。逆もまた然りだった。」

そのうえで、彼はノルマンディーの人々の価値観を、ひとつのフレーズに込めます。

「Si tu ne triches pas, si tu montres que tu as envie de bien faire les choses, le Normand te pardonnera.」 「もし君がズルをせず、物事をちゃんとやろうとする姿勢を見せるなら、ノルマンディーの人は君を許してくれるだろう。」

ここには、勝ち負けよりも、「どう戦ったか」を大事にする視線があります。

それはきっと、ノルマンディーだけでなく、ストラスブールでも、ボルドーでも、日本の地方クラブでも、共通している価値観なのかもしれません。

あなたの周りにいる指導者、チームメイト、サポーターは、どんな時に選手を許し、どんな時に厳しい目を向けるでしょうか。 その答えのなかに、「あなたの地域らしさ」が隠れているのかもしれません。

アマチュアからプロへ、そしてまたアマチュアへ──巡り返ってくる原点

ギルベールは自分の原点が、アマチュアの世界にあることを決して忘れていません。

「On vient tous du monde amateur.」 「僕らはみんな、アマチュアの世界から来たんだ。」

ユースでカーンに残れなかった彼は、シェルブールを経てボルドーへと羽ばたきました。 その道のりには、たくさんの我慢と、見えない努力があったと振り返ります。

「Beaucoup travailler, ne pas aller en boîte de nuit quand tes potes y vont, ne pas boire de pintes.」 「人一倍トレーニングをして、友だちがクラブに行くときも行かず、ビールの大ジョッキも飲まない。」

プロになるという夢は、華やかに見える一方で、こうした「選ばないこと」の積み重ねでもあります。

そして今、クープ・ド・フランスで戦うバイユーの選手たちは、仕事をしながら、学校に行きながら、そして家族と生活をしながら、同じ90分のピッチに立っています。

「Quand je regarde les gars aller travailler, puis aller à l’entraînement, et faire le match de Coupe de France… c’est magnifique.」 「みんなが仕事に行って、そのあと練習に来て、そしてカップ戦の試合をする。その姿を見ると、本当に素晴らしいと思う。」

あなたがもし今、アマチュアでプレーしていたり、子どもを送り出している親御さんだったりしたら。 その一歩一歩は、プロかアマチュアかに関係なく、とても価値のある時間なのだと、ギルベールの言葉は教えてくれているように感じます。

クラブは誰のものか──街とともに生きるという発想

ギルベールの将来の夢は、とてもはっきりしています。

「Mon rêve, ce serait de gérer un club.」 「僕の夢は、クラブを運営することだ。」

しかし彼は、クラブを「所有物」としては考えていません。

「Un club ne t’appartient pas, mais appartient à une ville, à une communauté.」 「クラブは君のものではなく、街やコミュニティのものなんだ。」

クラブのロゴが印刷されたユニフォーム、街のパン屋さんに貼られたポスター、スタジアムへと続く道に並ぶ家々。 クラブは、たくさんの人たちの思いを背負って立ち上がっている「場」です。

「Demain, Kylian me donne le Stade Malherbe, je suis le plus heureux du monde.」 「もし明日、キリアン(・エムバペ)がスタッド・マルルブ(カーン)を僕にくれたら、世界一幸せな男になるね。」

冗談めかしてそう語りながらも、その前提には「クラブは街と人々のものだ」という強い信念が流れています。

あなたにとって、「クラブ」とは何でしょうか。 勝った負けたの結果だけでなく、「そこに通う人たちの顔」が、すぐに思い浮かぶクラブであってほしい。 ギルベールの歩みを見ながら、そう願わずにはいられません。

FAQ / よくある質問
Q. フレデリック・ギルベールがバイユーFCに関わる理由は?
A. リヨン第1大学のスポーツ組織マネジメント課程(DUGOS)での学習の実地フィールドとして参加している。現役プロ選手でありながらクラブを「つくる側」を学ぶ姿勢を持ち、会長のルイス・フェレイラ=パヴェジとの信頼関係と「自分が役立てる場所」という基準でバイユーFCを選んだ。
Q. バイユーFCがカーンを倒してクープ・ド・フランス8回戦に進めた理由は?
A. ギルベールが強調するチームの「調和と一体感」が最大の要因。R1(フランス6部相当)にもかかわらず選手に給料を払わず、コミュニティから育てた選手たちが強い結束で戦った。「給料で集めた選手の寄せ集め」ではなく「毎日顔を合わせる仲間と支え合う力」が、数値的に格上のカーンを上回る番狂わせを生んだ。
Q. アマチュアサッカーとプロサッカーの本質的な違いは何か?
A. ギルベールによれば、プロを目指す道は「選ばないことの積み重ね」が必要な厳しい道である一方、アマチュアは仕事・学校・家族と両立しながら90分のピッチに立つという別の誇りを持つ。どちらも「みんなアマチュアの世界から来た」という同じ原点を持ち、クラブへの愛着と仲間との時間という共通の価値が支えている。
Q. 「クラブは街のもの」という考え方の意味は何か?
A. ギルベールの言葉「クラブは君のものではなく、街やコミュニティのものだ」が示すように、クラブはオーナーや関係者の所有物ではなく地域の人々が共有する公共的な場だという考え方。RCランスが失敗しても許されるのはサポーターのために努力する姿勢が見えるためであり、クラブの正当性は勝ち負けよりも地域との誠実な関係性にある。

バイユーFCの挑戦が、私たちに教えてくれること

カーンを倒してクープ・ド・フランス8回戦に進んだバイユーFC。 ピエール=ミカエル・アンクティル、ポール・オーベル、グレゴワール・ドラン。 彼らの名前は、世界的なスターではないかもしれません。

でも、仕事とサッカーを両立し、家族や仲間と時間を分かち合いながら、ノルマンディーという土地のために戦っているという意味では、誰よりも“プロフェッショナル”なのかもしれません。

プロクラブに投資するエムバペやカンテ、サディオ・マネたち。 アマチュアクラブで学び、汗をかき、価値をつくろうとするギルベール。 どちらも、サッカーから多くを受け取ったからこそ、「何かを返したい」と願う人たちです。

あなたがサッカーから受け取ったものは、何でしょうか。 仲間、健康、思い出、憧れ、悔しさ。 そのどれもが、いつか誰かに返すことのできる「財産」なのかもしれません。

最後に、クラブと人との関係を語るのにふさわしい言葉を添えたいと思います。

「Un club ne t’appartient pas, mais appartient à une ville, à une communauté.」 「クラブは君のものではなく、街とコミュニティのものだ。」

サッカーを愛するすべての人が、その意味をもう一度かみしめながら、自分の街の一戦を見つめていきたいものです。

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