カメルーン代表の「遅れてきた主役」エリック・マキシム・チュポ=モティング──嵐の代表を導く新たなライオンキング
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カメルーン代表に舞い降りた「新しいライオンキング」チュポ=モティングという希望

ワールドカップという大会は、ピッチの上だけでなく、その国の歩んできた時間や混乱、喜びや苦しみまでも映し出します。
カメルーン代表のここ1年は、まさに「嵐」のような時間でした。
混乱の続いたカメルーン代表と揺らぐ信頼
2021年に自国開催となったアフリカネイションズカップは、サッカーの祭典であるはずが、大会運営の不備から観客の将棋倒し事故が起こり、8人もの尊い命が失われました。
サッカーが人々に笑顔を届けるどころか、悲しみを残してしまったこの出来事は、カメルーンというサッカー大国の足元を大きく揺さぶりました。
その後も混乱は続きます。
ワールドカップ予選プレーオフを前に、当時の代表監督アントニオ・コンセイソンは、23試合中わずか3敗という成績にもかかわらず、大統領ポール・ビヤ自らの決定で解任されました。
後任に就いたのは、カメルーンのレジェンド、リゴベール・ソング。
しかし、ワールドカップメンバー発表会見で、ソング監督は自分の選手たちの名前をスムーズに読み上げることができず、何度も言いよどみ、最終的には謝罪することになります。
この様子を見た多くの人が、心にひとつの疑問を抱きました。
「本当にこのメンバーはソングが選んだのだろうか。」
さらに追い打ちをかけるように、大会開幕のわずか数週間前になっても、代表ユニフォームのメーカー契約が決まっていないという信じがたい状況まで重なります。
サッカーの内容以前に、「チームとして戦う準備」が整っていないのではないか。
そんな不安が、国内外で渦巻いていました。
| 局面 | それまでの立場 | 転換後の役割・結果 | 評価 |
|---|---|---|---|
| PSGでの立場 | エースの陰で限られた出場時間。「文句を言わずに働くベテラン枠」 | 与えられた時間で結果を出し続け次クラブへの信頼を積む | ◎ 継承 |
| バイエルン・初期方針 | レヴァンドフスキの控え。「第二の選択肢」として獲得 | レヴァンドフスキ移籍・マネとミュラーの負傷でスタメンへ | △ 環境変化が転機 |
| バイエルン・覚醒後 | 偽9番構想の穴を埋める役割 | シーズン序盤で11ゴール3アシスト。「主役級」の結果 | ◎ 革新 |
| カメルーン代表内の位置 | エトー引退後、明確なエース不在が続いた | リーダー役を担うべき存在として専門家も指名 | ◎ 継承 |
| ワールドカップでの期待値 | 「アフリカの顔」となるストライカーが軒並み不在 | マネ・サラー・オシムヘン不在の中で最高水準のアフリカ人FWと評価 | ○ 状況対応 |
「ライオン」がいないチームに見えたカメルーン
ブラジル、セルビア、スイスと同居する厳しいグループ。
多くのファンやメディアは、すでに「カメルーン脱落」という予想をしていました。
かつて、カメルーンにはすべての希望を背負った「王」がいました。
サミュエル・エトーです。
今ではカメルーンサッカー連盟(FECAFOOT)の会長を務めていますが、ピッチに立つエトーは、まさにチームの象徴であり、誇りであり、信じる理由そのものでした。
エトーの引退後、カメルーンはしばしば「牙を抜かれたライオン」のように語られます。
チームはある。
歴史もある。
しかし、誰がその先頭に立つのか。
誰が「このチームは戦える」と周囲に、そして自分たちに証明するのか。
そんなときに、まるでディズニー映画『ライオン・キング』のワンシーンのように、「遅れて帰ってきた王子」がいます。
それが、エリック・マキシム・チュポ=モティングです。
- 出場機会が少ない選手でも「集中を切らさない環境」を意識的に作る — チュポ=モティングがベンチで機会を待ちながら爆発した例のように、控え選手が準備を維持できる練習量・個別フィードバックを怠らない
- 「フィジカル・知性・嗅覚」の組み合わせを個人評価の指標にする — 年齢やスター性より、体格・インテリジェンス・ゴール前の嗅覚という複合的な強みを見つけ、それを発揮できる役割を用意する
- チームが苦境にある時こそ経験豊富な選手をリーダーに据える — 大混乱が続くカメルーン代表でチュポ=モティングをリーダーとして指名したように、ビッグクラブ経験者を「まとめ役」として明確に位置づける
「流れ者」だったストライカーが、ついに見つけた居場所
ドイツ・ハンブルク生まれ。
ルーツはカメルーン。
チュポ=モティングのクラブキャリアは、ある意味でとても不思議です。
ハンブルガーSVから始まり、ニュルンベルク、マインツ、シャルケ、プレミアリーグのストーク・シティ、そしてパリ・サンジェルマン(PSG)、バイエルン・ミュンヘンと、名門クラブを渡り歩きながら、移籍金は一度も発生せず。
「タダで獲れるベテランFW」。
そんなイメージを持たれがちな選手でした。
ストークではチームが降格。
しかし、そこからまさかのPSG行き。
PSGでは、エースの陰で限られた時間を与えられ、「文句を言わずに働くベテラン枠」としての役割を求められました。
それでも黙々とプレーし、与えられた時間で結果を出し続けました。
その後、バイエルン・ミュンヘンでも同じような役割が想定されていました。
ロベルト・レヴァンドフスキの控え。
「第二の選択肢」。
ところが、時間は彼に味方しました。
レヴァンドフスキの移籍、マネやミュラーの負傷。
その穴を埋めるように、静かにベンチから立ち上がったのがチュポ=モティングでした。
- 若いうちにスポットライトを浴びなくても準備を続けることが最大の武器になる — チュポ=モティングは33歳でバイエルンのエースになった。学生年代でスタメンでなくても、自分の強みを理解して磨き続けることが「いざというとき」に直結する
- チームの控えや二番手の選手をよく観察して試合を楽しむ — 大きな試合でベンチスタートの選手が流れを変える瞬間に注目する。どんな準備をしてきたかが短い出場時間に凝縮されていることが多い
- 批判やからかいを「自分を知る機会」として受け止め直す視点を持つ — チュポ=モティングはネタ画像にされながらも自分の武器と向き合い続けた選手。外からのイメージに揺れず、強みを着実に磨く姿勢を育てる
隠れていた「ライオン」が牙をむくとき
ユリアン・ナーゲルスマン監督は当初、明確なセンターフォワードを置かない「偽9番」のような形で戦う構想でした。
左にサディオ・マネ、2列目にトーマス・ミュラー。
「9番不在のバイエルン」がどう機能するかに注目が集まっていました。
ところが、マネとミュラーが相次いで負傷。
その瞬間、「待っていた獲物」が、近づいてきました。
それが、スタメンという名のチャンスです。
チュポ=モティングは、そのときをじっと待つライオンのようでした。
ベンチで静かに、しかし集中を切らさずに。
そして、一度ピッチに放たれると、そこからの彼は「ただの控えFW」ではありません。
「Irrumpe de manera sublime y nunca se va de vacío cada vez que sale a cazar.」 「彼は崇高なまでのインパクトで現れ、一度狩りに出れば、必ず何かを持ち帰ってくる。」
インテリジェンスと攻撃的なメンタリティ。
その二つがかみ合ったとき、彼はヨーロッパでも最も好調なストライカーのひとりになりました。
シーズン序盤だけで「11ゴール3アシスト」という数字は、もう「便利な控え」ではなく、「主役級」の結果です。
アナリストのアルベルト・エジョゴは、こんな言葉で彼を評しています。
「Todos conocemos los memes con Choupo, pero es un jugador mejor de lo que la gente suele decir.」 「みんなチュポのネタ画像やジョークは知っているけれど、彼は人々が言うよりもずっと良い選手なんだ。」
「No es muy ortodoxo en su comportamiento, pero sí muy inteligente y sabe explotar sus virtudes.」 「プレーは少し型破りだが、とても賢く、自分の長所をどう生かすかをよく理解している。」
「Físicamente es muy fuerte, con buena envergadura, potente en el juego aéreo y muy oportunista.」 「フィジカル的にも強く、体格に恵まれ、空中戦に強く、ゴール前では非常に嗅覚が鋭い。」
笑いのネタにされる時間を超え、彼は自分の武器と向き合い続けました。
あなたも、周りからのイメージと、自分の本当の価値との間で揺れたことはありませんか。
カメルーン代表に課された「チュポ=モティング中心」というミッション

カメルーン代表は、決してタレントがまったくいないチームではありません。
カール・トコ=エカンビ、ヴァンサン・アブバカル、クリスチャン・バッソゴグ。
前線には、個性豊かなアタッカーがそろっています。
中盤ではナポリで成長を遂げたアンドレ=フランク・ザンボ・アンギサが際立つ存在です。
しかし、全体として見れば、世界のトップレベルと比べて、選手層も、経験値も、決して厚くはありません。
エジョゴはこう話しています。
「Le tengo muy poca fe a Camerún, una selección muy justa de jugadores de primer nivel atrás y con una línea medular en la que solo destaca Zambo Anguissa.」 「正直、カメルーンにはあまり期待していない。最終ラインにはトップレベルの選手がほとんどおらず、中盤でもザンボ・アンギサ以外は突出した選手がいない。」
それでも彼は、こう続けます。
「El papel de líder lo debe ejercer Choupo-Moting, por su experiencia y trayectoria en grandes clubes.」 「だからこそ、リーダーの役割はチュポ=モティングが担うべきなんだ。ビッグクラブでの経験とキャリアを考えれば、彼しかいない。」
バイエルンでは「助演男優賞」だった彼に、ワールドカップでは「主演男優賞」が求められています。
いま、カメルーンで最も好調で、最も経験豊富なストライカー。
その背番号に、国全体の希望が乗ります。
アフリカのストライカーに託される「夢」のバトン
ワールドカップで、アフリカ勢はいつも特別な存在感を放ちます。
優勝候補と呼ばれることは少なくても、その情熱的なサポーター、エネルギッシュなプレー、最後まであきらめない姿勢は、多くの中立ファンを惹きつけます。
ガーナが南アフリカW杯で、ルイス・スアレスの「神の手」ならぬハンドによるPKで準決勝進出を逃したあの夜。
セネガルが2002年日韓大会でトルコにゴールデンゴールで敗れたあの瞬間。
アフリカのサッカーは、あと一歩のところで歴史を変えられなかったストーリーを、いくつも積み重ねてきました。
そして今回のカタール大会。
本来なら、アフリカを代表するストライカーはサディオ・マネであるはずでした。
ところが、ケガで無念の離脱。
エジプトのモハメド・サラーも、ナイジェリアのヴィクター・オシムヘンも、そもそも本大会に出場していません。
では、「アフリカの顔」となるストライカーは誰なのか。
ガーナのイニャキ・ウィリアムズか。
モロッコのユセフ・エン=ネシリか。
エジョゴは、こう言い切ります。
「Con todas estas ausencias, seguramente no haya ningún delantero africano que alcance el nivel de Choupo-Moting.」 「この多くの欠場を考えると、今のチュポ=モティングのレベルに達しているアフリカ人ストライカーはいないと言っていいだろう。」
カメルーンの「ライオン」は、いつの間にかアフリカ全体の希望をも背負う存在になりつつあります。
あなたにとっての「遅れてきた主役」は誰か
チュポ=モティングの物語には、「遅咲き」というキーワードがよく似合います。
若いころから天才と呼ばれた選手ではありません。
常にエースと並んで名前が挙がるタイプでもありませんでした。
ただ、地道に、クラブを渡り歩きながら、自分の役割を理解し、チームのために働き続けた選手です。
それが33歳にして、バイエルンで、そしてカメルーン代表で、「中心」に押し出されています。
もしかしたら、あなたの周りにも、こういう人がいるかもしれません。
ずっと二番手、三番手に見られてきたけれど、実は誰よりも準備をしてきた人。
そして、いざというときにチームを救ってくれる人。
あるいは、それは、あなた自身かもしれません。
若いうちにスポットライトを浴びなくても、笑われたり、過小評価されたりしたとしても、それでも自分の武器と向き合い、準備し続けること。
チュポ=モティングの姿は、そんな人たちへの静かなエールにも見えます。
「ライオン」は、いつでもそこにいた
カメルーン代表にとって、カタールの地は、決して簡単な戦いにはなりません。
ブラジル、セルビア、スイスという強敵たち。
組織としての完成度や、個のタレントでは、差を感じる瞬間もあるでしょう。
それでも、ひとつだけはっきりと言えることがあります。
希望は、ゼロではない。
チュポ=モティングは、いままさに最高のコンディションで大会に入ろうとしています。
彼が「Monte Fako(モンテ・ファコ)」――カメルーンで最も高い山――のように、チームの頂点にそびえることができるか。
それは、彼一人ではなく、カメルーン全体、そしてアフリカサッカー全体の挑戦でもあります。
サッカーは、ときに理不尽で、ときに奇跡を起こします。
大混乱の中からでも、ひとりの選手の覚醒が、国全体の空気を変えることがあります。
カメルーンにとってのその存在が、今はチュポ=モティングなのかもしれません。
あなたはどう思いますか。
遅れてやってきた「新しいライオンキング」は、このワールドカップでどんな物語を見せてくれるのでしょうか。
そして、あなた自身の人生の中で、「遅れてきた主役」の物語は、これからどのように紡がれていくのでしょうか。
最後に、こんな言葉を添えたいと思います。
「It’s never too late to be what you might have been.」 「なりたかった自分になるのに、遅すぎるということは決してない。」
