170cmの挑戦者・レナート・カール──バイエルンの17歳が証明する「小さな身体」のサッカー革命
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バイエルンの新星レナート・カール 「小さな身体」でビッグクラブに挑む17歳の物語
ヨーロッパの大舞台、チャンピオンズリーグ。 そこに立つのは、完成されたスターだけではありません。 ときに、まだあどけなさの残る10代の選手が、超一流ディフェンダーの間をすり抜け、スタジアムをどよめかせることがあります。
バイエルン・ミュンヘンのレナート・カール。 17歳、身長170cm。 数字だけ見れば、いまどきのサッカー選手としては決して大柄ではありません。 むしろ、センターバックのウィリアム・サリバ(アーセナル)やガブリエウのような「巨人」と並べば、まるで「ダビデとゴリアテ」のような対比になります。
それでも、彼はその大男たちを、まるで自分の世界に引きずり込むかのように翻弄します。 「小さいからこそ」輝くプレーで。
アーセナル戦で見せた、17歳とは思えない執念のプレッシング
思い浮かべてみてください。 アーセナルが後方からビルドアップを試み、バイエルンは自陣寄りに押し込まれています。 左サイドのセルジュ・ニャブリが前線へ大きくクリア。 そこに残っているのは、レナート・カールひとり。 相手はサリバとガブリエウ。 まさに、「1対2」の構図です。
ロングボールは頭上を越え、カールはまずガブリエウの腕を振りほどきながらサリバへプレス。 サリバはリスクを避け、キーパーのダビド・ラヤへとバックパスします。 普通なら、ここで前線の1トップは走るのをやめて、守備ブロックへ戻るでしょう。
しかし、この17歳は止まりません。 ラヤにまで全力で走り切り、ラヤはもう一度サリバへパス。 今度はサイドにやや開いた位置です。 そこでまたカールは向きを変え、まるで「とんぼ返り」するかのようにサリバへ向かってスプリント。 二人のセンターバックとキーパーの間で、たったひとりのフォワードがボールを追いかけ回す姿は、まるで「トレーニングの鳥かご(ロンド)」の中に入れられた選手のようです。
それでも彼は止まりません。 サリバはボールを持ち運び、中盤へパス。 その先に受けにきたエベレチ・エゼは、ジョナタン・ターの寄せにあってコントロールを乱します。 こぼれ球は、またもや走り続けていたカールのもとへ。
ここからの一瞬のプレーに、彼の「特別さ」が詰まっています。 カールはエゼを前にして、ボールを左足の内側に吸い付けたまま回転しながらかわす──まるで闘牛士が布一枚で突進する牛をいなすように。 そしてようやく、自分が追い求めていたボールを完全に支配します。
前線からの執拗なプレス、走ることをやめないメンタリティ、そして最後のテクニック。 これらがすべて、まだ17歳の選手の中で一つになっているのです。
その少し前には、アーセナルのセンターバックの間を抜ける抜け出しで、1-1となるゴールも決めていました。 才能ある選手は多くいます。 ですが、ここまで自分の武器を「1プレーの中で限界まで使い切ろう」とする10代は、それほど多くはありません。
| 観点 | レナート・カール | ラミン・ヤマル | 評価 |
|---|---|---|---|
| 年齢(記事時点) | 17歳 | 17歳 | ◎ |
| 身長 | 170cm | 180cm前後 | △ |
| チャンピオンズリーグ出場 | あり(先発含む) | あり(主力) | ○ |
| トップチーム通算ゴール(記事時点) | 4ゴール(12試合) | 複数シーズン実績 | ○ |
| プレッシングの強度 | キーパーまで追う執念のハイプレス | 主にポジショナル | ◎ |
| 身体的ハンデの克服 | 低重心・バランス・強引なボールキープで克服 | 身長面でのハンデ少 | △ |
「170cm」はハンデなのか、武器なのか
レナート・カールは170cm。 現代サッカー、とくにトップレベルでは、小さめの数字に見えるかもしれません。 ですが、彼自身はこう語っています。
「『Il tuo fisico è mai stato un problema per te?』 (君のフィジカルは問題になったことはある?)」
「『No, mai. Ho imparato subito a usarlo a mio vantaggio.』 (いいえ、一度もありません。すぐに、自分の身体を自分の武器として使うことを学びました)」
この回答には、単なる強がりではない説得力があります。 低い重心を最大限に活かしたターン、最初の2~3歩の爆発的な加速、身体を入れながらボールを守り抜くバランス感覚。 そのうえで、彼はジムでのトレーニングにも励み、フィジカル自体も伸ばしつつあります。
アーセナル戦の34分。 再びニャブリのロングボールが前線へ。 今度は背後からガブリエウ(約190cm)が完全に覆いかぶさるようについてきます。 それでもカールは、身体をうまく入れて相手を背負いながらボールをコントロールし、足を伸ばして味方のマイケル・オリーズへとパス。 「小さいから押し負ける」というイメージを、プレーひとつでひっくり返してしまう瞬間です。
もしかすると、「170cmでは不利だ」と思うのは、私たち見る側の先入観なのかもしれません。 サッカーをしている子どもたち、あるいは背が高くない選手たちにとって、カールの存在は大きな勇気になるのではないでしょうか。
- 低重心を活かすターン練習を取り入れる — 身長の低い選手に「重心を下げてボールを隠す」ボールキープ練習を行い、フィジカル面を強みに変換させる
- プレッシングの「走り切る文化」をチームに根付かせる — カールがキーパーまで追ったように、前線からの守備を「やめない」ことをチームルールとして設定し、スプリントの途切れを許さない練習を積む
- 一つの得意パターンを徹底反復させる — カールがロッベンのカットインを昨シーズン集中練習して「自然に出る動き」にしたように、選手ごとの得意形を特定し、それが無意識で出るまで繰り返させる
ロッベンの「型」を覚えた17歳、それだけじゃない多彩さ
カールはよく、アリエン・ロッベンと比較されます。 理由はシンプルで、ユース時代に右サイドからカットインして左足で決める、いわゆる「ロッベン弾」を何度も決めてきたからです。 ある試合では、まさに「ロッベンのコピー」のような形で3ゴールすべてを決めるハットトリックを達成しました。
本人もこう語っています。
「右から中へ入って左足で打つ形は、『all’inizio della scorsa stagione ci ho lavorato molto, adesso mi viene automatico.』 (昨シーズンの初めにすごく練習しました。今では自然と出てくる動きです)」
ロッベンにとって、あのカットインからのシュートは、ほとんど「宗教的な儀式」のようなものでした。 毎回同じように、ひたすら精度を高めていく。 カールは、その「型」を若くして身につけています。
しかし、重要なのはここからです。 彼はロッベンのコピーではありません。 ドリブルのコース取り、中央での突破、両足の使い分け、味方との連携。 「同じ型だけを繰り返す」のではなく、状況に応じていくつもの解決策を持つ選手です。
クラブ・ブルージュとのチャンピオンズリーグ初先発では、中央を自らドリブルでこじ開けました。 守備の間の小さなスペースにスッと入り込み、エリア手前から足の甲で鋭いシュート。 まるで「スーパーマリオが土管の中をすり抜けて、別の世界へ出てくる」ようにディフェンスラインを抜けていったのです。
ブンデスリーガでは、フライブルク戦のゴールが象徴的です。 右足と左足を巧みに使い分けながらリズムを変え、最後は冷静にフィニッシュ。 「利き足は左」と言われながらも、右足の扱いも含めて、非常に完成度の高いテクニックを見せています。
ここまでで、トップチームでは12試合出場(うち先発は5試合)。 その中で4ゴール2アシストという結果を残しています。 単に「若いから勢いがある」だけでなく、「ユースでやっていたことを、そのまま大人の世界でもやってのけている」ことが分かる数字です。
- 身体的な特徴を「言い訳」ではなく「研究テーマ」にする — カールは170cmを問題視せず「自分の身体をどう使うか」を学んだ。自分の体格の特徴を書き出し、それが強みになる場面を探してみよう
- プレーを途中でやめる癖を自覚する — ロングボールへの競り合いで諦めず、キーパーまで走り続けたカールのプレーを思い出し、自分が「もういいか」と走るのをやめていないか試合後に振り返る
- 憧れの選手のプレーパターンを1つ選んで繰り返し練習する — カールがロッベンのカットインを徹底的に練習したように、好きな選手の得意形を1つ決めて、毎練習で再現できるまで磨き続ける
11歳で見せた天才性と、憧れの選手との不思議な距離感
レナート・カールの「早熟ぶり」は、今に始まったことではありません。 まだ11歳、アイントラハト・フランクフルトの下部組織にいたころ。 フットサルの試合で、彼はとんでもないゴールを決めています。
ロングボールを「かかと」でトラップし、そのまま振り向きざまに左足アウトでボレー。 もちろん室内コートですからピッチは狭く、判断も技術も一瞬です。 それを、小学生の年齢でやってのけているのです。
しかも、その「11歳」が2019年の話だと聞くと、時間の感覚が少しおかしくなるかもしれません。 私たちにとっては「ついこの前」でも、彼にとっては、そこから一気にトップレベルへ駆け上がってきた濃密な数年間でした。
そんなカールの憧れの選手は、意外にもトーマス・ミュラーでもロッベンでもありません。 彼が挙げるのは、アーセナルのキャプテン、マルティン・ウーデゴールです。
ウーデゴールといえば、「レアル・マドリーが獲得した神童」として記憶している人も多いでしょう。 しかし、17歳の時点ではトップでの出場はわずか1試合。 その後オランダのヘーレンフェーンへレンタルされ、「才能が消えてしまわないか」と心配されたほどでした。
そこから時間をかけて、自分に合った場所と役割を見つけていき、現在のアーセナルの中心的存在にまで成長したのです。 カールは、その「時間をかけて完成していくタイプ」の選手に憧れながらも、自分は17歳で既にバイエルンのトップチームに居場所を作りつつあります。
彼にとってウーデゴールは、「自分より10歳近く年上のロールモデル」。 私たちから見ればまだ若いウーデゴールでさえ、カールにとっては「かなり年上の先輩」です。 サッカーの世界における「時間の速さ」を、改めて実感させてくれる関係性でもあります。
10代が主役になる時代、その中で光る「カールらしさ」
いまのヨーロッパサッカーでは、10代の選手がトップチームでプレーするのは、もはや特別なニュースではありません。 アーセナルのマックス・ダウマン(15歳で既に数試合出場)、オリンピック・マルセイユのロビニョ・ヴァス(18歳で2ゴール)、そしてバルセロナのラミン・ヤマル、ブラジルのエステヴァンなど。 10代の名前が次々とピッチに躍り出ています。
そんな「若手の祝祭」の中に、レナート・カールも招待されたように登場しました。 「Lennart Karl, resto del mondo. Resto del mondo, Lennart Karl.」 (レナート・カール、これが世界。世界よ、こちらがレナート・カールだ。)
バイエルン・ミュンヘンは今夏、フロリアン・ヴィルツの獲得を狙いながらリヴァプールに先を越され、ニック・ヴォルテマーデもニューカッスルに奪われました。 その一方で、昨年にはレアル・マドリーが狙っていたカールを、クラブは必死に引き止めました。 「外からスターを連れてくること」はできなくても、「中からスター候補を手放さないこと」はできたわけです。
一年前、バイエルンU-17で18試合27ゴール11アシストという圧倒的な数字を残したカールは、すぐにU-19へ昇格し、そこで9試合7ゴール。 ヴィンセント・コンパニ監督は、昨季から既にトップチームのベンチ入りを経験させ、クラブワールドカップにも起用しました。
「若いから」「将来が楽しみだから」という理由でトップチームに混ざっているのではありません。 彼はすでに、「大人相手でも自分のプレーを貫ける」ということを証明し始めています。
私たちは、何を信じてサッカーを続けるべきか
ここまで読んできて、もしかしたらこんなことを感じた人もいるかもしれません。 「自分は背が高くないから不利だ」 「17歳なのに、もうこんなにすごい選手がいるなんて」 「ヨーロッパの10代は別世界だ」
しかし、レナート・カールのストーリーから受け取れるメッセージは、どこかもっとシンプルなものです。 自分の特徴を受け入れ、それをどう使うかを考えて、磨き続けること。 そして、どんなに相手が大きく、強く見えたとしても、「走るのをやめない」こと。
前線からキーパーまで追いかけ続けたあのプレーは、17歳のテクニック以上に、「17歳の決意」が表れた瞬間でした。 あの走りは、サッカーをしているすべての子どもたちにも、大人にも問いかけているように思えます。 「自分は、プレーを途中であきらめていないだろうか」 「自分の身体や年齢を、言い訳にしていないだろうか」
バイエルン・ミュンヘンの赤いユニフォームを着て、世界最高峰のセンターバックに立ち向かう170cmのフォワード。 その姿は、ピッチの上だけでなく、サッカーを愛するすべての人の心の中で、小さな炎を灯しているのかもしれません。
最後に、カールの歩みと重なるような言葉をひとつ。 サッカー史に名を刻んだある名将のこのフレーズは、彼の現在と未来を静かに照らしているように思えます。
「Success is no accident. It is hard work, perseverance, learning, studying, sacrifice and most of all, love of what you are doing.」 (成功に偶然はない。努力、粘り強さ、学びと研究、犠牲、そして何より、自分のしていることへの愛情だ。)
これからも、レナート・カールは走り続けます。 そしてその姿を通じて、私たちもまた、自分なりのサッカーと向き合い続けることができるのかもしれません。
