ストライカーがゴール前でDFの背後に抜け出し決断の速さでシュートに持ち込む場面

なぜドニエル・マレンだけが「簡単そうに」ゴールを量産できるのか――決断の速さが生むストライカーの思考法

DEFINITION
決断の速さがストライカーのゴール量産を生む理由
ゴールを「簡単そうに」量産する選手に共通するのは、技術の高さより判断のスピードだ。ボールを受ける前に「シュートまで行く」「一度さばく」を決めておく強度が、守備側の体勢が整う前に勝負を終わらせる。この「決めておく強度」こそが現代ストライカーの本質的な武器である。

なぜドニエル・マレンは「簡単そうに」点を取るのか

ひとりだけ、別のスピードでプレーしている選手がいる。

同じ芝の上、同じボール、同じ90分。 それなのに、彼だけはゴールまでの距離が短く見える。

ローマでブレイクしているオランダ代表FW、ドニエル・マレン。 6試合601分で6ゴール、90分あたり0.90点という数字は、今季のセリエAで最も高い得点ペースだと言われている。 イタリアでは「ロナウド(怪物の方)が帰ってきた」とさえ騒がれているが、本人のプレーはどこか淡々としている。

なぜ彼だけが、こんなに「簡単そうに」点を取っているように見えるのか。 その問いをたどっていくと、数字以上に、サッカーの「考え方」が浮かび上がってくる。

ゴールシーンの裏にある「選び方」

パスがうまいのか、動き出しがうまいのか

ユベントス戦でのゴール。 マレンは最終ラインの背後へスッと抜け出し、飛び出してきたGKペリンの上を、ふわりとボールで越えた。 チップキックという難しい選択を、まるでインサイドパスのように平然とやってのけた。

この場面を「キックがうまい」で終わらせるのはもったいない。 そもそも、なぜあのパスが出たのか。 出し手の縦パスと、受け手の動き出しは、どちらが先だったのか。

「いいパスが来たら動き出す」のではなく、「いい動き出しがあるからいいパスが生まれる」。 マレンのプレーには、その同時性がある。

ユベントスのCBケリーとブレーメルに対して、彼は一度、体をぶつけて「行くぞ」と見せておいて、次の瞬間にスッと距離を取る。 走り出すタイミングは、味方がボールに触れる瞬間にピッタリ重なっている。 守備側からすると、目の前で一度止まった相手が、同じ視界の中で急に加速する。

ここには、単純な「スピード」だけでなく、

  • 相手がどこを見ているか
  • 味方はどの体勢でボールを触るか
  • 今、蹴りやすい方向はどこか

という情報を、瞬間的に整理して「今、どこにいるべきか」を選ぶ作業がある。

自分が選手だったら、どうだろう。 ボールばかり見てしまい、DFの姿勢や味方の足の向きを、ここまで細かく観察できているだろうか。

COMPARISON / 得点を生む判断の質:ストライカーの5要素比較
要素 ゴールへの直結度 チームへの貢献度 評価
ボールを受ける前の判断(決めておく強度) 非常に高い 高い
動き出しのタイミング(味方がボールに触れる瞬間) 高い 高い
両足でのシュート精度 高い 中程度
裏抜けの繰り返し(オフサイドリスクあり) 中程度 中程度
ポストプレー・ボールキープ 低い 高い
◎=得点量産の核心 ○=補完的に重要 △=リスク管理が必要

「ボールが来ないせい」にするか、「動きで呼び込む」か

ローマは今季、守備は堅いが攻撃が物足りないと指摘されてきた。 ドリブルで剥がせる選手も少なく、縦パスも多くはない。 「ストライカーへ良いボールが入らない」という議論もよく聞かれた。

ところが、ソウサやディバラといったトップクラスのアタッカーを欠く中でも、マレンはゴールを重ねている。 つまり、「補給が少ないから点が取れない」という単純な話ではなかった可能性が浮かび上がる。

ユベントス戦でマン・オブ・ザ・マッチ級のプレーを見せたボランチ、マヌ・コネの縦パスは、ローマの中盤ではむしろ珍しい部類のチャレンジだったと言われている。 希少な縦パスが生まれたのは、偶然なのか。 それとも、マレンの動きが「このコースなら通せる」と、出し手の決断を後押ししたのか。

良い動きがあるから、普段はリスクを避ける選手でも、一歩踏み込んだパスを選びやすくなる。 マレンのプレーは、そんな「味方の決断」を引き出しているようにも見える。

日本の試合を見ていても、

  • 「ボールがこない」と感じて下がって受けに来るFW
  • それでも辛抱強くDFラインの裏でタイミングを待ち続けるFW

に分かれる場面がある。

どちらが正しいかは状況次第だが、「それでもなお、裏を狙い続ける」という選択を、どこまで信じ切れるか。 マレンの動きは、そんな我慢と決断の積み重ねにも見える。

「どこでもできる」より「どこで生かすか」

FOR COACHES / FOR COACHES
「決めておく強度」を育てる3つの指導アプローチ
  1. ボールを受ける前の判断を練習に組み込む — パスを受ける前に「シュートまで行くか・さばくか」を声に出させる練習を入れることで、「ワンタッチ遅れる」問題が改善される。判断を先行させる習慣が、試合での反応速度に直結する。
  2. ミスをしても同じ強度でチャレンジし続けることを許容する — ミスの後に無難なプレーを選ぶよう指導すると、相手にとっての「怖さ」が失われる。「このエリアではゴールへ向かい続けろ」という具体的な許可を与えることで強度が維持される。
  3. 「どこで一番らしさが出るか」を選手と整理する — 「どこでもできる選手」を「どこで最も怖い存在になるか」という視点で再配置する。ポジションを与える側の思考の質が、選手の爆発力を引き出す鍵になる。
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マレンはウイングなのか、センターフォワードなのか

マレンはこれまで、右ウイング、左ウイング、セカンドトップ、センターフォワードと、ほぼすべての攻撃ポジションを経験してきた。 オランダ代表では右サイドで出場することが多く、ドルトムントやPSVでもサイドで起用されることがあった。

だからローマ移籍の噂が出たとき、イタリアでも「どこで使うべきか」という議論が起きた。 サイドで突破させるのか、中央でストライカーとして使うのか。

その中で、ガスペリーニ監督は早い段階から「彼はセンターフォワードだ。ゴールに近い場所でプレーさせたい」と明言したと伝えられている。 ビジャレアル時代にマレンと対戦したことがあるウナイ・エメリも、同じように「彼はゴールに近い位置を好む」と話している。

「どこでもそこそこできる選手」を、「どこで一番怖い存在にするか」。 ポジションを与える側の思考には、そんな問いがある。

日本の育成年代でも、「どこでもできる選手」は重宝される。 だが、「どこで自分が一番『らしさ』を出せるか」を、自分自身が理解している選手はどれだけいるだろうか。

マレンのキャリアには、明らかな「揺れ」もある。 アーセナル時代は、静かな性格もあってか、自信を失っていたとクラブ関係者は振り返っている。 そこからPSVでセンターフォワードとして27ゴールを挙げたシーズンが転機になった。

同じ選手でも、

  • 「どのポジションを与えられるか」
  • 「自分はそこで何を優先するか」

によって、まったく別のキャリアに転ぶ。

自分がもしマレンの立場だったら、代表で右サイド、クラブで中央、監督ごとに役割が変わる中で、「本当の自分の場所」をどうやって見つけるだろうか。

FOR PLAYERS & PARENTS / FOR PLAYERS & PARENTS
ゴール前の1秒で何を選ぶか
  1. 「ボールが来ない」を言い訳にせず、動きで呼び込む姿勢を持つ — 良い動き出しがあるから良いパスが生まれる。辛抱強くDFラインの裏を狙い続けることが、普段リスクを避ける出し手の「一歩踏み込んだパス」を引き出す。
  2. シュートまで行くかさばくかを、受ける前に決めておく練習をする — ゴール前で迷う時間が守備側の体勢を整えさせる。練習中から「受ける前に決める」を意識することで、試合での判断が速くなりゴールに直結するプレーが増える。
  3. ミスの後も同じチャレンジを続ける勇気を持つ — チャレンジを減らせばボールロストは減るが、「相手にとっての怖さ」も同時に消える。チームから「ゴールへ向かい続けろ」と許可されることを信頼し、自分の強度を緩めないことが点取り屋として成長する道だ。

「役に立つ選手」か、「怖い選手」か

今のセリエAでは、多くのセンターフォワードが、背を向けてボールを収め、ロングボールを処理し、守備にも走る「労働者」として求められている。 点も取るが、それ以上に「チームのために働く」ことが前面に出やすい。

マレンは、もちろんある程度のポストプレーもこなすが、最大の価値はそこではない。 彼がボールを持つと、最短距離でゴールに向かおうとする。 サイドで受けても、迷いなく中へ、あるいは裏へと進路を取る。

ローマはそれまで、得意な形がはっきりしないFWを並べていた。 例えば、左足に偏るストライカーは動き出しが良くても、シュートを作れる場面が限られてしまう。 フィジカルに優れたFWは、広い範囲でボールに関わろうとして、自分のゴール前での存在感が薄まってしまう。

その中でマレンは、「相手から見て何が一番怖いか」という基準で、自分の武器を整理しているように見える。 テクニックは派手ではないが、

  • 両足でそこそこの精度と威力のシュート
  • スピードを生かした裏抜け
  • 一対一で仕掛けるだけのドリブル
  • 最低限のポストプレー

をバランスよく持ち合わせ、「どこからでもゴールを狙える選手」として立っている。

日本の選手に置き換えると、 「全部そこそこできるけれど、相手から見て『これだけはやめてほしい』と思う武器は何か」 という問いに近いかもしれない。

「強度」は走ることだけではない

マレンの「強度」はどこにあるのか

今のサッカーでよく使われる言葉に、「インテンシティ(強度)」がある。 走行距離、スプリント回数、デュエルの回数や強さ。 多くの場合、それは「どれだけハードワークできるか」という文脈で語られる。

マレンの「強度」は、少し違う場所にあるようだ。

彼のプレーで目につくのは、ボールを持った瞬間の「迷いのなさ」だ。 受けた瞬間に前を向き、即座にゴールへ角度を取る。 カリアリ戦でのゴールでも、マンチーニからのボールは決して決定的というほどではなかったが、マレンは受ける前に「加速してゴールへ向かう」ことを決めていたように見える。

守備側がまだ体勢を整えている最中に、彼はすでに勝負に出ている。 肉体のスピード以上に、「判断のスピード」で先に行ってしまう。

強度という言葉を、 「どれだけ多く走るか」ではなく 「どれだけ早く決断し、どれだけそれを貫き通せるか」 と捉え直してみると、マレンのプレーが少し違って見える。

日本の選手は、走る量や守備の献身では世界的に高く評価される。 けれど、ボールを受けた瞬間に「勝負する」のか、「一度預けるのか」を決めきれず、ワンタッチ遅れる場面も少なくない。

もし自分がFWなら、ボールを受ける前の一瞬で、

  • シュートまで行く
  • 一度さばいてチャンスを待つ
  • ファウルをもらいに行く

のどれを選ぶのかを、どこまで明確にイメージしているだろうか。 その「決めておく強度」が、プレーの速さに表れてくる。

「やりすぎ」と「足りない」のあいだで

ドルトムント時代のマレンは、あるドイツ人ジャーナリストから「ジェットコースターのようだ」と表現されている。 好調な時期は素晴らしいが、存在感が薄くなる時間も長かったという。

今のローマでも、ときどき「一人でやりすぎだ」と言われるような、強引なドリブルやシュートを選ぶ場面がある。 しかし、それでも彼は「ゴールへ向かう強度」を緩めない。

攻撃の選手にとって、「やりすぎ」と「何もしない」の境界線は常に揺れている。 チャレンジを減らせば、ボールロストは減るかもしれない。 ただ、その代わりに、相手にとっての「怖さ」も同時に失われていく。

日本では、ミスをすると「無難なプレー」を選びがちだ。 しかし、マレンのような選手は、ミスをしても同じ強度でまた仕掛ける。 それが許される戦術設計と、監督の眼差しももちろん関係している。

「好きにやれ」と言われればうまくいくのか。 「リスクを抑えろ」と言われれば成長するのか。 そのどちらかに単純に寄せられない、グレーゾーンの中で、選手は毎試合、自分のバランスを探っている。

セリエAの「遅さ」と、日本の「賢さ」

ゆっくりしたリーグで、速く考える選手

今のセリエAは、守備戦術の完成度が高く、試合のテンポも決して速くないと言われる。 ボールの動きは慎重で、攻撃もどちらかと言えば「準備してから仕掛ける」色が強い。

その中で、マレンや、同じくプレミアリーグ経由でやってきたラスムス・ホイルンドのような「とにかくゴールへ直線的に向かう」タイプは、ひときわ目立つ。 彼らは、背負う動きもこなす一方で、少しでも前を向けそうなら、容赦なくゴールへ加速していく。

セリエAのDFたちは、そうした「常にゴールへ向かう」FWに、まだ完全には慣れていないようにも見える。 でも、そのギャップこそが、リーグを変化させるきっかけになるのかもしれない。

日本のサッカーも、戦術理解度の高さや組織力では、世界の中で評価が高い。 一方で、個人として「相手をねじ伏せる」ような、理屈を飛び越えたプレーは、どうしても少なくなりがちだ。

「賢さ」と「直線的な怖さ」は、本当に両立できないのだろうか。 マレンのように、戦術的な役割をこなしながら、それでも毎回ゴールに向かう決断をすることは、日本の選手には不可能なのか。

日本でマレンのようなFWは育つのか

もし、日本の育成年代にマレンのような選手がいたら、どう扱われるだろうか。

・ドリブルで強引に行ってボールを失う
・裏への抜け出しを繰り返し、オフサイドも多い
・パスを受けられない時間帯もある ・守備での貢献は、他の選手ほど安定していない

そんな選手に対して、 「もっと味方を使え」 「ボールを失うな」 「守備をサボるな」 と指導したくなる場面はきっとある。

もちろん、それ自体が間違いだとは言えない。 チームスポーツである以上、バランスは必要だ。

ただ、「それでもいいから、お前は一点を取りに行け」と背中を押される時間が、どれだけ用意されているだろうか。 ミスをしても、決断を変えない練習をする時間。 チームの枠組みの中で、「怖さ」を失わない選手として育つ余白。

マレンは、アーセナルで伸び悩み、PSVでセンターフォワードとして花開き、ドルトムントでのアップダウンを経て、今ローマで最高の状態に近づいているように見える。 その過程は、決して一直線ではないし、どこかの時点で「もっと無難に」矯正されていたら、今のような爆発力は生まれていなかったかもしれない。

「点を取る」とは、どういう仕事なのか

ゴールの数だけ、決断の数がある

マレンは、セリエAで6ゴールというわかりやすい結果を出している。 だが、その裏側には、点にならなかったシュート、パスを選んだ場面、あえて走らなかった瞬間も含めて、膨大な「選ばなかった選択」が存在する。

ストライカーの仕事を、ただ「決めるか決めないか」で測ってしまうと、そのプロセスが見えなくなる。 どのスペースに立つのか。 いつ走るのか。 どのプレーをあえて捨てるのか。

外から観戦する私たちには、そのすべては分からない。 ただ、「なぜ今、その選択をしたのか」という視点で見てみると、同じゴールも違う意味を持ち始める。

日本でプレーする選手や指導者たちが、マレンのゴールを手本にするとしたら、フォームでもフェイントでもなく、その「選び方」そのものなのかもしれない。

FAQ / よくある質問
Q. ゴールを量産するFWと普通のFWの違いは何か?
A. 技術や体格の差より「ボールを受ける前の判断の速さ」が最大の差だ。受けた瞬間に前を向き即座にゴールへ角度を取れる選手は、守備側の体勢が整う前に勝負を終わらせる。この「判断のスピード」が肉体的スピード以上に得点に直結する。
Q. 「どこでもできる選手」がゴールを取れないのはなぜか?
A. 多くのポジションをこなせる選手は役に立つが、「相手から見て一番怖い場所」が明確でないため、守備側が的を絞りやすい。「どこで最も自分らしさが出るか」を自分で理解し、そのエリアで徹底的にゴールを狙う選手が得点を量産できる。
Q. 日本の育成年代でゴールに向かうFWはどう育てるべきか?
A. 「ミスをするな」「味方を使え」という指導の積み重ねが、相手にとっての「怖さ」を失わせる場合がある。「このエリアではゴールへ向かい続けろ」という具体的な許可を与え、ミスをしても同じチャレンジを続けることを評価する環境が、得点力のある選手を育てる。
Q. 裏抜けを繰り返すFWとチームの関係をどう作るか?
A. 良い動き出しがあるから出し手も「一歩踏み込んだパスを選べる」という相互作用がある。FWが辛抱強く裏を狙い続けることで、普段リスクを避けるMFでも縦パスを選びやすくなる。チームの得点力は「FWだけの問題」ではなく、動きと出し手の信頼関係で作られる。

自分なら、何を選ぶだろうか

・チームが点を取れていないとき、自分ならどんなリスクを受け入れてプレーするだろうか。
・「どこでもできる」自分に、あえて「ここで勝負する」と決める場所を与えるとしたら、どこだろうか。
・ミスをしたあとでも、同じチャレンジを続ける勇気を、どこまで持てるだろうか。

マレンのようなストライカーは、特別な才能に見える。 実際、彼にはスピードも技術もある。 けれど、そのプレーの根っこには、ひとつひとつの瞬間で「どうするか」を選び、その選択をやり切るという、ごくシンプルな作業が積み重なっている。

ゴール前の1秒で何を選ぶか。 その問いは、グラウンドのどのポジションにも、そしてピッチの外で生きる私たちにも、どこかでつながっている。

マレンがセリエAの守備陣を戸惑わせている今の時間を、ひとつの「正解」として消費してしまうか。 それとも、「自分ならどう考えるか」を立ち止まってみるか。

答えを急がないまま、その揺れを抱え続けること自体が、サッカーを少しだけ深く味わうことにつながっていくのかもしれない。

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