追う立場で示した「選ぶ力」――Lykos U15が体現したメンタリティと成長の90分
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追う立場でピッチに立つということ――Lykos U15の4-0から見える「選ぶ力」

曇り空のトルヴェのスタジアムに、まだ先ほどまでの歓声が残っていた。
少し前まで、同じクラブのU17が優勝を祝う空気に包まれていたピッチに、今度はU15の選手たちが現れる。
Lykos U15。
首位Invicta Materaを、勝ち点1差で追いかける2位のチームだ。
相手は今季のサプライズチーム、Under15地方リーグ4位につけるSporting Marconia。
残り2試合。
「勝たなければいけない試合」として、この90分は選手たちにのしかかっていた。
結果は4-0。
Todaro、Ciampi、Petraglia、そしてFaraoneと、前線の選手たちが順番に得点を決め、Lykosは見事に「義務」とされた3ポイントをつかみ取る。
けれどここで少し立ち止まってみると、この4-0は単なる大勝ではなく、「追う側として、どうピッチに立つか」という問いに対する、ひとつの答え方でもあったように思える。
「追う側」のメンタリティは、どこで決まるのか
勝つしかない状況で、最初の一歩をどう選ぶか
Lykosにとって、この試合の条件ははっきりしていた。
- 首位とは勝ち点1差
- 残り試合はあと2つ
- 自分たちは「追う側」であり、運命は完全には自分たちの手の中にない
だからこそ、Marconia戦は「とにかく勝つこと」が最低条件になった。
この状況に置かれたとき、選手やスタッフにはいくつかの選択肢がある。
- 結果だけを強く意識し、「ミスをしないこと」にエネルギーを使う
- あくまで自分たちのスタイルを貫くことを優先する
- 相手や状況に合わせて、現実的に「取りこぼさない」ゲームプランを選ぶ
この日のLykosの選択は、フォーメーションからもはっきり表れていた。
本来のセンターフォワードであるAcerenzaが不在のなかで、指揮官Giovanni Saccoは4-2-3-1を採用する。
トップに新加入のPetraglia。
右にTodaro、左にCiampi。
そして、その後ろのトップ下にCoppola。
中盤底にはRinaldiとCillisという、気心の知れたダブルボランチ。
前線に質の高い4人を並べ、その後ろに安定した2人を置く。
「まず自分たちが主導権を握る」「攻撃陣を最大限に生かす」。
そういう意思がにじむ配置だ。
もし自分がこのチームの一員だったら、そして「勝たなければいけない」と言われてピッチに立つなら、最初の数分をどう過ごすだろうか。
ボールを失いたくない気持ちから、安全なパスばかり選んでしまうかもしれない。
あるいは逆に、焦りから無理な縦パスやシュートを選んでしまうかもしれない。
そういう迷いが起きやすい時間帯で、Lykosは9分に先制する。
右サイドからのCillisのフリーキック。
ゴール前でTodaroが、繊細な外側のタッチでボールのコースを変え、ゴール隅に流し込んだ。
強烈な一撃ではなく、相手の動きやボールの軌道を読んで、最小限のタッチで決めた一点。
「力でねじ伏せる」のではなく、「状況を読み取る力」で開いたスコアとも言える。
| 状況・選択 | 消極策 | 積極策 | Lykos U15の実例 |
|---|---|---|---|
| 勝たなければいけない試合の入り方 | ミス回避で安全パスを選び続ける | 自分たちのスタイルで主導権を握りに行く | ◎9分に先制・ロングFK崩しで確実に主導権 |
| 先制後の判断 | リードを守るため攻撃を止める | 同じテンポで追加点を狙い続ける | ◎20分・29分と追加点を積み重ねた |
| 新加入選手の使い方 | エース1人に点取りを任せる | チームプレーの最後を担う1ピースとして統合 | ◎TodароとPetragliaが得点+アシストを両立 |
| 試合終盤の控え選手の起用 | 主力を出し続けてスコアを広げる | 出場機会の少ない選手に責任ある時間を与える | ◎Faraoneが投入後に4点目を決める |
| 大敗後の評価軸(相手Marconia) | 目の前のスコアだけで選手を評価する | シーズン全体の成長に目を向けて評価する | ○監督Florioが「想像以上の出来」とシーズンを総括 |
2-0になるまでの「間」に、何を考えていたのか
先制点が入ると、多くのチームは二つの揺れの間に立つことになる。
- 勢いのまま、さらに攻めに出るのか
- 一度落ち着き、自分たちのリズムを整えるのか
結果だけを見れば、Lykosは20分にCiampiが2点目を決め、29分にPetragliaが3点目を決めている。
だが、その「9分ごとの得点」の裏には、それぞれの選手の小さな選択の積み重ねがある。
20分のCiampiのゴールは、その象徴のような場面だ。
右サイドからTodaroがボールを送る。
受け手のCiampiは、ゴールから少し距離のある位置で、しかも背を向けた状態でボールを受ける。
背後からはマークについているDi Benedetto。
ここで選べる選択肢はいくつもある。
- ワンタッチではたいて安全なパスを出し、攻撃をやり直す
- ファールをもらうことを狙って、体を入れて倒されるのを待つ
- 自分で反転を狙い、ゴールに向かって勝負する
Ciampiが選んだのは、背中でボールを守りながら、一度相手のプレッシャーを受け止めてから、ターンで振り切る選択だった。
そしてペナルティエリアの中に入り、飛び出してきたGK Borraccioを見てから、力強いシュートをゴール右隅に叩き込む。
「ゴールを取りに行くか」「ボールを失わないことを優先するか」。
その境目で、一瞬だけ時間を止めるようにして、自分の選択を決めたプレーだった。
もし自分が同じ状況で、ベンチからは「勝たなきゃいけないんだぞ」と言われていたとしたら、どんな判断をするだろう。
リスクを嫌って、前を向くことをあきらめるか。
それとも、「ここは行く」と決めて、身体を相手にぶつけてでも前を向きに行くか。
答えは一つではない。
大事なのは、その瞬間に「自分で選んだ」と言えるかどうかだ。
「新しいピース」をどうチームに溶かしていくか
- 試合前に「最初の5分をどう入るか」を選手と言語化する — 「勝たなきゃいけない」という外からのプレッシャーを、「最初のボールをどこに引き出すか」「先制した後にどう動くか」という具体的な選択に変換して共有することで、選手が迷わず自分の判断を出せる状態を作る
- 控え選手にも「責任ある役割」を言葉で渡してから送り出す — 「残り10分、チームのために得点を取るつもりで入れ」という明確な役割言語を投入前に伝えることで、控え選手が「ただ出た」ではなく「自分が変えた」という経験を積む
- 大敗後こそ「シーズンの時間軸」で選手を評価する言葉を選ぶ — 直後の感情のまま結果だけで評価すると、次の試合で選手はリスクを避けるようになる。Florioのように成長・挑戦・積み重ねを具体的に言語化することで、選手は「次も選び続けていい」と感じられる
途中から加入した選手に、どんな役割を託すのか
このチームの面白いところは、シーズンの途中で前線に新しい選手が加わり、それがそのままチームの武器になっている点だ。
PetragliaとTodaro。
どちらもこの試合で得点を挙げた新戦力だ。
新しく入ってきた選手は、実力があっても、チームの中でどんな立ち位置を与えられるかによって、その力の出し方が変わっていく。
この日の配置を見ると、SaccoはTodaroを右のサイドアタッカーに据え、Petragliaを最前線の一枚として起用している。
そして、得点経過だけを見ても分かるように、彼らには「ゴールを決める」役割だけでなく、「味方を生かす」役割も託されていた。
・Todaroは先制点を決めただけでなく、Ciampiの2点目の場面でもラストパスを送っている。・PetragliaはFKを蹴り、さらに29分には、右サイドからのクロスに合わせて、ゴールポストを叩いてからネットに吸い込まれる見事な半オーバーヘッド気味のシュートを決めている。
新しい選手をどう使うか。
- 「得点だけを期待する」エースとして扱うのか
- 周囲との連携の中で、「一つのピース」として組み込むのか
この試合で見えたのは、後者のアプローチだ。
例えば、Petragliaのゴールシーン。
右サイドでCillisがRagoneを走らせ、そのRagoneがサイドライン付近から鋭いクロスを上げる。
そこに、Petragliaは「点を取る人」としてではなく、「チームプレーの最後を任された一人」として走り込んでいる。
ここにも、「一人の才能に寄りかかる」のではなく、「全員の動きの中でチャンスを作る」という考え方が表れているように感じる。
新しい仲間が入ってきたとき、自分ならどうするだろう。
ポジションが被れば、「自分の居場所が奪われるかもしれない」という不安も自然に生まれる。
でも、そこで「チームとして何を目指すか」を一度立ち止まって考えてみると、違う景色も見えてくる。
・自分だからできることは何か。 ・新しい選手が来たことで、逆にチームとして増やせる選択肢は何か。
Lykosの前線4人それぞれが、「自分にしかできない役割」と「仲間を生かす役割」を両方持ってピッチに立っていたように見えるのは、そうした問いをチーム全体で共有してきたからかもしれない。
- 「自分にしかできない役割」と「仲間を生かす役割」を同時に意識する — 先制点を決めたTodaroが次の場面でCiampiへのラストパスを選んだように、「点を取るだけ」ではなく「チームプレーの最後を自分が担う」という視点でピッチに立つと、プレーの選択肢が広がる
- プレッシャーがかかる瞬間ほど、一歩だけ時間を止めて選ぶ — Ciampiが背中でボールを受けてから一度プレッシャーを受け止め、自分でターンを選んだように、0.5秒だけ「自分はどうしたいか」を感じてから動くことが「選ばされた判断」と「自分の判断」を分ける
- 控えや出場機会が少ない時期こそ「準備の質」で差をつける — Faraoneが数分の出場機会で得点を決めたのは、試合を「大勢が決まったおまけ」ではなく「自分のチャンス」として受け取った心構えの差。出場時間の長短に関わらず、その時間に何を選ぶかが次への扉を開く
控えの選手の「ゴール」に、どんな意味を見るか

後半は、3-0で折り返したこともあり、Lykosは無理に攻め込まず、試合をコントロールする時間帯が多くなった。
それでも、試合終盤、投入されたFaraoneが4点目を決める。
右サイドからのクロスが一度ブロックされ、それでもCiampiは諦めずにもう一度クロスを上げる。
ゴール前で待っていたFaraoneが、それを押し込む。
大勢が決した試合の終盤。
控え選手として送り出された立場。
その中で得たゴールは、単なる「おまけの一点」だっただろうか。
それとも、「チームの一員として信頼されている」という実感につながる一点だっただろうか。
監督の側にも、ここでの選択がある。
- 主力を最後まで出し続けて、スコアをさらに広げにいくのか
- メンバーを入れ替え、これまで出場時間が少なかった選手にも「責任ある時間」を与えるのか
Saccoは、この日もベンチにいた選手たちを次々とピッチに送り出している。
そのうちの一人がFaraoneであり、彼は託された時間の中で結果を出した。
もし自分がこの立場なら、「もう試合は決まっているから」と集中を少し切らしてしまうだろうか。
あるいは、「今この数分が自分にとってのチャンスだ」と、全力でその時間に向き合うだろうか。
そこでどちらの心構えを選ぶかによって、「ただ出ただけ」の時間にもなるし、「自分を変えるきっかけになる時間」にもなり得る。
負けたチームにもある「選ぶ力」
4位という結果を、どう受け止めるか
一方のSporting Marconiaは、この試合で0-4というスコアを突きつけられている。
スコアだけを見ると、一方的な試合のように見えるかもしれない。
だが、シーズンを通して見れば、彼らは「サプライズ」と言われるだけの歩みを続けてきたチームでもある。
MarconiaとPisticci、二つの街の選手が集まり、地域リーグという新しいレベルの戦いに挑んだシーズン。
監督のLuigi Florioは、さまざまな背景を持つ選手たちをまとめ上げ、最終的に4位を確定させている。
アウェーでの成績に浮き沈みはあったようだが、それでも「新しい舞台で戦い抜いた」という意味は決して小さくない。
この日のフォーメーションは4-4-2。
前線にはTuccinoとGiannone。
両サイドにはAddabboとRadesca。
中央にDi SchifoとDi Marsico。
フィジカルやスピードで対抗するのか、コンパクトに守ってカウンターを狙うのか。
首位を追う2位のチームにアウェーで挑む。
その前に、Florioは何を選び、どんな言葉で送り出したのだろうか。
この試合後、彼は、自分たちのシーズン全体を振り返りながら、「想像以上の出来だった」といったニュアンスでチームを評価している。
大敗した直後に、それでもシーズン通しての成長や成熟を口にできるかどうか。
そこにも、一つの「選択」がある。
・目の前の結果だけを見て、選手を責めるのか。 ・長い時間の中で培ったものに目を向けるのか。
日本の育成年代でも、似たような場面はたくさんある。
大事な大会で大差の負け方をしたとき。
監督や大人が、どの時間軸でチームを評価するのか。
選手はその言葉から、「勝ち負け以上に大切にしてほしいものが、自分たちの中にあるのかどうか」を敏感に感じ取る。
「15試合負けなし」が教えてくれること
結果の裏にある、見えにくい成長
Lykos U15は、この試合で15試合連続の「負けなし」を記録した。
その過程では、接戦をものにした試合もあれば、終了間際に勝ち越した試合もあるという。
得点シーンや順位表は目に見えやすい。
一方で、「少しずつの技術的な進歩」「判断の速さの変化」「試合の終盤に崩れなくなったチームのメンタリティ」といったものは、外からは見えにくい。
それでも、Saccoはシーズンを振り返る中で、個々の技術や戦術理解だけでなく、「メンタルの成長」にも言及している。
・終盤まで諦めずに戦う姿勢。 ・接戦を落とさなくなったこと。 ・自分たちの力を信じてプレーできるようになったこと。
勝ったか負けたか。
それだけでは分からない変化に目を向けようとする視点が、選手たちの「考える力」を育てるのかもしれない。
日本でも、リーグ戦を戦う中で連勝したり、長く負けなかったりするチームはある。
そのとき、指導者や選手が「なぜ勝てているのか」をどこまで言葉にできているか。
・個人の調子に頼った勝利なのか。 ・チームとしての仕組みが機能しているのか。 ・相手や試合展開に応じて、自分たちのやり方を柔軟に変えられているのか。
そんな問いを持てるかどうかで、「連勝の意味」は変わってくる。
日本にいる私たちは、この試合から何を受け取るか
「追う立場」に立ったとき、自分はどう考えるだろう
日本でサッカーをしている選手にとっても、「追う側」でシーズン終盤を戦うという経験は少なくない。
上位リーグ昇格がかかったリーグ戦。
トーナメントのグループステージ。
勝ち点や得失点差を気にしながら戦う試合。
その時に、自分ならどのような選択をするだろうか。
- 「絶対勝たなきゃ」と自分を追い詰めるのか
- 「自分たちがやるべきことは何か」と、プレーに集中するのか
- 「何が起きても受け止める」と覚悟を決めたうえで、目の前の一プレーに向き合うのか
Lykos U15の選手たちは、首位の結果に左右される立場でありながら、自分たちのプレーを通じて「今日やるべきこと」を一つずつ積み上げていたように見える。
先制点。
追加点。
新戦力の融合。
控え選手のゴール。
それぞれの瞬間に、一人ひとりが自分の役割を選び取り、その選択を仲間と共有していた。
「答えを急がない」という姿勢
リーグ戦が残り2試合という状況になると、「優勝できるか、できないか」という結果だけに目が行きがちだ。
だが、この試合後に語られたのは、「現時点の順位が予想よりも良いこと」「新加入選手をうまく受け入れられていること」「選手たちが伸びていること」など、「プロセス」に関する言葉だった。
シーズンがまだ終わっていない段階で、「今のチームにはこういう良さがある」と落ち着いて言葉にすること。
それは、「最終的な結果がどうであれ、この歩み方自体に意味がある」と信じる姿勢でもある。
もし、あなたが選手なら。
リーグ終盤の大事な試合で、思うような結果が出なかったとき、どこまで「自分の成長」に目を向けられるだろうか。
もし、あなたが指導者なら。
勝敗だけでなく、選手の表情や迷い、挑戦のあとに残る感情に、どれくらい時間をかけて向き合えるだろうか。
もし、あなたが保護者なら。
子どものゴールや勝利だけでなく、「今日はどんな選択をしていたのか」「どんなことを考えたのか」という話に耳を傾ける余裕を、どこまで持てるだろうか。
ピッチの上で、自分の答えをゆっくり探す
Lykos U15 対 Sporting Marconia の4-0というスコアは、紙の上では一瞬で読み飛ばされてしまう数字かもしれない。
けれど、その裏には、追う立場でピッチに立つ選手たちの迷いと決断、監督たちの静かな選択、そしてベンチに座る選手も含めた全員の時間が流れている。
どの場面で、何を選ぶのか。
なぜ、その選択をしたのか。
他にどんな可能性があったのか。
そこにこそ、サッカーの面白さと、人生にも通じる奥行きがあるのだと思う。
答えを急がずに、自分ならどう考えるかを、少しだけ立ち止まって想像してみる。
それ自体が、ピッチの上で自分のサッカーを形づくっていく、静かな一歩なのかもしれない。
