順位より「どれだけ育てられたか」を問うピサU-15──プレーオフ争いの中で揺るがない育成基準
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順位よりも、「どれだけ育てられたか」を問い続けるという選択

日曜日の昼、イタリア・ラ・スペツィアのトレーニングセンター「ブルーノ・フェルデギーニ」。
セリエA・B合同のU-15リーグ、ジローネA第19節。
ピサU-15を率いるガブリエル・プッチは、アウェーのロッカールームで静かに選手たちの顔を見渡していたはずだ。
4試合負けなしがかかった一戦。
チームは現在7位、勝ち点22。
2月に入ってからは、最下位に沈むサンプドリアに5-1と大勝し、エンテッラには2-1で競り勝ち、ボローニャ相手にはアウェーで1-1の引き分け。
ようやく「流れ」が自分たちに来ていると感じてもおかしくない時間帯だ。
実際、プレーオフ圏までは勝ち点4差。
目の前に「目標」がぶら下がっているようにも見える。
だからこそ、このチームの選択は少しだけ異彩を放っている。
「順位を決めない」という決断
あえて掲げなかった「今季のノルマ」
プッチはシーズン前を振り返り、「順位の目標は決めていない」と語っている。
チームは昨季から大きく入れ替わり、今季のテーマは「より多くの選手を育てること」だと強調しているからだ。
プロの下部組織で、しかも全国リーグで戦いながら、「順位を目標にしない」という選択。
これは単なる綺麗事ではなく、具体的なジレンマを伴う決断だ。
たとえば、こんな場面を想像してみたい。
・プレーオフ進出が見える中、調子の良い選手をフル出場させ続けるのか
・それとも、今はまだ荒削りな選手に出場時間を与え、1年後・2年後を見据えた経験を積ませるのか
どちらにも、明確な「正解」はない。
ただ、プッチは「できるだけ多くの選手を次のステージへ送り出す」ことを優先順位の一番上に置いた。
それは、「いま勝つこと」よりも「将来この子たちが戦えるようになること」に賭けるという決断でもある。
| 観点 | 勝利優先モデル | 育成優先モデル(ピサ式) | 評価 |
|---|---|---|---|
| シーズン目標 | プレーオフ進出・上位フィニッシュ | 「より多くの選手を育てること」を明言 | ◎ 方針が明確 |
| エースの扱い | 得点だけで評価し試合に使い続ける | 守備貢献・非ボール時の動きも評価基準に | ◎ 多面的育成 |
| 調子の良い選手の起用 | 好調選手をフル出場させ続ける | 荒削りな選手に出場時間を意図的に配分 | ○ 長期視点 |
| 勝利後の振り返り | 「勝てた」で完結しがち | 「なぜ勝てたか」プロセスを問い続ける | ◎ 継続的改善 |
| プレーオフ圏との距離 | 残り勝ち点4差を積極的に狙う | 「目の前の誘惑に揺れながらも基準を守る」 | △ 葛藤継続中 |
| 選手の意識 | 試合で勝つことに集中 | 「この試合で自分は何を優先するか」を自問 | ◎ 自律性育成 |
エースストライカーをどう扱うか
2011年生まれのフォワード、ピエトロ・イッツォ。
18試合で7得点、出場時間は1,200分を超える。
数字だけ見れば、チームの「エース」と呼んで差し支えない。
だが、プッチは彼を「得点だけで評価されるストライカー」としては見ていない。
イッツォは、前からの守備や、ボールを持っていない時間の献身も評価されているという。
つまり、「点を取ること」だけに価値を見出してしまいがちなポジションに対して、「どう戦うか」という別の物差しをそっと差し込んでいる。
ここにも、ひとつの選択がある。
・7点取っているストライカーに、さらに得点を求め続けるのか
・それとも、守備の負担やチームのための動きを要求し、「得点以外の価値」を育てるのか
短期的には、得点だけを追い求めた方が、チームの勝率は上がるかもしれない。
だが、上のカテゴリーで生き残るためには、「点が取れない日」に何ができるかが問われる。
プッチは、そこまで含めてイッツォを「育てよう」としているように見える。
連勝のなかで、本当に見ているものは何か
- 「今日の試合で何を優先するか」を選手に言語化させる — 試合前のミーティングで「今日の自分のテーマは何か」を選手自身に話させる。得点・守備・連携など、役割の枠を超えた自分なりの優先順位を持たせる習慣をつくる。
- エースの評価軸を「結果以外」にも広げる — 得点やアシストだけでなく、守備での帰陣・ボールなし時の動き・チームへの声かけを記録し、フィードバックする。「得点が取れない日の価値」を共有することが上のカテゴリーでの生存力を高める。
- 「好調時こそ基準を問い直す」振り返りセッションを設ける — 大勝した翌練習で「スコアが開いた後にプレーの質が落ちた瞬間はなかったか」「守備の約束事を守り続けられたか」を選手と確認する。勝利に慣れることで生まれる基準の甘さを防ぐ。
「いい流れ」のときほど、何を大事にするか
2月の3試合で、2勝1分、得点8・失点3。
外から見れば、「好調」と表現されるだろう。
だがプッチは、あくまで「気を緩めないこと」「次の試合に備えること」を口にしている。
そこには、「結果」よりも、「結果に至るまでのプロセス」をどう評価するかという視点がある。
例えば、5-1で勝った試合。
スコアだけを見れば、完勝。
だが、指導者ならこう自問するかもしれない。
・スコアが開いたあと、プレーの選択は雑にならなかったか
・リードしているときにも、守備での約束事を守れていたか
・「うまくいっているから」といって、難しいプレーばかり選ぶようになっていなかったか
勝っているときほど、基準が甘くなる。
だからこそ、「なぜ勝てたのか」を一度立ち止まって考える習慣が必要になる。
このチームが口にしている「継続性」という言葉には、「良い結果を続ける」という意味と同時に、「自分たちの基準をぶらさない」という意味も含まれているように感じられる。
- 順位は「結果の一つ」であって「目的」ではない — プレーオフ圏まで勝ち点4差でも「順位の目標は決めない」と言い切る指導者の判断には、「今ここで勝ちきることより、この先で戦える選手をつくること」という長い時間軸がある。わが子の所属チームの順位だけを追わずに、プレーの変化・判断の成長を観察する目を持つ。
- 「試合に出ること」と「成長できる時間を得ること」は別物と知る — 出場時間が少ない選手への配慮より、荒削りな選手に意図的に経験を与えることを選ぶ指導者の判断がある。控えにいる間も「なぜ今出られないのか」を自分なりに考える習慣が、次の出場時に生きてくる。
- 勝利後こそ「何を選んだか」を子どもに聞く — 「5-1で勝ったね!」で終わらずに、「今日の試合で自分が一番よかった判断は何だった?」と問いかける。大勝の中にも、「守備の約束を守れたか」「リードしているときに難しいプレーを選びすぎなかったか」という振り返りの種がある。
プレーオフという「甘い誘惑」
勝ち点4差。
あと少し結果が続けば、プレーオフ圏内が見えてくる。
選手たちだって、順位表を見ていないはずがない。
そんな状況で、「順位の目標は決めていない」と言い切るのは、言葉ほど簡単ではない。
クラブとしても、保護者としても、周囲の人たちとしても、「プレーオフに行けたらいいね」と口にしたくなるものだ。
その期待を完全に消すことはできない。
だからこそ、どこかでバランスを取らなければいけない。
・「どうせ順位は関係ない」と開き直らせないこと
・かといって、「結果が全てだ」と追い詰めないこと
この細い綱の上を、チーム全体で渡っているような時間帯に見える。
もし自分がここでプレーするU-15の選手だったら、どう感じるだろうか。
勝ちたい気持ちはある。
でも、監督は「君たちの将来を大事にしたい」と言う。
「じゃあ、自分はこの試合で何を優先すべきなのか」。
ここに、「自分で選ぶ」というテーマが立ち上がってくる。
育成カテゴリーに共通する「見落としやすい問い」
イタリアの各カテゴリーが見せているもの
同じ週末、イタリアではU-18からU-16、U-17、U-15に至るまで、さまざまな年代の試合が組まれている。
U-18では、インテルが首位を走る中、その背後にボローニャやローマが続いている。
U-16では、ユベントス、インテル、ミラン、フィオレンティーナ、ローマ、ラツィオといったビッグクラブが、それぞれのグループで頂点を争っている。
U-15でも、パルマ、ユベントス、ミラン、ローマ、ラツィオなどが上位に名を連ねる。
こうした順位表だけを見ると、「強いクラブが強い年代で順当に勝っている」ように見える。
だが、各クラブの指導者たちにとって、順位はあくまで「ひとつの結果」に過ぎないはずだ。
・どの年代で、どんなスタイルを植え付けるのか
・どのタイミングで「勝負」に比重を置くのか
・どこまで「個」を伸ばし、どこから「チームのための役割」を求めるのか
そうした判断が、毎週、毎シーズン積み重なっていく。
ピサのようなクラブは、ビッグクラブとは異なる前提条件の中で、同じ問いに向き合っている。
資金も、スカウト網も、施設も、相手と比べれば限られているかもしれない。
それでも、「自分たちは何を大事にして育てるのか」を選び続けなければいけない。
日本の育成年代に置き換えてみると
このイタリアの風景を、日本に重ねてみることもできる。
・Jクラブのアカデミー
・街クラブ
・部活動
立場も環境も違う中で、どの現場も「勝ち」と「育成」の間で揺れている。
たとえば、日本のU-15年代のリーグ戦や、高円宮杯、クラブユース選手権。
全国大会が近づくと、「今年こそは」と意気込むチームも多いだろう。
そうした中で、指導者はこうした問いに向き合うことになる。
・3年生中心で挑めば、今年のチームは強くなるかもしれない
・だが、2年生や1年生に経験を積ませなければ、来年・再来年の育成はどうなるのか
・早くから完成度を求めてしまうことで、「試合の中で自分で考える余白」が奪われていないか
これは、クラブだけの問題ではない。
選手自身も、保護者も、それぞれの立場から「何を望むか」を選んでいるからだ。
「自分ならどうするか」を選び直すために

選手として、どんな基準でプレーを振り返るか
もし、この記事を読んでいるのがU-15前後の選手だとしたら、こんな問いを自分に投げかけてみてもいいかもしれない。
・試合後、自分のプレーを振り返るとき、「勝ったか負けたか」だけで評価していないか
・たとえチームが勝っていても、「自分が次のレベルに行くために、今日のプレーで何が足りなかったか」を探せているか
・監督やコーチが求めていることに「ただ従う」だけでなく、「なぜそう求められているのか」を考えようとしているか
ピサのイッツォは、「得点だけでなく、守備の献身も評価されている」と言われている。
日本の選手も、「点を取ったかどうか」「失点に絡んだかどうか」だけではない評価軸を、自分の中に持てるとどうなるだろうか。
・今日は声を出せたか
・ビハインドの時間帯に、ボールを受けに行く勇気を持てたか
・ミスをした後、プレーをやめずに次の動きに入れたか
そうした基準を自分で選び取れるほど、「結果に一喜一憂しない強さ」が少しずつ育っていくのかもしれない。
保護者として、どんな言葉をかけるか
保護者の立場からすると、「順位を目標にしない」という考えには、どこか物足りなさや、不安を感じることもあるかもしれない。
「勝ちを目指さなくていいのか」
「結果にこだわらなくて、将来プロになれるのか」
そう考えるのは、ごく自然な感覚だと思う。
ただ、そのうえでこんな視点も一緒に持てると、見える景色が少し変わるかもしれない。
・今日の試合で、子どもはどんな表情をしていたか
・ミスをしたあと、どう立て直そうとしていたか
・うまくいかないときに、周りとどう関わろうとしていたか
勝った・負けたの一言では拾いきれない「変化」に目を向けることで、子ども自身も、「自分は成長している」と感じやすくなることがある。
プッチが言う「できるだけ多くの選手を育てる」という言葉は、「できるだけ多くの結果を残す」という言葉とは少し違う。
それは、子どもの数だけ成長の形がある、という前提を受け入れる姿勢でもある。
答えを急がないクラブ、答えを急がない自分
「いつかトップチームに」という夢の距離感
ピサU-15の目標のひとつに、「クラブの中でより多くの選手を先のカテゴリーに送り出し、いつかトップチームでデビューしてほしい」という願いがある。
これは、一見すると遠い夢に聞こえる。
U-15からトップチームまでの道のりは、ケガもあれば、伸び悩みもあり、さまざまな出会いや別れに左右されるからだ。
それでも、その「遠さ」を知ったうえで、今この瞬間の選択をどうするか。
ここに、「答えを急がない」という姿勢がにじむ。
・U-15で試合に出られるかどうか
・今年、リーグで何位になれるか
・この試合で点を取れたかどうか
そうした「短いスパンの答え」と、
・5年後、自分はどんな選手になっているか
・10年後、この経験をどう振り返るだろうか
という「長いスパンの問い」を、どうやって同じテーブルに乗せておくか。
それは、イタリアでも、日本でも、どんな環境でも変わらないテーマなのかもしれない。
最後に残る問い
ラ・スペツィアでの試合終了のホイッスルが鳴るとき、スコアボードにはどんな数字が並んでいるのだろうか。
勝ち点を積み上げて、プレーオフに一歩近づいているのかもしれない。
あるいは、連続無敗は途切れているかもしれない。
だが、そのどちらであっても、ピサの選手たちには問われ続けるはずだ。
「今日、自分はどんな選択をしたのか」
・安全なパスを選ぶか、リスクを取って縦に付けるか
・味方任せにせず、自分から関わりに行けたか
・ミスを恐れてプレーを小さくしなかったか
そうした問いは、日本でプレーするどの選手にも、そのまま当てはめることができる。
順位表や得点ランキングだけでは測れない、「自分のサッカー」をどう選ぶのか。
結果が出たその瞬間から、本当の意味での「考える時間」は始まるのかもしれない。
試合が終わっても続いていく、この静かな問いかけに、私たちはどう向き合っていくのだろうか。
