パリ同時多発テロ10周年の追悼セレモニーが行われたフランス対ウクライナのワールドカップ予選。スポーツが持つ記憶と連帯の力を象徴する試合

悲しみの日に紡がれる記憶と連帯――フランス対ウクライナが問いかけるスポーツの力

DEFINITION
スポーツが果たす記憶と連帯の役割とは
スポーツは勝敗を超え、社会の痛みや祈りに寄り添う場である。2025年11月13日のフランス対ウクライナ戦は、パリ同時多発テロ10周年と重なり、フットボールが記憶をつなぎ、国を越えた連帯を生む力を持つことを示した。

フランス対ウクライナ――悲しみの日にサッカーが問いかけるもの

2025年11月13日。 この日、フランス代表とウクライナ代表は重要なワールドカップ予選のピッチに立ちます。 しかし、この日付は単なる試合日ではありません。 10年前、パリが未曾有の悲哀に包まれたテロ事件が起き、多くの命が突然奪われ、世界を震撼させた日――それが11月13日です。 サッカーの聖地、スタッド・ド・フランスもその標的の1つでした。 今季の「フランス-ウクライナ」というカードに、“試合以上の意味”が込められるのは、そんな悲しみと歴史の重なりがあるからこそでしょう。

不思議な因縁――フランスとウクライナの歴史

ウクライナがフランスと特別な関係を持っていることは、フランスのサッカーファンにはよく知られています。 思い起こせば、2013年11月19日のワールドカップ出場をかけたプレーオフ。 フランス代表は崖っぷちから奇跡的な逆転劇を演じ、国民の日常と代表チームの関係性まで大きく変えてしまいました。 それは同時に、ディディエ・デシャン監督の時代の幕開けでもありました。 あれから10年、再びワールドカップ予選で相まみえるこの対戦は、“特別な意味を持たない方が不自然”と言えるでしょう。 しかし、今回は「勝利」や「敗北」以上に問われるものが多いのです。

COMPARISON / フランス対ウクライナ戦が持つ多層的な意味
観点 通常の試合 この試合 評価
試合の性格 ワールドカップ予選 予選+追悼の場 ◎ 特別な重み
選手の言葉 勝利・コンディション重視 「サッカー以上に大事なことがある」 ◎ 社会的発信
セレモニー 通常の入場 黙祷・矢車菊・平和バナー掲揚 ◎ 連帯の可視化
観客構成 一般サポーター 犠牲者家族・支援団体を正式招待 ○ 記憶の継承
相手国の立場 単なる対戦相手 自国も戦争で苦しむウクライナ △ 複雑な共鳴
歴史的因縁 初対戦 2013年W杯PO以来の因縁のカード ○ 物語の連続性
◎=際立つ意味 / ○=重要な要素 / △=複雑・変化

なぜこの日に試合が組まれたのか――UEFAの決定とフットボールの役割

「ここ10年間、11月13日はフランスにとって日常を止める日になっている。 私たちは考え、思い返し、131人の犠牲者と400人超の負傷者に祈りを捧げる。 サッカーは毎年二の次になる。 けれど今年だけは、試合が組まれた――特別な“負荷”が生まれてしまった」と記事は語ります。

プレスカンファレンスで静かに語ったキリアン・エムバペの言葉は胸を打ちます。 「On veut faire comprendre aux Français que bien que s’il y a une qualification à la Coupe du monde qui se joue, il y a des choses bien plus importantes. Et la commémoration de cette journée malheureusement historique en fait partie. On n’est pas déconnectés de ça, on voulait avoir une pensée pour tous les Français et Françaises.」 (「ワールドカップ出場がかかる試合であっても、それ以上に大事なことがある。今日という歴史的な日を忘れてはいけない。私たちはこれを無視できない。全てのフランス国民を思いたい。」) トップアスリートである彼がサッカー以上に「大事なもの」を強調したことは、フランス代表すべての想いを代弁しているのでしょう。

FOR COACHES / FOR COACHES 指導者が伝える3つの視点
サッカーが社会とつながる瞬間を子どもたちに伝える
  1. 試合前に「この日付に何があったか」を話す — 歴史的文脈を持つ試合を教材にし、スポーツが社会と地続きであることを伝える
  2. エムバペ・デシャンの言葉を引用して「優先順位」を問いかける — トップ選手が「サッカーより大切なものがある」と語った事実から、人として大切にすべきものを考えさせる
  3. 「誰かのために戦う」という動機づけを練習に取り入れる — 個人の勝利欲だけでなく、チームや地域、社会への貢献を意識させる声がけを習慣化する
STORY TEE
この物語を、着る。
試合と選択の記憶を一着に刻んだ、NEWDIHのストーリーTシャツシリーズ。現在発売中。
STORY TEE を見る →

サッカーは時として“主役”ではない――デシャン監督の静かな訴え

試合への意気込みやスター選手のコンディション、そして勝敗予想。 サッカーのエンターテインメントにとって、それは定番の話題です。 しかし、この夜だけは違います。

「Ce n’est qu’un match de foot. À côté de ce qui s’est passé, ce n’est rien.」 (「これはただのサッカーの試合だ。あの出来事と比べれば、何でもない。」) ディディエ・デシャン監督は、重い現実の前に言葉を慎重に選び、“フットボールですら小さいもの”だと認めます。 「記憶と哀悼のために――今日だけは、私たちの仕事も2番目だ」と、エムバペ同様の配慮を見せています。

FOR PLAYERS & PARENTS / FOR PLAYERS & PARENTS 観戦をより深くする3つの見方
ピッチの外にある物語を知ると、試合がもっと豊かになる
  1. 選手がピッチに立つまでの「背景」を調べてから観戦する — 試合日の歴史的意味や両国の関係を知ると、ゴールや勝敗とは別の感動が生まれる
  2. 黙祷やセレモニーの意味をわが子と一緒に確認する — なぜ花を飾るのか、なぜ黙祷するのかを話すことで、スポーツが持つ「記憶を伝える役割」を家庭で共有できる
  3. 「誰のために応援しているか」を試合後に子どもと語り合う — 好きな選手の活躍だけでなく、社会や歴史とのつながりを意識することで、観戦体験が成長の場になる

フットボールが果たす「記憶と連帯」の役割

「フットボールは記憶と思いやり、そしてレジリエンス(回復力)の場である」 フランスサッカー連盟(FFF)は声明でそう述べます。 試合直前には犠牲者への黙祷が捧げられ、センターサークルには「Football for Peace(平和のためのサッカー)」のバナーが掲げられる予定です。 さらに「Bleuet de France(フランスの矢車菊)」――戦没者やテロ被害者への追悼と連帯のシンボルが選手たちの胸を飾ります。

「クラブの垣根を超えて、この日ばかりはすべての人が1つになる」 スタジアムには犠牲者家族や支援団体、2015年当日現場にいた人物も正式に招かれます。 人と人とをつなぐスポーツの力は、勝負の世界を越えて、社会の“癒やし”や“記憶”に寄り添うものなのでしょう。

ウクライナという“相手国”の意味――戦争と平和、スポーツが架ける橋

ウクライナサッカー連盟のアンドリー・シェフチェンコ会長も、特別な思いで語りました。 「C’est une grande tragédie, et nous compatissons avec le peuple français, car nous, Ukrainiens, comprenons profondément les horreurs des attentats terroristes injustes. Il est important de s’unir contre les forces du mal pour assurer une paix durable et la prospérité de la démocratie.」 (「これはとても大きな悲劇です。私たちウクライナ人も、テロによる無実の犠牲者の痛みを深く理解しています。だからこそ、すべての悪に対抗し平和と民主主義のために団結することが大事なのです。」)

ウクライナ自身も長く苦しみ、いまも平和と独立のために戦っています。 その両国が、11月13日という日にピッチで出会う意味――それは勝ち負けでも、単なる興行でもありません。 「記憶をつなぐリレー」。 当時まだ幼かった選手たちが、今度は新しい世代に伝えてゆくバトンを持ちます。

サッカーが私たちに与えてくれる問いかけ

あなたはサッカーの試合を観るとき、何に心を動かされますか? 熱狂か、勝ち負けか、それとも国の誇りか――。 けれどたまには、ピッチの外にある“人生の大切なもの”にも目を向けてみたくなります。

フランス代表キャプテンはこう言います。 「Nous allons essayer de faire de notre mieux pour faire passer la journée de la manière la moins difficile possible aux personnes qui ont vraiment été touchées. Après, malheureusement, on va devoir reprendre notre boulot le soir et essayer de donner la meilleure version de nous-mêmes.」 (「本当に被害にあった人たちのために、少しでも苦しい日を和らげたい。その後は仕事として、ベストを尽くすだけです。」) 選手として、「誰かのために戦う」ことがもう一つの覚悟になっているのです。

FAQ / よくある質問
Q. なぜ2025年11月13日のフランス対ウクライナ戦は特別なのですか?
A. 2015年11月13日のパリ同時多発テロから10周年にあたる日に、試合が組まれたためです。スタッド・ド・フランスもテロの標的の一つでした。選手たちは追悼と予選突破という二重の重みを背負ってプレーしました。
Q. エムバペはこの試合についてどのような発言をしましたか?
A. エムバペは「ワールドカップ出場がかかる試合であっても、それ以上に大事なことがある。今日という歴史的な日を忘れてはいけない」と語り、全フランス国民への思いを示しました。勝敗より記憶と哀悼を優先する姿勢を公式の場で明言したことが注目されました。
Q. ウクライナはなぜフランスのテロに深い共感を示したのですか?
A. ウクライナ自身が侵略という理不尽な暴力にさらされており、テロによる無実の犠牲の痛みを深く理解しているからです。シェフチェンコ会長は「すべての悪に対抗し、平和と民主主義のために団結することが大事だ」と語りました。
Q. フットボールが「記憶と連帯の場」になるとはどういうことですか?
A. フランスサッカー連盟は声明で「フットボールは記憶・思いやり・レジリエンスの場である」と述べています。試合前の黙祷、犠牲者家族の招待、「Football for Peace」バナー掲揚など、競技の枠を超えて社会的記憶を継承する場として機能することを指します。

スポーツの力と思いの連鎖

サッカーは私たちに「夢」や「感動」をくれます。 けれど、こうして歴史に立ちあい、社会の痛みや祈りと向き合う瞬間もまた、スポーツの持つ“癒やし”の一面です。

悲しみの記憶を決して消さず、次代につなぐこと。 そして、たとえ一夜限りであっても、世界中の誰かの心を照らす灯になれること。 国を超えて選手が背負う思いや、クラブを超えたサポーターの連帯が交錯する試合――それがこの「フランス対ウクライナ」なのです。

最後に、一つの名言でこの特別な一夜を締め括ります。

 「Le football, ce n’est pas une question de vie ou de mort. C’est plus important que ça.」 (「フットボールとは生きるか死ぬかの問題ではない。それ以上に大切なものだ。」)

この試合が、癒しと連帯、そして平和のレッスンとなることを心から願ってやみません。

ALSO ON NEWDIH
サッカーと社会をもっと読む
NEWDIHではサッカーの戦術・歴史・社会的テーマを幅広く発信しています。試合の背景を知ると、観戦がもっと深くなります。
コラム一覧を読む →
NEWDIH D mark logo
NEWDIH / Perspectives & Methods
返回博客
返回首页