デ・ロッシのジェノアを徹底解剖――「全員が組み立て、全員が仕上げ、全員が守る」変幻自在の学びのチーム
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ダニエレ・デ・ロッシのジェノアを読む:変幻自在の「学びのチーム」

イタリア・セリエAの中で、もっとも「教科書にしやすいチーム」の一つになりつつあるのが、ダニエレ・デ・ロッシ率いるジェノアです。
数字だけを追えば、派手な攻撃力や圧倒的なポゼッションで目を引くクラブではないかもしれません。
それでも、システムの柔軟性、守備組織、サイド攻撃、そして選手一人ひとりの役割を眺めると、サッカーを学びたい人にとっては「生きた教材」のようなチームになっています。
「Tutti costruiscono, tutti rifiniscono e tutti difendono(全員が組み立て、全員が仕上げ、全員が守る)」。
この考え方こそ、デ・ロッシ版ジェノアの核心と言えるでしょう。
決まったレジスタも、固定された“王様”もいない。
だからこそ相手にとってはつかみどころがなく、見る側にとっては「なぜ、いまこの選手がそこにいるのか?」と考えるきっかけをたくさん与えてくれます。
基本システム1-3-4-2-1と「カメレオン型」ジェノア
スタート時の形は「1-3-4-2-1」。
現代的な3バックに、サイドが高く出る可変システムです。
しかし試合が始まるとすぐに、この数字は意味を失います。
ボール保持(FDP)では、状況に応じて
・1-3-2-4-1
・1-3-1-2-3-1
・1-2-3-4-1
・1-2-4-3-1
と、形は次々と変化します。
非保持(FDNP)になると、今度は
・1-5-3-2
・1-5-4-1
と、ラインを下げた5バックでブロックを固めます。
この「変幻自在さ」を支えているのが、メキシコ代表DFヨハン・バスケスと、新加入のレオ・オースティガード、アレッサンドロ・マルカンダッリらセンターバック陣です。
バスケスはまさに“後ろのレジスタ”。
「Vasquez si comporta da regista difensivo(バスケスはディフェンスの司令塔のように振る舞う)」。
後方から運び、時に中盤のラインまで出ていき、チームの形を変えてしまう役割を担います。
一方で、元ナポリのオースティガードは、1対1と空中戦で圧倒する“空の番人”。
セットプレーでも大きな武器となり、「フィジカルのジェノア」の象徴の一人です。
サイドバックではなく「現代型ウイングバック」ノートン=カフィとアーロン・マルティン
ジェノアのサッカーを学ぶ上で、ぜひ注目したいのが両サイドの使い方です。
右のブルック・ノートン=カフィは、ほぼウイングのような位置まで高く上がり、スピードと1対1で試合の流れを変えます。
「Norton-Cuffy si sgancia in avanti quasi sulla linea dei trequartisti(ノートン=カフィはトレクアルティのライン近くまで飛び出していく)」。
この動きが、相手サイドバックを押し下げ、ジェノアに広い攻撃スペースを生み出します。
反対に、左のアーロン・マルティンは内側に絞る動きを多くとります。
「Aaron Martin che converge dentro al campo(アーロン・マルティンは内側に絞り込む)」。
彼はビルドアップでは3バックの一角のように振る舞い、時には中盤の“+1”となってボール循環を助けます。
その左足はセットプレーでもチャンスの源泉となり、クロスも、低く鋭いパスも出せるテクニシャンです。
右は縦に速く、左は内側で組み立て。
この左右非対称のサイドの使い方は、子どもたちにも「左右で同じ動きじゃなくてもいいんだ」と教えてくれる、面白い学びのポイントかもしれません。
「全員で守り、全員で奪う」フレンドルプとトールスビーの中盤
ジェノアの中盤には、典型的なレジスタは存在しません。
「Il Genoa non ha un vero e proprio regista di ruolo(ジェノアには典型的なレジスタはいない)」。
代わりにいるのが、「戦うバランサー」たちです。
モルテン・フレンドルプとモルテン・トールスビー。
この2人の“Mortenコンビ”が、中盤の守備バランスを支えています。
フレンドルプは、シンプルなパスでリズムを作り、攻守の切り替えで一番最初に顔を出す選手。
「Chiave tattica: Frendrup, giocatore di grande spessore tattico ed equilibratore(戦術的なキーマンはフレンドルプ、バランスを整える存在)」と評される通り、数字には残りにくい「賢さ」と「運動量」でチームを支えています。
トールスビーは、守備時にはボールホルダーへ激しくプレッシャーをかけ、攻撃になると一気にペナルティエリアへ飛び込む“遅れて出てくるFW”のような存在です。
「Thorsby diventa la mina tattica(トールスビーは戦術上の“地雷”となる)」。
どこから飛び出してくるか分からない彼の動きは、相手にとって常に危険な要素となります。
そして、ミカエル・エッレルソンの存在も忘れてはいけません。
「Ellertsson è la mina tattica di questa squadra(エッレルソンはこのチームの戦術的ジョーカーだ)」。
彼はサイドハーフも、ウイングバックも、中盤もこなす万能型で、相手に応じてポジションを変えられる柔軟性が武器です。
個性派ぞろいの2列目:マリノフスキ、グロンベック、バレンティン・カルボーニ
ジェノアの攻撃の「ひらめき」を担うのは、2列目のアタッカーたちです。
ウクライナ代表のルスラン・マリノフスキは、チームで最も「レジスタに近い」存在。
「L’unico che si avvicina di più al ruolo di link-player è Malinovskyi(唯一“リンクプレーヤー”に最も近いのはマリノフスキ)」。
左足の精度、ゲームを読む目、ミドルシュート。
彼がピッチに入ると、ジェノアの攻撃は一気に“絵”を持ち始めます。
そして、若き才能アルベルト・グロンベック、バレンティン・カルボーニも重要なピースです。
グロンベックは強度とテクニックを兼ね備え、「messy」な状況でこそ生きるタイプ。
カルボーニはドリブルと閃きで、試合の流れを変えることができる左利きのアタッカーです。
「Tutti i mancini prediligono dribblare e concludere(左利きの選手たちは、ドリブルからシュートで終わるプレーを好む)」。
この言葉通り、左利きアタッカーたちがカットインからシュートまで持ち込む形は、ジェノアの重要なフィニッシュパターンの一つになっています。
ヴィティーニャとコロンボ:ゴールだけでなく「つなぐ」センターフォワード
前線では、ヴィティーニャとロレンツォ・コロンボの役割が非常に対照的でありながら、互いを補い合っています。
「Colombo e Vitinha prediligono giocare spalle alla porta e legare il gioco coi compagni(コロンボとヴィティーニャは背負ってボールを受け、味方とつなぐのを好む)」。
フィニッシャーであると同時に、“ポストプレーの起点”でもある2人です。
特にヴィティーニャは、左から内側へ入っていく独特のポジショニングをとります。
「La posizione di Vitinha è molto atipica(ヴィティーニャの位置取りは非常に独特だ)」。
サイドに流れながらも、中央のコロンボや逆サイドのノートン=カフィにパスを供給し、相手の守備ブロックを揺さぶります。
一方で、エクバンとエカトルは「裏抜け型」。
「Ekuban ed Ekhator sono molto più bravi ad attaccare la profondità(エクバンとエカトルは、スペースへの抜け出しが得意だ)」。
リードされた展開や、相手が前がかりになった時間帯に投入されると、カウンターの切り札になります。
あなたは、どんなタイプのFWが好きでしょうか。
ゴール前で待ち構えるストライカーか。
それとも、ヴィティーニャのように下がってボールに関わる“つなぎ役”のFWか。
ボール保持:全員参加のビルドアップとサイドアタック

3+2、3+1、2+3…動きながら形を変えるビルドアップ
ジェノアのビルドアップの特徴は、「決められた形にこだわらないこと」です。
・3バック+2人の中盤(3+2)
・3バック+1アンカー(3+1)
・時にバスケスが中盤に出ていく2+3、2+4
こうした可変は、「誰がどこに立てば数的優位を作れるか」を常に考えた結果でもあります。
小学生の選手にも分かりやすく言えば、「ポジションよりも、チームがボールを前に運びやすくなる場所を探して動きなさい」というメッセージに近いかもしれません。
| 選手 | ポジション | 特徴的役割 | 評価 |
|---|---|---|---|
| ヨハン・バスケス | CB | 後方から中盤まで運ぶ守備の司令塔 | ◎ |
| ブルック・ノートン=カフィ | 右WB | ウイングライン近くまで飛び出す突破役 | ◎ |
| アーロン・マルティン | 左WB | 内側に絞り3バックの一角としてビルドアップに参加 | ○ |
| モルテン・フレンドルプ | MF | 戦術バランサー。攻守切り替えで最初に顔を出す | ◎ |
| ルスラン・マリノフスキ | 2列目 | チームで唯一レジスタに近いリンクプレーヤー | ○ |
| ロレンツォ・コロンボ | CF | 守備のスイッチ役兼ポストプレーの起点 | ○ |
中央に人を集めて、サイドで1対1を作る
ビルドアップが進んで、中盤でボールを持てるようになると、ジェノアは中央に人を集めます。
マリノフスキ、フレンドルプ、トールスビー、エッレルソン…。
彼らが中央でポジションを取り、相手を中に引き寄せます。
その狙いはただ一つ。
サイドでノートン=カフィやマルティンが「1対1で勝てる状況」を作ることです。
「Il Genoa preferisce giocare sulle corsie laterali per creare situazioni da 1vs1(ジェノアはサイドで1対1を作るために、あえてワイドに展開する)」。
現代サッカーのトレンドである「中央に人を集めてからサイドへ」が、ここでもはっきり表れています。
- バスケスがCBから中盤へ出るように、ポジション名に縛られず「チームがボールを前に運びやすい場所を探して動く」感覚を選手に伝える
- ノートン=カフィとマルティンの左右非対称のサイド運用のように、左右で同じ動きを求めず選手の特性を生かした役割を設計する
- コロンボ起点の連動守備のように、最初のプレッシャーを誰がかけるかを明確にし全員が連動してマークを受け渡す守備組織を作る
フィニッシュの形:クロス、ドリブル、2列目の飛び出し
ジェノアの主なフィニッシュパターンは、次の4つに整理できます。
・ウイングやサイドバックのドリブルからシュート
・トールスビー、エッレルソンら中盤の飛び出しとオーバーラップ
・ノートン=カフィやマルティンのクロスに、コロンボが合わせる
・マリノフスキらのミドルシュート
決して華麗とは言えないかもしれませんが、「どうやってゴールにたどり着くのか」をはっきりイメージしているチームです。
あなたなら、このジェノアにどんな新しいフィニッシュパターンを加えてみたいですか。
ボール非保持:ゲーゲンプレスと5バックで守るジェノア
- フレンドルプのように「戦術的に賢い選手」は数字に残りにくいが、チームを陰で支える存在こそ試合を動かしていると知っておく
- マリノフスキが入るとチームの攻撃が絵を持ち始めるように、自分がピッチに立つと何が変わるかを意識してプレーする
- 「レジスタがいない」ことがジェノアの長所にも短所にもなるように、自分のポジションの特性を両面から理解することが戦術理解の深化につながる
コロンボから始まる「連動守備」
守備のスイッチを入れるのは、センターフォワードのロレンツォ・コロンボです。
「La pressione parte in primis dalla punta Colombo(最初のプレッシャーはコロンボから始まる)」。
彼がボールホルダーに寄せ、味方はそれに合わせてマークを受け渡しながら前へ出ていきます。
ボールを失った瞬間には、即座に「Gegenpressing(ゲーゲンプレス、即時奪回)」。
取り返せなければ、一気に5バック+3(または4)のブロックに戻ります。
5-3-2/5-4-1のコンパクトブロック
非保持時の基本形は5-3-2。
サイドバックのノートン=カフィとマルティンが最終ラインまで戻り、中央は3バック+フレンドルプ+トールスビーで「壁」を作ります。
相手のサイドハーフやサイドバックが高い位置をとれば、2列目のヴィティーニャやエッレルソン、マリノフスキらが下がって5-4-1を形成。
「Si dispongono con un 1-5-4-1 ancor più allineato e stretto(よりコンパクトな1-5-4-1の形をとる)」。
サイドで数的不利になりそうな場面では、必ず2人目、3人目がカバーに入る設計になっています。
ここには、「1対1で絶対勝て」というより、「1対2、1対3にしてでも数でボールを奪う」というデ・ロッシの守備哲学が見えます。
相手ボールになった瞬間。
あなたなら、まずどこを消しますか。
ジェノアは、その答えを「縦パスのコース」と「サイドの1対1」に置いているように見えます。
強みと弱み:戦うジェノアが抱える「次の課題」
強み:強度・空中戦・サイド・即時奪回
S.W.O.T分析で挙げられているジェノアの強みは、主に次のような点です。
・「Solidità e grande compattezza difensiva(守備の安定とコンパクトさ)」
・フィジカルの強いセンターバックと空中戦の強さ(オースティガード、バスケス、マルカンダッリ)
・1対1に強いサイドバック(ノートン=カフィ、マルティン)
・チーム全体でのゲーゲンプレスと連動守備
・フレンドルプ、ノートン=カフィといった「戦術のキーマン」の存在
そして、大きなチャンスとなっているのがセットプレーです。
「Sfruttare al massimo le palle inattive(セットプレーを最大限に活かす)」。
高いCB陣とマルティンのキック精度は、拮抗した試合を決める武器になり得ます。
弱み:フィニッシュと「ピッチ上の司令塔」の不在
一方で、課題もはっきりしています。
・「Difficoltà nel concretizzare occasioni da gol(チャンスをゴールに結びつける難しさ)」
・「Possesso palla sterile e inefficace(内容の伴わないポゼッション)」
・各ラインに“絶対的リーダー”が少ないこと
・中盤に明確なレジスタがいないこと
レジスタ不在は長所にも短所にもなります。
「L’assenza di un vero e proprio regista permette all’avversario di aggredire il portatore(レジスタがいないことで、相手はボールホルダーを狙いやすくなる)」。
誰もが少しずつ組み立てられる反面、「困った時に預けられる1人」がいないのです。
あなたなら、このジェノアにどんなタイプのレジスタを加えたいと思うでしょうか。
マリノフスキのような攻撃的レジスタか。
それとも、後方から落ち着いて試合をコントロールできる“ピルロ型”か。
「学ぶクラブ」としてのジェノア:私たちへの問いかけ
デ・ロッシのジェノアをじっくり見ていると、ある共通のメッセージに気づかされます。
それは、「ポジションよりも、役割と判断が大事だ」ということです。
バスケスはセンターバックでありながら、中盤に現れます。
ノートン=カフィはサイドバックでありながら、ウイングのように振る舞います。
フレンドルプは守備的MFでありつつ、時にゲームメイカーにもなります。
「Non esistono ruoli prestabiliti(決めつけられた役割は存在しない)」。
だからこそ、このチームは、サッカーを学ぶすべての世代に問いを投げかけてきます。
・ポジションに縛られすぎていないか。
・チームのために、自分の役割を柔軟に変えられているか。
・ボールがない時、仲間が困らない位置に立てているか。
観る者にとっても、プレーする者にとっても、「考え続けること」を求めてくるチーム。
それが、デ・ロッシのジェノアです。
最後に、サッカーにもよく当てはまる言葉を添えて終わりたいと思います。
「La tattica è l’arte di usare al meglio ciò che si ha, non ciò che si vorrebbe avere.(戦術とは、“欲しいもの”ではなく“今あるもの”を最大限に活かす技術である)」。
ジェノアの今季は、まさにその言葉を証明する旅の途中なのかもしれません。
