ブルーノ・フェルナンデスはハットトリック直後、自分の記録より先にセシュコへ歩み寄った

ブルーノ・フェルナンデスはハットトリック直後、自分の記録より先にセシュコへ歩み寄った

記録より先に、仲間のもとへ歩いた
ハットトリックを達成した直後に、ブルーノ・フェルナンデスがまず向かったのはベンチのセシュコだった。プレシーズンで2本外してもPKを蹴り続け、負けることへの強烈な苦しみを抱えながらキャプテンとして立ち続けること。その積み重ねが、チームにとって不可欠な存在を作っている。

試合が終わっても、彼は動いていた

最終ホイッスルが鳴った瞬間、ブルーノ・フェルナンデスがまず向かったのはベンチに下がっていたベンジャミン・セシュコのもとだった。

ハットトリックを達成した直後であっても、彼の頭の中には試合中に通せなかったパスの軌道が残っていたのだろう。

「あそこの局面、こうすれば届いたはずだ」と伝えようとしたのか、それとも「次にまた同じ場面が来たときに一緒に解決しよう」という意味だったのか、正確なことは本人にしかわからない。

ただ、それほど自然に、試合の外側にはみ出すように動いた姿には、何かが宿っていた。

崩れかけた午後と、31歳のキャプテン

先制を許した時間帯に何が起きていたか

オールド・トラフォードで行われたイプスウィッチ・タウン戦、マンチェスター・ユナイテッドは序盤に失点を喫し、試合の入りとしては決して良いものではなかった。

スタジアムの天井からは雨漏りがあったという。

天候も、状況も、試合の流れも、何かが噛み合わないまま時間が経過した。

そんな中でフェルナンデスは、最初から目立っていたわけではない。

むしろ前半は存在感を消していたとも言えるほど、周囲に溶け込んでいた。

それがどこかで切り替わった。

相手のスリップからカウンターの形が生まれ、最終的にボールが自分の足元に届いたとき、フェルナンデスは躊躇なく左足を振り抜いた。

プレッシャーのかかる場面で選んだこと

同点ゴールに続いてPKを獲得した場面では、スポットに立つフェルナンデスに対して、ある事実が重なって見える。

プレシーズンで彼は2本のPKを外していた。

それを知ったうえでキッカーとして立ち続けるということは、「また外すかもしれない」という可能性と正面から向き合うことを意味する。

自分を守るために、誰かに譲ることもできたはずだ。

それをしなかった。

キッカーを続けることを自分で選んだ。

その選択が正しかったかどうかは、結果だけでは判断できないと思う。

外れていたとしても、彼がそこに立ったこと自体の意味は変わらない。

「ある日、すべてが自分のところに来ると感じることがある」

試合後、フェルナンデスはその日の感覚についてこう表現した。

特定の日に、すべてが自分に向かってくるような感覚があること。

そういう日はその流れをきちんと受け取らなければならない、と。

これはスポーツ選手が語る「ゾーン」に近い感覚かもしれないが、興味深いのはその受け取り方だ。

「運が良かった」でも「自分が引き寄せた」でもなく、「来るものを受け取る準備ができていた」という語り方に近い。

自分を主語にしながら、同時に周囲のものを読もうとしている。

こうした感覚はどうすれば身につくのか、簡単に答えが出るものではない。

ただ、何千もの試合と練習の中で少しずつ磨かれてきたものであることは、想像に難くない。

負けることへの向き合い方が、勝ちの質を変える

シーズン序盤との落差

フェルナンデスが所属するマンチェスター・ユナイテッドは、今シーズンをハル・シティへの0-2での敗北からスタートさせた。

その試合でフェルナンデス自身もチーム全体も水準を大きく下回った。

そこから半年以上が経過し、イプスウィッチ戦では5-2での勝利を収め、本人はリーグ戦通算21アシストという記録を打ち立てたことでPFAの年間最優秀選手賞を受賞した。

この落差を「成長」という一言で片付けることは難しい。

むしろ、ハル・シティでの敗北をどう処理したかが、その後の積み重なりに関係していると考えたほうが自然だろう。

「負けることがとても苦手だ」という告白

フェルナンデスは試合後に、敗戦後に感情をコントロールすることが自分には非常に難しいと打ち明けた。

負けている期間、前向きでいることは本当に大変だとも言った。

「勝利への強烈な執着」は、裏返せば「敗北への強烈な苦しみ」でもある。

それを持ちながらも続けることが、キャプテンとして要求される。

このことは、日本のサッカー現場にも重なる部分がある。

若い選手たちが「負けてもいい」「気にしなくていい」という言葉で慰められる場面を目にすることがある。

一方で、負けることへの怒りや悔しさを抱えることが、その後の選択の質を変えることもある。

感情を消すのではなく、それをどこに向けるかが問われているのかもしれない。

契約と立場の中で、人は何を選ぶか

フェルナンデスをめぐる状況は、試合内容だけで語れるものではない。

契約は最終年に入っており、クラブには延長オプションがある。

ヨーロッパの複数クラブが関心を持っているとされ、31歳という年齢は移籍市場においてまだ価値を持つ。

にもかかわらず、彼が試合後に真っ先にしたことは、自分の身の振り方についてではなく、後輩の動き方についての会話だった。

自分の次のキャリアについて考える時間が全くないわけではないはずだ。

それでも試合直後の思考が向いた先は、ピッチの延長線上にあった。

ハットトリックの試合球を受け取ることすら、一度忘れていた。

審判から手渡されたボールを抱えながら、彼はロッカールームへと向かっていった。

彼はまた次の試合に向かっていく

マンチェスター・ユナイテッドのシーズンはまだ続く。

フェルナンデスの契約問題も、チームの立て直しも、整理されていないことは多い。

次の試合でも、同じように難しい時間帯が来るだろう。

先制を許す展開になるかもしれない。

PKを外すかもしれない。

それでも彼は、キャプテンマークを巻いてピッチに立つ。

試合前には若いチームメイトと何かを確認し合い、試合後には通じなかったパスについて話しかける。

そういう人間がいることで、チームは何かを保ち続ける。

フェルナンデスは次節もまた、同じようにウォームアップのルーティンをこなし、同じようにスタメンの列に並び、同じようにキックオフの笛を待つ。

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「すべてが来る日」の感覚はどこから生まれるか

スポーツ選手が「自分のところに全部が来る」と感じる日について、心理学では「フロー状態」として研究されてきました。集中が自然に深まり、判断と行動が一体になり、時間の流れが変わります。選手が語る「ゾーン」と重なる状態です。

「運が良かった」でも「引き寄せた」でもなく、状況を処理する速度と精度が一時的に上がる状態です。意図的に作れるものではありませんが、反復によってその確率は上げられると言われます。何千回もの判断と修正の積み重ねが、ある日「受け取れる状態」として現れます。

フェルナンデスが「そういう日はその流れをきちんと受け取らなければならない」と言ったとき、興味深いのはその受動性です。「自分が作った」ではなく「来たものを受け取った」という語り口の中に、長年の反復で磨かれてきた何かが見えます。

この状態を育む環境として挙げられるのは、判断に対して結果が即座に返ってくる場面の多さです。練習の中でいかに本物の決断を繰り返させるかが、指導の一つの軸になります。

負けることと、立ち続けることの間で

  1. PKを外した後にもう一度スポットに立つ選手には、その選択をした理由があります。「勇気がある」と外から評価する前に、本人の言葉で聞くことで、その選手が何を大切にしているかが見えてきます。
  2. 試合終了直後の行動は、試合中の思考の延長にあります。選手が試合後に何へ向かうかを観察することで、試合中に何を考えていたかの手がかりになります。
  3. 負けた後に感情をコントロールすることの難しさを、選手が自分の言葉で話せているかを確認します。「気にするな」で終わらせず、その感情をどこへ向けるかを一緒に考える時間が、長期的な成長につながります。
CONVERSATION PARTNER / ある元プレーヤーから、ひとつ視点を

プロとしてのキャリアを諦めることになった年のことを、ふとした瞬間に思い出す。あのとき自分には、次も立つという選択ができなかった。外した後にもう一度同じ場所へ向かい続けることが、どれほど難しいかを、体の記憶として知っている。

もちろん、みなさんがサッカーで経験してきた場面は、それぞれまったく違うはずです。失敗の次の場面でも同じ立場を選んだことが、あなたにもあったとしたら。そのとき、何があなたをそこに立たせたのか、少し思い返してもらえますか。

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