36歳オーバメヤンが証明した「ストライカーの価値」は年齢では測れない
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36歳のオーバメヤンが問いかける、「ストライカーの価値」とは何か
2024年の夏、多くの人は「ピエール=エメリク・オーバメヤンのトップレベルは終わった」と思っていました。
バルセロナ、チェルシーとビッグクラブを短期間で渡り歩き、情熱的なクラブであるオリンピック・マルセイユ(OM)を経て、最後はサウジアラビア。
「高給でキャリアの黄昏を過ごすスター」という、ある種“ありがちな”終着点にたどり着いたかのように見えたのです。
オーバメヤンは2024年夏、サウジのアル・カディシーヤへ移籍しました。
OMは35歳のストライカーで1000万ユーロを得て、本人は2年で850万ユーロという巨額の契約。
その決断の背景には、現実的な「お金」という理由がありました。
しかし数字を見れば、彼はまだ“終わって”はいませんでした。
35歳にしてリーグ・アンで17ゴール、ヨーロッパリーグで10ゴール。
合計30ゴール。
「もうピークは過ぎた」と考えるには、あまりに鮮烈なシーズンだったのです。
サウジからの撤退、そしてロマンチックなマルセイユ帰還
サウジでの1年間、オーバメヤンは36試合で21ゴール。
10本シュートを打てば約2本がゴールになる決定力を維持していました。
それでも、1年で契約を解消し、彼は自ら“戻る”選択をします。
「ここにいる意味は、自分にはもうない」と感じたのでしょう。
そして訪れた、OMへのロマンチックな復帰。
スタジアムには旗と発煙筒が舞い、サポーターは彼とチームのために歌い続けました。
オーバメヤンはオレンジ色の縁なしメガネをかけ、笑顔で、誰よりもスタイリッシュな姿で再びヴェロドロームの前に立ちました。
ロベルト・デ・ゼルビ監督は、彼の復帰をこう表現しています。
「Aubameyang è come una scatola di cioccolatini.」
「オーバメヤンは“チョコレートの箱”のような存在だ。」
何が出てくるかわからない。
だからこそ、観る側の期待とワクワクが膨らむという意味でしょう。
ニューカッスル戦の4分間が示したもの
そのロマンがただの感傷ではないと証明したのが、チャンピオンズリーグのニューカッスル戦でした。
OMは試合の入りでつまずきましたが、そこからオーバメヤンが4分間で2ゴール。
試合展開も、グループの順位も、一気にひっくり返すようなインパクトでした。
1点目:角度なき場所からの“ありえない”一撃
1点目は、オーバメヤンの代名詞とも言える「裏への抜け出し」から生まれました。
スルーパスを送ったのは、彼より17歳も年下のダリル・バコラ。
「Quando lui è nato, io giocavo già nella Primavera del Milan.」
「彼が生まれた頃、僕はすでにミランのプリマヴェーラでプレーしていた。」
そんな世代差を越えて、2人は最前線でつながります。
バコラのパスに抜け出したオーバメヤンに対し、ニューカッスルのGKニック・ポープがなぜか前に飛び出します。
まだ距離はあり、そこまで脅威には見えない場面でしたが、ポープは一か八かのチャレンジを選びました。
オーバメヤンは冷静にポープをかわしてゴール方向へ。
しかし角度は極端に狭く、体のバランスは崩れかけています。
中を見れば、エリア内に走り込むピエール=エミール・ホイビュアを選ぶこともできました。
それでも、彼は迷わずシュートを選択します。
ボールは強く放たれ、一瞬ゴールの外へ向かうかと思われました。
しかし、極端なカーブがかかり、ありえない軌道でゴールへ吸い込まれていきます。
シュートの勢いで彼自身は倒れ込み、それでもネットは確かに揺れていました。
| 所属クラブ | 年齢(当時) | 成績・特記事項 | 評価 |
|---|---|---|---|
| オリンピック・マルセイユ(1st在籍) | 35歳 | リーグ・アン17G+EL10G、シーズン合計30ゴール | ◎ ピーク並みの数字を35歳で記録 |
| アル・カディシーヤ(サウジ) | 35〜36歳 | 36試合21G、10本に2本の決定率を維持 | ○ 数字は健在も「ここにいる意味がない」と1年で退団 |
| チェルシー | 33歳 | トゥヘル早期解任、チームと噛み合わず迷走 | △ 本人が「間違いだった」と認めたシーズン |
| バルセロナ(シャビ体制) | 33歳 | 16試合11G、財政難でデパイと売却対象になり放出 | ○ 結果は出たがクラブ事情で継続できず |
| オリンピック・マルセイユ(復帰) | 36歳 | 1200分未満で8G7A、CL・ニューカッスル戦で4分間2G | ◎ チームゴールの約75%に関与する欧州屈指のCF |
- 「スピードがなくなった」を「価値がなくなった」に変換しないで評価する — オーバメヤンは全盛期の爆発的スピードはないが、「どこへ走るか・いつ動き出すか」の判断精度が年齢とともに磨かれている。技術・フィジカルの変化とは別の軸で選手の成長を見る視点を持つ
- ベテラン選手の「失敗後の再起の過程」をチーム内のロールモデルとして共有する — チェルシーでの迷走を経て36歳でCLでゴールを決めるオーバメヤンの例は、若い選手に「一度つまずいても終わりではない」という具体的な物語を提供する
- 選手の特性が最大限に発揮される戦術環境を意識的に設計する — OMのデ・ゼルビ監督がオーバメヤンの動き出しに合わせてゲームを組み立てたように、「舞台装置を作ること」も指導者の重要な仕事である
2点目:教科書どおり、でも誰にも止められない「ニアへの飛び込み」
4分後に生まれた2点目は、まさにセンターフォワードの技術の結晶でした。
ティモシー・ウェアが速く、低く、鋭いクロスをニアへ送り込みます。
そこへオーバメヤンがスッと前に出て、つま先と足裏を合わせたようなギリギリのタッチでボールをゴールへ流し込みました。
「uno di quei gol in cui il centravanti è immarcabile」
「これは、センターフォワードが“マーク不可能”になる類のゴールだ。」
スピードに乗った斜めの飛び込み。
ディフェンダーが反応したときには、もうボールはネットを揺らしている。
しかも、彼は前半にいくつものチャンスを逃していました。
「È sempre stato un giocatore imprevedibile nella sua freddezza.」
「彼はいつも、『決定力』に関しては読めない部分のある選手だ。」
それでも、より難しい後半の2つを決めるあたりに、ベテランならではのメンタルと経験が見えます。
試合後、デ・ゼルビ監督はこんな言葉を残しています。
「Avevamo delle buone sensazioni su Aubameyang nel secondo tempo.」
「後半のオーバメヤンには、良い予感がしていたんだ。」
36歳、ヨーロッパ屈指のセンターフォワードという“違和感”
今季、オーバメヤンは1200分未満の出場で8ゴール7アシスト、合計15ゴールに関与しています。
およそ76分に1回、ゴールに関わるペース。
しかもデ・ゼルビ率いるOMが決めたゴールの約75%に、彼が絡んでいる計算になります。
監督は彼を称えつつ、こう冗談めかして語りました。
「Aubameyang ha un solo difetto: ha 36 anni. Mi piacerebbe che giocasse per altri 10 anni.」
「オーバメヤンの欠点はひとつだけだ。36歳だということだ。あと10年プレーしてほしいよ。」
年齢だけを切り取れば、「ベテラン」「そろそろ引退」という言葉が浮かびます。
しかしプレーを見れば、いまもヨーロッパ屈指のセンターフォワードと言っても不思議ではありません。
あなたはどう感じるでしょうか。
「36歳のストライカーが、ここまでチームの中心になれる」と想像していたでしょうか。
“湾岸行き”は選手を終わらせるのか
近年、湾岸リーグへ移籍した選手の多くは、ヨーロッパへ戻るとパフォーマンスを落としているように見えます。
フィジカルの強度、メンタルの緊張感、試合ごとのプレッシャー。
それらから少し離れた環境にいるうちに、「最高峰のサッカー」に必要な“摩擦”を失ってしまうのかもしれません。
オーバメヤンに対しても、復帰当初は懐疑的な声がありました。
「本当に前のように走れるのか」
「強度の高いリーグ・アンで通用するのか」
しかし、ピッチに戻ってきた彼は、25歳の頃のような軽やかさでスペースを駆け回っています。
全盛期ほどの爆発的なスピードはなくとも、その代わりに「どこへ走るか」「いつ動き出すか」という判断力と質が、以前よりも磨かれているようにさえ見えます。
そこで、こんな問いかけもできます。
「キャリア終盤の“お金の選択”は、必ずしも選手の物語を終わらせるのか。」
「それとも、戻ってくる覚悟があれば、再び頂点を目指せるのか。」
チェルシーでの迷走と、“間違い”からのやり直し
オーバメヤン自身、チェルシーでの2022-23シーズンを「失敗」だと認めています。
「È stato un errore.」
「(チェルシーへの移籍は)はっきり言って、間違いだった。」
バルセロナではシャビのもと、16試合で11ゴールという鋭さを見せていました。
しかしクラブは財政面から、「オーバメヤンかデパイか、どちらかを売らなければならない」状況に。
彼はこう振り返っています。
「Il Barcellona doveva vendere uno tra me e Depay e ha ricevuto solo un’offerta per me dal Chelsea.」
「バルセロナは僕かデパイのどちらかを売らなければならなくて、チェルシーからオファーがあったのは僕だけだった。」
ロンドンへの愛着、そしてトーマス・トゥヘルとの再会。
ドルトムント時代に自分を輝かせてくれた監督がいたからこそ、チェルシー行きを選んだ面もあったのでしょう。
しかしクラブはすぐにトゥヘルを解任し、チームは迷走。
オーバメヤン個人にとっても、チームにとっても、噛み合わない時間が続きました。
「一度つまずいたストライカーが、そこからどう戻ってくるのか。」
そのひとつの答えが、いまのマルセイユのオーバメヤンなのかもしれません。
オーバメヤンを輝かせるOMの“舞台装置”
現在のOMは、オーバメヤンがもっとも得意とする状況を作り出せるチームです。
サイドには彼のためにスペースを開け、パスを供給するウイングが揃い、彼の動きに合わせてゲームを組み立てます。
オーバメヤンは、もともと「ボールを持っていない時の動き」の天才でした。
最終ラインの裏へ抜けるタイミング、相手の視線から消えるポジショニング。
その感覚は、時に“神がかっている”と表現されるほどです。
戦術的にオープンな傾向があるリーグ・アンでは、その資質がさらに際立ちます。
相手DFは、気づいたときには彼をゴール前で見失っている。
OGCニース戦でのゴールなどは、まさに「どこから現れたのか」と言いたくなるような飛び出しでした。
フィニッシュの局面でも、彼のタッチは軽やかです。
ふわりと浮かすループ、インサイドでの逆を突くシュート、頭でのゴールもキャリア晩年のいまの方がむしろ増えています。
もちろん、決定機を外したときには「軽すぎる」「ふざけているように見える」と批判されることもあります。
けれど、それも含めて彼のスタイルであり、魅力なのでしょう。
“9番不況”のヨーロッパで、36歳のストライカーを見る意味
いま、ヨーロッパの多くのクラブが「本物のセンターフォワード」を探し求めています。
アーリング・ハーランド、キリアン・エムバペという特別なタレントを除けば、今季ここまで順調にゴールを重ねている9番は、ストラスブールのパニケッリ程度。
それ以外の多くのストライカーは、得点に苦しみ、試合ごとのプレッシャーを重ねるごとに、顔つきも重くなっているように見えます。
そんななかで、オーバメヤンのプレーは一種の“清涼剤”のように感じられます。
ゴールへ向かう動き、その瞬間の集中力、そしてネットを揺らしたあとの喜び方。
36歳になっても、彼はゴールと非常に“親密な関係”を保ち続けています。
あなたは、どのような9番が好きでしょうか。
ゴリゴリと体をぶつけ合うターゲットマンか。
ライン間で顔を出す偽9番か。
それとも、オーバメヤンのように、いつの間にか裏に抜け出している“影のようなストライカー”でしょうか。
「終わった」と言われてからが、物語はおもしろい
オーバメヤンのキャリアを振り返ると、「もう終わりだ」と言われたあとにこそ、印象的なシーンが生まれているように見えます。
チェルシーでの迷走。
サウジアラビア行き。
そこから、再びヴェロドロームで炎のようなサポーターの前に立ち、チャンピオンズリーグで決定的な2ゴールを決める。
サッカーは、選手の年齢をとてもシビアに見つめるスポーツです。
「もう若くない」
「ピークを過ぎた」
「次のスターに席を譲るべきだ」
そうした見方も、もちろん現実です。
しかし一方で、36歳のオーバメヤンがヨーロッパの最前線でゴールを決め続けているという事実は、こんな問いかけもしてくれます。
「本当にサッカー選手の価値は、年齢だけで測れるのか。」
「“終わった”と決めつけてしまうことで、僕たちはいくつの物語を見逃しているのか。」
もしかしたら今、サッカーを観ている子どもたちにとって、ニューカッスル戦の2ゴールは「オーバメヤンとの最初の思い出」になるかもしれません。
一方で、ドルトムント時代、アーセナル時代から彼を見てきた大人のファンにとっては、「まだこんなゴールを見せてくれるのか」と胸が熱くなる瞬間だったかもしれません。
世代を超えて同じ選手を見つめられること。
それもまた、サッカーの楽しさのひとつではないでしょうか。
最後に、この物語にふさわしい言葉で締めくくりたいと思います。
「Age is no barrier. It’s a limitation you put on your mind.」
「年齢は障害ではない。それは自分の心が作り出す限界にすぎない。」(ジャッキー・ジョイナー=カーシー)
- 好きな選手を「年齢」や「クラブの格」だけで評価しない目を養う — 36歳がCLで決定的な2ゴールを決めることは起きる。数字と実際のプレー映像を合わせて選手を評価する習慣が、サッカーを深く見る力につながる
- 自分の「得意な動き」を年齢の変化に合わせて磨き続けることを意識する — オーバメヤンはスピードより「ニアへの飛び込みタイミング」「相手DFが反応できないポジション選択」が年齢とともに洗練されている。自分の得意軸を見つけて深める
- 失敗やスランプの時期に「自分が最も力を発揮できる場所」を知っておく — チェルシーでうまくいかなかったオーバメヤンがマルセイユという場所に戻ることで再び輝いたように、自分が活きる環境を知っておくことがキャリアの土台になる
