ペッレグリーノ・マタラッツォという「新しい建築家」が描くレアル・ソシエダの未来図
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ペッレグリーノ・マタラッツォという「新しい建築家」 レアル・ソシエダが選んだ未来図

スペインのサン・セバスティアン。 クリスマス前後、レアル・ソシエダのサポーターにとって耳慣れない名前がクラブの新監督として発表されました。 ペッレグリーノ・マタラッツォ。 アメリカ生まれ、イタリア系のバックグラウンドを持ち、ドイツで指導者として磨かれてきた監督です。
クラブがリストアップしていたのは、ティアゴ・モッタ、マルコ・ローゼ、ガルシア・ピミエンタ、そしてマタラッツォ。 その中でレアル・ソシエダが「未来を託す監督」として選んだのが、ブンデスリーガでシュツットガルト、ホッフェンハイムを率いてきたこの指揮官でした。
就任会見で、彼はこう語りました。 「Hay que hablar de nuestro progreso y de cómo atacamos los espacios. De defender mejor. Necesitamos crear claridad para ver cómo generamos fútbol. Ese es mi trabajo.」 「私たちの成長、そしてどのようにスペースを攻撃していくかを語らなければなりません。守備も良くしなければならない。どのようにサッカーを生み出すのか、その“明確さ”を作る必要があります。それが私の仕事です。」
さらに続けて、 「conectar a los jugadores y que sepan lo que tienen que hacer en cada momento」 「選手同士をつなぎ、彼らが“今この瞬間に何をすべきか”を分かっている状態を作ることが必要です」 と説明しました。
ホッフェンハイムで中位からヨーロッパ圏内を狙えるチームに押し上げたように、 レアル・ソシエダでもチームの長所を最大化し、ラ・リーガでの順位を押し上げ、再び欧州の舞台へ導くこと。 それがマタラッツォに託されたミッションです。
では、この「新しい建築家」はどんなサッカーを設計しようとしているのでしょうか。 シュツットガルト、ホッフェンハイムで見せてきたスタイル、そしてレアル・ソシエダでの序盤の試合から、その輪郭を一緒に見ていきましょう。
中央を守るという発想 「5バック」の本当の意味
マタラッツォのサッカーを語るうえで、まず触れたいのが「中央を守る」という思想です。 シュツットガルト時代、彼は3バックをベースにした「3-4-2-1」や「3-5-2」を多く用いました。 それは単なるフォーメーションではなく、「どう守り、どう攻めるか」を形にしたプラットフォームでした。
センターバックのヴァルデマール・アントン、コンスタンティノス・マブロパノス、伊藤洋輝らは、ただラインを並べて守るだけではありません。 一人一人が「段差」をつけて立ち位置を変え、相手のプレスを引きつけ、インサイドのパスコースを作り出していました。 ボランチの遠藤航や、ハーフスペースに立つ選手たちへ、縦パスを通すための「仕掛け」として後ろの選手が動いていたのです。
とくに興味深いのは、中央の守り方です。 3人のセンターバックと、ポジションを崩さないボランチ。 この4人で中央のレーンを閉じることで、相手にサイドから攻めさせるよう誘導していました。 中央を固め、サイドにボールを追い込んでから、連動したスライドとカバーで奪い取る。 守るためだけでなく、相手の「攻め方」をコントロールする守備です。
ボールを持っていないときには、「5-3-2」や「5-4-1」の形でリトリート。 ライン間の距離を短く保ち、中央とサイドの間のスペースをしっかり閉じる。 ホッフェンハイムではアルトゥール・シャーヴェスやケヴィン・アクポグマが、そのインサイドの安定を支えていました。
レアル・ソシエダでの初期は、4バックを採用する時間帯が多く見られます。 それでも「中央を守る」という軸は変わっていません。 ジョン・マルティン、ドゥイェ・チャレタ=ツァル、カルロス・ソレール、ベニャト・トゥリエンテスらが、中央のレーンを優先的に保護しつつ、サイドに追い込む守備でチームの土台を固めています。
フォーメーションの数字は変わっても、「中央を閉じて、サイドへ追い込む」。 ここにマタラッツォの守備哲学が一貫して見えてきます。 皆さんは、好きなチームの試合を観るとき、どれだけ「中央の守り方」に注目しているでしょうか。 点を取るシーンだけでなく、こうした守備の準備にも目を向けると、サッカーは一段と奥行きのあるスポーツに見えてきます。
センターバックは「つなぐ司令塔」 レアル・ソシエダのビルドアップはどう変わる?
マタラッツォのチームでは、ビルドアップは「前に運ぶための創造的な行為」として位置づけられています。 単に安全にパスを回すのではなく、相手を引きつけてスペースを生み出すための仕掛けです。
ホッフェンハイムでは、センターバックのシャーヴェスやアクポグマが、ただボールを預けるだけでなく、自らドリブルで運び、相手FWを引き出し、縦パスを差し込む役割を担いました。 彼らが前進することで、フロリアン・グリリッチュやトム・ビショフがライン間でフリーになり、さらにアンドレイ・クラマリッチが中間ポジションでボールを受ける。 こうして、チームは相手のプレスを「誘い込みながら」一枚一枚はがしていきました。
攻撃時の構造は「3-2-5」。 ウイングバックは高い位置をとり、ハーフスペースには攻撃的MFが立ちます。 最初のラインと中間のラインで数的優位を作り、個人ではなく「構造」で相手の守備を崩していくイメージです。
特徴的なのが、センターバックのローテーションです。 最初のパスを出したサイドへセンターバックがずれることで、反対側のウイング/ウイングバックがフリーになりやすくなります。 GKが同じセンターバックにパスを繰り返すことで、相手FWに「出るか・出ないか」の判断を迫り、その迷いの裏にスペースを生む。 こうした細かな「駆け引き」が組み込まれているのです。
レアル・ソシエダでも、形は「4-4-2」や「4-2-3-1」に寄りながら、考え方は同じです。 プレッシャーを引きつけてから、中央に縦パスを打ち込む。 そのために、センターバックやボランチの立ち位置を工夫して、前線のミケル・オヤルサバルやブライス・メンデスに有利な形でボールを届ける。 ビルドアップからゴール前までが、一本の線でつながってくる設計です。
皆さんがボールを持ったとき、「どこに出そう?」と迷う瞬間があるかもしれません。 マタラッツォのサッカーは、その迷いを「仕掛け」に変えようとしています。 あえて相手を引きつけて、空いたスペースを見つける。 サッカーをするうえでの「勇気」と「工夫」を、後ろの選手にまで求めているのです。
奪いに行く勇気 プレッシングと「すぐ奪い返す」カウンタープレス

マタラッツォのチームに共通するもうひとつの柱が、「積極的なプレッシング」と「即時奪回(カウンタープレス)」です。
シュツットガルトでは、次のような瞬間に一気にプレッシャーをかけていました。
・後ろ向きのコントロールをしたとき
・横パスがゆっくり出たとき
・相手の身体の向きが窮屈なとき
こうした「相手が苦しい瞬間」をトリガーに、サイドハーフやボランチが一斉に前へ出ていきます。
ボルナ・ソサやアハマダ、アントンらがボール保持者に寄せながら、内側のパスコースを消し、相手をロングボールに追い込む。 プレッシングは単に「ボールを奪う」ためだけのものではなく、「相手の選択肢を限定する」ための武器になっていました。
ホッフェンハイムでは、ボールを失った瞬間の「四角形のプレッシング」が象徴的です。 グリリッチュ、ビショフ、アントン・シュタッハらが、ボールの周りで四角形を描くようにポジションを取り、相手に前を向かせない。 もし高い位置で奪い切れないと判断したら、素早く「5-3-2」のブロックに戻り、再び中央を閉じる。 その切り替えの速さも、マタラッツォサッカーの特徴と言えるでしょう。
レアル・ソシエダでは、プレッシングの基本形として「4-4-2」が使われています。 ブライス・メンデスがセンターバックにプレッシャーをかけ、ミケル・オヤルサバルがGKに寄せていく。 その背後では、トゥリエンテスとソレールが相手ボランチをしっかり捕まえ、ボールサイドのウイングがサイドの出口を消します。 「誰が出て、誰が消すか」が整理されているからこそ、全体として前向きな守備が成立しているのです。
見ている私たちにとっても、「ボールを失ったあとの一瞬」に注目すると、サッカーの見え方が変わります。 すぐに奪い返しに行くチームか、いったん引いて整えるチームか。 レアル・ソシエダは、マタラッツォのもとで、どちらの判断も使い分けられるチームへと進化しようとしています。
ポジショナルプレーと「自由の中のルール」 オヤルサバルと久保建英の役割
攻撃面でのマタラッツォは、「自動運転のような動き」よりも「原則の中の自由」を重視しています。 決められたパターンではなく、状況を読みながら、選手たちが自ら最適解を選べるようにすること。 そこに、UEFA Proライセンスを持つ戦術家としてのこだわりが見えます。
3-4-2-1では、インサイドの2人が重要な役割を担います。 彼らは相手ボランチを引き寄せながら、サイドや中央に三角形を作ります。 ウイングバックはピッチの幅を取り、FWは中央とサイドの間(インターバル)を狙って走り込む。 ボールホルダー・サポート・裏へのラン。 この3つがどのエリアでも自然に作られるように設計されているのです。
ホッフェンハイムでは、ヤコブ・ブルーン・ラーセンやアダム・フロジェクがインサイドで集まり、ウムト・トフムチュとともに相手ボランチを中に引きつけた瞬間、 「Pavel Kadeřábek」 「パヴェル・カデラベク」 が外側から一気に斜めに走り出し、クロスでフィニッシュにつなげるパターンが多く見られました。
レアル・ソシエダでは、その役割を担うのがミケル・オヤルサバルとブライス・メンデスです。 彼らは「セカンドストライカー」のように位置を変えながら、内側でボールを引き出します。 一方、セルヒオ・ゴメスと久保建英がサイドの幅を取り、タイミング良く裏へ抜ける役割を担います。
オヤルサバルが中に降りてボールを受けた瞬間、
・ブライスが背後へのランでCBとSBの間を突くのか
・久保がワイドからカットインするのか
・あるいはセルヒオ・ゴメスがオーバーラップするのか
その選択肢が多いほど、守る側の迷いは増していきます。
ポジショナルプレーというとむずかしく聞こえるかもしれません。 でも根っこにあるのは、「誰かがボールを持ったとき、味方がどこに立つと相手は嫌か?」という、シンプルな問いです。 マタラッツォはそれを「原則」として共有しながら、選手たちが自由に解決策を選べるサッカーを目指しているように見えます。
皆さんがチームでプレーするとき、監督に「ここにいなさい」と細かく言われすぎて、窮屈に感じることはないでしょうか。 マタラッツォのスタイルは、ルールを持ちながらも、その中での自由を認める方向にあります。 サッカーを「考えながら楽しむ」ための仕組みづくりとも言えるかもしれません。
試合の流れを読む力とセットプレー 「ゲームを動かす監督」として
マタラッツォが評価されているポイントのひとつが、「試合の文脈を読む力」です。 同じゲームの中で、3-4-1-2から5-3-2へと移り、サイドの守備を強化することもあれば、中央の制圧を狙ってボランチを一枚増やし、3-1-4-2で相手の中盤に圧力をかけることもあります。
ビハインドのときには、ウイングバックを高い位置まで押し上げ、2トップで相手のCBとSBの間を徹底的に突く。 一方でリードしている場面では、中盤の厚みを増やし、カウンターに備える。 変えているのは「形」だけでなく、「試合をどうコントロールするか」という意図そのものです。
そして忘れてはいけないのが、空中戦とセットプレーへのこだわりです。 マタラッツォは、クロスからの得点やキックオフ前・CK・FKなど「止まった状態からの一手」を非常に重要な武器として扱っています。 サイドからのクロスでは、多くの選手をエリア内に送り込み、相手のマークの基準を崩す。 CKではゾーンとマンマークを組み合わせながら、「どのエリアに、どの高さのボールを入れるか」を明確にしています。
レアル・ソシエダにとっても、これは大きな武器になり得ます。 オヤルサバルやブライス・メンデスのキック精度、チャレタ=ツァルやジョン・マルティンの高さ。 ここに戦術的な工夫が加わってくると、接戦を1点差でモノにする力が増していくでしょう。
技術や戦術だけでなく、「試合の流れ」をどう読むか。 私たちが観戦するときも、「なぜ今システムを変えたのか」「なぜここでセットプレーの形を変えたのか」を意識して眺めると、 監督の視点に少し近づけるかもしれません。
レアル・ソシエダとマタラッツォ 私たちへの問いかけ
レアル・ソシエダは、伝統的に育成とスタイルを大切にしてきたクラブです。 そのクラブが、アメリカ、イタリア、ドイツのエッセンスを併せ持つ監督を選んだ。 そこには、「自分たちのスタイルを守りながら、次の段階に進みたい」という明確な意思が見えます。
マタラッツォは「分析的なアプローチ」「ダイナミックで直接的なドイツ的スタイル」「イタリア流の戦術的秩序」を自らの中に融合させています。 そしてレアル・ソシエダの選手たちを、就任前から細かく分析し、「どうすれば彼らの良さを最大限に引き出せるか」を考えてきました。
私たちサッカーファンにとって、この新しい挑戦はどのように映るでしょうか。 守備のとき、チームはどれだけ「中央」を大事にしているか。 ボールを持ったとき、後ろの選手はどれだけ「前進する勇気」を持っているか。 失った瞬間、どれだけ「すぐに取り返そう」としているか。 そして攻撃のとき、選手たちは「決められた動き」ではなく、「原則の中で自ら選択」できているか。
レアル・ソシエダとマタラッツォのサッカーを追いかけることは、私たち自身がサッカーを学び直す機会にもなります。 小学生の選手も、大人のサポーターも、同じ試合を見ながら、 「いま、どうしてそのパスを選んだのだろう?」 「なんでここで4バックから5バックに変えたのかな?」 そんな問いを口にしてみるだけで、ピッチで起きていることが違って見えてくるはずです。
監督、選手、サポーター。 それぞれの立場は違っても、「サッカーをよくしたい」という願いは同じです。 マタラッツォが言う「claridad(明確さ)」は、ピッチの上だけでなく、私たちの「見方」にも求められているのかもしれません。
最後に、サッカーにも通じる言葉を添えたいと思います。 「El fútbol es el juego infinito de aprender cada día.」 「サッカーとは、毎日少しずつ学び続ける“終わりなきゲーム”である。」
| 戦術要素 | シュツットガルト/ホッフェンハイム | レアル・ソシエダ | 継承/変化 |
|---|---|---|---|
| 基本フォーメーション | 3-4-2-1、3-5-2 | 4バック中心(4-4-2、4-2-3-1) | △ フォーメーション変化 |
| 守備の核心思想 | 中央を閉じサイドへ追い込む | 同じく中央優先保護+サイド誘導 | ◎ 継承 |
| ビルドアップ方式 | CBが前進して相手FWを引き出す | CBとボランチの立ち位置で縦パスコースを作る | ◎ 継承 |
| 攻撃時の構造 | 3-2-5(ウイングバック高位置) | ウイングとSBが幅と内側を分担 | ○ 柔軟化 |
| プレッシング | 後ろ向きコントロール等のトリガーで一斉プレス | 積極プレッシング+即時奪回の連続 | ◎ 継承 |
| CB役割 | シャーヴェス・アクポグマが自らドリブルで前進 | ソシエダCBも縦パスを通す判断を求められる | ◎ 継承 |
- 守備のゴールを「ボールを奪う場所をデザインすること」と定義する — 中央を閉じてサイドへ追い込み、スライドとカバーで奪う。どこで守るかを戦術的に設計することで守備が単なる反応でなくなる
- センターバックに「前進する判断」を求める — CBが相手FWを引き出すためにドリブルで運ぶことでライン間の選手がフリーになる。後ろの選手にも「仕掛け」の役割を与える
- フォーメーションの数字より「役割の明確さ」を優先する — マタラッツォは就任会見で「今この瞬間に何をすべきか分かっている状態を作ることが仕事」と語った。数字より選手の判断のクリアさを最優先にする
- 得点シーンだけでなく「守備がどこに追い込んでいるか」を観る — マタラッツォのチームは中央を閉じてサイドへ誘導する。この守備の設計が見えると試合観戦が一段と面白くなる
- ボールを持ったときの「迷い」を「仕掛け」に変える意識を持つ — あえて相手を引きつけてから空いたスペースへパスを出す。迷いは実は相手を動かすチャンスになる
- 後ろの選手こそ「勇気」と「工夫」が必要だと理解する — マタラッツォはGKやCBにも積極的なプレー判断を求める。守備的なポジションでも創造的なプレーが現代サッカーを面白くする
