セビージャが“降格圏一歩手前”から示した決断のサッカー――アダムスのPKとグデリの一歩が教える「諦めない」の本当の意味
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なぜセビージャは、降格圏からの一歩を「アトレティコ戦」で踏み出せたのか

PKスポットに立つアコル・アダムスの「10秒間」
前半まだ立ち上がり、6分。
アトレティコ・マドリーのディフェンスが、セビージャのイサック・ロメロをペナルティエリア内で倒した。
スタジアム全体が一瞬ざわめき、すぐに歓声に変わる。
PK。
ボールを手に取ったのはアコル・アダムス。
目の前には、ビッグクラブ・アトレティコのゴール、そして守護神フアン・ムッソ。
セビージャは今シーズン、降格圏に沈み続け、3月28日にルイス・ガルシア・プラサが新監督として就任したばかり。
クラブのモットーは「彼らは決して諦めない」と言われるが、勝てない日々が続けば、その言葉もどこか遠く感じる時間があったはずだ。
それでも、この瞬間だけは、アダムスひとりの決断と技術に委ねられている。
助走の歩幅、蹴るコース、強さ。
「決めなければいけない」プレッシャーと、「自分は何を選ぶのか」のあいだで、10秒にも満たない時間の中で彼はひとつの答えを選び、ゴール左へ蹴り込んだ。
10分、1-0。
彼の選択は、結果として「正解」になった。
けれど、ここで大事なのは、入ったか外れたかよりも、その前にどんな迷いや計算があったのか、ということかもしれない。
| 観点 | 安全志向の選択 | セビージャが取った選択 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 失点直後の姿勢 | ショックを引きずり守備的に撤退 | 前向きなランニングを継続 | ◎ 継承 |
| 勝ち点の狙い | 勝ち点1で割り切りリスク最小化 | 勝ち点3狙いでアグレッシブ | ○ 攻めの選択 |
| 前半ATのクロス | 迷ってショートに逃がす | バルガスが迷わずピンポイントへ | ◎ |
| ゴール前の飛び込み | 半歩ためらい様子見 | グデリが全身で突入しヘディング | ◎ |
| 試合後の振り返り軸 | 結果の○×だけで判定 | 選んだ理由と次への工夫を問う | △ 本文が提案する姿勢 |
「大きくローテーションしたアトレティコ」と向き合う難しさ
この日のアトレティコは、チャンピオンズリーグでバルセロナに勝利した直後の試合だった。
3位浮上のチャンスもあったが、ディエゴ・シメオネはメンバーを大きく入れ替え、Javier Boñar(ボニャール)などBチームの選手を起用して臨んだ。
ふだん出ていない選手がチャンスをもらう試合は、一見すると「相手が弱い」と考えたくなる。
だが、実際にピッチで対峙する側からすると、むしろ厄介な相手でもある。
なぜか。
- 映像やデータが少なく、個々の特徴をつかみきれない
- 「このチャンスでアピールしたい」と、強いエネルギーで向かってくる
- チームとしても、いつもと違う形で予測がしづらい
実際、アトレティコB所属のボニャールは、この日トップチーム初先発でプロ初ゴールを決めている。
1-0でリードしながら、35分に同点に追いつかれたセビージャ。
「降格圏から抜け出したい」チームにとって、リードを守り切れなかった現実は重い。
スタンドには、今季何度も味わってきた、あの嫌な感覚がよぎったかもしれない。
ここで問われたのは、戦術よりもむしろ、心と頭の使い方だったのではないか。
- スタンスを言語化する — 「今日は勝ち点3狙い」か「勝ち点1でいい」かを試合前にチームで決め、失点後も全員で共有する
- 結果より「決める前の一歩」を評価する — クロスの供給者・飛び込む選手の「信じ切った一歩」を振り返り映像でピックアップする
- うまくいかなかった場合までセットで選ぶ — 「この選択で外した時、どう受け止めるか」を練習時点で選手に問いかけ、選択を本人に引き受けさせる
「諦めない」とは、何を諦めないことなのか

セビージャのモットーは、「彼らは決して諦めない」と言われる。
だが、実際にピッチに立つ選手たちは、「何を」諦めないのかを、ひとりひとりで選び続ける必要がある。
1-1になったあと、彼らにはいくつかの選択肢があったはずだ。
- 失点のショックを引きずり、守備的になってしまう
- 「勝ち点1でいい」と割り切り、リスクを抑えたゲームに切り替える
- あくまで勝ち点3を目指し、アグレッシブに戦い続ける
順位表を見れば、勝ち点1も決して無駄ではない。
しかし、その「安全な選択」は時に、チームが抱える迷いや不安を、より強くしてしまうこともある。
新監督ルイス・ガルシア・プラサが、どのようなメッセージを送り続けていたのか。
細かい言葉まではわからなくても、選手のプレーからは「引かない」という意志がにじんでいた。
ミスを恐れてボールを下げるのか。
あるいは、リスクを引き受けて、前に運ぶのか。
「諦めない」とは、スコアをひっくり返すことだけではなく、自分たちが試合前に決めたスタンスを、たとえ状況が悪くなっても手放さないことなのかもしれない。
- PKスポットの10秒を想像する — 助走・コース・強さを蹴る前に決め、自分なら何を選ぶかをイメージしておく
- 失点後の立ち振る舞いを観察する — チームがリスクを取り続けるか下がるかで、監督の狙いと選手の覚悟が見える
- 結果の○×を急がない — 子どものプレーも「なぜそう選んだか」を親子で話すと、次の試合の準備が変わる
前半アディショナルタイム、グデリの一歩
前半終了が近づいた45+2分。
右サイドからのクロスに、ネマニャ・グデリが勢いよく飛び込む。
クロスを供給したのはルベン・バルガス。
ボールはまさに「ここに入れてほしい」というポイントに届き、グデリは全身をぶつけるようにヘディングで叩き込んだ。
2-1。
シンプルなクロスとヘディングに見えるが、その裏側にもいくつもの選択と判断がある。
- バルガスは、マイナスに折り返すのか、ニアを狙うのか、ファーを見つけるのかを、ほんの一瞬で選んでいる
- グデリは、あえてペナルティエリア外で構えるのか、それともゴール前へ飛び込むのかを、事前に決めて走り出している
- どちらも、「ここに出る」「ここに走る」と決めたあと、最後までその選択を信じきっている
たとえば、バルガスが最後の瞬間に迷って、クロスをやめてしまったら。
たとえば、グデリが「行くか、行かないか」で半歩ためらっていたら。
あのゴールは生まれていただろうか。
ゴールの前には、必ず「決める前の一歩」がある。
その一歩を踏み出すかどうかは、技術だけではなく、自分の選択を信じる心にもかかっている。
「勝点3以上の価値」がある試合とは
この勝利で、セビージャは15位に浮上し、マジョルカに3ポイント差をつけて降格圏から離れた。
しかも、この1試合で得た勝点は、直近5試合の合計よりも多い。
数字だけを見れば、「大きな勝ち点3」と表現されるだろう。
だが、もっと大事なのは、「この試合を通して、何を学び、何を確かめられたのか」かもしれない。
苦しいシーズンを送っているチームにとって、結果が出ない時間の中で揺れ動くのは、戦術だけではない。
- 自分たちは本当にやれるのかという自信
- 監督やチームメイトへの信頼
- 「このスタイルでいいのか」という迷い
アトレティコのような強豪を相手に、自分たちが選んだ前向きな姿勢を貫き、PKを決め、追いつかれても突き放す。
そうした一連の流れの中で、「この方向で戦っていける」という感覚を、選手やスタッフが少しでも手にできたなら、この試合の価値は勝点3にとどまらないだろう。
日本の現場に置き換えると、何が見えてくるか
この試合のストーリーを、日本のサッカーに重ねてみると、いくつかの問いが浮かんでくる。
たとえば、「降格争い」ではなく、「残り数節で上位進出の可能性がわずかに残っているチーム」や、「都大会出場をかけた最後の予選」など、日本の高校やクラブユースでもよくある状況を想像してみる。
もし、自分がそこにいる選手なら、どんな選択をするだろうか。
- 早い時間帯にPKをもらったとき、自分からボールを持つか、誰かに任せるか
- 格上相手に先制したあと、無意識に守りに入ってしまわないか
- 同点に追いつかれた瞬間、「負けなければいい」に考えを切り替えてしまわないか
また、指導者の立場で見れば、こうした場面でどんなメッセージを送り、どんな交代やシステム変更を選ぶのか。
リスクを取る判断を選手に任せるのか、自分が決めるのか。
そこにも、それぞれの「サッカー観」が現れる。
日本では、「安全な選択」「ミスをしない選択」が評価されることが多いように感じる人もいるかもしれない。
一方で、セビージャがこの試合で見せたような、「今は勝ち点3を取りにいく」という姿勢を貫くには、責任と覚悟が必要になる。
どちらが正しい、という話ではない。
大事なのは、「なぜ、いま、この選択をするのか」を、自分の言葉で説明できるかどうかだろう。
「うまくいかなかったらどうするか」まで考えておく
セビージャはこの試合で勝ったからこそ、「諦めない姿勢」が讃えられている。
では、もしボニャールのゴールで1-1のまま試合が終わっていたら。
もし、後半で逆転されて1-2で敗れていたら。
同じように、「諦めなかった」と言えただろうか。
サッカーには、どうしてもコントロールできない要素がある。
PKがポストに当たるか、キーパーに触られるか。
クロスのわずかなブレで、ヘディングの軌道が変わるか。
それでも、「自分たちはこう戦う」と決めて選んだ道は、結果に関係なく、次への材料になる。
大事なのは、「うまくいかない可能性」まで含めて、その選択を引き受けているかどうか。
もしうまくいかなかったとき、自分はどう受け止めるのか。
- 選択そのものを否定して、「あのとき守っておけばよかった」と後悔するのか
- 選んだ理由を振り返り、「次はどう工夫するか」を考えるのか
試合中の判断は一瞬だが、その後の振り返りは時間をかけて行うことができる。
この「答えを急がない姿勢」が、選手やチームの成長を支えていくのではないだろうか。
「自分ならどうする?」と問いかけてみる
セビージャ対アトレティコの2-1というスコアだけを見れば、「セビージャが貴重な勝利を挙げ、降格圏を脱した」とまとめることができる。
しかし、その裏側では、PKスポットに立つアダムスの10秒、同点に追いつかれたあとも前へ出るかどうかの迷い、グデリが半歩も引かずに飛び込んだ瞬間など、いくつもの小さな選択の積み重ねがあった。
試合を見ているとき、自分が選手なら、監督なら、保護者なら、どんなことを考えるだろう。
- 「ここでリスクを取っていいのか」
- 「この選手に任せていいのか」
- 「結果が出なかったとき、どう支えるのか」
画面の向こうの出来事として眺めるのではなく、自分の中に同じ問いを持ってみると、1試合の見え方は少し変わってくる。
正解は、きっとひとつではない。
それでも、「自分ならこう考える」と立ち止まる時間を持てたとき、サッカーはただの勝ち負けを超えて、もう少し深いところで、自分の選び方を映してくれる。
ピッチの上で決断を重ねる彼らの姿に、自分自身の選び方を重ねながら、次の試合を見てみるのもいいかもしれない。
ゴールが決まる瞬間だけでなく、その少し前の「一歩手前の時間」に目を向けてみると、サッカーはまた違う顔を見せてくれる。
