ラージョ・バジェカーノ 奇跡の欧州進出──イニゴ・ペレスが導いた“小さなクラブ”の知性と勇気
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ラージョ・バジェカーノ、イニゴ・ペレスと歴史的ヨーロッパ進出:小さなクラブが見せた「知性」と「勇気」
サッカーの世界には、ときに運命的な分岐点が訪れます。スペインの小さなクラブ、ラージョ・バジェカーノ(Rayo Vallecano)のここ数年の軌跡は、まさにそんな物語の一例です。その主人公の一人が、指揮官イニゴ・ペレス(Iñigo Pérez)。彼がチームに刻んだ「知性」と「勇気」は、ただ勝利をもたらしただけでなく、ラージョの歴史を大きく塗り替えることになりました。
イニゴ・ペレスと“予定外”の出発
2022年6月、イニゴ・ペレスはアンドニ・イラオラ(Andoni Iraola)の右腕としてラージョに参画し、コーチとしての第一歩を踏み出しました。当初、イニゴの道はイラオラと共にイギリス・ボーンマスへ進むはずでしたが、監督ライセンスに関わる書類不備という、望まぬ形でチャンスを逃します。しかし、人生はときに“失敗”が大きな贈り物となるものです。
「Hay veces que de los peores momentos surgen las mejores oportunidades」──「最悪の瞬間から、最高のチャンスが生まれることもある」。この言葉通り、イニゴは単独でラージョ・バジェカーノの監督へ。ここから“小さなクラブ”の奇跡が始まったのです。
| 観点 | イラオラ期(土台) | イニゴ・ペレス期(現在) | 継承/変化 |
|---|---|---|---|
| 基本フォーメーション | 4-2-3-1ベース | 4-2-3-1 ⇔ 4-4-2 可変 | ○ 柔軟化 |
| 中盤構成 | 走力重視のダブルボランチ | パテ・シス+繊細なパサー(バレンティン/ウナイ・ロペス/P.ディアス)の組合せ | ○ 役割分担の精緻化 |
| プレッシング | 前線からのハイプレス | 4-4-2シフトで中央遮断→サイドへ誘導 | ◎ 継承+進化 |
| 攻撃の核 | イシ・パラソンを起点に | イシ・パラソンを「ユニバーサルプレイヤー」として活用 | ◎ 継承 |
| 戦術的ギミック | オーソドックスな前線起用 | バルセロナ戦ではダブルストライカーの一時オフサイド配置 | △ 変化(創造性) |
| 成績的到達点 | 残留〜中位 | 創設以来初のカンファレンスリーグ出場権獲得 | △ 歴史的飛躍 |
わずか数ヶ月で残留からヨーロッパへ ──ラージョの飛躍
彼が就任したラージョ・バジェカーノは、2部降格の危機を背負う小規模クラブでした。ところが数ヶ月のうちにイニゴの戦術が根付き、クラブを見事に残留へ導きます。続くシーズンでは、ついに創設以来初の「ヨーロッパ進出」──カンファレンスリーグ(Conference League)出場権を掴み取りました。
この快挙は偶然ではありません。イニゴがもたらした綿密な戦術、そしてクラブ・選手の成長が織りなす“必然の進化”でした。かつてイラオラが構築したサッカーを継承しつつ、独自のカラーでさらに磨きをかけたのです。
- 4-2-3-1と4-4-2の可変運用を用意する — 攻撃時は4-2-3-1、プレス時は4-4-2へ移行し相手の中央侵攻を遮断する設計を持つ。
- ダブルボランチを“破壊役+パサー”で組む — フィジカル型(パテ・シス)と配球型(バレンティン/ウナイ・ロペス)を組み合わせ、守備と前進の両立を担保する。
- トップ下を起点化する — イシ・パラソン型の“ユニバーサル”選手を置き、中盤と前線を結ぶ自由度の高い10番を中心に攻撃を組み立てる。
バランスと流動性──知性が息づく戦術構造
ラージョ・バジェカーノの根幹を成すのは「柔軟なシステム」と言えるでしょう。基本形は4-2-3-1ですが、このフォーメーションは状況に応じて4-4-2へと可変。例えば、〈パテ・シス(Pathé Ciss)〉のようなフィジカルな破壊者と、〈オスカル・バレンティン(Óscar Valentín)〉や〈ウナイ・ロペス(Unai López)〉、〈ペドロ・ディアス(Pedro Díaz)〉など繊細なパサーが組み合わされ、中盤の二枚が守備と組織を保証。トップ下のイシ・パラソン(Isi Palazón)は「ユニバーサルプレイヤー」として攻撃の起点に君臨します。
このダブルボランチは「常にバランスと前進を両立する頭脳」となり、守備と攻撃のスイッチを自在に切り替えることで、<ラージョ本来の猛攻>と<堅実な守備>を同居させているのです。
- フォーメーションの変化に注目する — ボール保持時と非保持時で並びが変わる瞬間を探すと、監督の意図が見える。
- 得点のほとんどはPA内の連動から — 24/25シーズンは得点の8割超がPA内の動きから。2列目の飛び出しやクロス対応を追うと面白い。
- 資源の少なさは言い訳にならない — 「持っているものを最大限に生かせる者が勝つ」というクラブ哲学は、子どものスポーツや日常の挑戦にも通じる。
最前線を彩る個性──多様なアタッカーの共演
ラージョの攻撃の鍵を握るのは選手それぞれの個性に裏打ちされた多様性です。例えば、サイドハーフには〈アルバロ・ガルシア(Álvaro García)〉や〈デ・フルトス(De Frutos)〉、センターには〈ランディ・ンテカ(Randy Nteka)〉や〈フラン・ペレス(Fran Pérez)〉、〈アレマオン(Alexandre Alemão)〉ら多様なタイプのストライカーが控えます。
「La movilidad ofensiva y las asociaciones」──「攻撃時の流動性と連携」。これこそ攻撃の肝。どの選手もスペースを探して動き、パス&ゴー、二列目の飛び出し、クロス対応まで戦術的な布陣がシステムで緻密に組み上げられています。実際、2024/25シーズンのラージョの得点の8割超が「ペナルティエリア内での多彩な動きと連動」から生まれているという事実が、このシステムの実効性を証明しています。
圧倒的な守備──前線からの組織的プレッシング
ラージョ・バジェカーノの特徴を象徴するのが「高い位置からの連動したプレッシング」です。特に厳しい相手に対しては、4-4-2システムと前線の選手を使い、相手の中央侵攻を遮断。相手チームがワイドへボールを展開せざるを得ないように仕向けます。これにより「自陣に押し込まれる時間」を大きく削減し、「常に主導権を握る」展開を作り出しています。
ゴールキーパー〈アウグスト・バタージャ(Augusto Batalla)〉の「プロアクティブな守備範囲」、センターバックの空中戦&裏のケア、サイドバックの絶妙なラインコントロールまで、どれもが「勇気と知性」に支えられたものです。
オフェンスの新たな一手──局面打開の知恵とトライ
さらにラージョの進化を象徴する、新しい戦術的チャレンジも始まっています。例えばバルセロナ戦で見せた「ダブルストライカーの一時的なオフサイド配置」。プレー外であえてディフェンスラインの背後に立ち、パスコースやスペースが生まれた瞬間に一気に仕掛ける。こうした「動きと意図のずらし」は、イニゴ・ペレスの“ただのイラオラ流の継承者”ではない“創造性”の証と言えます。
「El objetivo no es solo rematar」──「目標はただシュートを打つことではない」。攻撃の毎一手が、相手を混乱させる“戦術的オーケストラ”として求められているのです。
「小さい」クラブの「大きな」変革──私たちへの問いかけ
ラージョ・バジェカーノの快進撃は、予算も選手層も決して恵まれていないチームが「集団の知性」「一人一人の努力」「戦術的工夫」で、いかに自分たちを高みに押し上げられるかの好例です。強豪相手にも、臆せず堂々と自分たちの原則を貫く。どんな困難に直面しても「自分たちの哲学」を信じて努力と知恵で突破する。
皆さんは日常や人生で「自分は小さい存在、できることも少ない」と思ったことはありますか?それでも、工夫や仲間との協力、一つの信じる目標を貫くことで“歴史的な扉”を開くことができるかもしれません。ラージョ・バジェカーノはそんな私たち一人ひとりに、「きっとあなたにも大きな挑戦ができる」と問いかけているように思えます。
未来を切り拓く“勇気”と“知性”のサッカー
小学生から大人まで、「自分たちらしいサッカーってなんだろう」「諦めなければ、きっと何かが変わる」と胸に感じてほしい──ラージョ・バジェカーノはスペインの片隅から、世界への大きなメッセージを発信しています。
最後にイニゴ・ペレスやクラブの哲学を表す言葉を紹介しましょう。
En el fútbol, como en la vida, no siempre gana el que tiene más recursos, sino el que sabe cómo utilizar lo poco que tiene.
サッカーでも人生でも、いつも勝つのは多くを持つ者ではなく、持っているものを最大限に生かせる者だ
新しい歴史の扉を開く彼らの物語を、これからも見守りたいものです。
