セリエAの財務規制CLA70%ルールに揺れるラツィオとロティート会長、家族経営クラブモデルの岐路を示すイメージ

CLA時代のセリエAで揺れるラツィオ――70%ルールが突きつける「家族経営クラブ」の岐路

DEFINITION
CLA(拡大人件費指標)とは──セリエAが導入した70%ルールの仕組みと影響
CLA(Indicatore del Costo del Lavoro Allargato)はイタリア・セリエAが導入した財務健全化指標で、選手・監督・スタッフの給与、移籍金償却費、代理人コミッションの合計を、スポンサー料・放映権・売却益を含む収入で割った比率。現行上限80%が2025年5月末チェックから70%に引き下げられ、超過クラブは原則として新規補強が禁止される。ラツィオは推定81%で超過が懸念されており、自由な夏の補強には最大7000万ユーロの売却益が必要とされている。

「CLA時代」のセリエAとラツィオ お金のルールがサッカーを変えるとき

「サッカーの話をしよう」と言われて、あなたは何を思い浮かべますか。 美しいゴール、戦術、好きな選手のプレー。 それとも、「インデックス」「指標」「比率」といった、まるで経済ニュースのような言葉でしょうか。

イタリア・セリエAでは、ここ数年で「ピッチの上の戦い」以上に、「帳簿の上の戦い」が存在感を増しています。 その象徴が、かつての「インデックス・ディ・リクイディタ(IdL・流動性指数)」、そして新しく導入された「CLA(Indicatore del Costo del Lavoro Allargato=拡大人件費指標)」です。

この新しい指標CLAは、クラブが支払っている「サッカーに関わるほぼすべてのコスト」と「クラブの収入」のバランスをチェックするためのものです。 UEFAの「70%ルール(squad cost rule)」に近い仕組みで、ヨーロッパ全体が「持続可能なサッカー」を目指す流れの中にあります。

CLAとは何か? サラリーキャップとは少し違う「70%のライン」

CLAに含まれるのは、選手や監督・スタッフの給料、移籍金の償却費、代理人へのコミッションなどです。 一方で、収入にはスポンサー料、入場料、放映権料、そして「移籍金による利益(=プラスバレンツァ)」も含まれます。

このプラスバレンツァは、 「一気に大きな売却をして、その年だけ数字を良く見せる」 という“ごまかし”を防ぐために、直近3年間の平均で計算されます。

そして、今回大きなポイントになっているのが、 「イタリア人のU-23選手のコストは、CLAから除外される」 という新しいルールです。

これはクラブにとって、かなり重要な意味を持ちます。 イタリア人の若手を多く抱えれば抱えるほど、CLA上の“人件費”は軽く見えるようになるからです。

この案を提案したのが、アタランタのDGウンベルト・マリーノであることは、象徴的です。 育成と若手起用で知られるアタランタにとって、「U-23のコストを外せる」というのは大きなメリットになります。

一方で、FIGC(イタリアサッカー連盟)は、 外国籍の若手までは対象にせず、「イタリア人U-23」に限定しました。

UEFAのガイドラインに合わせつつも、「自国選手の育成」をより強く後押しする形になっているのです。

70%への下降 「80%から10ポイント下げ」が意味するもの

現在、CLAの上限はまだ「80%」に設定されています。 つまり、「収入の80%まではサッカー関連の人件費として使っていい」という計算です。

しかし、来年5月31日のチェックから、この上限は「70%」に引き下げられます。 ここが、多くのクラブにとっての「本当の勝負所」です。

もし70%を超えてしまった場合、そのクラブは市場で自由に動けなくなります。 原則として「市場のブロック」、つまり新戦力の獲得ができない状態になるのです。

ただし、抜け道がまったくないわけではありません。 ・移籍による黒字(売却益) ・人件費削減によるコストカット ・増資、オーナーからの資金投入 といった手段で“健全化”を証明できれば、「収支トントン(=サロ・ゼロ)」の範囲でのみ、補強を認められます。

勝つために補強したい。 でも、補強をするには、まず売らなければいけない。

そんな、いかにも現代サッカー的な「ジレンマ」が、CLAというルールによって一層可視化されているのです。

ラツィオという“象徴” ロティートのクラブモデルの限界

このCLAの話題の中心にいるのが、クラウディオ・ロティート会長率いるラツィオです。 皮肉なことに、より厳しい財政規律を求めてきたと言われるロティート自身が、そのルールの“最大の被害者”になりつつあります。

2024年夏、ラツィオはFIGCが定める複数の財務指標に抵触し、市場での「新規獲得禁止」という厳しい制限を受けました。

記事ではこう説明されています。

「Come riportato dal giornalista del Messaggero Alberto Abbate, la Lazio pare aver sforato altri due parametri del NOIF come l’indebitamento e il costo del lavoro allargato」 「メッサジェーロ紙の記者アルベルト・アッバーテによれば、ラツィオは負債と拡大人件費という、NOIFの他の2つの指標も超過していたようだ」

つまり、ラツィオはすでに「CLA的な問題」を抱えていたのです。 ロティートとしては、「完全ブロック」ではなく「サロ・ゼロでの市場」なら受け入れやすかったはずです。 コストを増やさない範囲での入れ替えなら、まだ手の打ちようがあります。

ところが現実には、夏の移籍市場は大きく縛られました。 これが、今冬そして来夏に向けて、クラブの動きをさらに難しくしています。

ラツィオが直面する数字 「81%」と「70億円級のプラスバレンツァ」

コリエレ・デッロ・スポルトによると、現在のラツィオのCLA比率は推定で「81%」程度とされています。 つまり、現状のままでは「70%ルール」から相当オーバーしているわけです。

ラツィオに精通するXアカウント「LeastSquares」は、よりシビアなシナリオを示しています。

「per avere un mercato “libero” in estate la Lazio sarebbe obbligata a raccattare 70 milioni di plusvalenze」 「夏に『自由な』市場を迎えるためには、ラツィオは7000万ユーロのプラスバレンツァを稼がざるを得ないだろう」

7000万ユーロ、日本円にしておよそ110〜120億円規模。 この数字を「選手売却だけで」埋めるのは、ほぼ主力の“解体”を意味します。

一方で、「サロ・ゼロでの市場」なら、必要なプラスバレンツァは約3000万ユーロ。 それでも簡単な数字ではありませんが、まだ現実的なラインとも言えます。

しかし、その場合の代償は大きくなります。 新契約の締結や年俸アップが難しくなり、 ・ディア ・マルシッチ ・ペドロ といった選手が、契約満了で「移籍金ゼロ」で去る可能性が出てきます。

さらに、2027年までの契約を持つ ・アレッシオ・ロマニョーリ ・イヴァン・プロヴェデル ・ダニーロ・カタルディ ・マリオ・ヒラ といった“屋台骨”の未来も、不透明になります。

なかでも、「Mario Gila(マリオ・ヒラ)」は、クラブにとって大きなプラスバレンツァを生み出せる存在として、売却候補に挙げられています。 戦力として重要だからこそ、高く売れる。 しかし、売ってしまえば戦力ダウン。 この「板挟み」こそ、CLA時代のクラブ経営のリアルな姿と言えるのかもしれません。

若いイタリア人を探すラツィオ ルールを逆手にとる動き

ラツィオは、この苦しい状況を少しでも和らげるために、すでに動き始めています。

狙うのは、「イタリア人U-23」の選手。 新しいルールでは、彼らのコストはCLAから除外されます。 つまり、「人件費としてはカウントされない即戦力(あるいは準即戦力)」を獲得できれば、戦力を保ちながら数字も守れるのです。

これは、クラブにとっての知恵比べでもあり、 「ルールが新たな戦略を生む」 という、ある意味ポジティブな側面とも言えます。

読者の皆さんは、こうした仕組みを聞いてどう感じるでしょうか。

・お金の話ばかりで、サッカーがつまらなくなった?
・それとも、ルールの中でやりくりする“経営の妙”も含めて、現代フットボールなのだろうか?

アタランタ、ナポリ、フィオレンティーナ 「数字の上では危うい」クラブたち

CLAの影響を受ける可能性があるのは、ラツィオだけではありません。

名前が挙がっているクラブは、
・アタランタ
・ジェノア
・トリノ
・ラツィオ
・フィオレンティーナ
・(意外にも)ナポリ
といった面々です。

アタランタは前述の通り、若手とイタリア人選手が多く、「U-23除外ルール」の恩恵を受けやすいクラブです。 財務的にも、オーナーの体力が比較的強く、増資などの選択肢もあります。

フィオレンティーナは、ロッコ・コミッソ会長から大きな資金援助を受けてきましたが、プラスバレンツァの計上タイミングをめぐって、自ら「問題のある処理」を決算書に書き込むという、異例の形で注目を集めました。

「17 milioni e 250 mila euro di plusvalenze effettuate a luglio ma contabilizzate nel bilancio chiuso al 30 giugno 2025」 「1725万ユーロのプラスバレンツァを7月に発生させたにもかかわらず、2025年6月30日締めの決算に計上している」

これは、どの期にどう利益を乗せるか、をめぐる「綱渡り」のような会計処理です。 CLAが厳しくなるほど、こうした“帳尻合わせ”の誘惑も増えていきます。

一方で、ナポリについては、心配されつつも、やや違う見方も示されています。

経済学者アレッサンドロ・ジュディーチェは、ラジオCRCでこう語りました。

「Il costo del lavoro allargato del Napoli è in linea con i valori stabiliti dal regolamento, quindi non vedo rischi per la società azzurra di un blocco del mercato. [...] In realtà, non vedo rischi di blocco per nessuna società italiana: le maglie si sono allargate. Sarei molto sorpreso se il Napoli venisse sottoposto a un blocco del mercato」 「ナポリの拡大人件費は、規定値の範囲内に収まっている。だから、アッズーリに市場ブロックのリスクがあるとは見ていない。……実際のところ、イタリアのどのクラブについても、ブロックの危険性は低いと思う。規制の網目は広がっている。もしナポリが市場ブロックを受けるようなことがあれば、とても驚くだろう」

ナポリは、
・チャンピオンズリーグ出場による多額の収入
・減価償却を早期に進める会計方針
・オーナーであるデ・ラウレンティスの増資余地
などから、短期的な数字だけを見て悲観する必要はなさそうです。

ただし、こうした「オーナーの懐の深さ」や「欧州カップ収入への依存」は、長期的に見れば別のリスクにもなり得ます。

70%ルールが突きつける問い 「家族経営クラブ」の終わり?

今回のCLA導入と70%ルールは、数字以上に「時代の変化」を映し出しています。

これまでのセリエAには、
・オーナーが“道楽”として支えるクラブ
・家業の延長として経営されるクラブ
・欧州カップに出ないことで、UEFAの厳しい規制を“回避”してきたクラブ
が、決して少なくありませんでした。

ロティートのラツィオは、その象徴的な存在です。 自分の裁量で支配し、節度と倹約でやりくりする「一家の長」のようなスタイル。

しかし、CLAはこう問いかけているようにも見えます。

・そのモデルで、いつまで競争力を保てるのか。
・外部資本の導入や、より大きな投資なしに、欧州の舞台で戦えるのか。

ラツィオの周辺では、ついに「クラブ売却」の噂も聞こえ始めています。

あなたは、「家族経営的なクラブ」と「巨大資本クラブ」、どちらの姿が理想だと感じるでしょうか。

地元に根ざし、オーナーの顔もサポーターに知られているクラブ。 世界中の資本を集め、圧倒的な戦力でタイトルを獲るクラブ。

どちらも一長一短であり、どちらにも「物語」はあります。

数字と感情のあいだで 私たちは何を見たいのか

CLAや70%ルールをめぐる議論は、どうしても専門的で、ややこしく感じられるかもしれません。

けれど、その根っこには、とてもシンプルな問いがあります。

「クラブは、身の丈に合った範囲で、長くサッカーを続けていけるのか」

もし規制がなければ、一部のクラブは無理な投資を重ね、 短期的に成功しても、その後に破綻してしまうかもしれません。

逆に、規制が厳しすぎれば、「夢を見る余地」が削られてしまいます。 サポーターは、「今年こそ」と願いながら、補強のニュースに一喜一憂します。

あなたなら、どこにバランスを置くべきだと思いますか。

・規制をゆるくして、夢を追いやすくするのか。
・規制を厳しくして、クラブの寿命を長くするのか。

ラツィオ、アタランタ、ナポリ、フィオレンティーナ、そしてセリエA全体。 CLAというルールは、彼らの未来だけでなく、私たちファンの「サッカーとの付き合い方」にも、静かに問いを投げかけています。

ピッチの上でボールが転がる前に、数字の上での勝負が始まっている。 そんな時代だからこそ、「ルールの中で強くなる」クラブが、本当に評価されるのかもしれません。

最後に、サッカーとお金の関係を考えるときに、こんな言葉を思い出したいと思います。

「Il denaro è un ottimo servitore, ma un pessimo padrone.」 「お金は優秀な召使いにはなっても、ひどい主人にしかならない。」

クラブがお金の「主人」になるのか。 それとも、お金に「支配されていく」のか。 CLAの時代に問われているのは、まさにその選択なのかもしれません。

COMPARISON / CLA影響度別・セリエA主要クラブ比較
クラブ CLA懸念度 緩和要因 評価
ラツィオ 推定81%(最もリスク高) イタリア人U-23獲得戦略
アタランタ 影響あり U-23イタリア人多数・増資余地
フィオレンティーナ 影響あり オーナー資金援助・会計処理で対応
ナポリ 懸念されるが専門家は楽観 CL収入・早期償却・増資余地
ジェノア・トリノ 名前挙がるも詳細不明 クラブ規模が小さくリスクも限定的
◎=リスク低・対応余地大 ○=懸念あるが対処可能 △=市場制限の現実的リスクあり
FOR COACHES / FOR COACHES
財務規制がチーム編成に与える影響を理解する
  1. イタリア人U-23選手の獲得価値を再評価する — CLAルール下では同選手のコストが指標から除外されるため、若手イタリア人をスカウトする価値が財務面でも戦力面でも高まっている現状を指導者も把握しておく
  2. 「補強できない前提」での戦術構築を日常訓練に取り入れる — 市場ブロックを受けた場合、既存選手の役割転換が必要になる。年間を通じてポジション横断的な練習でチームの対応力を上げておく
  3. 育成投資の長期的メリットを選手に伝える — 財務規制時代にはクラブの「自前育成」が競争力に直結する。若手選手に「自分がクラブの資産」という自覚を持たせるコミュニケーションを行う
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FOR PLAYERS & PARENTS / FOR PLAYERS & PARENTS
現代サッカーの「お金のルール」を知っておこう
  1. クラブの財務状況が出場機会に影響することを知る — CLAで市場がブロックされたクラブは補強できないため、若手やアカデミー出身選手にチャンスが回りやすくなる。財務健全なクラブを選ぶことが将来の出場機会につながる
  2. 売却されることもキャリアの一部と受け入れる準備をする — ラツィオのマリオ・ヒラのように「チームに必要だが財務のために売られる可能性がある選手」は現実に存在する。移籍は拒絶ではなくクラブ経営の結果であることを理解する
  3. 欧州カップ出場クラブを目指すことの財務的意味を知る — CL・ELへの出場は戦力だけでなくクラブの収入を大幅に増やし、CLA比率の改善にも貢献する。試合の重要性を財務視点からも理解しておく
FAQ / よくある質問
Q. セリエAのCLA(拡大人件費指標)とは何ですか?
A. CLAはIndicatore del Costo del Lavoro Allargatoの略で、選手・監督・スタッフの給与、移籍金の償却費、代理人コミッションといった「サッカー関連のほぼ全コスト」を、放映権・スポンサー・売却益を含む収入で割った比率です。UEFAの70%ルールに近い仕組みで、現行80%の上限が2025年5月末チェックから70%に引き下げられます。
Q. CLAの70%ルールを超えたクラブはどうなりますか?
A. 70%を超過したクラブは原則として市場での新規選手獲得が禁止されます。ただし移籍売却益の計上、人件費削減、オーナーによる増資などで「収支トントン(サロ・ゼロ)」の健全化を証明できれば、支出を増やさない範囲での入れ替えのみ認められます。
Q. ラツィオはなぜCLAで問題になっているのですか?
A. 記事によるとラツィオの現CLA比率は推定81%で、70%ルールを大幅に超えています。夏の補強を自由に行うには最大7000万ユーロの売却益が必要とされ、その場合主力選手の放出が避けられません。2024年夏にはすでに市場での新規獲得禁止という制限を受けており、ロティート会長の「家族経営型」クラブモデルが限界に来ているとされています。
Q. イタリア人U-23選手のCLA除外ルールとはどういう意味ですか?
A. 新ルールでは、イタリア国籍のU-23選手にかかるコストはCLAの計算から除外されます。これによりイタリア人若手を多く抱えるクラブほどCLA比率が有利に見えるようになります。アタランタのDGウンベルト・マリーノが提案したこのルールは、育成型クラブと自国選手育成を後押しする設計になっています。
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