誰もいない早朝のサッカーピッチに一人でいる選手のシーン。ピッチに立てない時間の過ごし方と成長をテーマにした記事のサムネイル

18歳ストライカーが選んだ「待ち方」――ピッチに立てない時間をどう生きるか

DEFINITION
ピッチに立てない時間をどう生きるか
ピッチに立てない時間とは、才能や努力では埋められない「ビザ・手続き・けが・進路未定」といった外部要因による停滞期であり、その間に「どう待つか」を自分で選んだ選手が、ピッチに戻ったときに一歩先に進んでいる。18歳ストライカーの事例はあらゆる年代に通じる普遍的なテーマだ。

18歳のストライカーは、まだピッチに立てないまま何を考えているのか

2月、バルセロナのセカンドチームに新たなストライカーが加わった。

エジプト出身、18歳のハムザ・アブデルカリム。

バルサの選手として発表されたのに、彼はいまもエジプトにいる。

理由は「サッカーの外」にある。

ビザや登録など、いわゆる手続きが終わらないからだ。

すでに1週間以上、自分の新しいチームからは離れた場所で、書類の行方を待ち続けている。

プレーの出来ではなく、書類の処理速度に自分のスタートが左右される。

ピッチの内側ではなく、外側で時間が過ぎていく。

それでも「バルサの選手」としての時間は、確実に進んでいる。

この状況で、18歳の選手は、何を考え、どんな選択をするのだろうか。

なぜいま、エジプトに戻っているのか

自分で「待ち方」を選ぶということ

ハムザはクラブの許可を得て、エジプトに戻っている。

理由は、手続きの進行を自分の目で確認し、少しでも早く進めたいからだと言われている。

普通に考えれば、「バルセロナに残って、チームメイトと練習した方がいいのでは」と思うかもしれない。

でも、彼は違う選択をした。

その裏には、いくつかの考え方が見えてくる。

  • 自分が動くことで、役所や関係機関とのやり取りをスムーズにしたい
  • 新しい挑戦が不安視される母国で、自分の姿をきちんと見せておきたい
  • 「ただ待つ」のではなく、「動きながら待つ」時間にしたい

どれが正解かは誰にも分からない。

ただひとつ確かなのは、18歳の選手が「どう待つか」を、自分で選んでいるということだ。

ピッチに立てない期間は、才能では差がつきにくい。

差がつくとしたら、待ち時間をどう意味づけるか、そこにどんな行動をのせるか。

それは、どの年代の選手にも共通するテーマかもしれない。

「いつデビューできるか分からない」中で、どう準備するのか

COMPARISON / 「ピッチに立てない期間」の過ごし方パターン比較
パターン 具体的な行動 育成への影響 評価
動きながら待つ 手続き・進路・環境整備に自ら関与しながら体の準備も続ける 主体性と準備の習慣が同時に育つ
チームに残って練習を継続する 新しい環境の戦術・チームメイトを早期に把握する チームへの早期適応に有利
周囲と比べて焦りを感じる 同期や同学年の進捗を常に気にして自分のペースを乱す パフォーマンスの波が大きくなるリスクが高い
「予定通りではない」と落ち込んで停滞する 停滞期を「失われた時間」として捉え準備を怠る ピッチ復帰時の状態が悪化しやすい
過去へのこだわりを手放して現在に集中する 「こうなるはずだった」を手放し今できることを一つ決める 精神的安定と集中力の維持が両立する
◎=育成・競技双方への好影響が期待できる ○=状況次第で有効 △=長期的に見てパフォーマンスを下げるリスクが高い

締切のないゴールに向かう難しさ

バルセロナ側も、エジプト側も「早く解決しそうだ」という空気は出している。

それでも、誰も「いつまで」とは言えない。

ハムザもクラブも、期限のないまま待ち続けている。

サッカー選手にとって、これは少し特殊な状況だ。

試合なら、90分という時間が決まっている。

シーズンにも最終節がある。

でも、ビザや登録のような「手続き」には、はっきりとしたホイッスルがない。

そうなると、準備の仕方も難しくなる。

  • あと1週間でプレーできるつもりで、強度を上げるべきか
  • 長期戦になると想定して、心身のコンディションをゆっくり整えるべきか
  • 新しいチームの戦術理解に時間を使うのか、それとも今いる環境でのトレーニングに集中するのか

日本の高校生やユースの選手でも、似たような経験があるかもしれない。

けがからの復帰時期がはっきりしないとき。

進路が決まらないまま、最後の大会を迎えるとき。

「いつ終わるか分からない待ち時間」とどう向き合うか。

こういう場面で問われるのは、「どのくらい上手いか」ではなく、「どう時間を扱うか」なのかもしれない。

同じ冬に来た選手たちは、すでにピッチで動き出している

FOR COACHES / FOR COACHES
ピッチ外で揺れている選手に、「今できる準備」を一緒に設計する
  1. けが・進路未定・出場機会ゼロの選手に個別の「今週のテーマ」を設定する — 全体練習に参加できない選手にも「今日はこの試合を15分だけ見て、相手CBのポジション取りを一つ言葉にしてみて」という具体的なミッションを与える。漠然と待たせない設計が選手の主体性を守る。
  2. 「比べる視点」ではなく「自分のタイムラインを持つ視点」を育てる言葉を選ぶ — 「あいつはもう試合に出てる」ではなく「今の自分にしかできない準備は何か」という問いかけを習慣的に使う。指導者の言語が選手の比較軸を決める。
  3. ピッチに戻った直後の選手に「待った期間に得たもの」を語らせる機会を作る — 復帰後の練習後に「待っている間に気づいたことを一つ話して」と場を設ける。語ることで待ち時間が「学びの時間だった」と本人が実感でき、次の停滞期への耐性も育つ。
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比べてしまう心と、比べ方を選ぶ心

バルサ・アトレティックには、冬に加入した選手が他にもいる。

フォワードのホアキン・デルガドは、その代表例だ。

彼はすでにリーグ戦7試合で5ゴール、さらにカタルーニャのカップ戦でも得点し、合計6ゴールを記録している。

直近の試合では、バレンシア・メスタージャ相手にチームの全ゴールをひとりで決めた。

シーズン最多得点記録に迫るペースとも報じられている。

同じ時期に加入したセンターバックのユウェンスリー・オンスタインは、まずユース年代のチームで実戦に復帰した。

マジョルカ戦では、ポル・プラナス監督のもと、アジャイ・タヴァレスやアレックス・ゴンサレスとともにデビューを果たしている。

パトリシオ・パシフィコは、バルサ・アトレティックのメンバーに初めて名を連ねた。

まだ出場機会はないが、ベンチに入るという一歩を踏み出した。

同じ「冬の新加入」でも、置かれている状況はまったく違う。

ピッチで数字を残している選手。

まずは下のカテゴリーから始めている選手。

ベンチ入りというステージに立ち始めた選手。

そして、まだ国を出られずにいる選手。

人はどうしても、他人と自分を比べてしまう。

ただ、その「比べ方」を選ぶことはできる。

  • 「あの選手はもう点を取っているのに、自分はまだ何もできていない」と比べるのか
  • 「今の自分にしかできない準備は何か」と、自分の状況から考え始めるのか

ハムザは、エジプトでこのニュースを目にしているかもしれない。

そこで浮かぶ感情は、焦りかもしれないし、刺激かもしれない。

どちらにせよ、彼はその感情を「どう扱うか」を選ばなければならない。

日本の育成の現場に引き寄せて考えてみる

FOR PLAYERS & PARENTS / FOR PLAYERS & PARENTS
「待ち方」を選ぶことが、すでにサッカーの一部だ
  1. 「続けること」と「手放すこと」のリストを紙に書いてみる — 試合に出られない間も続けたいこと(体の準備・映像分析・自分の夢を言葉で持つ)と、手放してよいもの(予定通りへの執着・周囲との速さ比較・「こうなるはずだった」という過去)を明確に分けるだけで、頭の整理がつきやすくなる。
  2. ピッチに立てない間にしかできない「観察」をする — 外から試合を見る機会がある今だからこそ、「自分と同じポジションの選手がここでどう動いているか」「監督がどの場面でどんな声をかけているか」をメモする。出場時には得られない視点が、復帰後の自分の武器になる。
  3. 保護者は「いつ出られる?」より「今日どんなことを考えた?」と聞く — ピッチに立てない子どもへの問いかけを「結果系」から「思考系」にシフトする。待っている間に何を感じ、何を選んだかを語れる子どもは、ピッチに戻ったときに自分の判断に自信を持てる。

「ピッチの外」の出来事に、どう向き合うか

日本でも、高校からJクラブのユースに移る選手、大学進学を選ぶ選手、海外に挑戦する選手など、進路の分かれ道で多くの決断が生まれている。

そこには、サッカーの実力だけではコントロールできない要素がたくさんある。

  • 受験や学業のスケジュール
  • クラブ側の編成や方針
  • 家庭の事情や経済的条件

たとえば、同じ学年のチームメイトが次々と進路を決めていく中で、自分だけがまだ決まっていない状況は、ハムザの「デビューを待つ時間」に少し似ている。

このとき、どんな考え方があり得るだろうか。

  • 周りのスピードに合わせて、納得しきれていない選択を急いでしまう
  • 時間がかかっても、自分が本当に挑戦したい場所を探し続ける
  • 条件だけで決めず、自分が「どう成長したいか」から逆算して選ぶ

どれも、その人なりの理由があれば一概に否定できない。

ただ、ひとつ意識できるとしたら、「自分の選択の理由を、自分で説明できるかどうか」かもしれない。

ハムザのケースに戻ると、彼は「クラブに残って練習する」という選択もできたし、「エジプトに戻って手続きを見守る」という選択もできた。

彼が後者を選んだ背景には、「ただ待つのではなく、自分から動きたい」という気持ちがあったのではないかと想像できる。

日本の選手も、進路やチーム選びで迷うとき、「自分がどんな待ち方をしたいのか」「どんな動き方をしたいのか」を一度立ち止まって考えてみる価値があるかもしれない。

「うまくいかない時期」に続けたいこと、手放してもいいこと

折れないとは、強がることではなく、選び直し続けること

手続きが遅れているのは、ハムザのミスでも、クラブの怠慢でもない。

それでも、いちばん影響を受けるのは、彼自身だ。

こういう「自分ではコントロールできない理由で、うまくいかない時期」に、選手は何を続け、何を手放すべきなのだろうか。

  • 続けたいこと
  • 試合に出られなくても、体の準備を怠らないこと
  • 新しいチームの試合を見て、戦い方をイメージし続けること
  • 自分の目標や夢を、言葉にして持ち続けること
  • 手放してもいいこと
  • 「予定通りに進まないとダメだ」という思い込み
  • 周りのスピードと自分のスピードを同じにしようとする焦り
  • 「こうなるはずだったのに」という過去へのこだわり

折れない心とは、「どんな状況でも前向きでいること」ではないのかもしれない。

うまくいかない現実を認めたうえで、「その中で何を大事にするか」を選び続けること。

それは、プロの18歳にも、中学生の選手にも、保護者にも、指導者にも共通する姿勢かもしれない。

答えを急がない勇気を持てるか

いま、ハムザの物語はどこにあるのか

このコラムを書いている時点で、ハムザの手続きはまだ完了していない。

彼がいつスペインに渡り、バルサ・アトレティックでデビューするのかは分からない。

もしかすると、この待ち時間が長引いたことで、初めての試合は期待よりも小さなものになるかもしれない。

逆に、この時間をどう過ごしたかが、彼のプレーや立ち居振る舞いに深く刻まれるかもしれない。

どちらに転ぶかは、まだ誰にも分からない。

だからこそ、「今の時点での正解」を急いで決めつける必要もないのかもしれない。

選手を見守る大人たちにも、同じことが言える。

うまくいかないタイミングが訪れたとき、「あの選択は間違いだった」と結論づけてしまうのは簡単だ。

でも、その結論が本当に「答え」だと分かるのは、もっと先かもしれない。

自分なら、どんな「待ち方」を選ぶだろうか

FAQ / よくある質問
Q. けがや手続き遅延でピッチに立てない期間、選手は何に集中すべきですか?
A. 最も大切なのは「今の自分にコントロールできること」に集中することだ。具体的には体のコンディション維持・新しいチームの試合映像での戦術理解・自分の目標を言語化し続けること、の3点が基本になる。焦りを感じたら「周囲のスピードと自分のスピードを同じにしようとする」衝動を手放し、今日できる一つの準備に意識を向けることが有効だ。
Q. 同じ時期に加入した選手が活躍しているのを見て焦りを感じるのは当然ですか?
A. 当然の感情だが、その焦りを「刺激」として使うか「消耗」として使うかは選べる。同じ時期に加入した選手でも置かれた状況は全員異なる。「あの選手はもう点を取っているのに」という比較より「今の自分にしかできない準備は何か」という問いに切り替えることで、焦りを成長のエネルギーに変えられる。
Q. 進路が決まらないまま最後の大会を迎える選手へのアドバイスは何ですか?
A. 「進路が決まっていない状態」を「ロス」ではなく「可能性がまだ開いている状態」として捉え直すことが最初の一歩だ。次に、自分の選択の理由を自分の言葉で説明できるかどうかを確認する。「条件で決めず、どう成長したいかから逆算して選ぶ」という視点を持てた選手は、どんな進路を選んでも長期的に成長し続けやすい。
Q. 「折れない心」を育てるために指導者や保護者にできることは何ですか?
A. 折れない心とは「どんな状況でも前向きでいること」ではなく、「うまくいかない現実を認めた上で、その中で何を大事にするかを選び続けること」だ。指導者・保護者にできる最大のことは「すぐに答えを出させない」こと。待ちながら考え続けた経験が、選手にとっての本当の強さになる。焦らず問い続ける環境を用意することが、折れない心を育てる最善策だ。

最後に残るのは、小さな問いかけ

エジプトで手続きを見守る18歳。

スペインで得点を重ねるストライカー。

ユースで一歩を踏み出したセンターバック。

ベンチに入りながら、ピッチに立つ瞬間を待つ若い選手。

同じクラブの、同じ冬の物語なのに、進むスピードも、見えている景色も、まったく違う。

読んでいるあなたが、もし選手なら。

今、自分はどんな「待ち時間」の中にいるだろうか。

もし保護者なら。

子どもがうまくいかない時期に、「何を急がずに見守るか」をどう選ぶだろうか。

もし指導者なら。

ピッチの外の出来事に揺れる選手に、どんな言葉をかけ、どんな時間を用意するだろうか。

ハムザの物語は、まだ途中だ。

だからこそ、今の自分の物語と少しだけ重ねながら、「自分ならどう考えるか」を静かに問いかけてみてもいいのかもしれない。

サッカーのキャリアは、ピッチの中の90分だけで形づくられるわけではない。

ピッチに立てない日々の選び方もまた、その選手をつくっていく時間なのだと思う。

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