ペップ・グアルディオラがピッチ脇でボードを使いながら位置的プレーを説明するイメージ、ポジショニズムとサッカー戦術進化を象徴する場面

ペップ・グアルディオラの進化とサッカー戦術の未来―「型」と「自由」の狭間で

DEFINITION
ポジショニズムとは――グアルディオラが体現したボール保持と空間制御を核とするサッカー哲学
ポジショニズム(juego de posicion)はオランダにルーツを持ち、グアルディオラがバルセロナで完成させた「選手が動かずボールが動く」戦術哲学だ。ボール支配率65〜68%・緻密なショートパスによるピッチ全体のコントロールで他を圧倒し、世界中の指導者に普及した。しかし均質化の弊害が指摘される2025/26シーズン、セットプレー台頭やレラショニズムという対抗潮流が生まれつつある。

ペップ・グアルディオラの進化と、ポジショニズムへの問いかけ ― サッカーはどこへ向かうのか

マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラは、世界屈指の戦術家として長年その名を轟かせてきました。彼のバルセロナ時代は「ポジショニズム(位置的プレー)」の究極系とも言われ、ボール支配率65~68%、緻密なショートパスとピッチ全体へのコントロールで他を圧倒。その余韻はプレミアリーグだけでなく、少年サッカーからトッププロまで世界中に波及しました。

しかし2025/26シーズンのプレミアリーグには、これまでとは異なる潮流もうねりを上げています。「ダイレクトプレー」や「セットプレー」重視という全体的な流れの中でも、グアルディオラは変化を続け、型にはまらない進化を示し始めました。私たちはこの変遷をどう受け止めるべきなのでしょうか?

ポジショニズムの本質:グアルディオラが体現した「秩序」と「安定」

『Guardiola’s positional play, 'juego de posicion', the Spanish name, has its roots going back through Holland. In Guardiola’s own words, the players don’t move, the ball moves to the players. That’s of course an exaggeration, but it’s very telling that Guardiola himself would phrase it in such a way.』 「グアルディオラの位置的プレー、スペイン語で 'juego de posicion' は、オランダをルーツに持つ。グアルディオラ自身の言葉で言うと『選手は動かず、ボールが選手へ動いていく』。もちろん誇張だが、彼自身がこんな言い方をするのはとても示唆的だ。」(ジェイミー・ハミルトン)

この言葉に象徴されるように、グアルディオラの哲学の核は、ポゼッション(ボール保持)と空間の制御にありました。選手がピッチ上で「あるべき場所」に正確に配置され、パスの連鎖で相手守備陣を崩していく―これがポジショニズムの本質です。

圧倒的な組織力と無駄のない配置、それによって「偶発的なカオス」を最小限に抑え、選手が自信をもって素早く最適解を選び続ける。そのシステマチックな芸術はバルセロナ黄金期を築き、現代サッカーの基礎となりました。

COMPARISON / ポジショニズム vs レラショニズム vs ダイレクトプレー:戦術アプローチ比較
観点 ポジショニズム レラショニズム 評価
中心概念 ボール支配・空間制御・決まった立ち位置 選手同士の関係性・即興性・状況対応
代表的指導者・クラブ グアルディオラ(バルセロナ・マンC) フェルナンド・ディニス(フルミネンセ)
選手への要求 ポジション遵守・2タッチ主義が浸透 選手ありき・自分で判断して動く
守備対策の進化 マンツーマン守備が主流化し自由な状況が減少 まだ対抗策が成熟していない段階
セットプレー活用 ポゼッション優先でセットプレーは補助的 2025/26シーズンはコーナー得点が史上最高水準
◎=記事内で特に強調されている点 ○=言及あり △=課題または発展途上

「均質化」と「個性の抑制」―現代サッカーが抱えるパラドックス

10年を経て、そのポジショニズムは世界中の指導者によって広まり、「二タッチ主義(dos taquismo)」による「均質化」が進行したといいます。

『Positionism has become the dominant paradigm. And when a concept or ideology becomes widespread and dominant, it’s difficult to see alternatives.』 「ポジショニズムは支配的なパラダイムになり、広く、支配的になったとき、他の選択肢が見えにくくなる。」(ハミルトン)

確かに、育成年代からプロに至るまで「パスの選択肢」「ピッチの使い方」が徹底され、選手自身もお互いの立ち位置を理解しやすくなった功績は大きいでしょう。ですが、その一方で、ムサ・デンベレやフレンキー・デ・ヨングのような“型破りなドリブラー”や、“直感的に動くファンタジスタ”はむしろ減ったようにも映ります。

「型にはめることで底上げはできたが、“天井”が下がっているのではないか?」という問いかけは、これからの指導や育成を考える上で見逃せません。

FOR COACHES / FOR COACHES
「型」と「即興」の両輪を意識する
  1. ポジショニズムを教えながら型破りを消さない — 「底上げはできたが天井が下がっているのではないか」という問いを念頭に、ムサ・デンベレやデ・ヨングのような直感的な動きを否定せず、戦術理解と個人の創造力を同時に育てる指導設計をする
  2. セットプレーを週次で計画・演出する — 記事が示すように、ポジショニズムが成熟した結果マンツーマン守備が普及し自由な状況を作りにくくなった。だからこそ「計画して演出できるセットプレー」に練習時間を意識的に確保する
  3. 「今いる選手の力」から戦術を設計する — レラショニズムの本質は「選手ありき」。チームのフォーメーションや戦術が目的化するのではなく、今いるメンバーの特性と関係性を最大限に活かす戦術選択をする
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新しい風 ― ブラジル流レラショニズムと自由なアプローチ

「自分は選手たちに“そこにいちゃだめ、ここにいなさい”と言うしかなく、自分も葛藤していた。でもそれ以外方法を知らなかった。そんなとき、フルミネンセのフェルナンド・ディニスのサッカーに出会い、目が開かれた」(ハミルトン)

 

現在、その「均質化」へのカウンターとなりつつあるのが、フェルナンド・ディニス監督のフルミネンセなどが体現する「レラショニズム(relationism、関係性重視のプレー)」です。選手ありき、選手同士の“関係”や即興性、状況対応を重視するアプローチで、「決まった枠組みやポジション」より、「誰と誰がどうかかわるか」「選手が今、何を考えてどう動くか」を尊重します。

「選手ありき」。この言葉は、サッカーだけでなく教育や人材育成にも共通します。チームや戦術、フォーメーションが目的化するのではなく、「今いる仲間の力をどう活かすのか」という姿勢です。

FOR PLAYERS & PARENTS / FOR PLAYERS & PARENTS
「型」を学びながら「自由」を忘れない
  1. ポジショニズムは世界スタンダード — グアルディオラがバルセロナで完成させた位置的プレーは現在も支配的なパラダイムとして少年サッカーからプロまで世界中に広がっており、基礎として学ぶ価値がある
  2. ハーランドやゴールキーパーまで関わる即興性が復活中 — バイエルンのハリー・ケインが最終ラインまで下がってワンツーで抜け出すプレーや、フルミネンセのGKガンソが組み立てを始める場面など、選手が瞬間に頭を使う創造的なサッカーが再注目されている
  3. セットプレーはプロが最も力を注ぐ武器 — 2025/26プレミアリーグではコーナーキックからの得点割合が史上最高水準に達しており、ロングスローや縦のフィジカル勝負も存在感を増している。守備・攻撃両面でセットプレーを習得することは現代サッカーの必須スキルだ

セットプレーとダイレクトプレーの台頭、その裏にある移り変わり

2025/26シーズン、プレミアリーグではセットプレーやロングスローから決まるゴールが急増。なんと「コーナーキックからの得点割合」は史上最高水準に達しているといいます。

『If we’re going to struggle to get free players on the ball in good attacking situations, then what about attacking situations which we can plan and choreograph during the week?』 「もしうまくフリーな選手を作れないなら、週の準備で計画しやすいセットプレーを増やせばいい」(ハミルトン)

ポジショニズムが高い完成度ゆえに守備側も対抗策を磨き、人について守る「マンツーマン守備」が主流化。ピッチ上で自由な状況を生み出すのが難しくなり、「では、計画的に演出できるセットプレーに注力しよう」となる…。まさに時代の変化を映しています。

また、ロングスローや縦へのフィジカル勝負、いわゆる「ターゲットマン(クラシックな9番FW)」の存在感復活も顕著です。エーリング・ハーランドやヴィクトル・ギョケレスのような選手を前線に置き、長いボールで一気にゴール前へ迫るのです。

選手が主役 ― サッカーの本質への回帰

とはいえ、時代の揺り戻しのなかで「個人の創造力」や「選手自身が自分で状況を判断し動き出す」ことの大切さも再認識されています。

『Perhaps the best teams of the future could be the ones where the players are thinking on their feet, reacting in the moment, adapting during the game.』 「未来の最強チームとは、選手たちがその場で頭を使い、瞬間ごとに適応できるチームなのかもしれない。」(ハミルトン)

バイエルン・ミュンヘンのハリー・ケインが最終ラインまで下がってワンツーで抜け出したプレーや、フルミネンセのガンソがゴールキーパーの横から自ら組み立てを始める場面など、まさに“即興と創造力”がいま再注目されています。抜群のポジショニングも大切ですが、それだけに頼りすぎず、「選手が環境や仲間との“関係”を生かして自分の力を発揮するサッカー」もまた重要な価値なのではないでしょうか。

FAQ / よくある質問
Q. ポジショニズムとはどのような戦術ですか?
A. スペイン語で「juego de posicion(位置的プレー)」と呼ばれ、オランダのトータルフットボールをルーツにグアルディオラが発展させた戦術哲学です。ボール支配率65〜68%を維持し、選手がピッチ上の「あるべき場所」に正確に配置されてショートパスの連鎖で相手守備を崩します。グアルディオラ自身は「選手は動かず、ボールが選手へ動く」と表現しています。
Q. レラショニズムとはポジショニズムとどう違うのですか?
A. レラショニズム(relationism)はフルミネンセのフェルナンド・ディニス監督らが体現するアプローチで、決まったポジションや枠組みよりも「選手同士の関係性と即興性」を重視します。「選手ありき」の発想で、誰と誰がどう関わり、選手が今何を考えて動くかを尊重する点がポジショニズムと対照的です。
Q. 2025/26シーズンにセットプレーが重要になった理由は何ですか?
A. ポジショニズムの普及によりマンツーマン守備が主流化し、オープンプレーで自由な状況を生み出すことが難しくなりました。結果として「週の練習で計画・演出できるセットプレーに注力しよう」という流れが加速し、2025/26プレミアリーグではコーナーキックからの得点割合が史上最高水準に達しています。
Q. グアルディオラはマンチェスター・シティでポジショニズムを変化させていますか?
A. 記事によると、グアルディオラは「型にはまらない進化」を示し始めていると紹介されています。2025/26シーズンのプレミアリーグはダイレクトプレーやセットプレー重視という全体的な潮流の中で、グアルディオラ自身も変化を続けており、固定した哲学ではなく状況に応じた適応を見せているとされています。

サッカーの未来にあなたが望む“自由”とは?

あなたは、現在のサッカーに「型」や「均質性」しか感じなくなってはいませんか? それとも、より即興性や創造力、個人の自由な判断が戻ってきてほしいと願っていますか?それぞれ時代ごとの素晴らしさと、抱える課題があります。

グアルディオラという天才が生み出した“秩序”と“規律”の美しさも、ディニスやアーセナルのエゼ、マンチェスター・シティのチェルキらが見せる“自由”も、サッカーの可能性を広げる両輪かもしれません。そして、どちらも「選手が楽しんでプレーできるサッカー」であってほしいと思うのです。

「型」が支えるもの、「即興」が生み出すもの…。あなたなら、どちらの未来を選びますか?それとも、その先にある“新しいサッカー”を信じますか?

最後に、サッカーに限らず多くの分野で通用する名言をご紹介しましょう。

「Rules are what the artist breaks; the memorable never emerged from a formula.」(Jean Cocteau/ジャン・コクトー)
「規則は芸術家が破るためにある。記憶に残るものは、決して型通りからは生まれない。」

戦術の進化を見る一方で、サッカーは“型”も“型破り”も楽しめる素晴らしいスポーツだと、改めて感じさせられますね。

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ポジショニズムからレラショニズムへ。グアルディオラが問い続けるサッカー戦術の進化を、NEWDIHが深掘りするコラムシリーズで追いかけよう。
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