結果より「勝てるようになる力」を育てる――FCプリーとバルサに学ぶジュニアサッカーの本質
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「結果」と「成長」はどちらが大事か。FCプリーとバルサから学ぶ、子どものサッカーの本質
「大事なのは3ポイントだ。」
「ダービーは、内容じゃない。勝つか負けるかだ。」
「ホームでは、結果はひとつ。勝利だけだ。」
サッカーをしてきた人なら、一度はどこかで耳にしたことがある言葉ではないでしょうか。
少年団のベンチでも。
アマチュアのロッカールームでも。
あるいはテレビ中継の解説でも。
では、こうした「結果至上主義」の言葉は、子どもたちのサッカーにとって、本当に正しいのでしょうか。
そして、私たちは本当に「成長が大事」「楽しむことが大事」と“実際に”考え、行動できているのでしょうか。
アンケートが映し出した「建前」と「本音」
スイスのグラスルーツサッカーで行われたアンケートには、120人以上が回答しました。
そこでは多くの人が、次のような考えに賛同しています。
- 「チームが成長しているなら、負けても構わない。」
- 「勝てなくても、サッカーを楽しむことはできる。」
言葉だけを見れば、とても前向きです。
「負けてもいい、学ぶことが大切だ。」
「楽しむことが第一だ。」
これ自体は、多くの指導指針や協会の理念にも通じる考え方です。
しかし、FCプリー(FC Pully)で40年以上にわたりジュニアを指導してきたダニエル・ブルンナーは、こう指摘します。
「言うことと、それを“実際に生きること”は、同じではない。」
試合が始まると、スコアボードの数字がすべてになってしまう。
ミスをした子に、つい厳しい言葉が出てしまう。
終わったあと、真っ先に口から出るのは「何対何で勝った?」という質問。
頭では「成長が大事」とわかっている。
それでも、心は「勝ち負け」に強く縛られてしまう。
このギャップこそが、現場で起きているリアルな問題なのだと、ブルンナーは静かに語ります。
| 観点 | 結果至上主義 | 育成優先 | 推奨 |
|---|---|---|---|
| 選手起用 | 上手い子だけを多く出場させる | 全員に均等な出場機会を与える | ◎ 育成優先 |
| チャレンジへの姿勢 | リスクを避けた安全なプレーを要求 | ミスを恐れずに挑戦させる | ◎ 育成優先 |
| 試合後の問いかけ | 「何対何で勝った?」と問う | 「どんなプレーができた?」と問う | ◎ 育成優先 |
| 戦術の目的 | この試合に勝つための戦術を最優先 | 練習テーマを試合で試させる | ◎ 育成優先 |
| コーチの感情表現 | ミスに激しく反応する | 静かに見守り的確にフィードバックする | ◎ 育成優先 |
「結果の重み」は、なぜ低年齢から強くなってしまうのか
アンケート結果を見ていくと、ある傾向が見えてきます。
競技レベルが上がれば上がるほど、「結果」が重視されるようになっているのです。
大人の上位リーグで結果が求められるのは、ある意味では当然です。
クラブの経営、昇格降格、スポンサー、観客の期待。
多くのものが勝ち点と結びついています。
しかし、ブルンナーが特に懸念するのは、その「結果重視」が、ジュニア年代、しかも11〜13歳のプレフォーメーション期から強く出始めていることです。
本来、スイスサッカー協会(ASF)はこの年代に対して「結果よりもプレーを優先する」方針を掲げています。
それにもかかわらず、現場では次のような考えが顔を出します。
- 「ときには短期的な勝利を優先してもいい。たとえそれが成長を遅らせたとしても。」
この「ときには」が、いつのまにか「いつも」に変わっていないか。
ブルンナーは、その背景に「クラブからのメッセージ」が大きく影響していると見ています。
試合後、最初にかけられる言葉が「何点で勝った?」であれば、子どもたちの意識は自然とスコアに向いてしまいます。
一方で、こう尋ねることもできます。
- 「今日、どういうサッカーができた?」
- 「何か新しいことにチャレンジできた?」
- 「この試合で、何を学んだ?」
問いかけを変えれば、子どもたちの視線も変わります。
結果から「内容」へ。
勝ち負けから「成長」へ。
あなたなら、子どもにどちらの問いを投げかけたいでしょうか。
- 問いかけを変えて選手の視線を変える — 試合後の最初の一言を「何対何で勝った?」から「今日どんなプレーができた?」に変えるだけで、選手の学習軸がスコアから成長へシフトする
- 練習テーマを試合で試させる環境を作る — ある週の練習テーマを設定し、試合でのチャレンジを認める姿勢を持つ。ミスをしても「練習を試合で出そうとした姿勢」を肯定的に評価する
- シーズン開始時に保護者への説明会を実施する — クラブの育成哲学・選手に求めること・審判へのリスペクトを共有することで、タッチライン際からの過剰なプレッシャーを防止する
- 今日のプレーを自分の言葉で振り返る — 試合後に「何を試みたか・何ができたか・次に挑戦したいこと」を言葉にする習慣が、成長の速度を大きく変える
- 保護者は「強い言葉」に注意する — タッチライン際での「絶対」「ダメ」は子どもの心にミスを恐れる気持ちを育ててしまう。応援は行動を認める言葉を選ぶ
- 「勝てるようになること」に価値を置く — 一度の勝利より、失敗から立ち上がる力・仲間と協力する姿勢・チャレンジする勇気が人生に続く本当の財産になる
点差が縮まるほど高まる「感情の温度」
アンケートでは、「感情の荒れ」を引き起こす要因として、結果が大きな影響を持っていることも見えてきました。
回答者の12%は、「ピッチ上のネガティブな振る舞いの原因は審判にある」と考えています。
しかし多くは、「結局は選手本人の性格や態度による」とも認めています。
興味深いのは、108人もの人が、この1年の間に「審判への批判」を目撃していると答えている点です。
そうした場面は、どんなときに多いのか。
- スコアが拮抗しているとき。
- 試合に負けそう、あるいは負けているとき。
つまり、「結果」が揺れ動く時間帯ほど、感情も荒れやすくなるのです。
さらに、半数以上の参加者が、直近6カ月のなかで「結果をめぐる対立や衝突」を経験していると答えています。
試合後の口論。
ベンチでの不満。
保護者同士、あるいは保護者とコーチの間の緊張。
本来は「子どもがサッカーを楽しむ場所」であるはずのグラウンドで、なぜここまでピリピリした空気が生まれてしまうのか。
その中心にあるのも、やはり「スコア」という数字なのだと、このアンケートは教えてくれます。
FCバルセロナに学ぶ、「負けてもいい」育成の哲学

では、結果をまったく気にしなければいいのか。
もちろん、それも極端な話です。
ブルンナーは、そのバランスを考える上で、FCバルセロナの育成を例に挙げます。
バルサは、世界でも有数の育成クラブとして知られています。
彼が紹介するのは、こんな考え方です。
「U16までは、エスパニョールに負けても構わない。
U17で勝てるようになればいい。」
ここには、はっきりとしたメッセージがあります。
- 目先の勝利より、長期的な成長を大切にする。
- 「今勝つこと」よりも、「将来どういう選手になるか」に軸を置く。
この姿勢があるからこそ、バルサは、技術的にも戦術的にも優れ、ゲームを深く理解した選手を多く輩出してきました。
一方で、ブルンナーはこうも語ります。
「育成において破壊的なのは、『勝利がすべて』になったときだ。」
勝利がすべてになると、そこから逆算した選手起用や戦い方が選ばれるようになります。
- 「下手な子」はベンチに座る時間が長くなる。
- 「リスクのあるチャレンジ」は避けられ、「安全な選択」だけが求められる。
- 長期的な成長より、「この試合に勝つための戦術」が最優先される。
しかし、本当に出場時間が必要なのは、まだうまくいかない子どもたちの方です。
本当に経験がいるのは、ミスを恐れずにボールを受ける勇気です。
「勝つためだけのサッカー」は、そうした成長の芽を静かに摘んでしまいます。
大人にとっては「1試合」でも、子どもにとっては「一生で一度しかない年代の経験」です。
あなたなら、その時間を「結果」だけに捧げてしまってよいと思うでしょうか。
「コーチこそ、最大の教科書」であるという視点
ブルンナーは、育成年代のサッカーにおいて、「コーチの存在」を何度も強調しています。
「若い選手に良い態度を求めるなら、まずコーチ自身がそれを示さなければならない。」
子どもたちは、大人が思う以上に、コーチの一挙手一投足を見ています。
- 審判に対して、どのような言葉を投げているか。
- ミスした選手に、どんな顔で、どんな声で話しかけるか。
- 試合に負けたあと、ベンチでどのように振る舞うか。
「学びの目標はトレーニングで決め、試合でその達成度を測るべきだ。」
ブルンナーはそう語ります。
例えば、ある週の練習テーマが「ビルドアップ」だったとします。
試合で果敢に後ろからつなごうとして、ボールを奪われ、失点してしまうこともあるでしょう。
このとき、「だから言っただろ、前に蹴れ!」と感情的に叱るのか。
それとも、「チャレンジしたこと」「練習したことを試合で出そうとした姿勢」を認めるのか。
結果だけを基準にすると、前者の反応になってしまいがちです。
しかし、「学び」を基準にすれば、後者の関わり方が自然になっていきます。
ブルンナーは、こんな言葉も残しています。
「大声で怒鳴らないからといって、何もしていないわけではない。」
静かに見守ること。
適切な場面で的確な声をかけること。
ジェスチャーや表情で安心感を与えること。
そうした「見えにくい指導」が、子どもたちのチャレンジする勇気を支えています。
親のスタンドから生まれる「目に見えないプレッシャー」
サッカーの環境をつくるのは、コーチだけではありません。
ブルンナーは、「親」の存在も大きいと話します。
「結果へのプレッシャーは、ピッチの中だけから来るものではない。
その周りの環境からもやって来る。」
例えば、タッチライン際から飛んでくる声。
- 「そこは絶対にミスしちゃダメだぞ!」
- 「なんでそこでシュート打たないんだ!」
- 「この試合は絶対勝たないといけないぞ!」
そこに悪気はなくても、「絶対」「ダメ」という強い言葉は、子どもの心の中で「ミスを恐れる気持ち」を大きくしてしまいます。
だからこそ、ブルンナーは、シーズンの始めに「保護者への説明会」を開くことの重要性を強く語ります。
「この時間は、とても大切だ。
クラブの育成哲学。
子どもたちにとって何を一番大切にするのか。
そして、審判や相手チームに対するリスペクトの重要性。
そうしたことをしっかりと共有する機会になる。」
残念ながら、多くのクラブでは、この時間が十分に取られていません。
その結果、「クラブが目指すサッカー」と「親が期待するサッカー」の間でズレが生まれ、試合の日に小さな衝突や誤解が積み重なってしまいます。
ブルンナーは、こう締めくくります。
「もっと多くのクラブが、自分たちの哲学を明確にし、それを保護者と共有する時間を持てたなら、サッカーはきっと、今よりも健全になるはずだ。
育成は、順位表よりも前に来なければならない。」
「勝つこと」と「勝てるようになること」は違う

アンケート結果と、ダニエル・ブルンナーの言葉を重ねていくと、ひとつの問いが浮かび上がってきます。
「私たちは、子どもたちに何を教えたいのか。」
一度きりの勝利でしょうか。
それとも、「勝てるようになる力」でしょうか。
ブルンナーはこう言います。
「目的は『どんな手段を使っても勝つこと』ではない。
『どうやって勝てるようになるか』を学ぶことだ。」
この違いは、小さなようでいて、とても大きな違いです。
- 「勝つこと」だけを目指すと、結果が出ないとき、すべてが無意味に思えてしまう。
- 「勝てるようになること」を目指すと、たとえ負けても、その中に学びや成長を見つけることができる。
サッカーの試合は90分で終わります。
しかし、そこで身につけた「挑戦する勇気」「失敗から立ち上がる力」「仲間と協力する姿勢」は、人生のずっと先まで続いていきます。
あなたが、もしジュニアのコーチだったなら。
あなたが、もしサッカーをする子どもの親だったなら。
今日の試合後、最初の一言に、どんな言葉を選ぶでしょうか。
「何対何で勝った?」ではなく。
「どんなプレーができた?」と、問いかけてみる。
そこから、子どもたちのサッカーの景色が、少しずつ変わっていくのかもしれません。
最後に、このテーマにふさわしい言葉を添えて終わりたいと思います。
「勝利とは、ひとつの結果ではない。
正しい道のりを、あきらめずに歩み続けることそのものだ。」
